感染症外来

感染症外来について

感染症と聞くと、死に至る細菌やウィルスの病気を思い浮かべるかもしれませんが、実は、私たちが日常最もよくか かっている病気がこの感染症なのです。風邪、気管支炎、肺炎、膀胱炎、腎盂腎炎などです。すなわち、急な発熱・頭痛・咳・腹 痛・下痢などは何らかの感染症の可能性が高いのです。しかし、日本で感染症を専門として診療をする外来は極めて少ないのが現 状です。その理由は、日本の医療が消化器科、循環器科、呼吸器科などのように臓器別に専門分野が分かれてしまったからです。 従来、感染症はこの各臓器別診療科がそれぞれ診療するのが主流でした。しかし、感染症の分野も日々変化しており専門的な情報 収集と分析が必要と考えられます。
当病院には感染症の隔離病棟がないため特殊な感染症の入院加療は行えませんが、その代わり、気軽に感染症の相談 ができる、敷居の低い感染症外来を目指しております。
熱が続いていて原因がはっきりしない、風邪にしては症状が長すぎる、何かのばい菌やウィルスが原因かもしれな い、感染症ではないかといわれた、性行為感染症かもしれないが泌尿器科は敷居が高い、などでお悩みの方、また、新聞などであ らゆる感染症の流行の報道がありますが、少しでも不安がある場合はお気軽に受診下さい。
また、麻疹(はしか)や、B型肝炎などのワクチン接種も行っております。原則として、木曜日が診察日です。
中川義久・芹川聖章が相談しながら診療にあたります。
定期的に感染症の話題を提供します。

中川理事長

理事長・院長

中川 義久

認定医・専門医
日本内科学会 認定内科医 総合内科専門医
日本感染症学会 感染症専門医 指導医
日本呼吸器学会 呼吸器専門医
日本化学療法学会 抗菌化学療法 認定医 指導医
日本プライマリ・ケア連合学会 認定医 指導医
日本病院総合診療医学会 認定総合診療医 指導医
日本抗加齢医学会 専門医
日本渡航医学会 認定医療職
日本エイズ学会 認定医
日本結核・非結核性抗酸菌症学会 認定医
ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター(ICD)

感染症の話題

風邪の後の咳が止まらないー感染後遷延性咳嗽

風邪の後の咳が止まらないー感染後遷延性咳嗽  咳は、急性上気道炎・気管支炎や、それらが治癒した後に咳だけが残る感染後咳嗽、タバコ気管支炎、ACE(angiotensin-converting enzyme阻害薬の副作用等、身近な原因で生じる極めてありふれた症状です。喘息を有しない成人一般住民の約10%が3週以上続く咳を有しており、患者の診療所受診動機としても最も頻度が高い症状といわれています1)。咳は自然治癒したり(感染後咳嗽)、原因(喫煙・薬剤)の回避で軽快したりする一方、しつこく続く咳を訴える患者さんがアレルギー科や呼吸器内科の外来を受診されます。診断や治療に難渋する「狭義の」慢性咳嗽患者が近年増加しているといわれています1)。そこで「咳嗽に関するガイドライン」(2005年),改訂第2版(2002年)が発表され、さらに「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」として改訂されました2)。 ガイドラインでは,咳を持続期間により急性・遷延性・慢性に分類しています。3週までを急性咳嗽、3週から8週までを遷延性咳嗽、8週間以上のものを慢性咳嗽としており、急性咳嗽では風邪などの感染症が多く、慢性咳嗽では咳喘息や、胃食道逆流症などの感染症以外の原因が多くなってきます。また複数の原因が重なっていることも多いといわれています1)。 文献1)より転載  しかし、急性咳嗽の中にはもちろん、咳喘息の起こり始めや、肺癌なども含まれるため、急性咳嗽は感染症に伴う咳と決めつけずに慎重な診察が大切です。慢性咳嗽は呼吸器専門医の診察を勧めるとして、一般内科医を受診するのは急性から遷延性咳嗽です。その中で一番多いのは、かぜ症候群後咳嗽(感染後遷延性咳嗽)です3)。慢性咳嗽まで含めても11%~25%の原因と報告されています3)。感染後遷延性咳嗽はウイルスや肺炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア感染後に咳嗽が遷延する病態で、ここには百日咳による咳嗽も含まれます。感染後遷延性咳嗽の診断で重要なことは,かぜ症候群が先行していることと,除外診断です。 感染後遷延性咳嗽の診断基準 文献4)より転載 藤森らの診断基準です。やはり除外診断です。 感染後遷延性咳嗽の診断における問診 文献4)より転載 感染後遷延性咳嗽の診断における診察所見 文献4)より転載 感染後遷延性咳嗽の診断における検査 文献4)より転載 感染後遷延性咳嗽としっかり診断するのはかなり大変です。 感染後遷延性咳嗽の簡易診断 文献3)より転載  そこで藤森は3)、一般臨床家向けの簡易診断基準を作成しています。診断的治療も許されています。感染後遷延性咳嗽の咳嗽発生機序に関してよくわかっていません。気道感染による気道上皮障害、上気道・下気道の気道炎症が一過性気道過敏性亢進を引き起こすであろうと考えられています。気管支鏡下気道生検では、気管支喘息のように好酸球はみられず、リンパ球性気管支炎の像を呈するとされています。カプサイシン咳感受性は一般に亢進しており、咳嗽が改善するとともに元に戻るとされています。さらに、咳嗽が既存の胃食道逆流を悪化させ、咳嗽を遷延化させるとも考えられています3)。 治療は自然軽快するとはいえ、患者さんは治療薬を希望します。中枢性非麻薬性鎮咳薬はある程度有効です。内因性咳嗽誘発物質のヒスタミンを分解する酵素として、ヒスタミン-N-メチルトランスフェラーゼがありますが、ウイルスによる気道感染時、この酵素活性が低下することが明らかになり、ヒスタミンH1受容体拮抗薬は有効です。麦門冬湯はニュートラルエンドペプチダーゼ活性低下抑制作用があり有効と考えられています1)。これら3剤を併用したカクテル療法は有効です。咳受容体の亢進はC繊維と迷走神経末端のrapidly adapting receptors(RARs)からなり、ここをブロックする抗コリン剤の吸入は有効です(適応外使用)1)。ステロイド剤の吸入は有効と無効の報告があり一定していません3)。胃食道逆流の合併が疑われるときは制酸剤も有効です。 咳嗽が続くことにより、睡眠障害などのQOL低下につながるため早く改善させることは大切です。また、咳嗽が続くことにより、さらに気道傷害を惹起するとも考えられています3)。しかし、中枢性の鎮咳薬は依存性があるために短期間にとどめた方が良いと思われます。しかし、近年の鎮咳薬の流通不足はもはや慢性的となり改善の見込みがなく、3週間以上続く咳には、鑑別診断を慎重にしながら、制酸剤、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、吸入抗コリン剤、麦門冬湯などを組み合わせて治療をするべきでしょう。吸入のステロイドは報告によりその効果にばらつきがあり、また、喘息との鑑別も難しくなるため安易に使用しないという報告もあります5)。 咳嗽の診断は非常に難しく、8週間以上続く慢性咳嗽を呼吸器内科と耳鼻科で共同して検討して約10%が原因不明であったという報告もあり6)、まだよく解っていない部分があるのも事実です。 令和6年4月18日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)新実 彰男:咳嗽診療の心得―たかが咳,されど咳―. 日内会誌 109:2091 – 2094,20202)日本呼吸器学会咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019作成委員会編:咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019. 2019.3)藤森 勝也:遷延性咳嗽と慢性咳嗽の原因疾患―かぜ症候群後咳嗽(感染後咳嗽)と胃食道逆流による咳嗽の病態と治療 . 日薬理誌  131 ; 406 – 411 ; 2008 .4)藤森 勝也ら:感染後咳嗽(かぜ症候群後咳嗽). 日内会誌 109:2109 – 2115,2020.5)柿内 祐介:実地臨床における遷延性・慢性咳嗽診療の現状と課題 . アレルギー2018 ; 67 ; 931 – 937 .内藤 健春:成人の慢性咳嗽診療におけるトピックス. 日耳鼻122: 1497―1501,201

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が人から人へ感染

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が人から人へ感染  マダニを通じて感染する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が人から人へ感染したケースを国内で初めて確認した、と国立感染症研究所が19日発表しました。発表によると、人から感染したのは20代の男性医師。2023年4月にSFTSと診断された90代男性の診療を担当し、この患者が死亡後にカテーテルを外すなどの処置をした。男性医師は、90代男性と初めて接触してから11日後に38度の発熱や頭痛などの症状が出て、PCR検査でSFTSと確定診断されました。ウイルスの遺伝子を調べたところ、死亡した90代男性と同一と考えられたため、90代男性から男性医師への人・人感染と判断した。男性医師は症状が軽快したという(2024年03月20日(水) 朝日新聞デジタル) SFTSは日本国内で2013年に患者が初めて確認されて以来、西日本を中心に600例(2020年末時点)近い感染例が報告されています。ダニが媒介する新種のウイルス感染症で、SFTSを発症したペットのネコやイヌからヒトに感染し、死亡例も報告されています。致死率が3割前後と極めて高く、予後不良の疾患で典型的な人獣共通感染症です。韓国から5人の人から人への感染がすでに報告されています1)。この5人は患者さんの心肺蘇生に関わった27人中の5人で院内感染が起きているのです。また中国からも2)患者の家族と、処置をした医師に人から人への感染が起きた報告があります。SFTSが疑われる症例が入院したら厳重な院内感染対策の検討が必要です。空気感染の可能性はなく、ほとんど接触感染か、飛沫感染が考えられています。 日本では西日本を中心に発生していますが、国内調査によるとSFTSウイルス保有マダニは国内に広く分布し,全国で感染の可能性があります3)。1年中発生はありますが、マダニの活動が活発になる4月から10月にかけて患者数が多く、特に5 月から8 月はリスクが高い時期です。 文献3)より転載 文献5)より参照  SFTSの症状は、発熱、倦怠感、嘔吐・下痢などの消化器症状に血小板減少と白血球減少を伴うのが特徴で、筋肉痛や脱力、蛋白尿、血尿、リンパ節腫大(マダニ刺咬のある場合はその所属リンパ節)をみることが多いです。皮疹はあまりみられません。意識障害や神経症状は、日本での調査によれば71%の症例で報告されている頻度の高い症候です5)。刺し口が発見できるのは半分以下と言われています6)。本邦での死亡率は27%とやはり危険な感染症です。 国立国際医療研究センター国際感染症センター国際感染症対策室(重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き(第 3版)より参照  SFTSは発症後急激に病状が進行し、1~2週間で予後が決定します。診断は血液のPCR検査で保健所に依頼します。 SFTSの治療法は確立されていません。ステロイドやリバビリンの投与も行われましたが治療効果は得られませんでした。しかし、抗インフルエンザ薬のファビピラビルのSFTSウイルスに対する抗ウイルス活性と重症化予防効果は、マウスを用いた感染実験によって確認されており、この知見をもとに、2016年からヒトを対象にした医師主導臨床研究および第3相臨床試験がなされており、治療薬としての開発が進められています8)。 SFTSは不定の症状で、診断の決め手のない発熱性疾患で、急激に悪化し死亡率が3割と重篤なウイルス感染症です。この重篤な感染症が、ダニ咬傷のみならず犬や猫などのペットからも感染し、さらには人から人への感染があることが解り、その深刻さが増しているところです。 令和6年4月2日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)Kim WY et al:Nosocomial transmission of severe fever with thrombocytopenia syndrome in Korea, Clin Infect Dis 2015 ; 60 ; 1681 – 1683 .2)Gai Z et al:Person-to-person transmission of severe fever with thrombocytopenia syndrome bunyavirus through blood contact, Clin Infect Dis 2012 ; 54 ; 249 – 252 .3)前田 健:重症熱性血小板減少症候群(SFTS). J. Vet. Epidemiol. 2018 ; 22 ; 51 – 52 .4)アビガンが有効? -SFTS-5)高橋 徹:重症熱性血小板減少症候群(SFTS):意識障害も伴う新興ウイルス感染症 . Neuroinfection  2020 ; 25 ; 49 – 54 .6)山谷 由香里ら:当院で経験した重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の8症例 . 医学検査 2023 ; 72 ; 374 – 381 .7)Koichiro Suemori et al : A multicenter non-randomized, uncontrolled single arm trial for evaluation of the efficacy and the safety of the treatment with favipiravir for patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome.https://doi.org/10.1371/journal.pntd.00091038)高橋 徹:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)日本でも流行しているウイルス性出血熱 . ファルマシア 2021 ; 5 ; 377 – 381 .

麻疹(はしか)が国内でも流行か?

麻疹(はしか)が国内でも流行か?  世界的に流行している麻疹について、国内でも感染が広がる懸念が強まってきました。3月11日には東京都内で20代女性の感染が確認され、東京都や厚生労働省はワクチン接種による予防を呼び掛けています。世界保健機関(WHO)は2月20日、世界の半数以上の国々が今年の流行リスクに直面しており、緊急に予防対策を講じるよう警告しています(2024年3月11日産経新聞)。 実は今、欧州では麻疹患者の報告数が急増しています。例えば英国では1か月に50人以下であった報告数が、昨年12月には150人以上と3倍以上に増えています。世界保健機関(WHO)もこの事態を深刻に受け止めており、WHOは、「欧州では、麻疹患者が30倍に増加しただけでなく、2万1000人近くが入院し、5人が関連死している。これは懸念すべきことだ」と述べています。原因としては新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、特に子どもたちでワクチンの接種率が低下したことが一因と考えられています。例年、麻疹は春先から夏の初めにかけて患者数が増加することから、さらなる患者数の増加が懸念されています1)。 2015年にWHO西太平洋地域事務局により日本においては麻疹排除状態にあることが認定されました。しかし,日本で麻疹発生がなくなったわけではなく、麻疹が発生している世界各国から日本に麻疹が輸入され,流行する可能性があることは以前から指摘されていました。自然感染による追加免疫の機会が少なくなり小児期の予防接種により獲得した免疫能が低下している可能性があること、このような感受性者における成人発症例が増加していることが指摘されていました1)。 国立感染症研究所より転載 https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2024pdf/meas24-09.pdf  年度別の麻疹発生件数です。2020年以降はほとんど発生がみられていないことが解ります。自然感染による免疫獲得の機会が減少していることが予想されます。 これまでも麻疹流行が繰り返されてきましたが、麻疹ウイルスの対策が困難であることの一因として、飛沫感染、接触感染以外に、空気感染があるからです。麻疹患者の気道分泌物からエアロゾル化した麻疹ウイルス粒子が排泄されると、2時間以上感染性を保ちつつ浮遊し、麻疹患者と同じ空間で接触した感受性者は 90%以上が発症するほどその感染力は強力です4)。 例えば、飛行機や空港の待合室での麻疹感染が何度も報告されています。また麻疹の感染性は皮疹出現の約 5日前から皮疹出現後約 4日間です。麻疹が診断されるのは通常皮疹出現後ですが、皮疹出現前から感染性を有することもまた麻疹の感染対策を難しくしています。さらに麻疹は罹患中に液性免疫も細胞性免疫も低下することが知られ、それに伴う肺炎や、神経系に親和性があることから脳炎、ADEM、SSPE 等の合併症、さらに、7~9%の症例で中耳炎を伴うほか、下痢などの消化器症状、クループ、急性肝障害、心筋炎などの多彩な症状を呈することが報告されています5)。先進国でも麻疹による死亡は麻疹患者 1,000 例に1例程度あるとされています。合併症や死亡例は、5歳未満の乳幼児20歳を超える成人が危険とされています。 麻疹に対する特異的な治療法はなく、予防として実施するワクチン接種が最も重要です。麻疹含有ワクチンは、1 回接種で 95%以上、2 回接種で 99%以上の抗体陽転が得られ、非常に有効なワクチンです。しかし、麻疹ウイルスは感染力が強く、わずかな感受性者を見つけて伝播していきます。ワクチンを 1 回接種しても免疫が得られない者(primary vaccine failure)も約5%みられるため、麻疹を予防するためには確実な 2 回以上の麻疹含有ワクチンの接種が必要です3)。 ワクチン接種歴が未確認あるいは不十分で、麻疹抗体価陽性が確認できない接触者では、曝露して72 時間以内であれば緊急の麻疹含有ワクチンの接種が、72 時間以上経過してる場合でも6日以内であれば免疫グロブリン投与がそれぞれ検討されますが、どちらの場合でも確実に予防できる保証がないことには留意する必要があり、また緊急的にはワクチンが入手できないのが現実です。また麻疹含有ワクチンは免疫不全患者や妊婦などワクチン接種不適当者には接種できません3)。 麻疹の検査診断の方法としてはこれまで主に麻疹特異的 IgM 抗体の検出のみによりなされていましたが、しかし,偽陰性,偽陽性があり注意が必要です。麻疹急性期(発疹出現後 3 日以内)における単一血清による IgM 抗体検査は感度が低いことが報告されており、HHV-6 による突発性発疹やパルボウイルス B19 による伝染性紅斑の発症時は 麻疹特異的IgM 抗体が弱陽性に出ることが報告されています3)。そこで、現在は臨床的に疑ったら、血液からの麻疹ウイルスの直接検出(RT-PCR 法)が推奨されています3)。麻疹を疑ったらすぐ保健所に連絡しましょう。 麻疹患者と接する可能性の高い医療関係者はワクチンを接種すべきであり、PA 法で 1:256 以上の抗体価の存在が必要です6)。なお、ワクチンを 2 回接種していても麻疹に罹患することはあり、2016 年の報告でも麻疹発症者の 15.1%(165 名中 25 名)はワクチン 2 回接種者でした6)。この場合、症状の軽い修飾麻疹となり、具体的には高熱を認めない、発熱期間が短い、カタル症状がない、発疹が軽度、あるいは見られない等、症状から麻疹と診断することは困難です。しかし、修飾麻疹患者の感染性は低いと考えられています6)。麻疹への感染免疫の評価としてPA法などの血清抗体価を用いますが、麻疹の感染免疫の主体は細胞性免疫です7)。しかし細胞性免疫を評価する手段がないために、代わりに血清抗体価で評価しているだけで、あくまで目安でしかありません。 麻疹ウイルスは現存するウイルスの中でも最も感染力が強いウイルスと考えられ、また先進国でも1000人の感染者の中で1人が死亡するという恐ろしい感染症です。今後の国内での蔓延に注意が必要です。 令和6年3月15日菊池中央病院  中川 義久 参考文献1)忍び寄る「麻疹」復活の懸念 https://medpeer.jp/data?did=2445312)宮森 政志:医療関係者のためのワクチンガイドライン第2版に準じた医療従事者の麻疹,風疹,水痘,ムンプスに対する抗体陽性率について . 日職災医誌 2020  ; 68 ; 307 – 314 .3)今後、麻疹の増加が危惧されます4)岡部 信彦:1. 麻疹ウイルス ―最近の我が国における麻疹の疫学状況,今後の対策―ウイルス 2007 ; 57 ; 171 – 180 .5)中山 哲夫:3. 麻疹ワクチン . ウイルス 2009 ; 59 ; 257 – 2666)麻疹の対策はワクチンのみ https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa193.pdf7)柳 雄介:麻疹ウイルスの感染および免疫抑制機構 . ウイルス 1995 ; 45 ; 117 – 123 .

狂犬病清浄国の我が国での狂犬病対策

狂犬病清浄国の我が国での狂犬病対策  飼い犬に年1回定められている、狂犬病の予防接種率が低迷しています。厚生労働省の統計では30年前にほぼ100%だったのが、近年は約7割に減っています。国内で60年以上発生がないことによる油断などが背景にあるとみられ、専門家の「狂犬病の怖さが伝わっていない」との懸念が報道されました(2024年02月26日(月) 共同通信)。 年1回の接種は1950年に制定された狂犬病予防法で定められており、違反は20万円以下の罰金対象。流行国では犬が主な感染源となっているため、万が一日本に入ってきた際のまん延を防ぐ目的で義務付けられています。 狂犬病は狂犬病ウイルスの感染により起こる致死的な感染症であり、ヒトと動物のどちらも感染・発症する典型的な人獣共通感染症です。世界では毎年59,000 人以上が狂犬病で死亡していると推定されています。狂犬病ウイルスは狂犬病に罹患した動物に咬まれたり、唾液や体液に触れたりして感染し、コウモリを感染源とする場合には咬み痕がはっきりせず、エアロゾルによる感染が疑われる例もあります。ヒト−ヒト感染はほとんどありませんが、非常にまれに臓器移植による狂犬病が報告されています。動物咬傷後、まれに咬傷部に掻痒感を認めることがあるものの、通常は無症状で経過します。その後、発熱、掻痒、知覚過敏、疼痛等の症状が現れる前駆期が2〜7日ほど続いたのち、急性神経症状期に移行します。この期間には発熱に加え、嚥下障害、けいれん、不安、錯乱、幻覚、麻痺等の神経症状が現れます。特に狂犬病に特徴的な症状として、水を飲むことを嫌がる恐水症があります が、これは嚥下の際に咽頭の筋肉がけいれんし苦痛を感じることに起因しています。同様に風や光、音対しても過敏に反応することがあります。これらの神経症状が2〜7日続いたのち、症状が進むと麻痺が全身に及び、低血圧、呼吸不全、不整脈等を伴う昏睡期へと移行し、ほぼ100%のヒトが死亡します。日本は過去60年以上狂犬病の発生がありませんが、世界の150以上の国と地域で発生しており、特にヒトの死亡例が多いのはアジアとアフリカです。また、死亡例の約40%は15歳以下の小児です。 世界の狂犬病原因動物(文献1)より転載)  狂犬病の99%は犬咬傷により発生しますが、アメリカやカナダなどではコウモリ、アライグマ、キツネやスカンクといった野生動物がヒトへの主要な感染源となっており、地域によって気をつけるべき動物は異なっています。 動物の狂犬病ウイルスに対する感受性の違い(文献2)より転載)  動物によっても狂犬病ウイルスに感染しやすいものと、感染しにくいものがあるようです。アメリカでは狂犬病の70%がコウモリからの感染です。近隣諸国のフィリピンでは年間200名をこえるヒトの狂犬病症例が報告されています。中国では1990年代には狂犬病によるヒトの死亡件数は100人程度にまで減少していましたが、ペットブームと飼育放棄の増加によって2007年には3,300件にまで増加しました。現在はワクチン接種や放浪犬の殺処分等によって減少してきているようではあります。また、2013 年には1961年の発生を最後に52年間清浄国と思われていた台湾において、イタチアナグマという野生動物の間で狂犬病が保持されていたことが明らかとなりました。日本においてはこれまでなされていなかった野生動物において今後より積極的な疫学調査の実施が望まれています。 さて、島国である日本に狂犬病が起こるとすると、国内では絶滅したと仮定して、外国からのウイルス侵入しかありえません。まず可能性があるのは、人が外国で感染したのちに帰国する場合です。しかし、狂犬病は人人感染が起きないので感染が蔓延することはないでしょう。第二の狂犬病上陸のシナリオは、動物の輸入狂犬病で、輸入後に狂犬病を発症する場合です。外国では実際、このような報告があり、飛べなくなったコウモリが船に潜み上陸した報告があります。わが国でも、朝鮮半島や湾から島伝いに飛翔するコウモリがいるそうで、その調査も必要でしょう。また、外国船の入港時に船内で飼育しているペット犬の一時的な上陸(輸入の意志のない散歩」であるため、検疫あるいは税関関連の法令の適用外となっている)の際に港湾に放浪している野犬との接触によりウイルスが伝播し、国内に広がってい いく可能性もあります3)。WHOは、狂犬病が流行している国でのワクチン接種による狂犬病の流行阻止効果生率とワクチン接種率から導き出された経験的なものとして、地域に生息する犬の70%以上に狂犬病 ワクチンを接種することにより犬の狂犬病流行を阻止できると報告しています4)。 WHOは我が国のような狂犬病清浄国は狂犬病ウイルス侵入を防ぐため、特定の哺乳類、特に食肉目と翼手目の輸入を禁じたり、その国の獣医部局が許可した方法によってのみ輸入を可能とする措置を講じるべきであるとしています。ペットとして獲得した野生動物における狂犬病事例の増加から、野生動物に関しても規制を強化すべきであるし、サーベイランスを徹底し、狂犬病の侵入をいち早く検出できる体制を整備すべきであるとしています5)。また、もし国内に侵入したとしても蔓延を防ぐために犬の70%以上に狂犬病ワクチンを接種することが重要となるのです。 令和6年3月6日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)伊藤 睦代:狂犬病 . Neuroinfection 2020 ;  25 ; 113 – 117 .2)小澤 義博:世界の野生動物狂犬病の現状と日本の対応策 . 獣医疫学雑誌2013 ; 17 ; 132 – 137 . 3)万年 和明:ラブドウイルス-50年 近くもわが国で発生のない狂犬病の再上陸はあるのか . ウイルス 2002 ; 52 ; 21 – 25 .4)新井 智ら:ワクチン接種による狂犬病の流行阻止効果 . 日獣会誌 2007 ; 60 ; 377 -382 .5)山田 章雄:清浄国における狂犬病対策はどうあるべきか . 獣医疫学雑誌 2014 ; 18 ; 1 – 3 .

腟トリコモナスとマイコプラズマジェニタリウム同時核酸検出が可能になりました

腟トリコモナスとマイコプラズマジェニタリウム同時核酸検出が可能になりました  尿道炎は男性の性感染症のなかで、もっとも頻度の高い疾患です。尿道炎は従来より、淋菌の有無により淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎(non-gonococcal urethritis: NGU)に分類されてきました。NGUには数多くの微生物が関与している可能性がありますが、このなかでもっとも頻度高く分離される微生物がChlamydia trachomatisです。およそ50%のNGU症例の尿検体からC. trachomatisが検出され、この尿道炎をクラミジア性尿道炎(chlamydial urethritis)と呼んでいます。これら以外の尿道炎、すなわち淋菌もC. trachomatisも分離されない尿道炎は非クラミジア性非淋菌性尿道炎(non-chlamydial NGU: NCNGU)と呼ばれるようになりました。NCNGU症例の尿検体からは、さまざまな微生物が分離されることが明らかになっており、このなかでもっとも研究が進み、その病原性が明らかとなっているものがマイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium : M . genitalium) です1)。本菌は淋菌やクラミジアと混合感染することもあります。マイコプラズマ肺炎の原因となるM. pneumoniaeとは極めて近縁の菌です。すなわちグラム陽性の細菌で、細胞壁を持たず、ペプチドグリカンを合成しません。その大きさは一般の細菌の1 / 10 で自己増殖できる細菌の中で最小です。本菌は多様で弾力性のある形態をとることができ、さまざまな環境に適応し、ヒトの細胞内に侵入することができます。さらに、細胞壁がないため、細菌の細胞壁に正確に作用する抗生物質に対する耐性があります2)。 世界最小の生物:細菌マイコプラズマ・ジェニタリウム https://note.com/nn1112/n/naff64074ce66より転載  本菌は瓢箪のような形をしており、細い方の体を人間の細胞に付着させることが出来ます。本菌の培養は極めて難しく、培養細胞を用いると可能ですが、それは研究施設では可能ですが、一般診療では使用できませんでした。しかしPCR法の開発によって多くの臨床研究が可能になりました。 マイコプラズマ・ジェニタリウムは男性の尿道、前立腺、MSM( Men who have Sex with Men) の直腸、女性性器に感染し、男性には、つぎのような症状が現れることがあります。 • 排尿時の痛み • ペニスからの分泌物 、直腸に感染した人には、• 肛門内部の痛みまたは炎症・かゆみ • 肛門出血。 女性には、つぎのような症状が現れることがあります:• 下腹部の痛み • セックス中の痛み • 異常なおりものの分泌 • 排尿時の痛み • 膣からの不正出血などです。 マイコプラズマ・ジェニタリウムは先述したように細胞壁を有していないために、βラクタム剤は無効で、マクロライドやミノサイクリンやキノロンが有効と考えられてきました。しかし、欧米では高度のマクロライド耐性株やキノロン耐性株が報告されており、多剤耐性菌の様相を呈しています。本邦での推奨は、最初にドキシサイクリンを投与し、その後にアジスロマイシンかシタフロキサシンを投与することで有効性は92 ~ 94 % が得られると報告されています。治療開始前に本菌感染症の診断なしに抗生剤治療開始すると治療失敗例が多発し、また多剤耐性を誘導する可能性があり、クラミジアと淋菌が陰性の非クラミジア性非淋菌性尿道炎(non-chlamydial NGU: NCNGU)の症例はマイコプラズマ・ジェニタリウムの検索が重要です3)。 膣トリコモナス( Tricomonas vaginalis)は原虫という寄生虫です。トリコモナスは、0.1mmの大きさで、顕微鏡でやっと見つけられるくらいの大きさです。 Medical Notehttps://medicalnote.jp/contents/151130-000043-RMWIVZより参照  トリコモナス原虫は運動、摂食、消化、代謝、栄養貯蔵、生殖、排泄というように「生き物」としての活動をしています。ヒトに寄生するトリコモナスは腟や尿道に生着します。 世界保健機関(WHO)が2016年に15歳~49歳を対象にした調査報告によると、新規の性感染症患者数は、トリコモナス感染症が1億5600万人、クラミジア感染症が1億2700万人、淋病が8700万人と世界で最も多い性感染症とされています4)。アメリカのSTD Surveillance Networkに参加している15のSTDクリニックでの研究によると、膣トリコモナスの有病率は、症状のある女性では26%、無症状の女性で6.5%、HIV感染の女性で29%でした。女性の感染のピークは21〜22歳と48〜51歳の二峰性に発生しています。男性の有病率は3.7%であり、年齢層別では40〜49歳の男性にピークが見られたと報告されています。また、トリコモナスに感染した女性の性的パートナーの男性70%にトリコモナスの感染が認められています4)。 男性の症状は、4人中3人が無症状であり、症状があっても一過性で、10日くらいで自然に軽快することが多いです。症状がある場合は、排尿時痛、排尿時の違和感、粘液膿性の尿道分泌物です。また、性交後の陰茎に軽度の掻痒や灼熱感がある場合もあります。また、前立腺炎、亀頭包皮炎、精巣上体炎、不妊症に発展することがあります。症状が軽くなったのは治癒したのではなく、そのまま保菌状態となり、やがて慢性前立腺炎などに発展していくことがあります。 女性の症状は、急性で重度の炎症から無症候性キャリアの状態まで様々です。急性炎症の症状は、灼熱感、そう痒感、排尿障害、頻尿、下腹部痛、性交痛で、おりものは、化膿性、悪臭のある分泌物です。しかし、感染が証明されている女性でも、このような典型的な症状を示すのはわずか11〜17パーセントと言われています。慢性的になると、症状は軽くなり、そう痒感や性交痛があるくらいで、膣分泌物も少量になります。感染した女性の70〜85%は無症候性に経過し、最終的に症状を発症していきます。無症候性の保菌状態は、長期間(少なくとも3か月)続く可能性があります。したがって、いつ、誰から感染したのかを確認できないことがよくあります。 治療は①妊娠していない女性とセックスパートナーの治療:フラジール内服錠(250㎎) 2錠 分2食後 10日間内服。②難治性の場合:フラジール内服錠(250㎎) 2錠 分2食後 10日間内服。+フラジール腟錠(250㎎) 1錠 1日1回 10~14日間 腟内挿入。③妊娠中(3か月以内)の場合・授乳中の場合:フラジール腟錠(250㎎) 1錠 1日1回 10~14日間 腟内挿入。この治療で90~95%が治ります4)。 今回保険適応となった、腟トリコモナス核酸及びマイコプラズマ・ジェニタリウム同時核酸検出は、リアルタイムPCR 法により、腟トリコモナス感染症を疑う患者であって、鏡検が陰性又は実施できないもの又はマイコプラズマ・ジェニタリウム感染症を疑う患者に対して治療法選択のために実施した場合及び腟トリコモナス感染症又はマイコプラズマ・ジェニタリウム感染症の患者に対して治療効果判定のために実施した場合に算定する。と性感染症学会からの通知に記載されています5)。検査料は35000円です。米国の研究では膣トリコモナスの一致率は98.0 % 、マイコプラズマ・ジェニタリウムの一致率は97.1% 、と優れた成績になっています。 本検査はあくまでクラミジア・トラコマティスと淋菌が陰性であることを前提として提出するか、または両者のどちらかが陽性で、適切な治療を行っても1~2週後に症状の改善がないときは混合感染を疑い提出し、腟トリコモナス核酸及びマイコプラズマ・ジェニタリウムどちらかが陽性であった場合、適切な治療を行った後に2週間以上間隔を空けて、治癒確認の検査をするように推奨してあります6)。 令和6年2月16日菊地中央病院 中川 義久 参考文献 1) 伊藤 晋ら:尿道炎の多彩な原因微生物 . 日本医師会雑誌 2018 ; 146 ; 2484 .2) 濱砂 良一:マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症の診断と治療 . 日本医師会雑誌 2018 ; 146 ; 2489 – 2492 .3) 濱砂 良一:性感染症としてのマイコプラズマ . モダンメデイア 2020 ; 66 ; 281 – 288 .4) 予防会https://yoboukai.co.jp/article/15225) 臨床検査の保険適用についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000942907.pdf6) 山岸 由佳:腟トリコモナス核酸及びマイコプラズマ・ジェニタリウム同時核酸検出キットcobas TV / MG . モダンメデイア 2023 ; 69 ; 121 – 126 .

中国の春節で日本のマイコプラズマ肺炎が増える?

中国の春節で日本のマイコプラズマ肺炎が増える?  世界保健機関(WHO)は2023年11月23日23日、中国北部で子供の肺炎が増加しているとして、中国の保健当局と協議しました。既知の病原体による肺炎が原因とみられ、WHOは現時点で「中国への渡航や貿易の制限は不要」としています。中国の発表によると、マイコプラズマ(M. pneumoniae)肺炎やインフルエンザなどによる患者が増加しているとし、「新たな病原体は検出されていない」「患者の増加は病院の収容能力を超えていない」などと説明しています(読売新聞オンライン2023/11/24)。 日本の国立感染症研究所も中国の北京周囲の広い範囲で2023年5月以降マイコプラズマ肺炎、10 月以降インフルエンザ、RS ウイルス、アデノウイルスの各感染症が小児で流行し、外来、入院共に患者が増加していますが、COVID-19 による感染対策が解除されたことの影響と想定され予想外の事態ではないこと、現時点で新規の感染症や異常な臨床症状の報告はなく、既知の感染症によるものとして矛盾はしないと報告しています1)。なお、中国においては、これまでM. pneumoniaeのうちマクロライド系抗菌薬に耐性を示すものの割合が高いことが知られており、北京市CDCによると、2023年に報告されているM. pneumoniaeにおいても、遺伝子変異により、アジスロマイシンに対して剤耐性を持つことが考えられています。また、寒さが厳しくなる中での感染増加が危惧されています。 中国の2024年の春節は2月10日から始まります。日本にも多くの観光客が訪れたら本邦での感染蔓延の可能性も考慮したほうが良いかもしれません。 M. pneumoniaeの診断法には、病原体を検出 する方法と血中抗M. pneumoniae抗体測定法があります2)。しかし、血中抗体は判定に基本的に2回の採血が必要で、また判定に数日を要するために外来で治療する軽症肺炎にはほとんど使用されず、診断には病原体検出が用いられるようになりました。一般のクリニックで使用できるのはマイコプラズマ抗原迅速検出キットです。しかし、このキットは感度が悪く、20~30%程度で、小児を検討したもので成人はもっと低い感度であることが予想されます2)。M. pneumoniaeは下気道の線毛上皮細胞で増殖するため、上気道の菌量は下気道の約 1%以下であり3)いずれのキットも咽頭拭い液を検体として測定することから、偽陰性が多くなるのは仕方なく、やはりM. pneumoniaeの診断は総合的な判断をもとに行われるべきでしょう。 成人肺炎診療ガイドライン4)では以下の基準でマイコプラズマ肺炎などの非定型肺炎を鑑別し、できるだけ原因微生物を検索しながらマクロライド抗菌薬を投与するように記載してあります。  6項目中4項目以上合致すれば非定型肺炎、3項目以下の合致なら細菌性肺炎(感度78%、特異度93%)、また1~5の5項目中3項目以上合致すれば非定型肺炎、2項目以下の合致なら細菌性肺炎(感度84%、特異度87%)と比較的良好な感度・特異度を示しています。 M. pneumoniaeのマクロライド耐性化は本邦でも報告されており、2011年には89.5%と報告されています5)。近年、PCR法を用いて、30~50分で咽頭擦過物からM. pneumoniaeの同定とマクロライド耐性が同時に判定できるようになり一部の施設で利用されています6)。しかし、M. pneumoniaeはマクロライド耐性でもマクロライドから治療することが推奨されています。マイコプラズマ感染症の臨床症状は感染者の免疫過剰に伴い生じるもので、マクロライドは菌を殺す以外に免疫調節作用があるため、仮にマクロライド耐性であっても有効であるからです7)。通常、マクロライド感性株によるマイコプラズマ肺炎ではマクロライド系薬の投与48時間後には約80%が解熱します。しかし,マクロライド耐性株では約30%しか解熱しないとされます。マイコプラズマ肺炎の治療開始2~3日後に症状が改善しない場合はマクロライド系薬の前投与があればマクロライド耐性率は90% 以上であり、前投与がなければマクロライド耐性率は50% 以下であると考えられています5)。マクロライド耐性株と推測される場合、第二選択薬としてテトラサイクリン系薬またはキノロン系薬が投与されます。マクロライド耐性M. pneumoniae に対する臨床的有効性や薬剤耐性誘導を考慮すると、キノロン系薬よりもテトラサイクリン系薬の方が有用と考えられます。テトラサイクリン系薬ではミノサイクリンが選択されることが多いです5)。 本邦における最近のマイコプラズマ肺炎の発症状況は、2つの大きな流行(2011~2012年、2015~2016 年)があり,毎年局地的に小流行が繰り返されています。中国の春節もありそろそろ大きな流行があるかもしれません。 令和6年2月1日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)国立感染症研究所 中国で小児を中心に増加が報じられている呼吸器感染症につhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/from-lab/2521-cepr/12382-china-respirtatory.html2)マイコプラズマ感染症の診断は難しい3)長谷 達也ら:肺炎マイコプラズマ感染症診断における迅速抗体検査と迅速抗原検査のLAMP法との比較 . 日赤検査 2016 ; 49 ; 72 – 75 .4)成人肺炎診療ガイドライン2,017. 市中肺炎 pp 9 – 33 日本呼吸器学会発行5)鈴木 裕ら:薬剤耐性肺炎マイコプラズマの分子疫学 . 日本臨床微生物学会雑誌 2020 ; 30 ; 117 – 126 .6)田中 裕士:迅速マクロライド耐性マイコプラズマ遺伝子診断が外来治療に及ぼすインパクト . 日本化学療法学会誌 2019 ; 68 ; 371 – 375 .7)肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針 日本マイコプラズマ学会https://plaza.umin.ac.jp/mycoplasma/wp-content/themes/theme_jsm/pdf/shisin.pdf

インフルエンザのAI診断のnodocaの実力は?

インフルエンザのAI診断のnodocaの実力は?  インフルエンザも新型コロナ感染症も増加しています。インフルエンザは新型コロナに比較すると安価で有効な治療薬があるので診断価値は高いものと思われます。 インフルエンザの診断は最近では迅速診断が常識になり、患者さんの方から検査を希望されることもあります。しかし、インフルエンザ流行時の迅速検査の意義については、陽性の場合の診断確定には有用ですが、陰性であった場合、インフルエンザの診断を除外できるわけではないとの限界が指摘されており、また、インフルエンザが地域内で流行している間には、発症48 時間以内の咳や熱といったインフルエンザ様症状がある場合はインフルエンザの可能性が高いとも報告されています。つまりインフルエンザ流行時は検査より診察所見のほうが勝るということです。また、インフルエンザの迅速検査は発症早期で偽陰性になることも知られており、発症12時間未満の感度は38.9 % 、12時間から24時間の間の感度は40.5 % 、24時間から48時間の間の感度は65.2 %、48時間以降の感度は69.6 %と報告されています。迅速診断には一定量のウイルス量が必要で、発症早期の感度が意外に低く、偽陰性になる確率が多いと考えられます。ちなみに特異度は98 % と優れています1)2)3)。 このような中、2022年12月に新しく保険適応になった医療機器nodocaが登場してきました。この特徴はインフルエンザ早期の診断が迅速診断より感度がよく、また、鼻腔擦過の疼痛がないことです4)。 nodoca添付文書より引用  発症12時間未満の感度が迅速診断より優れていることが解ります。しかし、24時間以降になると迅速診断の感度が優れているようです。 nodoca添付文書より引用 nodoca https://nodoca.aillis.jp/nodocaより引用  nodocaは患者さんの咽頭を小型カメラで撮影して、その写真でAI診断するもので数十秒で診断が可能です。 nodoca  https://nodoca.aillis.jp/nodocaより引用  AIはインフルエンザ感染に特徴的な咽頭後壁のリンパ濾胞の拡大をもって診断します。発熱などの臨床症状も加味します。口を大きく開けて、後咽頭の写真がはっきり撮れることが診断の条件です。さらに、新型コロナウイルス感染症、アデノウイルス感染症・RSウイルス感染症でも後咽頭リンパ濾胞が認められる可能性は否定できず、本品は現時点でそれらの感染症との鑑別を十分に行える知見を有していない、と添付文章に記載されています。 後咽頭のリンパ濾胞の拡大は‟イクラサイン“と呼ばれており5)6)、宮本氏らが2013年に論文発表5)したものです。この研究した論文では、初診時(受診までの時間の中央値は12時間)の感度98.8%、特異度100%で、陰性尤度比は0.011と素晴らしい結果です。早期にみられる濾胞を「芽」と表現していますが、1mm 程度のサイズで、これが次第に2mm程度の正円形半球状から涙滴型で境界明瞭な、透明感のある淡紅色の濾胞になります。また、時間が経過すると(2-3 日)、次第に濾胞の裾野が広がり、透明感を失い、やや白濁した色調に変化し、隣接する濾胞と融合することもあるようです。偽陽性になる原因として、アデノウイルス、エコーウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス感染などがあるようです。少なくとも濾胞が認められなければインフルエンザの可能性は非常に低くなり、迅速検査をする必要はないと考えて良いのではないかと報告しています。 視診で後咽頭のリンパ濾胞の観察に習熟できるならnodocaより良い感度でインフルエンザの診断が可能かもしれませんが、いずれにしろ言えることは、インフルエンザの診断は迅速診断に頼るのみではなく、丁寧な診察が肝要であるということでしょう。 ちなみにnodocaの保険点数は3050円(初診料などは除く)です。当院ではまだ採用していません。 令和6年1月18日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)伊藤 健太:小児感染症の迅速抗原検査―こんなピットフォールあります. 日本医事新報 2023 ; 5179 ; 18 – 32 .2)明石 裕作ら:発症から検査までの時間がインフルエンザ迅速抗原検査に与える影響:前向き観察研究 . 感染症誌 2021 ; 95 ; 9 – 16 .3)コロナ抗原陰性、インフルエンザ抗原陰性4)濱 武継:コロナ流行後のインフルエンザを含む発熱患者への対応. 日本医事新報 2023 ; 5197 ; 18 – 32 .5)宮本 昭彦:インフルエンザの咽頭所見 . 日大医誌 2013 ; 72 ; 164 – 166 .6)インフルエンザの診断―イクラサイン―

感染症との鑑別が困難な石灰沈着性頸長筋腱炎

感染症との鑑別が困難な石灰沈着性頸長筋腱炎  30 〜 60 歳で生来健康なひとが、突然急激な頸部痛、頸部運動制限、嚥下痛や咽頭痛などが出現したら通常は重症の細菌性上気道感染症(咽後膿瘍など)を想起するでしょう。しかも白血球増多やCRP上昇を伴っていたら緊急入院、咽頭部の穿刺、抗生剤の投与などが行われるでしょう。しかし感染症ではない病気があります。石灰沈着性頸長筋腱炎という病気です。 石灰沈着性頸長筋腱炎は、1964 年に Hartleyによって報告された疾患で、頸長筋にハイドロキシアパタイトが沈着したことによる二次性炎症性腱炎です。後発年齢は 30 〜 60 歳で性差はなく急激な頸部痛、頸部運動制限、嚥下痛、咽頭痛などを主訴に発症します。報告数は多くはありませんが、診断名が知られていないことと診断基準が明確化していないことより、実際の発症数は報告数より多いことを指摘している論文もあります1)。 頸長筋は椎体の前面に位置し、上斜部、垂直部、下斜部から構成され頸部を前屈や側屈させる役割があります。本疾患は上斜部の停止部位への石灰沈着が原因とされています。石灰沈着の成因は明らかではありませんが、繰り返す運動などにより腱の脆弱な部分に負担が生じ変性をきたし、石灰沈着するものと考えられています。炎症の発症様式は石灰の細粒が破綻とともに周辺組織へ散布され、細粒が吸収される際に生じる炎症が原因と考えられています2)。したがって石灰沈着性筋腱炎は全身の筋腱接合部に発症し、特に肩関節に多く出現します。 日本整形外科学会https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/calcific_tendinitis.html より参照  石灰沈着性頸長筋腱炎に明確な診断基準は存在しないため、診断に苦慮する症例が多く報告されています。特に咽後膿瘍との鑑別に苦慮した報告が多くなされています。 発症は突然で、劇的に発症します。頸部痛は前頸部の片側に多く、後屈での疼痛増強が特徴です。血液検査では白血球数増加やCRP陽性などの炎症反応がみられることが多く、診断はレントゲンCTでの環軸椎前面の石灰沈着があげらますが、石灰化像は小さな斑点状のものから高密度で顕著なものまであります。石灰沈着は経過とともに消失するため認めない症例も散見されます。石灰沈着は本疾患診断の必須事項ではなく、明瞭な石灰沈着を画像上確認できないこともあります3)。そのため当初から本疾患を疑いながらも咽後膿瘍との鑑別が出来ずに、咽頭穿刺を施行した報告もあります4)。 文献5)より転載  この両者の鑑別として石灰沈着性頸長腱炎は発症が急激で、咽後膿瘍は、まず上気道炎などの症状が生じたのちに咽頭痛が悪化する点が診断ポイントで、咽後膿瘍の方が重篤です。また、造影CTで咽後膿瘍は周辺の造影効果があるのに比し、石灰沈着性頸長腱炎はないのも鑑別点です5)。 似たような疾患にcrowned dens syndrome  ( CDS )があります。CDSはピロリン酸カルシウムやハイドロキシアパタイドの結晶が関節周囲の組織に沈着して炎症を引き起こす結晶誘発性関節炎の一つであり、環軸椎関節周囲の靭帯に結晶が沈着することで生じます。痛風発作と対比され偽痛風と呼ばれることもありますが、近年は急性CPP結晶性関節炎 ( calcium pyrophophate deposition disease : CPPD ) という名称に統一されつつあります。急性に生じる頸部痛や首や肩のこわばり、発熱を生じ、頸部痛は回旋運動での増悪が特徴です。また発作を繰り返す事もあります。診断は頸部のCTで軸椎歯突起周囲に王冠のようなリング状の石灰化を認めることで確定します6)。この3疾患の鑑別点を表にします。                 石灰沈着性頸長筋腱炎 Growned dens syndrome7)         咽後膿瘍8) 発症 急激 急激 上気道炎症状が急速に悪化 好発年齢 30~60歳 女性 60歳以上 女性 主に10歳以下の小児。成人の免疫不全者は起こしうる。 症状 頸部痛(後屈での増悪)、嚥下痛、咽頭痛など 頸部痛(回旋での増悪)、嚥下痛、咽頭痛など 咽頭痛、嚥下痛、開口制限、呼吸困難,嗄声、喘鳴、斜頸、頸部腫脹など重篤感がある 炎症反応 亢進 亢進 亢進 レントゲンCT所見 咽喉頭から食道上部の後方と頸椎前方の軟部組織の浮腫と微細な石灰化を認 めることが多い。造影CTでは造影効果は認められない。 軸椎歯突起周囲に王冠のようなリング状の石灰化を認める。 咽喉頭から食道上部の後方と頸椎前方の軟部組織の浮腫と低吸収域の存在。造影で周囲の造影効果あり。 令和6年1月5日菊池中央病院 中川 義久 参考文献

形成外科:休診のお知らせ

暫くの間、形成外科を休診致します。 (令和5年12月18日)

新しい性感染症予防 Doxy PEP とは

新しい性感染症予防 Doxy PEP とは  アメリカではHIV(Human Immunodeficiency Virus/ヒト免疫不全ウイルス)の感染を予防する薬が承認されていて、この薬を使用することでHIVの感染を80〜90%程度と高い確率で予防できます。HIVの感染を予防する治療には大きく分けて2種類あり、HIV感染の恐れがある行為の前に感染を予防する目的で内服する治療(曝露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis)PrEP:プレップと言います)と、HIV感染の恐れがある行為の後に緊急で使用して感染を予防するものがあります(曝露後予防(Post ExposureProphylaxis)PEP:ペップと言います)。海外ではHIVの感染予防に広く普及している治療薬です。HIV予防薬を使用したHIVの感染予防治療は、性行為等によるHIVの感染を予防するだけでなく、医療従事者の針刺し事故等のHIVの感染の恐れがある行為に広く使用されます1)。 このHIV感染予防投薬はHIVの蔓延予防に大きく貢献できるものと期待されていますが、一方、コンドームを使用しない性交が増加することによる細菌性性感染症の予防が米国の課題と考えられ、新しい細菌性性感染症の予防としてDoxy PEPという方法が検討され今回発表されました2)。 DoxyPEP試験は、2020年8月~2022年5月の期間に参加者の登録が行われました。対象は、年齢18歳以上、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に対する曝露前予防(PrEP)を行っている人々、またはHIVに感染している人々(PLWH(People Living With HIV/AIDS)コホート)で、過去1年間にNeisseria gonorreoe(淋菌)、Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマチス)の感染、または梅毒に感染したことのあるMSM(Men who have sex with men)およびトランスジェンダー女性でした。 被験者は、コンドームを使用しない性交から72時間以内にドキシサイクリン(200mg)の錠剤を内服する群、またはドキシサイクリンを使用しない標準治療を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられました。STI( Sexually Transmitted Infections )検査は年4回(3ヵ月ごと)に行われました。主要エンドポイントは、追跡期間の四半期当たり1件以上のSTI(淋病、クラミジア、梅毒)の発生です。 その結果、3種の性感染症の発生率は、いずれもドキシサイクリン群が標準治療群に比べて低い結果でした。PrEPコホートにおける相対リスクは、淋病が0.45(95%CI:0.32~0.65)、クラミジアが0.12(0.05~0.25)、梅毒が0.13(0.03~0.59)であり、PLWHコホートでは、それぞれ0.43(0.26~0.71)、0.26(0.120.57)、0.23(0.04~1.29)でした。 文献2)より転載  ドキシサイクリンに起因するGrade3の有害事象は5件みられましたが(下痢 3件、頭痛/片頭痛 2件)、ドキシサイクリンによる重篤な有害事象はありませんでした。 Doxy PEPという新しい性病予防の方法は細菌性 STI の予防のために HIV PrEP を服用している、または HIV 感染とともに生きている MSM(男性 およびトランスジェンダーの女性)における Doxy PEPの有効性、安全性を示したものです。しかし、梅毒とクラミジアに対する感染予防は有意差をもって証明されましたが、淋菌の予防効果は有意差がありませんでした。この結果は、もちろんコンドームなしの性行為を推奨するものではありませんし、その後にシスジェンダー(性同一性が一致している人)にはDoxy PEPは効果がなかった3)という報告もあり、臨床応用には慎重な態度が必要でしょう。 令和5年12月19日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 1)畠山 修司:HIV 予防の最前線 . J AIDS Research 2016 ; 18 ; 197 – 207 . 2)Luetkemeyer AF, et al. N Engl J Med. 2023;388:1296-1306.3)Doxycycline PEP after sex appears ineffective for cisgender womenhttps://www.aidsmap.com/news/feb-2023/doxycycline-pep-after-sex-appears-ineffective-cisgender-women

歯周病が動脈硬化の原因になる!

歯周病が動脈硬化の原因になる!  疫学的研究から歯周炎は単に口腔内の病変にとどまらず、全身に影響を及ぼす可能性が示唆され、中でも動脈硬化性疾患との関連について数多く報告されてきました。動脈硬化症は動脈壁にコレステロールエステルが沈着するアテローム形成により血管の組織的変と機能低下を生じさせるもので、冠動脈におけるアテローム形成は、心筋への酸素や栄養素の供給を不十分とさせ狭心症を発症させます。さらにアテローム性プラークの破綻による血栓形成は血流遮断により重篤な急性心筋梗塞を起こします。 これまで、心血管系疾患の他にも脳血管疾患と歯周炎の関連も報告されており、歯周炎と動脈硬化症との関連として研究されてきました。 冠動脈疾患のリスク因子として、これまで年齢、性別、喫煙、総コレステロール、HDL コレステロール、収縮期血圧,高血圧治療の有無が明らかにされています。近年は高レベルの高感度 CRP(急性期タンパク質)値が冠動脈疾患イベントの予知因子となることが解ってきました。歯周炎患者の末梢血においても高感度 CRP 値が上昇することが同様に報告されており、このことから歯周炎による軽微な炎症応答の亢進が全身に及び、動脈硬化性疾患の促進に作用することが示唆されていました1)。また複数の症例研究で歯周病患者では対象群に比べて2.68倍脳卒中発症に対するリスクが高かったという報告もあります2)。 歯周病とは、歯肉辺縁部の歯周組織の病変群に対し与えられた疾患名で、歯と歯肉の境界に形成される細菌性バイオフィルム(プラーク)が原因となり、歯を支持している歯周組織(歯肉上皮、歯根膜、歯槽骨)が破壊される慢性炎症を主体とする疾患です。初期段階では歯肉の炎症(歯肉炎)から始まり、進行するにつれて骨の吸収が起こり(歯周炎)最終的には歯を失うこともあります。歯肉炎は、歯周組織の破壊のない歯肉に限局した炎症であり、原因を除去すれば完全治癒が可能です。しかし進行すると歯周炎へ移行します。歯周炎は、歯肉上皮付着の破壊・歯槽骨の吸収など歯周組織の破壊を伴う炎症性疾患で、中等度以下の歯周炎では原因除去により治癒可能で、破壊された組織も再生療法によって回復可能な場合もあります。わが国では成人の約 80% が歯周病に罹患しているといわれています3)。口腔内には約300〜400 種類の常在菌が棲息し、このうち歯周病に関与する細菌は約10〜30 種類で、これらの細菌が歯周ポケット内のプラーク1 mg中には108〜109個も存在します。歯周病は特定の単一の菌によって発症するのではなく、Porphyromonas gingivalis や Prevotella intermediaなどの複数の嫌気性菌の混合感染が原因となります4)。歯周ポケットの近くにはリンパ管が伸びておりopen junctionから菌を取り込み、そこから歯茎を経て頸動脈分岐部付近から直接鎖骨上窩の頸静脈に入り込みます。リンパ管には弁があり一方通行のため吸い込まれるように静脈に入り血液と接することになります。歯の治療後数分で血中に菌が現れることが証明されており、日常的な歯磨きでも血中に菌が流入することが証明されています。  歯周病から動脈硬化へ進展する機序として以下の3つが挙げられます。  動脈硬化病変の病理学的な観察で、血管壁における主な出現細胞はマクロファージであることから、動脈硬化は現在、慢性炎症であるという認識が一般的になりました。さらに、他の慢性炎症性疾患である肝硬変、関節リウマチなどとの類似性を指摘する向きもあります。この慢性炎症の原因を追究する過程で口腔内細菌が注目を集めるようになりました。 さて、人体が外部環境と接している消化管、皮膚、口腔などには、特徴的な微生物群が常在しています。その常在菌の数たるや数百兆個とされ、人体の細胞数37兆個に比べ、1桁多いとされています5)。人の体の常在菌叢として、口腔内も腸内も多くの菌がいることに変わりはありません。しかし口腔内は歯垢となったり,歯周ポケットに入り込んだり、上咽頭や扁桃にへばりついたり、菌が動かないで増殖している可能性が高いです。そこから血管内に侵入するのは容易であるのに対し、腸内細菌は潰瘍がない限り、腸内面のバリヤーに守られ簡単には門脈に入り込めず、もし門脈に入り込んでも巨大臓器である肝臓で処理されてしまうと考えられます。この大きな違いが、血管に出現するのは口腔内の細菌ばかりで腸内細菌は見つからないという理由です。 歯肉炎の所見を含め何らかの所見を認める(歯周病の所見をもつ)人は40歳代以降で80%近くになるといわれています。近年、歯周病はそれ自体が全身疾患を引き起こすだけではなく、腸内細菌叢も変化させ、肥満、糖尿病、肝疾患などと関連していることも報告されており、この普通にみられる歯周病をコントロールすることが動脈硬化を含めた慢性炎症性疾患をコントロールする鍵となると思われます6)。 令和5年12月6日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)多部田 康一:歯周炎と動脈硬化性疾患の関連メカニズムについて―Porphyromonas gingivalis の脂質代謝変動への作用― . 日歯周誌 2012 ; 54 ; 245 – 251 .2)猪原 匡史:脳卒中と口腔細菌 . 日内会誌 2023 ; 112 ; 1027 – 1033 .3)廣畑 直子ら:歯周病と全身疾患 . 日大医誌 2014 ; 73 ; 211 – 218 .4)岩井 武尚ら:口腔内弱毒菌と血管病変とのかかわりについて . 脈管学 2008 ; 48 ; 185 – 191 .5)星賀 正明:炎症と循環器病のフロンティア―特に最近の動脈硬化とマイクロバイオータ研究に関して . 日サ会誌 2021 ; 41 ; 45 – 48 .6)山崎 和久:歯周病と全身疾患の関連 口腔細菌による腸内細菌叢への影響 . 化学と生物 2016 ; 54 ; 633 – 639 .

増加しつつあるコリネバクテリウム気道感染症

増加しつつあるコリネバクテリウム気道感染症  コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌は80数菌種も分類されています。ジフテリア菌(C.diphtheriae)やアルサレンス菌(C. ulcerans)のように毒素を産生し人に強い感染症をおこすものから、C.glutamicumのようにアミノ酸発酵に利用される菌まで幅広い菌種があります。また人間の皮膚の常在菌としても多くの菌種が知られています。近年、医療技術と医薬品の発達により、これまで救命しえなかった疾患や外傷が救命または延命が可能となりました。その結果、免疫能が極度に低下した患者が増加し、ヒトの正常常在細菌叢を構成するさまざまな非病原性の弱毒菌種が日和見感染菌として扱われるようになりました。このような背景から従来常在菌として考えられてきたコリネバクテリウム菌も起炎菌となりうることが報告され多数の菌種に分類されました。本菌は菌体自体が真っ直ぐ、またはわずかに湾曲した先端成長型のグラム陽性桿菌で、しばしば菌体の両端または片端が膨れた棍棒状の形態を示します1)。 ジフテリア 中毒性感染症であるジフテリア症の原因菌種ですが、毒素非産生株ではその病原性は低いです。毒素産生株は、飛沫感染によって上気道に感染します。粘膜表面で増殖すると毒素を産生し,その付近の組織壊死を起こして病巣を形成します。ジフテリア毒素は、約58kDaのタンパク質で、強い細胞毒性があります。作用機序は細胞のタンパク質合成能の阻害で、多種の動物細胞、組織に傷害を与えます。ジフテリア毒素に対する抗体には発症を予防する効果があるため、ジフテリア毒素を不活化したもの(トキソイド)がジフテリアのワクチンとして使用されています。このワクチンのおかげでここ数年、日本での発生はありませんが東南アジアでは散発的に発生しています2)。 C. ulcerans 通常C. ulceransは毒素を産生しない場合が多く、この場合感染性は弱いと考えられていますが、毒素産生菌ではジフテリア様の臨床像をきたす人獣共通感染症の起炎菌です。欧米ではウシやヒツジとの接触、または生の乳製品などを摂取することによって感染することが知られていましたが、本邦ではネコ、イヌを飼育している症例報告が主です。ジフテリア症状以外にもリンパ節炎、ジフテリア毒素によるアレルギー性肺炎を疑う症例が報告されています。近年欧米諸国で注目され、日本においてもその増加傾向が問題となりつつあります。 咽頭後壁に厚い白苔が認められます(文献3)より転載)  本菌による上気道感染症の場合、咽頭後壁に偽膜のような厚い白苔を伴うことがあり、この中にC. ulceransが増殖しています。ここを細菌培養すると菌が検出されます。しかし、この偽膜は非常に出血しやすく注意が必要です。また、病変が喉頭に及ぶと呼吸困難感が出現し重症化するので早期の診断・治療が必要です3)。 本菌による肺炎もここ数年増加しているとされ2017年には本邦初の死亡例が報告されました4)。重篤で急性の経過で死亡しています。トキシン産生菌は全身に様々な影響をもたらして病変を複雑化させる可能性があります。ペットの猫より本菌が検出されています。本菌に対する抗菌薬治療は、マクロライド系薬及びペニシリン系薬が第一選択薬です。呼吸器ジフテリア(C. ulcerans感染症も含む)では,細菌検査の結果を待たずに抗毒素治療併用も考慮します(ウマ血清由来のため、アナフィラキシー等のリスクがあり、使用前には十分な過敏性のチェックが必要で、リスクベネフィットをよく検討して投与します3)。 予防に関しては、①感冒様症状(鼻水・くしゃみ等)や皮膚炎の動物と接触した後は手と衣類の消毒を徹底すること、②50歳以上の人はジフテリア抗体の抗体価が極めて低下している可能性があり、特に動物を飼育している場合はワクチン追加接種を検討することも重要です。まだ日本における動物疫学調査は十分ではありませんが、大阪で583匹のイヌのうち7.5%がC. ulcerans菌のキャリアであったという報告があります5)。 その他のCorynebacterium 従来、常在菌と考えられ、菌が検出されてもコンタミネーションとして問題視されなかったその他のコリネバクテリウムも近年、肺炎の起炎菌として認識されてきました。Corynebacterium durum 6)、Corynebacterium propinquum7)、Corynebacterium pseudodiphtheriticum8)、Corynebacterium striatumなどによる肺炎例が報告されています。これらの菌種の特徴として抗生剤の感受性があまり良くないのが問題で、さらに各菌種により感受性が異なっています。さて、これらの菌種は我々の皮膚や口腔内に常在する菌で、痰などから培養されても必ずしも肺炎の起炎菌とは判定できません。実際、どれぐらいの頻度で肺炎の起炎菌となるのでしょうか? 近年、PCR法を用いた網羅的細菌叢解析法が研究目的で使用できるようになりました。本法は、細菌のみが保有する16S ribosomal RNA(ribonucleic acid)遺伝子をPCRで網羅的に増幅し、PCR産物のクローンライブラリーを作成した後に無作為に選択したクローンの塩基配列を評価することで、その検体中の優占菌種を把握する手法で、これまで肺炎で原因不明であった症例でも原因菌の推定が可能となりました。特に気管支鏡検体を用いた検体ではコンタミネーションではなく、真の起炎菌と考えることが出来ます。  誤嚥リスクの有無による肺炎症例の気管支肺胞洗浄液を用いた細菌叢解析の第一優占菌種の比較(文献10より転載)  迎らの検討ではコリネバクテリアは誤嚥リスクあり群の人に多く検出され、医療・介護関連肺炎患者の6.0%に検出されています。口腔内のコリネバクテリウムが誤嚥され肺内に到達して肺炎をおこしたものと思われます。   コリネバクテリウム菌は今でも東南アジアで散発的に発生しているジフテリア、動物共通感染症である比較的重篤なアルサレン菌、弱毒菌ではありますが人に誤嚥性肺炎をおこすその他の菌種など幅広い特徴を示し、その動向が注目されます。 令和5年11月15日    菊池中央病院 中川 義久 参考文献1 ) 大塚 喜人:医学細菌学上重要なCorynebacterium属菌の検査法 . 日本臨床微生物学雑誌 2012 ; 22 ; 207 – 213 .2 ) 岩城 正昭:コリネバクテリウム・ウルセランス感染症 . モダンメディア 2020 ; 66 ; 191 – 195.3 ) 豊嶋 弘一ら:Corynebacterium ulceransによる偽膜形成咽頭炎 . 日内会誌 2020 ; 109 ; 273 – 281 .4 ) Otsuji ken et al : The first fatal case of Corynebacterium ulcerans infection in Japan JMM case report . 2017 ; 4; 1 – 5 .5 ) Katsukawa C, et al : Prevalence of Corynebacterium ulcerans in dogs in Osaka, Japan. J Med Microbiol 2012 ; 61 ; 266 – 273 .6 ) Corynebacterium durum が起炎菌として疑われた肺炎の1症例 . 日本臨床微生物学会  2007 ; 17 ; 1 – 7 .7 ) 古本 朗嗣ら:Corynebacterium propinquumによる市中肺炎の1例 . 感染症誌 2003 ; 77 ; 456 – 460 .8 ) 森永 芳智ら:Corynebacterium pseudodiphtheriticum による呼吸器感染症の 2 例 . 感染症誌 2010 ; 84 ; 65 – 68 .9 ) 岡野 弘ら:Corynebacterium striatumによる敗血症をきたした2例 . 日集中医誌 2019 ; 26 : 401 – 404 .10 ) 迎 寛:市中肺炎の診断と治療 . 日内会誌 2021 ; 110 ; 562 – 569 .

成人に対するRSウイルス
ワクチンが承認されました

成人に対するRSウイルスワクチンが承認されました  60歳以上を対象としたRSウイルスワクチン「アレックスビー筋注用」の製造販売承認が認められました。国内初のRSウイルスによる感染症を予防する60歳以上の成人向けワクチンが誕生したのです。RSウイルス感染症は、秋から冬にかけて流行する鼻汁等の上気道炎症を初発とする風邪症候群にはじまり、時に重症化し、乳幼児の気管支炎、細気管支炎や肺炎の大きな原因を占めています。特に低出生体重児や、心臓や呼吸器系の基礎疾患、免疫不全が存在する場合の重症化が問題となります。RSウイルスは気道上皮に親和性が高く、当初から気道上皮に感染して増殖し,細胞を破壊し、粘膜上皮細胞間にはリンパ球の集簇が認められます。粘膜下組織は浮腫状となり、粘液分泌は亢進します。これらにより細気管支は閉塞し、それより末端の気道の無気肺、あるいは肺気腫をひき起こします1)。       RSウイルスは親からの移行抗体の存在に関係なく、0~1 歳で約 70%が、2 歳くらいまでにはほぼ100%が初感染します。以降、生涯を通じて再感染を繰り返し,風邪症候群の原因ウイルスのひとつとなります。高齢者においてはインフルエンザ様感冒の原因となり、COPD憎悪や呼吸機能低下には注意が必要となります。しかし、RSウイルスの最大の脅威は3 ヵ月以下の乳児、未熟児(慢性肺疾患の合併)、先天性心疾患の小児で、後 2者には保健診療上も冬季流行期の予防治療(Palivizumab,商品名シナジス)が認められています。 RSウイルスの成人に対するリスクは、本邦ではその検討はほとんどなされていませんが、欧米の検討では高齢nursing homeでは年間5~10%がRSVに罹患し、うち10~20%が肺炎合併し、2~5%が死亡しており、全米の65歳 以上では毎年RSVにより約1万人が死亡しているという報告もあります(同年代A型インフルエンザでは毎年3万7千人前後死亡)3)。RSウイルス感染症における呼吸不全への進展はその病態がよくわかっていませんが、サイトカインストームもその一因と推定されており、マクロライドの有効性を報告するものもありますが4)、直接的な治療法はありません5)。 また、糖尿病、冠動脈疾患などでもRSウイルスの重症化があるという事が報告されています。 文献6)より引用  表は18歳以上で、ある地域に居住するもので基礎疾患のないものと各種基礎疾患のある人のRSウイルス感染による入院する比率を示したものです。 下の表はRSウイルス感染症およびインフルエンザで入院した患者さんの臨床経過を示したものです。 文献6)より引用  肺炎はRSウイルス感染症では47.4%、インフルエンザでは25.8%でした。全体的にインフルエンザよりRSウイルス感染症の方が合併症が多く、予後が悪いのが解ります。 そこで今回登場したのがアレックスビーです。 RSウイルス感染による下気道疾患に対するアレックスビーの有効性は、82.58%[96.95%信頼区間:57.89,94.08%]で、有効性が証明されました。 文献6)より引用 (最初のRSウイルスシーズン終了時の解析。追跡期間の中央値は6.7ヵ月)  ワクチンの安全性調査を行った結果、すべての有害事象はアレックスビー群71.9%、プラセボ27.9%に認めら れました。その内訳は、注射部位疼痛〔アレックスビー群60.9%、プラセボ9.3%〕、注射部位紅斑〔7.5%、0.8%〕および注射部位腫脹〔5.5%)、0.6%〕でした。全身性有害事象はアレックスビー群49.4%、プラセボ群23.2%に認められ、その内訳は、発熱(≧38℃)〔アレックスビー群2.0%、プラセボ0.3%〕、頭痛〔27.2%)、12.6%〕、疲労〔33.6%)、16.1%〕、筋肉痛〔28.9%)、8.2%〕、関節痛〔18.1%)、6.4%)〕でした6)。大きな問題となるような副作用はありませんでした。 アレックスビーは筋注のみで皮下注ではありません。値段もまだ未定です。現在のところ一生に1回の接種の予定です。 現在、RSウイルスはただの軽症風邪ウイルスの原因としか考えられていない傾向にありますが、このワクチンの登場で少し考え直すきっかけになるかもしれません。なお、RSウイルス感染症の診断に迅速抗原検査があり、感度82.5%、特異度91.3%7)と優れた検査キットですが、小児のデータなので成人の感度は低下するでしょう。但し、検査の保険適応となるのは、①入院中の患者②1歳未満の乳児③パリビズマブ製剤の適応となる患者8)(早産児、慢性肺疾患を持つ児、先天性心疾患を持つ児、免疫不全を持つ子ども、21-trisomy(ダウン症候群))のみです。したがって成人のRSウイルス感染症を診断することは不可能で、成人のRSウイルス感染症の臨床研究が少ない一因と思われます。 令和5年11月2日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 1)堤 裕幸:RS ウイルス(respiratory syncytial virus). ウイルス 2005 ; 55 ; 77 – 84 .2)勝沼 俊雄:RS(respiratory syncytial)ウィルス感染症 . 耳展 2008 ;  51 ; 314 – 316 .3)河合 直樹ら:PCRによる高齢者を含めたRSウイルス検 出例の検討―新い迅速診断 キットの試用経験 を含 め て―感染症誌 2008 ; 82 ; 1 – 5 .4)横田 伸一ら:RSウイルス感染症に対するマクロライドの可能性 . J J  ANTIBIOTICS 2014 ;  67 ; 147 – 1555)堤 裕幸:RSウイルス感染症 . 感染症誌 2005 ; 79 ; 857 – 867 .6)アレックスビーGSK https://gskpro.com/ja-jp/products-info/arexvy/7)細川 直登:日常診療で活用可能な感染症の迅速検査 . 日本医師会雑誌 感染症診療update 2014 ; 143 ; s38 – s51 .8)RSウイルス抗原定性 https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/index.cgi?c=speed_search-2&pk=1239

慢性に経過するライム病とは

慢性に経過するライム病とは  体調不良で休養している「EXILE」のATSUSHIさんが9月27日、「ライム病」に罹っていることを明かしました。ATSUSHIさんは3月の会食後に不調を感じ、一酸化炭素中毒の疑いからくる体調不良で休養中でした。配信では後遺症として、めまい、吐き気、頭痛に悩まされ、メニエール病も誘発していたことを語っています。 ライム病はスピロヘータである Borrelia を原因とする感染症であり、野山に生息するダニが媒介する人獣共通感染症です。1976 年にコネチカット州ライムに多発した若年性関節リウマチ様の疾患として報告されました。ライム病は 21 世紀になった現在でも、米国では年間約 3 万人が罹患し、また欧州では年間 8.5 万人の患者発生が推定されており、欧米では最も社会的関心が高い節足動物媒介性感染症となっています(CDC, 2018; ECDC, 2011)。 文献1)より転載  米国におけるライム病の発生年次推移です。年々増加しているのが解ります。この増加の原因として診断精度が改善したことと自然破壊による生活圏へのダニの侵入も考えられています。 文献1)より転載  ほとんど東岸の北部に分布していることが解ります。媒介するダニの生息分布によるものと思われます。 我が国においてライム病は、1986 年に Kawabata らによってはじめて報告されました(Kawabata et al.1987)。1999 年の感染症法施行以来、年間 10 例前後の国内感染例がありますが、欧米と比較して稀な感染症です2)。日本では特に北海道からの報告が多く、本州では中部山岳地帯に多いとされています、しかし、実際には東北、関東、関西、中国、九州からも報告例はあり、全国に分布しているものと思われます。病原体保有ダニに刺されても必ず感染が成立するわけではなく、感染成立は8.0 % という報告もあります3)。 臨床像は第 I 期(局在期)、第 II 期(播種期)、そして第 III 期(晩期,持続感染)と進行していきます。第 I 期に見られることが多い遊走性紅斑は長径 20cm 程度の楕円形を呈することが多く、中心部が正常皮膚で、周囲が紅斑になった矢の的のような形状が特徴的であると言われています。ライム病で唯一特徴的な症状で、アメリカ CDC ではこの特徴的な紅斑を認め、マダニ流行地域での活動歴があればライム病の確定診断としています。 文献1)より転載  本感染症で、発症 6 カ月を越えるとときに「慢性ライム病」、「ライム後症候群」と称されることもあります。この場合、線維筋痛症と鑑別が困難な疼痛と全身倦怠感が特徴的な臨床症状であり、集中力の低下や不眠、感覚障害といった多彩な症状も呈します。ライム病は極めて多様な病態を示す全身性感染症なのです4)。ライム病は神経の症状を呈することが多く、髄膜炎、脳炎、神経根炎などが報告されており、特に顔面神経麻痺はライム病によく見られる所見であり、ライム病全体で約2割に認められ、中枢神経に病変を伴うライム病の半数以上に認められると言われています。しばしば両側性の顔面神経を呈します5)。遊走性紅斑を認めずに顔面神経麻痺で発症した例も報告されており、この場合、ヘルペスウイルスが原因と誤診され、抗ウイルス剤に加え大量ステロイド投与を行った場合、ライム病の慢性化をきたす原因ともなりかねず注意が必要です。ライム病はこのように感染症らしからぬ多彩な神経症状を呈しますが、その原因としてボレリアスピロヘータの直接的な神経障害か、もしくは抗原抗体反応による神経障害が推定されていますが詳細は不明です6)。 日本国内ではシュルツェマダニがライム病を媒介するため、シュルツェマダニの生息地域への侵入歴を問診で確認することが重要です。シュルツェマダニは,北海道では平地に、本州や九州では山岳地帯に棲息し、病原性ボレリアの保有率は 4.5~21.3% とされています3)。本邦におけるライム病の特徴は、北米例に比べて全身に拡大し進行していく重症例が少なく、遊走性紅斑などの皮膚症状にとどまる症例が大部分を占めることです。最近遺伝子型の解析から、欧州での分離株は病原性の弱いものが多く、北米には病原性の強い株のみが存在することが明らかにされました。地域による臨床症状の違いはこれらの亜種の地理的分布によると考えられています。軽症とはいえ本邦でライム病症例が毎年発生しており、弱毒株の強毒株への変異や強毒株が輸入される可能性もあるため注意が必要です。 ライム病においては,慢性関節炎,進行性脳脊髄炎などの晩期症状発現を防止するためにも適切な治療が必要です。早期限局期には殺ボレリア作用が強力なペニシリン系のAmoxicillin や、消化管からの吸収と神経系への移行が良好なテトラサイクリン系のDoxycycline を投与し、これらの薬剤が禁忌の症例では第3 世代セフェム系の Cefuroxime axetil を使用することが推奨されています。これまで薬剤耐性の報告はありません3)。 遊走性紅斑は、ボレリア感染症であるLyme病の初期病変として特徴的な環状紅斑ですが、この遊走性紅斑と鑑別が困難な環状紅斑が,ボレリア感染症を伴わずマダニ刺咬によってのみ認められることが知られており、southern tick-associated rash illness(STARI)と呼ばれています。 STARI の環状紅斑 文献7)より転載  Lyme病では、皮疹以外に、発熱、倦怠感、頭痛、関節痛ならびに筋肉痛等を伴うこともありますが、STARIでは、これらの症状がやや軽度であることが特徴とされています7)。STARIの原因はライム病とは別の病原体なのか、またはダニの唾液成分に対するアレルギーなのかはまだ分かっていませんが、Lyme病に準じた治療推奨されています7)。 ライム病は環状紅斑が認められる初期に診断し、治療しないと慢性期になり、そうなると線維筋痛症のような多愁訴となり、より診断が難しくなります8)。また、感染より3か月以上を経過すると長期間の抗生剤投与は無効になるという研究もあり9)、患者さんへの不利益は大きなものとなります。ライム病は早期に診断して適切な治療をすることが重要です。 ライム病の血清診断は国立感染症研究所・細菌第一部で検査が可能とのことです。 菊池中央病院  中川 義久令和5年10月18日 参考文献 1)JD. Radolf et al : Lyme Disease in Humans . Curr. Issues Mol. Biol 2021 ; 42 ; 333 – 384 .DOI: https://doi.org/10.21775/cimb.042.3332)佐藤(大久保)梢ら:ダニ媒介性感染症―国内に常在する感染症を主に̶Med. Entomol. Zool 2019 ; 70 ; 3 -14 .3)川端 寛樹ら:ボレリア感染症(ライム病をおもに) . Neuroinfection  2020 ;  25 ; 118-124 .4)田尻 博敬ら:ライム病による急性肝炎の 1 例 . 肝臓 2010 ; 51 ; 425 – 430 .5)江口 克紀ら:遊走性紅斑の出現なく発症した神経ボレリア症の1例 . 臨床神経2018 ; 58 ; 124 – 126 .6) 高下 純平ら:視神経乳頭炎を呈した神経ボレリア症の1例 . 臨床神経 2015 ; 55 ;248 – 253 .7)福島 一彰ら:一目瞭然!目で診る症例」問題編 . 日内会誌 2020 ; 109 ; 2573 – 2575 .109:2573~2575,2020〕8)岩田 健太郎ら:感染症内科外来で診断に 1 年以上を要したライム病の 1 例 . 感染症誌 2013 ; 87 ; 44 – 48 .9)Klempner MS,  et al.:Two controlled trials of antibiotic treatment in patients with persistent symptoms and a history of Lyme disease. N. Engl. J. Med.  2001;345:85 – 92 .

セレウス菌食中毒

セレウス菌食中毒  青森県八戸市保健所は9月23日、同市の駅弁製造会社「吉田屋」の弁当を食べた全国の人に嘔吐や下痢の症状が相次いだのは黄色ブドウ球菌とセレウス菌による食中毒だと断定し、同社を期限は決めない営業禁止処分としました。体調不良者のうち21都県の270人が食中毒だったとして、内訳も公表しました。 セレウス菌は土壌細菌の一種で、土、水中など自然環境中に広く分布しています。食品への汚染の機会が多く、特に穀類、豆類、香辛料などはセレウス菌に汚染されていることが多いと言われています。下の表は調理前の食品からのセレウス菌の検出状況ですが、多くの食品から検出されていることが解ります。 文献1)より転載  本菌は熱に強い殻(芽胞)を作り、この芽胞は100℃、30分加熱しても分解されません。つまり加熱調理後も生残している場合が多いことから、予防対策としては、調理後の食品中での菌増殖を押さえることが第一です。 原因食品別セレウス菌食中毒発生状況(1983 ~1999、文献2)より転載)  食中毒の原因食品としては、穀類と複合調理食品によるものが大部分を占め、具体的には米飯、スパゲティが嘔吐型食中毒の原因食品となっています。 文献3)より転載  本菌による食中毒は飲食店で多く発生していることが解ります。大量の穀類食品を調理し、その後の保存状態が悪かったものと思われます。 文献3)より転載  本菌による食中毒は5月から11月までの期間に発生しています。本菌は食品中で増殖する際に嘔吐毒という毒素を産生し、食品と共に毒素を摂取することで、食中毒が発生します。熱や酸、消化酵素に強いため、体内では分解されません。 食中毒の原因となるのは嘔吐毒と下痢毒の2種類ですが、日本で発生しているセレウス菌の食中毒はほとんどが嘔吐毒によるものです。 文献3)より ・嘔吐型は喫食後0.5時間から5時間(平均2時間から3時間)で吐き気、嘔吐が起こります。まれに、下痢が伴うことがありますが、発熱は起こりません。・下痢型は喫食後6時間から15時間で、腹痛及び下痢を主症状として発病します。嘔吐型、下痢型ともに重症化することは稀であり、大半の事例は軽症です。 予防法ですが、セレウス菌食中毒は菌がある程度の数まで増殖しないと発生しません。一般的には107~108 CFU mlの菌量がないと発症しないとされているため、調理後にそこまで菌量を増加させないと食中毒は起こりません。セレウス菌食中毒を予防するには、焼き飯類等の加熱調理食品であっても、芽胞が作られ、滅菌できずに食品中に残存するため、食品中での菌の増殖を抑えることが重要です。・食材はよく洗浄してから使用する。・加熱前の下ごしらえ済み食品は長時間の放置を避け、冷蔵(10℃以下)で保管する。・調理した食品は可能な限りすぐに食べる。などがポイントと思われます。 セレウス菌感染症は,通常であれば胃腸炎症状のみを認めることが多いですが、ごくまれに肺炎、膿胸、骨髄炎、心内膜炎、脳症を合併することもあります。しかし健常人が重症化することは極めて稀で、治療の記載はなく、通常は点滴投与と制吐剤で治療します4)。もし抗生剤の使用を考慮すべき超重症例では、本菌は β ラクタマーゼを産生するため β ラクタム系の抗菌薬に抵抗性であり、キノロン系抗菌薬で治療した報告もあります5)。 令和5年10月5日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)食品安全員会―セレウス菌食中毒https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/20210330bacillus_cereus.pdf2)セレウス菌感染症とは 国立感染症研究所https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/427-cereus-intro.html3)町田予防研究所-https://www.mhcl.jp/workslabo/hatena/cereus014)上田 成子:Bacillus cereus 食中毒と検査 . The chemical times 2013 ; 228 ; 11 – 18 .5)吉本 昭ら:持続脳圧センサーにより管理を行ったセレウス菌による脳症の一例 日集中医誌 2011 ; 18 ; 105 – 109 .6)松田 昌悟ら:Bacillus cereus による敗血症,壊死性筋膜炎をきたした肝硬変症の 1 例 .日消誌 2014;111:2013―2020

成人も感染する溶連菌感染症

成人も感染する溶連菌感染症  溶連菌とは、正式には溶血性連鎖球菌と呼ばれる細菌で、α溶血とβ溶血を呈する 2 種類があり、後者でヒトに病原性を有するものは、A 群、B 群、C 群、G 群などです。溶連菌感染症の 90%以上が A 群によるものです。したがって、一般には A 群溶血性連鎖球菌(A群β溶血性連鎖球菌:GAS と略します)による感染症を溶連菌感染症と呼んでいます。 溶連菌はさまざまな感染症を起こし、粘膜感染では、咽頭炎、扁桃炎、猩紅熱、中耳炎、副鼻腔炎など、皮膚・軟部組織感染症では、伝染性膿痂疹、蜂窩織炎、丹毒など、その他の感染症として肺炎、菌血症、集団食中毒、特発性腹膜炎、トキシックショック( TSS )症候群などが知られています1)。主に起こすのは子供の咽頭炎です。症状の代表的なものは、発熱(38〜39℃)と“のど”の痛みです。しかし、3 歳未満ではあまり熱があがらないと言われています。そして、体や手足に小さくて紅い発疹が出たり、イチゴ舌を認めることもあります。 文献2)より転載  咽頭所見は軟口蓋から硬口蓋にかけての点状出血やドーナッツ状病変が特徴で、扁桃の白苔などがあるときはむしろアデノウイルスや EB ウイルス感染症が多いようです3)。 文献3)より転載  前頸部リンパ節腫脹なども特徴として知られています。潜伏期間は 2〜5 日です。診断は A 群連鎖球菌迅速診断キット(ストレップ A)が通常用いられます。感度 70~90%、特異度 95%と特性にすぐれています。しかし発熱、咽頭痛、鼻汁、咳が同時に出現した時は,かぜの可能性が高く,迅速診断で陽性であっても GASの保菌者である可能性も考えるべきです4)。以前はリュウマチ熱や糸球体腎炎などの合併症に注意するように記載されていますが、近年は極めて稀であり、無視できるほどの頻度であるとされています1)。 溶連菌 ( GAS ) による咽頭炎は子どもに多い病気ですが、成人も家族内感染し得る病気です。咽頭炎のなかで GAS が原因である割合は、成人では 5~10%、小児では 15~30%と言われています5)。他方、1%という報告もあり一定していません1)。成人のGAS咽頭炎は小児に比較して軽症で、また、不顕性の保菌者も存在し、また 20 歳を過ぎると A 群以外の溶連菌(C や G 群)の頻度が増えてくるため、ストレップ A による迅速診断はあまり有用性がなくなるとされています6)。またGASによる咽頭炎は必ずしも抗生剤を投与しなくても治癒すると言われており、CAS咽頭炎・扁桃炎において抗菌薬を使用しないとどうなるかを調べた珍しい報告があります。ペニシリン薬7日間投与28名、ペニシリン薬3日間投与26名、偽薬投与43名の3群で溶連菌感染を治療すると、除菌率はそれぞれ68%、35%,28でした。7日間投与群で1名、3日間投与群で2名、偽薬投与群で8名に症状の悪化を認めたそうです。一般に成人のGAS咽頭炎は軽症で、ウイルス性咽頭炎と誤診しても大変な結果になることは少なそうです7)。 しかし、成人のGAS感染症としてトキシックショック( TSS )症候群という重篤な病態を呈することがあります(劇症型A群β 溶連菌感染症 (Streptococcal toxic shock syndrome, :STSS))とも言います。STSSは発熱、咽頭痛 などのかぜ症状から始まり、一 般的には本症に罹患するまで健常者として普通の日常生活を送っているヒトが多く、初期症状して四肢の疼痛,腫脹、発熱、血圧低下などがあり、急激に進行し短時間で軟部組織壊死、急性腎不全、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、播種性血管内凝固症候群 (DIC)、多臓器不全に陥り、死亡率30~60%と言われる恐ろしい病気で、「ヒト食いバクテリア」とも呼ばれています8)。STSSは咽頭炎からの進展より、傷口から感染することが多く、60~70歳代に多く、患者発生は1~6月に多く報告されています。診断は病態の進行が急激であるため早期診断が重要で、迅速診断キットは 5~ 10分 で結果が得られ、血清や膿を検体として用いたとき陽性を示すことから、STSSの診断に有用であることが報告されています8)。しかし原因となる溶血性レンサ球菌は、A群が多いですが、B群やG群等も報告されており迅速診断キットで陰性になる可能性もあります。なぜ通常の日常生活を送っていた健康な成人が、このような恐ろしい疾患に罹患するのかはよく解っていません。菌側の外毒素と宿主の溶連菌に対する免疫状態との関連などが推測されています。近年報告数が増加しています9)。その原因は不明です。 劇症型溶連菌感染症の年次推移(文献9)より転載) GAS咽頭炎は小児の場合、症状が強く、学校内感染を予防する意味でも積極的に診断して治療する必要がありますが、成人の場合は大半がごく軽症で、また健康保菌者も存在することより積極的な診断・除菌をすすめる意見はあまり聞かれません。ただ、家族内感染で健康成人がSTSSを発症した報告は散見され8)10)、子供がGAS感染症と診断されたときは家族内感染を起こさないような注意は必要と思われます。 菊池中央病院 中川 義久令和5年9月22日 参考文献 1)古くて新しい感染症、連鎖球菌感染症の謎https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa3.pdf2)A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とはー国立感染症研究所ーhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html3)溶連菌感染症―口と舌https://www.miyake-naika.or.jp/13_medemiru/kodomo_yourenkin.html4)菊田 英明:小児科からみたA群 β 溶血性レンサ球菌による咽頭扁桃炎 . 日耳鼻 2012 ; 115 ; 1 – 7 .5)菊田 英明ら:臨床的に典型的な A 群β溶血性レンサ球菌による咽頭・扁桃炎であるが迅速試験で陰性であった32 例の咽頭培養細菌の検討 . 小児感染免疫 2011 ; 23 ; 233 – 239 .6)山手 亮佑ら:外来で考える連鎖球菌―分類学と A 群溶連菌の臨床像. 日本医事新報2018 ; 4937 ; 28 – 36 .7)坂田 宏:小児科における咽頭炎・扁桃炎 – A 群溶連菌感染症を中心に – . 口咽科 2010 ; 23 : 11 ~16 .8)小回 はるみら:家族内発症した劇症型 A群 β溶連菌感染症の 1例 . 日臨救医誌2010 ; 13: 558 –562 .9)池辺 忠義:溶血性レンサ球菌感染症の疫学 . 日本食品微生物学会雑誌 2019 ; 36 ; 85 – 88 .10)細尾 咲子ら:劇症型A群β溶連菌感染症を呈した肺炎の1例 . 日内会誌 2015 ; 104 ; 2556 – 2561 .

デング熱に対する注意喚起

デング熱に対する注意喚起  2023年8月23日に厚労省から検疫所に対して、デング熱に関する注意喚起の事務連絡が出ています(https://www.forth.go.jp/news/000071231.pdf)。 2023年年7月は日本でも15例のデング熱の報告がされています。https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/dengue/PDF/dengue_imported202308.pdf 東南アジアでデング熱が流行し、台湾でも8月になって感染者が急増し、8日から14日の間に、新たに469人の感染報告がされました。内訳は、台南市が390人、雲林県が40人、高雄市が19人など。今年に入ってからの累計感染者は1579人で、うち台南市が1310人と最多となったそうです8月16日共同通信社)。 外国旅行者のデング熱持ち込みが危惧されているのです。 文献1)より転載  デング熱は蚊が媒介するデングウイルスによる急性発熱疾患で、熱帯地域で広く流行しています。図 に示すように、アジア、アフリカ、中南米、カリブ海や南太平洋の島嶼国などほぼ全ての熱帯地域で患者が発生しています。直近の推計では世界で毎年3億9,000万人が感染し、うち9,600万人が発症するとされ、蚊媒介性ウイルス感染症の中では飛び抜けて患者数が多いとされています1)。さらに、最も重要な媒介蚊であるネッタイシマカは都市環境に適応して生息していることからアジアや中南米諸国で進展する都市化、人口増加と相まって患者数はさらに増加の一途をたどっています。加えて、地球温暖化により、媒介蚊のネッタイシマカやヒトスジシマカの生息地域が拡大していることから、流行地域も広がっています1)。日本における媒介蚊はヒトスジシマカで、本州から四国、九州、沖縄、小笠原諸島まで広く分布しています。 デングウイルスには血清型の異なる4つの型(1・2・3・4型)が存在します。罹患したウイルス型に対しては終生免疫が獲得されますが、他の血清型に対する交叉防御免疫は数カ月で消失し、他の型には感染します。不顕性感染も多いとされますが、発症する場合は、蚊に刺されてから3~7日の潜伏期間の後、急性の熱性疾患であるデング熱を発症し、ほとんどの症例では1週間ほどで回復します。稀に、発熱が終わり平熱に戻りかけたときに、突然血漿漏出と出血傾向を発症し、しばしばショック症状となるデング出血熱を発症することがあります。デング出血熱発症の一因として、2度目の別の型への感染時に重症化することが示唆されています。ヒトからヒトへの感染はありません2)。 診断は発熱に加えて、以下のような症状がある場合にデング熱を強く疑います3)。 発熱 かつ・ 以下の所見の2つ以上を認める場合1. 発疹2. 悪心・嘔吐3. 頭痛・関節痛・筋肉痛4. 血小板減少5. 白血球減少6. ターニケットテスト陽性※7. 重症化サイン※ ターニケット(駆血帯)テスト:上腕に駆血帯を巻き、収縮期血圧と拡張期血圧の中間の圧で 5 分間圧迫を続け、圧迫終了後に 2.5cm x 2.5cm あたり 10 以上の点状出血が見られた場合に陽性と判定する 解熱時期に見られた点状出血   文献3)より転載 解熱時期に見られた白い島状に抜ける紅斑   文献3)より転載 デング熱患者で以下の症状や検査所見を1つでも認めた場合は、重症化のサイン有りと診断します。 1.腹痛・腹部圧痛2. 持続的な嘔吐3. 腹水・胸水4. 粘膜出血5. 無気力・不穏6. 肝腫大(2 cm 以上) 7. ヘマトクリット値の増加(20%以上, 同時に急速な血小板減少を伴う)  確定診断は保健所に検体を依頼し、以下の項目が陽性になれば確定です。 ウイルス分離 <全血・血清・血しょう・尿>RT-PCR 法によるウイルス遺伝子の検出 <全血・血清・血しょう・尿>ウイルス非構造タンパク(NS1)抗原の検出 <血清>特異的 IgM 抗体の検出※ <血清>中和抗体の検出※※ <血清>  2014 年 8 月 27 日に、東京都内で感染したと考えられるデング熱患者が確認されました。これをきっかけにして海外渡航歴のないデング熱患者の報告が続き国内で感染したと考えられる患者は 157 名に達しました。日本国内でデングウイルスの媒介蚊となるヒトスジシマカは,通常、5月中旬頃から10 月下旬まで活動するとされており4)、特に暑い今年はまだまだ日本国内流行も可能性があります。 日本国内での流行が発生した場合や流行地への渡航者には、蚊に刺されないように忌避剤や殺虫剤を使用するよう指導します。また、行政には媒介蚊対策や啓蒙活動が重要です。ワクチンは複数の候補が臨床試験に入っていますがまだ使用できるものはありません。 渡航後発熱の患者さんの中ではデング熱が一番多く、また、渡航後外来に限らずに、一般発熱外来にデング熱が受診する可能性もあり、一般臨床医もデング熱を知っている必要があります。 令和5年9月7日  菊池中央病院 中川 義久 参考文献1) 森田 公一:デング熱の現状と動向 . 日内会誌 2016 ; 105 ; 2140 – 2145 .2) 吉澤定子:デング熱『私の治療』日本医事新報 2023 ; 5167 ; 513) 蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5版)2019 年 2 月 7 日第 5 版作成国立感染症研究所https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/dengue/Mosquito_Mediated_190207-5.pdf4) 阪本 直:デング熱の国内発生 . 日内会誌 2014 ; 103 ; 2653 – 2656

コロナ抗原陰性、インフルエンザ抗原陰性

コロナ抗原陰性、インフルエンザ抗原陰性 発熱外来に多くの患者さんが来院されています。 厚生労働省ホームページより  新型コロナウイルス感染症は全数把握ではなくなったため定点医療機関からの集計で7月30日までのデータですが、6月末頃から少しづつ増加しています。8月24日現在、まだピークを越えたような実感はありません 厚生労働省ホームページより  患者の増加とともに入院数も増えてきています。しかし、以前のように呼吸不全をきたして重症になるケースは少なく、高齢者が咽頭痛で摂食不良になり脱水で入院するケースが大半です。 発熱外来では原則として新型コロナ抗原検査(定性)を行い、場合によってはインフルエンザ抗原検査も行います。両者が陰性の発熱患者も多数存在します。例えば、副鼻腔炎、細菌性扁桃炎、伝染性単核球症など多彩な疾患を診断してきました。新型コロナ抗原検査やインフルエンザ抗原検査を迅速抗原検査と呼びますが、これらの検査が陰性であったときにこそ医者の実力が問われるときです。もちろん検査前に入念な診察をして大体の診断をしておくのは当然の事です。 文献1)より参照  この表を見ると解るように、迅速検査の特異度はすぐれていますが、感度はあまり高くないことがわかります。つまり陽性だったら間違いないが、陰性だからと言って否定は出来ないということです。これらの迅速検査が陰性であるということは他の疾患か、もしくは偽陰性であることを鑑別しなければいけません。 そもそもコロナ抗原検査が必要かどうか、というところから考えなくてはいけません。今まではコロナ感染の疑いがあれば必ず検査をしていましたが、5類になった現在、コロナ感染の疑いが濃厚であれば、例えば、家族が数日前に感染した、であれば必ずしも検査をする必要はないと思われます。新型コロナ検査の感度が64.2%であるならば、臨床診断の方の感度が勝る場合もあるのです(特異度は劣りますが)。しかし、①重症化リスクが高い人(高齢、ワクチン未接種、免疫不全)②同居人に高リスクのある人③医療従事者や介護施設職員などは積極的に抗原検査をする必要があります。また、場合によっては抗原陰性でも、抗原定量検査やPCR(感度80 ~ 90 % )3)も行うことも念頭において良いかもしれません3)。また、当初の発表と異なり、新型コロナ感染症もインフルエンザ感染症のように発症直後はウイルス量が少なく(当初、発症時が一番ウイルス量が多いと発表されていました)偽陰性になりやすく、後日に抗原検査を再検査することも考えておく必要があります3)。  発熱患者を診たとき、新型コロナ感染症かどうか慎重に類推し、検査の事前確率を上げておく必要があり、事前確率が高そうだったり、低そうだったらあえて検査をしない選択肢もあります。抗原検査を新型コロナ感染症の除外診断に使用しないことが肝要です。 令和5年8月24日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)伊藤 健太:小児感染症の迅速抗原検査―こんなピットフォールあります. 日本医事新報 2023 ; 5179 ; 18 – 32 .2)明石 裕作ら:発症から検査までの時間がインフルエンザ迅速抗原検査に与える影響:前向き観察研究 . 感染症誌 2021 ; 95 ; 9 – 16 .3)買田 航ら:新型コロナウイルス感染症 ( COVID-19 ) の検査 . COVID-19 の検査として何をするか、どう解釈するか . 内科 2023 ; 131 ; 1321 – 1325 .

不思議の国のアリス症候群

不思議の国のアリス症候群  不思議の国のアリス症候群は、インパクトのある名称ですが、どんな病気なのでしょうか。 本疾患は脳の障害や異常にともなって起きる『変視』や『錯視』と呼ばれる見え方の異常が主な症状です。例えば、ものが大きく/小さく見える、自分の身体の大きさが変わる、周囲が大きく見えたり小さく見えたりする、自分の身体が変形したように見える、風船玉のような物体が視界いっぱいに現れる、スマートフォン画面が歪んで見えるなど、症状には多様性があり、ほかにもさまざまなものがあるとのことです。「まるで『不思議の国のアリス』の一場面のような症状から、この病名がつきました。 文献1)より転載 本症の原因として以下のものが挙げられています2)。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 1)偏頭痛:腹部片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛、HANDL(脳脊髄液リンパ球増加症を伴う一過性頭痛および神経学的欠損の症候群)2)癲癇:側頭葉てんかん、前頭葉てんかん3)感染症:エプスタインバーウイルス、コクサッキーB1ウイルス、サイトメガロ ウイルス、A型インフルエンザウイルス、マイコプラズマ、水痘帯状疱疹、腸チフス脳症、ライム神経ボレリア症、化膿レンサ球菌(scar紅熱および扁桃咽頭炎)4)脳血管疾患:実質内出血性脳卒中、虚血性脳卒中、海綿状血管腫、ロビンフッド症候群、下垂体梗塞5)その他の器質性脳疾患:急性播種性脳脊髄炎、膠芽腫、精神障害、鬱病、コタール症候群、カプグラ症候群、精神分裂症、統合失調感情障害6)薬:デキストロメトルファン、咳止めシロップ(ジヒドロコデインとDL-メチルエフェドリンを含む)、モンテルカスト、トピラメート、ティッカー、LSD離脱後の幻覚剤持続性知覚障害(HPPD)、トルエン系溶剤 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  これらの多数の原因が挙げられていますが、頻度的には最も多い原因は片頭痛(27.1%)で、次に感染症(22.9%)、主にEBV(15.7%)が続きます。他の病因は、脳病変(7.8%)、医薬品(6%)および薬物(6%)、精神障害(3.6%)、てんかん(3%)、末梢神経系の疾患(1.2%)、その他(3%)です。患者の約20%は原因不明でした。年齢で区切ると、18歳以下では感染症(EBウイルスが50%以上)、19歳以上では片頭痛が最も多い原因でした。ちなみに全体の65%が18歳未満で発症していました2)。  性差は男女比でほぼ同率ですが、5~14歳の小児に限ると男性が2.69倍多いです。 本症群でみられる症状 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――1)身体像の奇妙な変形自分の身体やその一部分が急激拡大、または縮小する奇妙な感じがある。2)視界に映ずる物体の大きさ、位置、距離に関する錯覚的誤認人物や物体が異常に大きく見えたり、小く見えたり、実際より遠くにあるように見えた り、近くに見えたりするもので、変形を含む視空間知覚障害による症状。3)空中浮揚の錯覚的感覚身体またはその一部分(特に頭部)が軽く感じられ、ふわふわと浮揚するような感じとし て訴えられる。4)時間経過感覚の錯覚的変化時間経過が異常に早く感じられたり、逆に遅く感じられたりする。以上のほかに、しばしば現実感喪失、離人症を 伴い、例えば,、美しい風景を見てもそれ が美しいという実感がわかない、そこに本があるのは見えるが確かにあるという実感を 伴わない、手足や首から上などが自分のもののような感じがしない、というような症状 が伴う。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 文献3)より参照  これらの症状は数分から数時間で改善するものから、年余にわたって持続するものなど様々で、原因疾患により異なるものと思われます。表で示した症候は、幻覚や錯覚ではなく知覚の歪みを特徴とするため、統合失調症スペクトラムや他の精神病性障害と区別する必要があります1)。 この症候群は稀と考えられていますが、片頭痛の患者さんは15%がこの症状を有しているとされ、生涯有病率は男性で5.6%、女性で6.2%と高い頻度であることが最近報告されました2)。生涯有病率30%という報告もあります1)。 本症候群の原因は不明ですが、脳波異常として徐波化を示す場合があり、またMRIのT2強調像で一過性の散在性の高信号像が認められる場合もあり、炎症性機序による脳浮腫を反映しているものと思われます3)。 診断はいまだ明らかな診断基準がなく難しいと思われます。特有な症状から疑い、原因となるような原因疾患があるかどうかを検討し、除外診断のために血液検査、EEG、脳MRIスキャンなどの補助的な調査を促す必要があるかもしれません。ただ、小児の場合は感染症に伴う一過性のものとしてあまり心配させないように説明することも大切かもしれません1)。 本症候群はほとんどが自然に寛解します。しかし、根底にある慢性疾患(片頭痛やてんかんなど)を伴う例では、適切に診断して治療をしないと症状の改善は得られません。また、脳炎の場合、原疾患で予後が悪い場合もあります。治療の必要性には、さまざまな基礎疾患の自然な経過に関する適切な知識、およびどのような状況下でどの治療法から何を期待するかについての患者への慎重な説明が必要です。今までの報告では抗精神病薬がめったに処方されず、ほとんどの場合、それらの有効性は限定的であると考えられています。さらに、精神病患者の併存症状として歪みが経験される場合、てんかん活動の閾値を低下させる可能性があるため、抗精神病薬によって誘発または悪化する可能性を考慮することが重要です2)。 令和5年8月16日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)Blom J D : Alice in Wonderland syndrome A systematic review . Neurology® Clinical Practice 2016 ; 259 – 270 .2)Giulio Mastria : Alice in Wonderland Syndrome: A Clinical and Pathophysiological Review . Volume 2016 | Article ID 8243145 | https://doi.org/10.1155/2016/8243145https://www.hindawi.com/journals/bmri/2016/8243145/3)亀井 淳ら:磁気共鳴画像 異常を認めたEBウイルス脳症による不思議の国のアリス症候群の1 例 . 脳と発達 2002 : 34 ; 348 -352 .

ペルーでギランバレー症候群激増中

ペルーでギランバレー症候群激増中  南米ペルー政府は11日までに、筋力低下や感覚まひが起きる神経疾患ギラン・バレー症候群の発症が増加し死者も出ているとして、全土に保健衛生に関する90日間の緊急事態を宣言しました(2023年07月12日共同通信社) 。ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome (以下GBS))とは、キャンピロバクター腸炎後(32%)、マイコプラズマ肺炎後(5%)、ヘモフィルス気管支炎後(3%)、サイトメガロ感染後(3%)(括弧内の数字は GBS の病原菌判明したものの割合です)などに罹り改善したのち1~3 週後に突然発症する四肢筋力低下を主とする末梢神経の病気です1)。末梢神経とは脳や脊髄などの中枢神経から、手足、目、耳、皮膚、内臓など全身に広がっている神経のことで、脳の命令を手足に伝えたり、その逆に、目や耳、皮膚などで得た情報(刺激)を脳に伝えるといった働きをしています。末梢神経障害とは、脊髄神経根・脳神経根と、それより末梢に位置する神経線維及び神経細胞体に主病変が存在する疾患を指します。この末梢神経の抗原とキャンピロバクターやマイコプラズマの抗原が類似しているためにこれらの病原体に対する抗体産生が自分の末梢神経も攻撃してしまうのが GBS の病態です2)。液性免疫について、細胞表面の糖脂質に対する免疫反応が同定されていますが、末梢神経を標的とする細胞性免疫については、明らかな標的抗原は解っていません。GBSでは40~70%の症例で発症前4週間以内の先行感染を来していますが病原体の同定が出来るのは10~20%と低いです。カンピロバクター腸炎後1000人に 1 人ぐらいの確率で発症するのではないかと推測されています。症状は1ヶ月以内にピークに達し、呼吸障害や高度の自律神経障害で死亡することもあります。GBS の年間発症率は10万人あたり1~2人であり、まれな病気と思われがちですが、小児から高齢者までのあらゆる年代で発症するため、各人が生涯を通じて罹患する頻度は約1000人に1人とかなり高い病気なのです。現在、GBS は急に四肢が動きづらくなった病気の原因として最も頻度の高い病気であると言われています。 男女比は 1.5 : 1 とやや男性に多い傾向があります。症状は、運動麻痺(筋力低下)優位の末梢神経障害で、腱反射消失、感覚障害、自律神経障害ならびに各種の脳神経麻痺(顔面神経麻痺,眼筋麻痺ならびに嚥下・構音障害等を来たします3)。しかし近年の報告では腱反射が亢進する例もあるそうですが、そうなると診断は難しくなるでしょう。参考にする診断基準としてBrighton criteria があります4)。 GBSの血中抗糖脂質抗体、特にガングリオシドに対する抗体の上昇が有用な検査として用いられるようになっており、約60%の陽性率であり、陰性でもGBSを否定することはできませんが、陽性であれば強くGBSの可能性を示唆します。各種の感染症の刺激でガングリオシド抗体が産生されますが、ガングリオシドには多くの分子種があり、その神経の局在も分子種によって異なっています。したがって産生される分子種によって異なる臨床像となります。 GBSの抗糖脂質抗体と臨床的特徴及び抗原の局在の関連(文献3)より転載) 看護 roo! より転載  抗糖質抗体(抗ガングリオシド抗体)の種類と、それによって攻撃される末梢神経の部位が異なることによりGBSが多彩な症状を呈することが解ってきました3)。 さてペルーでのGBSの多発発生の原因は新たな感染微生物の出現か、コロナ後の感染症の多発によるものか不明ですが、日本でも起こりうる事で注意が必要です。 厚生労働省 カンピロバクター食中毒予防について(Q&A) (mhlw.go.jp)  より転載  図は本邦におけるカンピロバクター腸炎の年次発生推移です。令和2年から著明に減少しており、これはコロナ蔓延の自粛によりバーベキューや外食が減ったことによる影響と思われます。今後、レジャーが解禁されることによりカンピロバクター腸炎の増加が予想され、それに伴いGBSの発生が増加する可能性があります。また、現在、インフルエンザやヘルパンギーナなども感染増加が報告されておりこれらの感染後のGBSの増加も危惧されます。 GBS は以前考えられていたような予後のよい病気ではないこともわかってきました。約 15~20%は発症から6ヶ月経過後も独歩不能であり、死亡率は3~7%と報告されています。 死因として多いのは呼吸器障害・呼吸器感染・自律神経障害・心停止で、GBS の急性期から回復期いずれの過程でも死亡にいたる可能性がありますが、特に発症から30日以上経過後や回復期に多いとされています。また、筋力低下や感覚異常,精神状態変容が残存し、38%の症例は GBS のために仕事内容の変更を余儀なくされ、37%は肉体的または精神的サポートを要するためパートナーの生活を変更する必要があると報告されています。このように GBS は治療によって症状が軽快しても,GBS 発症前と比べ日常生活に支障をきたす例が多いことには留意する必要があります。 GBS の治療は自己免疫疾患であることより副腎皮質ホルモンが考えられますがその効果は否定されています。現在有効な治療は血液浄化療法と免疫グロブリン大量静注療法ですが、いずれの治療も高額で大変な治療法です。また GBS は軽症なものから重症なものまで非常に幅が広く、GBS 全例にこの 2 つのどちらかの治療を行うのは不可能で合理的ではありません。専門医が予後予測因子5)を分析し治療を決定します。GBS は早期に治療の必要性を判断しなくてはならず、感染症を診療する医師は GBS を見逃さず早期に疑い専門医に紹介する必要のある疾患です。 令和5年8月1日菊池中央病院 中川義久 参考文献1)感染症の後遺症、ギランバレー症候群2)海田 賢一:ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群:抗ガングリオシド抗体の神経障害作用 . 臨床神経学 2012 ; 52 ; 914 – 916 .3)楠 進:免疫性末梢神経障害の病態と治療 . 日内会誌 2019 ; 108 ; 481 – 485 .4)難波 雄亮ら:進行する手足のしびれ . プライマリ・ケア 2023 ; 8 ; 10 – 16 .5)山岸 裕子ら:ギラン・バレー症候群の予後と予後予測因子 . 臨床神経学 2020 ; 60 ; 247 – 252 .

難治性肺 Mycobacterium avium complex 症における ALIS 治療

難治性肺 Mycobacterium avium complex 症における ALIS 治療  肺非結核性抗酸菌症(Nontuberculous Mycobacterial Infectious pulmonary disease: NTM-PD)の患者数の増加は世界的に問題となっており、本邦でも2014年にNTM 患者の罹患率は菌陽性肺結核患者を凌駕したことが報告されました。NTM-PD の中で臨床上最も高率 に遭遇し、NTM-PD の80~90%が Mycobacterium avium (M.avium)/Mycobacterium intracellulare(M.intracellulare)症(MAC-PD)です。病型は大きく結節気管支拡張型(nodular-bronchiectatic type)、線維空洞型(fibro cavitary type)に分類され、気管支拡張型において空洞の有無を併記する場合もあります。 MAC-PD治療における重要なポイントは、診断基準を満たしても治療の適応については個別に考慮する点です。慢性疾患である本症では経過の個人差が大きく、約10%は無治療で自然に排菌停止すると報告されています。胸部画像については可能な限り過去の画像と比較し、病変の出現時期、変化等を確認します治療の必要性は年齢、病型、排菌量、基礎疾患等を総合して判断されますが、ATS/ERSガイドライン 2020 では、診断確定後、注意深く経過観察し治療のタイミングをはかる(watchful waiting)よりも治療を考慮すべきと記載されています。なかでも排菌量が多いと思われる喀痰の抗酸菌塗抹陽性例あるいは空洞を伴う例には積極的な治療が望まれています1)。MAC-PDの治療は基本的にはマクロライド(クラリスロマイシンclarithromycin:CAM))、 エタンブトール(ethambutol:EB)、リファマイシン(リファンピシンrifampicin:RFP)あるいはリファブチン)を含む 3 剤で治療を行います。そして重症例や空洞例にはアミノグリコシド薬を追加するように推奨されています3)。この3剤の多剤併用化学療法の排菌陰性化に対する有効性は約60~90%で、その約半数は再排菌します。再排菌は再感染も含まれますが、12カ月以上排菌が陰性化した後の再排菌は再発ではなく再感染であることが多いとの報告より、12カ月以上の排菌陰性持続が治療終了の目安にされています。このように多剤併用療法を開始しても10 ~ 40 % の人は当初より菌陰性化せず、6 ヵ月以上標準治療を行って菌陰性化にいたらない MAC-PD をRefractory MAC-PD と呼びます。このようなMAC-PDに対して開発されたのがアミカシン・リポゾーム懸濁液吸入(Amikacin liposomal inhalation suspicion: ALIS)です。本邦においても2022年 7 月から処方可能となりました。その有効性に対する検討は、ガイドラインに基づく多剤併用療法(guideline based therapy: GBT)とGBTにALISを併用した群でどちらが優れているかという方法で行われました。投与6ヵ月時の喀痰培養陰性化率では、ALIS+GBT併用群29.0%,GBT単独群では8.9%とALIS 併用の有効性が示されました。次に,ALIS+GBT 群で菌陰性化した65例と GBT 単独群で菌陰性化した10例について、同様の治療を12ヵ月継続し終了した時点における菌陰性化が検討されました。ALIS+GBT 群では18.3%の患者で菌陰性化が継続しており,GBT 単独群では2.7%の患者で菌陰性化が継続していました5)。 ALISの副作用はインタビューフォーム上、重大な副作用としては、過敏性肺臓炎(2.7%)、気管支痙攣(21.5%)、第 8 脳神経障害(15.1%)、急性腎障害(3.2%)、ショック/アレルギー(頻度不明)でした。呼吸器系副作用において5 %以上頻度で発症した副作用は、咳嗽、発声困難、呼吸困難、喀血、口腔咽頭痛があげられ、1%以上 5%未満として喀痰を伴う咳嗽、鼻漏、唾液増加、喉の炎症、喘鳴、慢性閉塞性肺疾患などが挙げられていました。 文献5)より転載  発声障害は最も多い副作用で40 ~ 50 % に認められています。その対策として鎮咳剤、トローチ,温湯またはグリセリンによるうがい、口をすすぐなどやALIS の投与を夜間投与への変更などで対処するよう記載されています6)。 吸入 1 回あたりの薬価は42,408.4円、初回指導料は8,780点で2 回以降の指導加算ため2,600点と非常に高額です。患者のほぼ全員が高額療養費制度を利用することになります。 アリケアネットhttps://aricare.net/pre/medicalcost.html#section-1より転載  ALIS 吸入には専属のラミラ(LAMIRA®)ネブライザシステムが必要です。ハンドセットの交換は月に 1 回の目途で行います。ハンドネブライザの洗浄は毎日行います。部品を分解し、内部に残った薬液をふき取り流水で流し、中性洗剤入りの水に浸し、その後専用の蒸気消毒器を用い蒸気消毒するか,精製水を用いた鍋での煮沸消毒を行います。週 1 回はネブライザヘッドを専用の超音波洗浄機で洗浄する必要があります。この操作に最初は1 時間弱かかる場合もあるそうです。操作が煩雑で、作業スペースも必要で、ALIS 導入前に十分な説明が必要です。入院して導入指導する場合もあるそうです4)。佐々木氏は4)ALIS は完全無欠な薬剤ではなく、多剤併用療法に併用し、効果を発揮する薬剤で、効果を過信せず、必要な患者を見極め導入することが、refractory MAC-PD 治療に欠かすことができない技術の一つとなろう、と述べています。なお当院ではALIS吸入の導入は行っていません。 令和5年7月13日 菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)長谷川 直樹:一般内科医が見落としたくない難治性感染症の診断と治療 非結核性抗酸菌症の診断と治療 . 日内会誌 2021 ; 110 ; 1815 – 1822 .2)北田 清悟:肺非結核性抗酸菌症 . Kekkaku 2016 ; 91 ; 685 – 689 .3)日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会:肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2012年改訂.結核 2012 ; 87 ; 83 – 86 . 4)佐々木 結花:難治性肺 Mycobacterium avium complex 症におけるALIS 治療導入のポイント . 呼吸ケア・リハビリテーション誌 2023 ; 31 ; 215 – 219 .5)Griffith DE et al : Amikacin liposome inhalation suspension for refractory Mycobacterium avium complex lung disease . CHEST 2021 ; 160 ; 831 – 842 .6)アミカシン硫酸塩 吸入用製剤(amikacin liposome inhalation suspension: ALIS 販売名 アリケイス®吸入液590 mg)に関する使用指針 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 非結核性抗酸菌症対策委員会 日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会 . Kekkaku 2022 ; 97 ; 1 – 2 .

非結核性抗酸菌症とアスペルギルス

非結核性抗酸菌症とアスペルギルス  非結核性抗酸菌症(nontuberculous mycobacteria : NTM)とは、結核菌以外の抗酸菌の感染によって起こる慢性の呼吸器疾患で、ヒトーヒト感染を起こさない非感染性の抗酸菌感染症です。非結核性の抗酸菌には多くの種類がありますが、日本国内では、MAC症(Mycobacterium avium-intracellular)とM.kansaii症が大半を占めています。その割合は、MAC症が非結核性抗酸菌症のおよそ70%を占めており、続くkansasiiと合わせると全体の90%以上を占めています。 我が国の肺NTM症は1970年以降増加が続いており、1990年以降の増加が顕著であることが解っています。2014年に日本医療研究開発機構による全国調査が行われ、罹患率は菌陽性の肺結核を超えて我が国の肺NTM症は新たな時代へ移ったことが明らかになりました。 文献1)より転載。  肺NTM症自体は前からある病気で、結核のように伝染性がないため、治療の必要はないと昔は放置されることが多かったのです。不治の病とされていた結核の治療を重視するあまり、どうしても肺NTM症は軽視されていた時代があったのです。 なぜ肺NTM症が増加しているかは良くわかっていませんが、高齢化、医師の関心の高まり、健診の発達、検査法の進歩、結核の減少による抗酸菌免疫の低下、生活習慣の変化(シャワーを使うようになったなど)などが考えられています1)。 肺NTM症の大半を占める肺MAC症患者の発見のきっかけとしては,自覚症状,検診での胸部異常陰影,他の肺疾患の経過観察中などがあります。自覚症状は,咳嗽,喀痰,血痰,微熱など非特異的であり,画像検査と併せて初めて肺MAC症を疑うことになります。 肺MAC症は画像所見によって,中葉舌区に多発する小粒状陰影や気管支拡張所見を呈する結節・気管支拡張(nodular bronchiectatic:NB)型と、上葉を中心に空洞を呈する線維空洞(fibrocavitary:FC)型の2病型に大別されます。  NB型は、肺MAC症に比較的特徴的な所見ですが、M. abscessusやM. kansasiiなど他のNTMや緑膿菌などの細菌による慢性気道感染症全般、副鼻腔気管支症候群、関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の気道病変などの非感染性の疾患も同様の所見を呈するため鑑別が必要です。FC型は結核類似型とも呼ばれるように画像所見は結核に類似します2)。 肺MAC症はまだ治癒可能な疾患ではありません。大多数は緩徐な慢性経過をたどり、増悪、改善を繰り返しながら悪化していきます。しかし自然緩解もまれではありません。肺MAC症に伴う致死率は5年で5.4%、10年で15.7% で空洞所見があると致死率は5年で17.1%、10年で38.9%に達しており、予後不良疾患です3)。 アスペルギルス属真菌は環境中に普遍的に存在する環境棲息菌で、その呼吸器感染症の大部分は日和見感染症として理解されています。なかでも血液疾患、免疫抑制剤の投与などの全身性免疫能低下に伴う特殊病態下で発病する侵襲性肺アスペルギルス症の致死率は 64% と報告されており重症呼吸器感染症の一つです。また陳旧性肺結核、」非結核性抗酸菌症肺など肺構造の改変による局所の防御能低下に伴って続発するアスペルギルス感染症は、長期間の観察では多彩な臨床症状・画像所見を呈し予後不良であることが報告されています4)。  肺アスペルギルス症の診断は難しく、肺MAC症により破壊された肺胞~気管支内に感染、増殖しても気づかれずに経過観察されることがあり肺MAC症の予後不良の一因となります。特に肺MAC症は肺内の気流の悪さが他の気管支拡張症より著明で、アスペルギルスが定着されやすいと推測されています5)。肺MAC症の3.9 ~ 6.8 %にアスペルギルス感染を合併するとされ、さらに多くの症例が見逃されていると考えられ、これらの合併例では抗真菌剤が67 % で有効とされており両者の合併を見逃すことは患者にとって大きな不利益となります。 医師は肺MAC症を疑った時にはアスペルギルスの合併感染に注意すべきで、また逆に肺アスペルギルス症を疑ったら肺MAC症を鑑別診断に上げなければいけません。また、肺MAC症と診断された患者さんはアスペルギルスの吸入を防ぐような工夫が必要でしょう。 令和5年7月5日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)森本 耕三:非結核抗酸菌症の現状 疫学や病因など、特に肺MAC症について . 日本医事新報 2016 ; 4810 ; 26 – 32 .2)北田 清悟:肺MAC症の早期診断 . 日本医事新報 2016 ; 4810 ; 33 – 38 .3)藤田 昌樹:非結核抗酸菌症の現状 . 日内会誌 2023 ; 112 ; 490 – 494 .4)藤内 智:既存肺疾患に続発した肺アスペルギルス感染症の検討 . 日呼吸会誌 2004 ; 42 ; 865 – 870 5)H Krunst et al : Nontuberculous mycobacterial disease and Aspergillus-related lung disease in bronchiectasis . Eur Respir J 2006; 28: 352–357 .DOI: 10.1183/09031936.06.00139006)石川 成範ら:肺アスペルギルス症を合併した非結核性抗酸菌症の臨床的検討 . Kekkaku 2011 ; 86 ; 781 – 785 .

見逃されている家族性地中海熱

見逃されている家族性地中海熱  家族性地中海熱(familial Mediterranean fever ; 以下FMF)は繰り返す発熱と漿膜炎発作を特徴とする常染色体劣性遺伝性の自己炎症疾患です。病名の通り地中海民族に多い疾患で、かつては本邦では極めて稀と考えられていましたが、責任遺伝子であるMEFV((familial Mediterranean fever gen)が同定され、本邦でも遺伝子変異を伴う症例の報告が増加しています。本疾患は一般内科、小児科をはじめ、感染症科、膠原病内科、総合診療科など様々な診療科を受診する可能性があり、原因不明の発熱を繰り返す患者に遭遇した場合、一度は疑う必要のある疾患です。 FMF を含む自己炎症疾患は、自然免疫系の異常を背景として全身性の炎症を繰り返し、発熱のほか腹痛、関節痛、皮疹など疾患により多様な症状を呈します。自己抗体や自己反応性T細胞などは検出されません。狭義の自己炎症疾患(遺伝性周期熱)では、疾患遺伝子が同定されており、遺伝子異常が病態に関与します。FMF は最も代表的な自己炎症疾患です。 ところで、近年では炎症が病態の中心と考えられる痛風/偽痛風、炎症性腸疾患、ベーチェット病なども広義の自己炎症疾患に分類されるなど、疾患概念は広がりを見せています。しかし、実際には多くの疾患で自己免疫(獲得免疫)、自己炎症(自然免疫)が様々な割合で関与していると考えられています1)。 文献1)より転載  FMF は周期性発熱・漿膜炎発作を特徴とし、典型例では72時間以内に自然軽快する発作を繰り返します。病態には MEFV 遺伝子の産物であるパイリンの機能異常が関与しています。MEFV 遺伝子の病的変異が存在することによってパイリンのリン酸化が阻害され、パイリンインフラマソームが活性化され、炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-1β の産生が誘導され、炎症が誘導されることが解っています。本邦の推定患者数は約500名とされていましたが、実際にはより多くの未発症または軽症患者が存在すると考えられています1)。 周期的発熱が FMF を疑う必須症状です。その特徴は① 繰り返す② 短期間の③ 自然軽快するであり、突然高熱が出現し、無治療でも数日以内に解熱しますが、同様のパターンで発熱発作を繰り返します。このように、いわゆる“On”と“Off”がはっきりしていることが典型的なFMF の発作パターンです。発作の間隔は1-2か月おきの例が多いですが、毎週のように繰り返す例から数か月に1回程度の例まで幅広いです。1回の発作の持続期間は12~72時間が典型的です。患者によっては発作のトリガーとなるものが存在する場合があり,過労やストレスを挙げる患者が多いです。女性であれば月経が関連することがあり、50%が関連するという報告もあり2)、産婦人科を最初に受診するケースもあります3)4)。月経周期で発作症状が出現する原因として、エストロゲン分泌量の減少が考えられています。IL-1 抑制効果があるエストロゲンの減少により、炎症抑制効果が弱まることで、発作が誘発されると考えられています。逆に妊娠中はエストロゲンが大量分泌されるので発作症状が消失、もしくは緩和される傾向があると言われています5)。腹膜炎による腹痛は発熱に次いで多く見られる症状です。腹部全体にわたる、反跳痛や筋性防御などの腹膜刺激症状を伴う腹痛が典型ですが、部位が限局的、あるいは診察時に腹膜刺激症状がはっきりしない例もあります。非常に強い腹痛を呈するため、原因不明のまま急性腹症として開腹手術が行われた例も存在します6)7)。胸膜炎による胸痛も主要な症状です。関節炎は膝、足、股関節といった下肢の単関節炎(滑膜炎)として出現する場合が多いです。その他の症状として、丹毒様紅斑、心外膜炎、精巣漿膜炎、無菌性髄膜炎などがあります。近年、消化管病変を伴う症例の報告が増えてきました。繰り返す発熱、腹痛、下痢などから炎症性腸疾患が疑われるものの典型的な内視鏡所見や病理所見が認められず、副腎皮質ステロイド、メサラジンなどの治療に抵抗性を示します。症状は数日以内に改善しますが再発を繰り返し、コルヒチンの投与により症状だけでなく内視鏡所見も改善するというものです8)。つまり漿膜炎のみならず、消化管内の粘膜病変も来しうるということです。 発作期には炎症反応が上昇しますがCRP、SAA の上昇、血沈の亢進といった非特異的なもので、発作期に上昇した炎症反応は発作間歇期には基本的に消失します。白血球数も増加することが多いです。 厚生労働省研究班の FMF 診断基準 1 .臨床所見①必須項目:12 時間から 72 時間続く 38℃以上の発熱を 3 回以上繰り返す.発熱時には,CRP や血清アミロイド A(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認める.発作間歇期にはこれらが消失する.②補助項目i)発熱時の随伴症状として以下のいずれかを認める.a.非限局性の腹膜炎による腹痛b.胸膜炎による胸背部痛c.関節炎d.心膜炎e.精巣漿膜炎f.髄膜炎による頭痛ii)コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する. 2 .MEFV 遺伝子解析①臨床所見で必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める場合に、臨床的に FMF典型例と診断する.②繰り返す発熱のみ,あるいは補助項目のどれか1項目以上を有するなど、非典型的症状を示す症例については、MEFV遺伝子の解析を行い、以下の場合にFMF あるいは FMF 非典型例と診断する.i)Exon 10 の変異(M694I,M680I,M694V,V726A)(ヘテロの変異を含む)を認めた場合にはFMF と診断する.ii)Exon 10 以外の変異(E84K,E148Q,L110P-E148Q,P369S-R408Q,R202Q,G304R,S503C)(ヘテロの変異を含む)を認め、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF 非典型例とする.iii)変異がないが、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合にはFMF 非典型例とする.  診断基準はいくつかありますが、本邦で良く使用される厚生労働省の基準を紙示します。典型例であれば遺伝子診断は必要がないことを示しています。というのもFMFの遺伝子異常はこれまで300種類以上の変異が見つかっており、そのどれもが同等の意義付けではないこと、健常者でも一定の割合で保有している変異もあること、逆に変異が同定できない FMF 症例も存在すること、などが挙げられています。FMF は臨床診断が基本なのです。  診断ガイドラインを示します。MEFV遺伝子の10 個のexonのうち、exon 10 の保因患者はほとんどの場合典型的な FMFの臨床像を示し、コルヒチンの有効性も高くこの変異の存在は FMF の有力な診断根拠となります。一方で exon 2の変異は本邦で最もよく見られますが、発作頻度が他の変異より低く症状も軽い例が多いという特徴があり、その他のexon の変異と同様にその存在がすぐFMFの診断に結びつかないのです。正常人の20%に認められる変異もあります。  地中海沿岸のFMF患者と本邦の患者の比較を示します。この臨床症状の差異は遺伝子異常の差によるものと思われます。 鑑別疾患として重要なのは多くありますが、ベーチェット病は臨床症状のほか、コルヒチンが有効である点、地中海沿岸地域に好発する点など FMFとの共通項が多く、ベーチェット病患者では健常者に比べ有意に MEFV 遺伝子変異を有する頻度が高いとする報告やFMF とベーチェット病の合併例などの報告もあり、近縁疾患と考えられます1)。高齢者では感染症や悪性腫瘍の存在を否定しなければなりません。 FMFの頻回の発作は患者のQOL を損ない、突然の発作で学校や職場での人間関係ひいては人生設計に影響を与えることもあり、発作間欠期は無症状であることから詐病の疑いをかけられたりすることもあり、繰り返す発熱患者を診察した場合は念頭におくべき疾患です。 令和5年6月13日  菊池中央病院 中川 義久 参考文献

多彩な症状を呈するエルシニア感染症

多彩な症状を呈するエルシニア感染症  Yersinia(エルシニア)感染症は、通常、食中毒原因菌として知られるエルシニア菌によって引き起こされる感染症です。あまり発生頻度は高くなく、これまであまり注目を浴びることが少なかった感染症ですが、近年、集団感染の発生の増加などにより、社会的に関心を集めることが多くなりました。 エルシニアは腸内細菌科に属するグラム陰性通性嫌気性桿菌です。本属菌には現在19菌種があり、このうちペストの病原体として知られるY. pestisならびに食中毒原因菌として知られるY.enterocoliticaと仮性結核菌として知られるY. pseudotuberculosis の3菌種がヒトや動物に病原性を示す菌種として知られています。Y. enterocoliticaならびにY. pseudotuberculosisは、いずれも至適発育温度は28℃付近で,4℃以下でも発育可能な低温発育性の病原菌です1)。 Y. enterocoliticaのヒトへの主たる感染経路は食品を介した感染で、家畜ではブタはY. enterocolitica およびY. pseudotuberculosis の代表的な保菌動物として知られ、いずれもブタから比較的高率に分離されます。ブタはいずれに感染しても全く臨床症状を示さず不顕性感染します。豚の加熱不十分での喫食で経口感染します。イヌとネコも両者の菌を数%の割合で保菌しており、通常は不顕性感染です。不十分な手洗いでペットから感染することもあります2)。野生動物では、ノネズミやタヌキなどが高率に保菌しています。そのため、沢水をのんで感染する水系感染や簡易水道からの集団感染も報告されています3)。 エルシニア感染症は全世界で発生しており、本邦でも年に数例、集団発生が報告されています。しかし、本感染症は全数把握でないため正確な発生件数は不明で、小児の胃腸炎の原因の1~3%が本菌が原因という報告もありますが、潜伏期間が長く、通常の検査培地では検出されにくいため多くが見逃されている可能性があります。近年、世界中で特に問題になっているのは野菜からの感染です。野菜からの感染はサラダの喫食などで大規模感染になります4)。農薬や化学肥料を使わない有機農法が普及していることが関係している可能性が考えられています。実際、有機農法により生産した野菜がしばしばサルモネラやO157に汚染されていることが報告されており、発酵が不十分な堆肥を肥料として使用したことで,野菜がエルシニア菌に汚染する可能性が考えられます。 エルシニア感染症の臨床像は多彩で、2つの菌に分けて記載します。 Y. enterocolitica 感染の臨床症状は多岐にわたり、下痢や腹痛をともなう発熱疾患から敗血症まで多彩です。潜伏期は2~5日で比較的長く、患者の年齢とこれら病像とはある程度相関がみられ、乳幼児では下痢症が主体で、幼少児では回腸末端炎、虫垂炎、腸間膜リンパ節炎が多くなり、さらに年齢が高くなるにしたがって関節炎などが加わって、より複雑な様相を呈する傾向があります。発熱の割合は高いですが、高齢者では多くありません。症状の中で最も多いのが腹痛です。特に、右下腹部痛と嘔気・嘔吐から虫垂炎症状を呈する割合が高く、 虫垂炎、終末回腸炎、腸間膜リンパ節炎などと診断される場合もあります。腸管感染であるにもかかわらず、頭痛、咳、咽頭痛などの感冒様症状を伴う割合が比較的高く、また、発疹、紅斑、莓舌などの症状を示すこともあります。 次々と診断されるエルシニア腸炎https://motomix1955.at.webry.info/201107/article_15.html より参照 文献5)より転載。回盲部に隆起性病変、潰瘍性病変を認めます。  腹部CTでも大腸内視鏡でも虫垂に近い回盲部、回腸末端部に病炎をきたしやすいのが特徴です。 Y. pseudotuberculosis による感染もまた乳幼児に多くみられ、発熱は殆ど必発で、比較的軽度の下痢と腹痛、嘔吐などの腹部症状がこれに次ぎます。発疹、紅斑、咽頭炎もしばしば観察されます。さらに、頭痛、口唇の潮紅、莓舌、四肢指端の落屑、結膜充血、頚部リンパ節の腫大、肝機能異常、肝・脾の腫大、少数例には心冠動脈の拡張性変化のほか、二次的自己免疫的症状として、関節痛、腎不全、肺炎、および結節性紅斑などが見られることもあります。以上の症状から川崎病と診断されることもあります6)。 エルシニア感染症の確定診断には、糞便からのY. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis の検出が必要です。しかし、一般の便培養の37度での1夜培養では微小集落しか形成されず見逃されることがあるため48時間までの観察が必要です2)。 Y. enterocolitica およびY. pseudotuberculosis は通常使用されている抗菌薬に対して高い感受性を示します。しかし、Y. enterocolitica はβ−ラクタマーゼ活性があるため、アンピシリンなどに対しては感受性が低い一方、Y. pseudotuberculosis はマクロライドを除いて高感受性です。抗菌薬投与に関しては、その種類、投与方法、投与期間などはいずれも確立されていませんが、治療に抗菌薬を使用しなくてもおおむね予後は良好と言われています2)。 なお、米国CDC では、重篤な症状や合併症のある場合はアミノグリコシド系、ドキシサイクリン、フルオロキノロン系、ST合剤などの使用が有用であるとしています7)。 エルシニア感染症の予防は、一般的な食中毒の予防法に準じますが、低温菌なので食品、特に生肉を10℃以下で保存する場合でも保存は短時間にとどめ、長く保存するときは冷凍するようにします。またコールドチェーンが整備された現在の食品流通システム下でも増殖可能であり、ほかの食中毒菌と比べ、本菌に汚染された食品の取扱いには注意を要します。沢水や井戸水を介した水系感染を防ぐため、加熱・消毒されたものを飲用するよう心がけます。摂氏60度以上、2~3分で失活します。なお、ワクチンは実用化されていません2)。 近年、強毒であるY. enterocolitica血清型O8の感染例が増加し、集団発生も報告されていることから、社会的な関心が高まっています。また有機栽培を背景とした野菜を媒介としたYersinia感染症の発生には十分に注意を払う必要があり、今後は生産段階を含めて多面的に検討を行いYersinia感染症の予防対策を早急に確立する必要があります。 令和5年6月2日菊池中央病院 中川義久 参考文献1)福島 博:病原性エルシニアの疫学と検査法 . 日本食品微生物学会雑誌 2011 ; 28 ; 104 – 113 .2)林谷 秀樹:Yersinia感染症 . 日本食品微生物学会雑誌 2016 ; 33 ; 175 – 181 .3)磯部  順子ら: 簡易水道水を原因と特定できた Yersinia enterocolitica O8 による集団感染事例 . 感染症誌 2014 ; 88 ; 827 – 832 .4)小西  典子ら:東京都内で発生した Yersinia enterocolitica 血清群 O8 による集団下痢症 2 事例と分離菌株の細菌学的検討 . 感染症誌 2016 ; 90 ; 66 – 72 .5)山本 章二朗:炎症性腸疾患診療にあたって注意すべき腸管感染症の内視鏡像 . 日本消化器内視鏡学会雑誌 2021 ; 63 ; 18 – 30 .6)菅沼 栄介ら:川崎病症状を呈した急性腎不全合併の Yersinia pseudotuberculosisi 感染症の1例 . 心臓 2015 ; 47 ; 1468 – 1470 .7)Yersinia enterocolitica(Yersiniosis)https://www.cdc.gov/yersinia/diagnosis.html

今後、麻疹の増加が危惧されます

今後、麻疹の増加が危惧されます  関東地域で麻疹が複数名発生していますhttps://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/yobo/kiki/yobo/kansen/idwr/press/documents/masin2.pdf  同一新幹線内での感染が疑われているようですが、やはりその感染力は非常に強いです。 日本ではここ数年、麻疹が激減し、この原因としてCOVID-19 に対する感染対策(手洗い、マスク、換気の励行など)によるものと思われます。 感染症発生動向調査(IDWR)より参照https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2023pdf/meas23-18.pdf 今後、COVID-19 が5類感染症に変更になり人の動きが多くなると麻疹が増加することが懸念されます。特に懸念されるのが外国人客の増加と外国旅行後の帰国後発症です。 2017年の147名の麻疹患者の検討では、137名で麻疹ウイルス遺伝子型が同定されており、日本固有のD5型は検出されていなくて、147名のうち29名が海外渡航歴を有し、その他の大多数は海外渡航歴を有する患者の接触者でした。つまりほとんどすべてが外国由来の麻疹ウイルスでした1)。  国立感染症研究所の2021年度の年齢/年齢群別麻疹抗体保有状況を示します2)。麻疹抗体陽性と判断される1:16以上のPA抗体保有率は, 全体で96.6% でしたが、麻疹あるいは修飾麻疹の発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上の抗体保有率をみると, 全体で88.2% でした。全年齢層で抗体価保有率が低いことが解ります。これらのPA抗体価1:128以下の人たちが麻疹に感染すると修飾麻疹という軽症で診断が非常に難しい麻疹を呈します。 これまでも麻疹流行が繰り返されてきましたが、麻疹ウイルスの対策が困難であることの一因として、飛沫感染、接触感染以外に、空気感染があるからです。麻疹患者の気道分泌物からエアロゾル化した麻疹ウイルス粒子が排泄されると、2 時間以上感染性を保ちつつ浮遊し、麻疹患者と同じ空間で接触した感受性者は 90%以上が発症するほどその感染力は強力です3)。 例えば、飛行機や空港の待合室での麻疹感染が何度も報告されています。また麻疹の感染性は皮疹出現の約 5 日前から皮疹出現後約 4 日間です。麻疹が診断されるのは通常皮疹出現後ですが、皮疹出現前から感染性を有することもまた麻疹の感染対策を難しくしています。さらに麻疹は罹患中に液性免疫も細胞性免疫も低下することが知られ、それに伴う肺炎や、神経系に親和性があることから脳炎、ADEM、SSPE 等の合併症、さらに、7~9%の症例で中耳炎を伴うほか、下痢などの消化器症状、クループ、急性肝障害、心筋炎などの多彩な症状を呈することが報告されています4)。先進国でも麻疹による死亡は麻疹患者 1,000 例に 1 例程度あるとされています。合併症や死亡例は、5 歳未満の乳幼児と 20 歳を超える成人が危険とされています5)。麻疹に対する特異的な治療法はなく、予防として実施するワクチン接種が最も重要です。麻疹含有ワクチンは、1 回接種で 95%以上、2 回接種で 99%以上の抗体陽転が得られ、非常に有効なワクチンです。しかし、麻疹ウイルスは感染力が強く、わずかな感受性者を見つけて伝播していきます。ワクチンを 1 回接種しても免疫が得られない者(primaryvaccine failure)も約 5%みられるため、麻疹を予防するためには確実な 2 回以上の麻疹含有ワクチンの接種が必要です6)。 ワクチン接種歴が未確認あるいは不十分で、麻疹抗体価陽性が確認できない接触者では、曝露して 72 時間以内であれば緊急の麻疹含有ワクチンの接種が、72 時間以上経過してる場合 6 日以内であれば免疫グロブリン投与がそれぞれ検討されますが、どちらの場合でも確実に予防できる保証がないことには留意する必要があり、また緊急的にはワクチンが入手できないのが現実です。また麻疹含有ワクチンは免疫不全患者や妊婦などワクチン接種不適当者には接種できません7)。 麻疹の検査診断の方法としてはこれまで主に麻疹特異的 IgM 抗体の検出のみによりなされていましたが、しかし,偽陰性,偽陽性があり注意が必要です。麻疹急性期(発疹出現後 3 日以内)における単一血清による IgM 抗体検査は感度が低いことが報告されており、HHV-6 による突発性発疹やパルボウイルス B19 による伝染性紅斑の発症時は 麻疹特異的IgM 抗体が弱陽性に出ることが報告されています8)。そこで、現在は臨床的に疑ったら、血液からの麻疹ウイルスの直接検出(RT-PCR 法)が推奨されています9)。麻疹を疑ったらすぐ保健所に連絡しましょう。 以上述べたように麻疹は感染力が強力で、発疹がないうちから感染性があり、重篤で多彩な合併症をきたす致死的な感染症であり、治療法がないことよりワクチンで予防する必要があります。特に麻疹患者と接する可能性の高い医療関係者はワクチンを接種すべきであり、PA 法で 1:256 以上の抗体価の存在が必要です6)。なお、ワクチンを 2 回接種していても麻疹に罹患することはあり、2016 年の報告でも麻疹発症者の 15.1%(165 名中 25 名)はワクチン 2 回接種者でした6)。この場合、症状の軽い修飾麻疹となり、具体的には高熱を認めない、発熱期間が短い、カタル症状がない、発疹が軽度、あるいは見られない等、症状から麻疹と診断することは困難です。しかし、修飾麻疹患者の感染性は低いと考えられています6)。 新型コロナ感染症が5類に変更されたことで、今後、さまざまな感染症が増えてくるでしょう。また、急性の発熱患者は他人に感染させうる病気である可能性が高く、発熱外来では慎重な対応が必要です。 菊池中央病院   中川 義久令和5年5月23日 参考文献: 1)笠原 敬ら:輸入感染症としての成人麻疹対策 . 日内会誌 2018;107 ; 298 – 303 . 2)麻疹の抗体保有状況―2021年度感染症流行予測調査(暫定結果); 病原微生物検出情報 IASR 2022 ; 43 ; 206 – 207 .3)岡部 信彦:1. 麻疹ウイルス ―最近の我が国における麻疹の疫学状況,今後の対策―ウイルス 2007 ; 57 ; 171 – 180 .4)中山 哲夫:3. 麻疹ワクチン . ウイルス 2009 ; 59 ; 257 – 266 .5)何故、麻疹流行はくりかえされるのか6)麻疹の感染対策はワクチンのみ7)奥野 英雄ら:麻疹対策の実際と感染対策の問題点 . 日内会誌 2015 ; 104:782 – 785 .8)多屋 馨子:2. わが国の麻疹排除計画とその実践~ 2012 年の排除を目指して~ . ウイルス2010 ; 60 ; 59 – 68 .9)厚生労働省麻疹検査マニュアルhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/101116_01.pdf

日常的な土いじりは破傷風のリスクファクター

日常的な土いじりは破傷風のリスクファクター  破傷風は土壌に存在する破傷風菌の侵入により引き起こされる感染症です。破傷風菌の産生する神経毒素により運動ニューロンの抑制シグナル伝達が阻害され、全身の筋緊張亢進をきたし、重篤化すると自律神経障害を引き起こす疾患です。破傷風症例のうち約 80%は人工呼吸管理を要するとされ、創処置、抗菌薬投与、鎮静管理など全身管理が必要となり、死亡率は 7~14%とされます。先進諸国においては高齢患者や薬物中毒患者にまれに見られる疾患で、米国では年間 30 症例前後、英国では 10 例前後であるのに対し、日本では年間 100 症例前後と多いことが知られています。2010 年から 2016 年の間に 499 例が報告されており、高齢者の予防接種が普及していないことが原因と推測されています1)。 臨床症状は3~21 日の潜伏期間を経て嚥下障害や開口障害などの局所症状で発症します。耳鼻咽喉科などを受診することが多く、顎関節症や蜂窩織炎などと診断され、発症初期に診断することは極めて難しいとされています。吉村ら1)は破傷風の初期症状である開口障害や嚥下障害の発症から破傷風診断に至るまでの期間は3日間から10日間を要しており、受診日から診断できた平均日数は 7.6 日であったと報抗告しています。また、梅本ら2)は初診医が破傷風と疑えたのは 11 例のうち 4 例のみであり、開口障害や頸部の筋緊張亢進など典型的な症状を呈していても外傷が軽微、またはない場合には見逃される傾向にあったと報告しています。破傷風菌は傷口から体内に侵入するときは芽胞の状態ですが、生体内で発芽、増殖して破傷風毒素(テタノスパン)を産生します。テタノスパンは神経毒素で血流によって身体各部の筋肉組織に運ばれ運動神経終板から取り込まれて運動神経を逆行性に脊髄に運ばれ、中枢神経の細胞に蓄積することにより筋痙攣が生じます。咬筋は運動終板から脳運動神経核への距離が最も短いため、初期に咬筋の強直性痙攣、つまり開口障害が起こると言われています3)。テタノスパンが交感神経節後神経に侵入すると血中のカテコールアミンが増加し自律神経が過緊張の状態になり、不安定な循環動態や突然の心停止を起こすことがあると言われています3)。破傷風の症状は第1期から第4期まで分類され、特に第 3 期は全身症状の出現により生命が最も危険な時期であり、第 1 期症状が発症してから第 3期症状が発症するまでの時間である onset time が 48時間以内である場合には予後が不良であるとされています2)。このことから破傷風は早期診断と早期治療が重要です。  破傷風の診断に特別なものはありません。症状からのみ診断されます。鑑別には症状の進行の速さと症状出現前の外傷歴の有無が重要です。一般的に破傷風による嚥下障害や開口障害は他の原因のものと比較して突然発症し急激に進行し、症状出現前に外傷歴があることも多いため、問診時にこれらのことを意識することが重要です。高齢者の急速に出現した嚥下障害や開口障害を診察した場合には、必ず破傷風の可能性を想起して外傷歴や生活歴を再確認し、迅速に対応する必要があります2)。しかし破傷風を発症した人のうち、外傷が同定されない例が 9~20%を占めるとされ診断の難しさを物語っています。しかし、破傷風により ICU 入室を要した 70 症例の後ろ向き研究 では、園芸時に受傷した傷がきっかけとなった割合が半数近くを占めており、「土いじり」という生活歴の暴露リスクの高さを示した報告があります。特に日常的な「土いじり」の生活歴は破傷風感染の危険性が高いため、外傷だけではなく「土いじり」も病歴聴取に組み込むことが重要です2)。 治療は抗破傷風ヒト免疫グロブリン、破傷風トキソイド、抗菌薬投与が行われますが破傷風毒素は運動ニューロンに不可逆的に結合するため、一度結合した毒素に対しては抗破傷風ヒト免疫グロブリンも抗菌薬も効果を示しません。早期に診断し治療介入を行うこと、創部の感染コントロールと適切な破傷風トキソイド、抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与をすることが重要です。抗生剤は本邦では主にペニシリンG 静注が用いられてきましたが、欧米では以前からメトロニダゾール( MNZ )静注(500mg×3~4/日,7~10 日間)が一般的であり、WHO も MNZ の使用を推奨しています4)。MNZ が好まれる理由に、PCG で治療したよりも死亡率が有意に低く、鎮静剤と筋弛緩剤の使用量が少なかったという報告があります。テタノスパンは中枢神経の神経終末に結合して,GABAの放出を抑制し、運動神経細胞の興奮性が高まり筋攣縮が誘発されます。ペニシリンGはGABA 受容体 antagonist でテタノスパンの 働きを強める可能性があります4)。また筋攣縮に対して筋弛緩薬や鎮静薬が必要になりますが、筋弛緩薬の副作用には筋萎縮や喀痰排出が困難になるなどの問題があり可能なかぎり投与量を最小限にする必要があります。そこで近年、硫酸マグネシウム5)や芍薬甘草湯6)を併用して良好な結果であった報告が散見されます。 予防は破傷風トキソイドワクチンのみです。1968年以前に生まれた人(現在53歳)はワクチン接種の既往がなく、免疫を有してないので要注意です。また最終接種より10年以上を経過すると効果が消失するので注意が必要です7)。 破傷風は感染症としては頻繁にある疾患ではありませんが、一旦発症すると現在でも死亡率が10%に達する重篤な疾患です。外傷歴の有無が診断のきっかけとなりますが、20%に外傷歴がないとも言われております。高齢者の急に出現した開口障害、嚥下障害を見たときは日常的な土いじりの生活歴を聴取することが診断のきっかけになるかもしれません。 令和5年5月11日菊池中央病院 中川 義久 参考文献

大人もかかるヘルパンギーナ、熊本県で増加中

大人もかかるヘルパンギーナ、熊本県で増加中  2023年4月10~16日の熊本県感染症情報によると、県内50定点医療機関から報告されたヘルパンギーナの患者報告数は129人で、前週比1・8倍に急増しました。例年6月ごろから増え始め、7~8月にピークを迎えるのですが、県健康危機管理課は、今年は増加期が早まっているとして、注意を呼びかけています。同課によると増加は3週連続。この時期としては過去5年で最も多く、1定点当たりの患者数は2・58人で、保健所別では菊池が12・4人と5週連続で警報レベルにあると報告しています。 ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性の発疹を特徴とした急性のウイルス性咽頭炎で、乳幼児を中心に夏季に流行します。いわゆる夏かぜの代表的疾患です。その大多数はエンテロウイルス属に属するウイルスに起因し、主にコクサッキーウイルスA群(2,3,4,5,6,8,10)である場合が多く、コクサッキーウイルスB群やエコーウイルスで発症する場合もあります。本症は全世界で認められ、熱帯では通年性にみられ、温帯では夏と秋に流行がみられます。我が国では毎年5月頃より増加し始め、7月頃にかけてピークを形成し、8月頃から減少を始め、9~10月にかけてほとんど見られなくなります。国内での流行は例年西から東へと推移します。患者の年齢は5歳以下が全体の90%以上を占め、1歳代がもっとも多く、ついで2、3、4歳代の順です1)。 臨床症状は2~4 日の潜伏期を経過し、突然の発熱に続いて咽頭痛が出現し、咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内、主として軟口蓋から口蓋弓にかけての部位に直径1~2mm 、場合により大きいものでは5mmほどの紅暈(こううん、皮膚が部分的に充血して赤く見えること)で囲まれた小水疱が出現します。小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴います。発熱については2 ~4 日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失します。発熱時に熱性けいれんを伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈することがありますが、ほとんどは予後良好です2)。 エンテロウイルス感染症の概要 https://www.msdmanuals.com/ja-jp より転載  まれには無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することもありますので注意が必要です。 診断はウイルス分離やPCR、血清検査がありますが流行状況や特徴的な咽頭所見で臨床診断は容易で、検査を提出することはほとんどありません。感染経路は接触感染と飛沫感染です。そのため子供を看病した大人に感染することがあります。特に妊婦や免疫能の低下した人に感染すると重症化するという報告もあります3)。またヘルパンギーナを起こすウイルスは数種類あり、大人であっても初感染することがあり、その際も症状が強く出ることもあります。 子供がヘルパンギーナに罹って看病するときは換気や手洗いに気をつける必要があります。また感染後1か月近くウイルスが便中に排泄されるので取り扱いに注意します。 ヘルパンギーナに治療薬はなくワクチンもありません。登校停止の決まりもありません。 発熱と咽頭痛というと新型コロナが頭に浮かびますが、咽頭所見でヘルパンギーナは診断可能で、無駄な検査や抗生剤投与を回避することができます。 令和5年4月27日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 1) 堤 裕幸ら:ヘルパンギーナ . 日本医師会雑誌 2014 ; 143 特別号 ; 375 .2)国立感染症研究所 ヘルパンギーナとは  https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/515-herpangina.html3)Corsino CB  et al : Herpangina . Study Guide from StatPearls Publishing, Treasure Island (FL), 26 Jun 2018 . PMID: 29939569ヨーロッパ PMC (europepmc.org)

さまざまな病気を起こすEBウイルス

さまざまな病気を起こすEBウイルス  この3年間にコロナ感染症対策として飛沫・接触感染対策を行ってきた結果、その他のウイルス感染症も激減し、これからコロナ感染対策が緩和されるに従い、多くの感染症が出現する可能性があります。多くの感染症は免疫がまだ成熟していない幼少児期に感染し、軽症で済んで抵抗力を身に着けていくものですが、成人になって初感染すると重症化することがあります。そういう感染症で心配なのがヘルペスウイルス群です。 ヘルペスウイルスは 2本鎖 DNA をゲノムとする大型の動物ウイルスで、現在までにさまざまな動物から 150 種以上のウイルスが分離されています。哺乳類はもちろん、鳥類、両生類、爬虫類、魚類などから多種類のヘルペスウイルスが発見されており、精査すればすべての脊椎動物に種固有のヘルペスウイルスが存在するのではないかと推定されています。ヒトを固有の宿主とするヘルペスウイルスには下記に示す8 種類が知られています。 文献2)より転載  ヘルペスウイルスは,大型のDNAウイルスで、その共 通の性質として1)初感染時に急性疾患を生じた後に潜伏感染化し、加齢、臓器移植、AID等により免疫能が抑制された時 に再活性化し、何らかの疾患を生じる2)80から200の遺伝子をもつが、ウイルスの増殖 に必要な遺伝子はその半分以下で、それ以外の遺伝子は自分自身の生存を有利にするために、潜伏感染、発癌、宿主の免疫能の抑制など、宿主との相互作用および宿主細胞機能の修 飾に必要であるとされています3)。ヘルペスウイルスは遺伝子の大きさだけを見ても判る通り互いにかなり異なった遺伝子構造を持ちます。また、このウイルスは、主としてその進化 の系統樹に従って、α、β、γの3亜科に分類され、亜科ごとに共通した生物学的性質を持 ちます。今回とりあげるEBウイルスはγに属しHHV-8とともに癌原性を有しています。 EBウイルスが起こす病気として以下の疾患があります。 文献4)より転載  EBウイルス(エプスタイン・バーウイルス:Epstein-Barr virus)とは唾液を介して咽頭粘膜上皮細胞に感染し増殖します。産生されたウイルスが B 細胞の CD21 をレセプターとして B 細胞に感染し不死化させます。B 細胞以外にも T 細胞、NK 細胞、平滑筋細胞や内皮細胞にも感染することが知られていますが、どのような経路で感染するかについては不明です。日本では成人の90%が感染しています。  伝染性単核球症はEB ウイルスの初感染によって発症します。EB ウイルス以外でも同様の症状をきたすことがあり、起因ウイルスとしては、サイトメガロ、風疹,アデノ、コクサッキー、A 型,B 型肝炎、HHV―6 や HHV―7 によるものも報告されています。主な症状は発熱、頸部リンパ節腫脹、咽頭痛でいずれも 90% 以上で認められます。眼瞼浮腫は比較的特徴的症状と考えられており、44% の症例でみられたという報告もあります4)。両側性の滲出性扁桃腺炎も半数以上の症例でみられます。我が国では、乳幼児期に不顕性感染をすることが多く、症状がみられる場合でも典型的経過をとることは少ないです。年齢が上がるにつれて典型的な伝染性単核球症を発症します。 EBウイルス感染後の各種抗体の推移(伝染性単核球症)https://kotobank.jp/word/%E4%BC%9D%E6%9F%93%E6%80%A7%E5%8D%98%E6%A0%B8%E7%90%83%E7%97%87-102508 より転載)  診断は上記のEBウイルスの各種抗体で行いますが、通常EBV VCA―IgM 陽性、EBNA―IgG 陰性で確定です。通常予後良好な自然治癒の疾患ですが、3000例に1例は致死的になるといわれています。治療法はありません。 問題なのは慢性活動性 EB ウイルス感染症です。 EBウイルスの初感染時(あるいは既感染のヒトにおいても)、免疫制御されていたウイルスが何らかのきっかけから体内で再活性化することで、持続的にリンパ球内に感染を生じて体内での免疫制御が不能となってしまうことがあります。それにより、慢性的にウイルスが増殖活動し、重症化するという病態が慢性活動性EBウイルス感染症です。この場合、EBウイルスの標的リンパ球はTリンパ球やNKリンパ球であるとされており、この点がBリンパ球を標的としたEBウイルス感染である伝染性単核球症と異なった点です。これに関しては、EBウイルスは初感染時あるいは再活性化時にはBリンパ球を標的としますが、その際に一部のウイルスがTリンパ球やNKリンパ球にも感染しているものと想定されており、これが本疾患の発病に関与しているとされていますが、なぜ発病する人としない人がいるのか、そのメカニズムについてはまだ不明です6)。診断基準は。 1) 伝染性単核球症様症状が3か月以上持続(連続的または断続的)2) 末梢血または病変組織におけるEB ウイルスゲノム量の増加3) T細胞あるいはNK細胞にEBウイルス感染を認める4) 既知の疾患とは異なること 以上の 4 項目をみたすこと。とされています。 本疾患は経過中しばしば EB ウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症、主に T 細胞―NK 細胞リンパ増殖性疾患などの発症をみます。これらの疾患をEBV関連T/NKリンパ増殖性疾患として1括する向きもあります。一部は蚊刺過敏症などの皮膚病変を伴います。近年、EB ウイルス陽性のTあるいは NK細胞を、EBER1 in situ hybridizationと細胞表面分化抗原の免疫組織化学やフローサイトメトリーとの組み合わせで検出できれば診断はほぼ確定するとされています。 慢性活動性 EB ウイルス感染症は地域性・風土的に多く発生しますが、家族集積性はなく、発症する人の免疫異常も確認されていません。欧米に少なく、東アジアに多く発生し、発症頻度の原因が多く研究されていますがまだ不明のままです。したがって誰に発症するかわからない状態です。いずれの疾患も特効薬はなく造血幹細胞移植等の治療が検討されています7)。 近年、EBウイルスは中枢神経の脱髄疾患である多発性硬化症の原因として重要視されており8)、またさらに新型コロナウイルス感染症の後遺症にも関与しているという報告もされています9)。またEBウイルス関連胃がんは胃がんの約10%を占めるとされ、PDL-1 の高発現や、リンパ節転移の少なさなどから特別な扱いが必要であるとも報告されています。ちなみにMaltoma とは別な疾患です。 またここ数年,MTX 投与中に発生する MTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)の報告が急増しており、この疾患にもEBウイルスが関与している場合が多いとされています。 MTX-LPD は、EBV関連T/NKリンパ増殖性疾患とは別の疾患で、関節リュウマチ治療に一番重要な薬剤であるメトトレキサート( MTX )を投与中に免疫低下が起こり、EBウイルスの再活性化がおこりリンパ腫が出現するものです。今のところ明らかなリスク因子が不明で、回避の対策は見出されていません。またリンパ節外の病変も多く、診断が難しい場合も多いとされ、更に発症時の対応や リンパ腫寛解後の 関節リュウマチ再燃に対する治療戦略も確立されていません11)。 私たちはこの厄介なEBウイルスに対する武器はなにも持ち合わせていません。ワクチンもありませんし、治療薬もありません。ただ自然に感染し、生涯にわたって体内に潜伏させ、何事もなかったら良し、という具合に付き合っています。そしてなにか有害事象があったときは運が悪かったと思うしかありません。しかし、このコロナ禍のなかで、EBウイルスの初感染が遅れたり、生涯にわたって感染しない人が増える可能性もあり、この厄介なEBウイルスとの付き合い方が変わってくるかもしれません。 ただ人の体内には39種類もウイルスが潜伏しており、無症状で共生していると言われています。むしろ潜伏ウイルスの中には人体に有益なものもあると考えられています12)。人類の進化に貢献したウイルスもあるようです。もしかしたらEBウイルスは諸刃の剣かもしれません。 令和5年4月18日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)今後、感染症の増加が予想されます2)西山 幸廣:ヘルペスウイルスに関する基盤研究とその応用 . モダンメディア 2007 ; 53 ; 26 – 32 . 3)近藤 一博:HHV-6・HHV-7―β-ヘルペスウイルスの共通点と相違点 ―. ウイルス 2002 ; 52 ; 117 – 122 4)小林 信一:EB ウイルス感染症 . 耳展 2008 ; 51 ; 243 – 249 .5)菅野 祐幸信:EBウイルスの基礎と感染病理 . 信州医誌 2016 ; 64 ; 173 – 181 .6)木村 宏:慢性活動性EBウイルス感染症 . 日本造血細胞移植学会誌 2021 ; 10 ; 87 – 93 .7)岩月 啓:東アジアと中南米にみられるEBウイルス関連T/NKリンパ増殖異常症:種痘様水疱症と蚊刺過敏症を中心に . 岡山医学会雑誌 2018 ; 130 ; 123 – 128 .8)Kjetil Bjornevic et al ; Longotudinal analysis reveals high prevalence of Epstein-Barr virus associated with multiple sclerosis . Science 2 …

マイコプラズマとプロカルシトニン(procalcitonin : PCT)

マイコプラズマとプロカルシトニン(procalcitonin : PCT)  PCT はアミノ酸 116 個よりなる分子量約 13kDaのペプチドで 、正常ではカルシトニンの前駆体として甲状腺 C 細胞で合成されます。しかし、細菌、寄生虫、真菌による重篤な感染症においては、その菌体や毒素などの作用により、TNF-αなどの炎症性サイトカインが産生され、その刺激を受けて肺・腎臓・肝臓・脂肪細胞・筋肉といった全身の臓器でPCT が産生され、血中に分泌されます。なぜ同じ感染症でも細菌感染では PCT が増加し、ウイルス感染で増加しにくいのかというと、ウイルス感染時に増加するインターフェロンγによって PCTの産生抑制が起こることがその理由の 1 つとして考えられています。血中に分泌された PCT は単球の遊走を惹起し、細菌の貪食能を高めます。また PCT の作用によって T リンパ球が活性化され、生体防御に向けた反応が促進されます。一方、非感染性の疾患、ウイルス感染、および全身症状を伴わない局所細菌感染では、血清 PCT 値が上昇したとしても軽度の範囲に留まります。このような特徴から、血清 PCT 測定は重症細菌感染症の鑑別に有用ではないかと注目を集めるようになりました。 感染からPCT上昇までの過程(文献1)より転載)  なお細菌感染時の血中 PCT は、上述のごとくその多くが全身の各種臓器に由来していますが、白血球などの血球成分からはほとんど分泌されないことがわかっています。これによりステロイドや抗癌剤など白血球の機能に影響を与えやすい薬剤を使用している状況でも、細菌感染症の場合は血清 PCT 濃度の上昇は妨げられません。 感染発生後の各種炎症パラメーターの推移(文献1)より転載)  PCT の動態については、炎症性サイトカインのピークには遅れますが、感染症発症後早期(約 3 時間後)より血中濃度が上昇し、CRP よりも早期の時点で立ち上がりが認められます。その後、半減期は約 22時間と長い時間持続します。 Simonらが行ったメタアナリシス解析の結果によると、感染性および非感染性疾患の鑑別において、PCT は感度・特異度ともに CRP に比較して有意に優れており、PCT 測定によって 92%と高い感度で細菌感染症とウイルス感染症の鑑別が可能であったと報告しています2)。 PCT は患者のおかれた状況によっては、偽陽性、偽陰性の問題が生じます。重症外傷などの高度侵襲時あるいは一部の疾患においては PCT 値が比較的高値になるため、場合によっては偽陽性の可能性もあります。一方、感染の急性期、軽症例や限局性の感染症などでは、PCT 値の上昇を認めないことがあるため、たとえ PCT が低値であったとしても細菌感染を容易に否定することはできません。 文献1)より転載  PCT は肺炎においてもその臨床的有用性が注目されています。肺炎診療では一般に、重症度判定を行うため pneumonia severity index(PSI)やA-DROPなどの重症度指標が用いられており,治療を進めていくにあたって重要な要素となります。市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)患者では,PSI の重症度が高い患者群で PCT が高値となることが報告されており肺炎診療においても PCT が有用となる可能性が示されています。 さらに、肺炎の重症度指標は命予後の評価にも有用で PCT 値が PSI および CURB-65 と同程度に患者生命予を予測しうるという研究結果も報告されています。またPCT は抗菌薬治療の奏効を速やかに反映するマーカーでもあり、抗生剤の早期終了などの評価にも有効である事が報告されています。 軽症の肺炎の場合、PCTは高値になりにくく細菌性かマイコプラズマなどの非細菌性かを診断するのに苦慮することも少なくありません。そこでPCTとCRPと白血球数を比較して診断する報告がなされました4)。 文献4)より転載  市中肺炎患者568例、うちマイコプラズマ肺炎47例(8%)、肺炎球菌152例(27%)、インフルエンザまたはその他ウイルス性肺炎369例(65%)を検討してあります。 図AでCRPは肺炎球菌性肺炎>マイコプラスマ肺炎>ウイルス性肺炎の順で高値となります。図BでPCTは肺炎球菌性肺炎>ウイルス性肺炎>マイコプラスマ肺炎の順で高値となります。ここでCRP/PCTの比を取ると(図C)、マイコプラスマ肺炎>ウイルス性肺炎>肺炎球菌性肺炎となります。CRP/PCT>400(国内の単位では>40)のときがマイコプラスマ肺炎と診断できるとしています。オッズ比15.04(95%CI 5.23~43.26)で肺炎球菌とマイコプラスマ肺炎を区別でき、またオッズ比 5.55でウイルス感染とマイコプラスマ肺炎を区別できるそうです。ちなみにレジオネラ肺炎のCRP/PCTは肺炎球菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の中間にあり、レジオネラ肺炎の診断にも有用かもしれないと著者らは考察しています4)。 マイコプラズマ感染症の診断は難しい5)とされますがCRP/PCT比は迅速診断として有用な可能性があります。 令和5年4月4日 菊池中央病院 中川 義久 参考文献

男性にもHPVワクチンを

男性にもHPVワクチンを  厚生労働省がHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン(子宮頸がんワクチン)を男性にも無料接種が可能になるよう検討を進めているようです。現在、HPVワクチンのうち「2価」と「4価」は、小学6年から高校1年の女性は国の助成により無料で接種可能となっています。この2種類のうち「4価」に関しては、男性に対しても中咽頭がん、肛門がんや性感染症の尖圭コンジローマを予防する効果があります。現時点でも男性への接種はできるものの、費用は全額自己負担となっています。一部の自治体では独自に助成制度を設けているところもあるそうです。今後、専門家などの意見を交えて検討を進めるとしています(テレ朝NEWS 2022年8月10日)。世界的には、男性も接種を受ける動きが広がっており、日本でもようやく議論が始まりました。日本でも4価ワクチンの尖圭コンジローマの3年間の予防観察データがあり、ワクチン接種群の発生率0プラセボ群137.3でした1)。 男性もHPVワクチンを接種すべき理由は大きく2つあります。1つは、子宮頸がんがHPVのピンポン感染によって広がっていくためです。もう1つは、中咽頭がんや肛門がん、さらには直腸がん、陰茎がん、性感染症である尖圭(せんけい)コンジローマも、ほとんどがHPVによることがわかってきたからです。 癌情報センターより転載   米国では、年間総発症数で、中咽頭がんが子宮頸がんをすでに上回っています。HPVワクチン接種により子宮頸がんは年々減少しているのに対し、中咽頭がんは急激に増えていて、その差は今後も開いて行と予測されています。米国のデータによると中咽頭がんのうち、HPV関連の中咽頭がんの比率は、 1984~1989年では16.3%だったものが、2000~2004年には72.7%にまで増加しました。その後も増え続けています2)。2011~2014年の全米18~69歳の男性11.5%(1100万人相当)、女性3.2%(320万人相当)に、HPVの口腔感染が見られており、HPVの口腔感染率は、ワクチン接種によって確実に減少させられ、中咽頭がんを減らせるものと思われます。わが国でも2014年に報告された多施設共同による前向き試験の結果では、HPV関連の中咽頭がんが50.3%にのぼることがわかっています。そして今後さらに増加することが予想されています。 がんサポートhttps://gansupport.jp/article/treatment/examination/17798.htmlより転載  こういう事態を受けてアメリカは2009年に男性へのHPVワクチンの接種が認可され2011年からは、女子と同じ11~12歳男子に対し、米疾病管理予防センター(CDC)による定期接種の積極的勧奨が行われています。英国も2019年9月から、女子同様に11~12歳男子を定期接種の対象としました(25歳まで無償接種が可能)。先進各国は続々と、男子へのHPVワクチン接種を開始しており、このままでは近い将来、HPV関連がんは先進国で唯一、日本特有の病気になるかもしれません3)。 男性がHPVワクチンを打つ必要があるのはピンポン感染を根絶する理由もあります。オーストラリアでは、2007年に12~13歳女子のHPVワクチン接種を定期接種化し、2013年からは男子にも拡大しました。その結果、子宮頸がん原因の75%を占める型のHPV感染が、77%減少しました。同国ビクトリア州では、18歳未満の女子の前がん病変(子宮頸部高度異形成)が、ほぼ半減したそうです。 日本で承認されているHPVワクチンは2価、4価、9価の3種があります。2価ワクチンは子宮頸がんのおもな原因となるHPV16型と18型のふたつに対するワクチン。4価は16型18型と、良性の尖圭コンジローマの原因6型、11型の4つに対するワクチンです。9価はさらに5種類の型を加えたワクチンです。外国のデータではより多くの血清型をカバーしているためにHPV未感染の未感染の女性に接種した場合、感染予防効果は100%と報告されています。そのため先進国では9価ワクチンが主流になっています4)。  日本でも今年中に9価ワクチンが定期接種に使用される見込みですが、現在はまだ自費で接種するしかなく、3回接種で約10万円近い負担となります。しかし子宮頸がんの約70%は16と18型によるもので、この2つの型のウイルスは癌の進行が早く20代に限ると90%がこの2つの型が原因とされており現行の4価ワクチンでも十分に期待できるものです。 HPVワクチンは接種年齢が最も重要で、接種年齢が15歳以下では効果100%でしたが、19歳以上の接種では効果は未接種と同様な結果になるというデータもあります(2価ワクチンでの検討)。この検討での初交年齢中央値は16歳でした4)。どのワクチンを接種するかよりもいかに早く接種するかが大切です。 第53回予防接種基本方針部会HPVワクチンについて https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001069519.pdfより転載 さて日本ではHPVワクチンは3回接種ですが、WHOは2回接種を推奨しています5)。2回接種の有効性は多数のデータがあり、さらに1回でも有効であるというデータもあり、日本でも2回接種に変更される予定です。また過去に2価や4価を接種した人も9価を2回目以降に接種できることになりそうです。 日本のHPVワクチンはしばらく接種勧奨の停止により欧米に比較して立ち遅れていますが、男性への接種勧奨、9価ワクチンの導入、2回接種への変更など後れをとりもどす施策が検討されているようです。 令和5年3月24日菊池中央病院  中川 義久 参考文献1).高橋 聡:HPVワクチンの男性への接種 . 日本医師会雑誌 2023 ; 151 ; 2104 .2).松浦  一登ら:中咽頭癌治療の現状とこれから . 口咽科 2017 ; 30 ; 159 – 164 .3).宮城 悦子ら:HPV関連がんの現状と未来 . 日本医師会雑誌 2023 ; 151 ; 2049 – 2060 .4).松本 光司:9価HPVワクチンは本当に期待できるか. 日本医師会雑誌 2023 ; 151 ; 2198 .5).藤井 多久麿:HPVワクチンに関する解説 . 日本医師会雑誌 2023 ; 151 ; 2089 – 2092 .

自宅風呂でも起こりうるレジオネラ肺炎

自宅風呂でも起こりうるレジオネラ肺炎  ここ数日、老舗温泉旅館がお湯の入れ替えや掃除を怠って多量のレジオネラ菌が検出されたという報道がながれています。 レジオネラ属菌は本来土壌などの自然環境中の細菌で少なくとも46の種と、70の血清型が知られています。人への病原性は15の血清型が知られています。通性細胞内寄生性菌で、冷却塔、給湯系、渦流浴などの人工環境にアメーバを宿主として増殖しています。この生活様式が衛生学上、レジオネラを除去しにくいことに関わっています。これらの自由生活アメーバは浴槽などの表面に形成されるバイオフィルムに付着して生活していることが多いため、循環式のろ過処理設備から逃れて増殖可能です。またレジオネラ自身、単独でもバイオフィルムの形成が可能です。またバイオフィルムの存在と、アメーバの細胞内に寄生していることによって、レジオネラに対して消毒薬が直接到達しにくいため、消毒薬の効果が妨げられます。さらに自由生活アメーバの中には、生育環境が悪化するとシストと呼ばれる、耐久型の構造を形成するものがあり、この状態では熱や消毒薬に対する抵抗性が増加するため、内部のレジオネラが保護される形になって完全な除菌が難しくなるという問題もまた生じてきます。バイオフィルムは水のある所にすべて存在します1)。 お風呂の毛髪除去フィルターのヌルヌルがバイオフィルムです(文献1)より転載)。  レジオネラは環境中に普通に存在する菌であり、通常では感染症を引き起こすことはありません。風呂に入ったり、手を洗うぐらいでは感染しません。レジオネラは溺水やシャワーなどのミストに含まれ浮遊してヒトに吸引されて感染し、肺胞マクロファージで増殖し肺炎を発症します。欧米では噴水の原因が多く、日本では入浴施設が多いといわれています。感染のリスク要因は高年齢、喫煙歴、慢性閉塞性肺疾患、低免疫機能があげられています。日本では肺炎の原因の約1%がレジオネラが原因と考えられています2)。 国立感染症研究所ホームページより転載  図は2011年から2021年までの本邦でのレジオネラ肺炎の診断数ですが少しずつ増加していることが解ります。増加の原因は感染症が増えたというより、尿中抗原検査の精度が上昇したことで診断できる数が増えたものと思われます。従来のレジオネラ・ニューモフィラの尿中抗原診断キットは血清型1型のみでしたが、2018年2月に全血清型を測定できる診断キットに変更され、海外・本邦ともに約 96%が尿中抗原検査によって診断されています3)。感度 86%,特異度 99% と報告されています4)。ところで尿中抗原は血中よりも抗原の濃度が濃くなるため測定可能となりますが、血清5)やBAL6)でも測定可能とする報告もあります。無尿である透析患者の血清を用いて通常より長い時間の反応時間で診断しえたというものです。尿の採取が困難なかたには試みる価値はあるでしょう。また、尿中レジオネラ抗原検査においても、判定時間が長くなるほど感度は上昇しますが偽陽性は増えないとの報告もあり、疑わしい症例は 15 分の判定時間を超えて観察することも試みたいところです。 国立感染症研究所ホームページより転載  本邦で診断された患者の年齢と性別分布です。60台に多く、圧倒的に男性が多く、その理由は不明です。 日本でのレジオネラ感染の感染場所は温泉施設が圧倒的に多いと思われがちですが、本邦で報告されているレジオネラ肺炎の感染原因・感染経路は水系感染が 32.5%、塵埃感染が 5.7% ですがそれ以外は感染経路不明です7)。施設や公衆浴場などの集団感染でない限り原因の確定が困難で、単発例ではそのほとんどが原因不明です。つまり私たちの周囲にはいたるところにレジオネラ菌が存在し、感染の機会をうかがっているものと考えられ、少なくともレジオネラ肺炎の診断において病歴聴取が最も重要であると考えられます。温泉施設のみではなく、自宅の風呂でも循環式自宅風呂からのレジオネラ肺炎の報告は多く見られ8)、さらに非循環式自宅風呂からの報告もあります。普通の自宅風呂の誤嚥でもレジオネラ肺炎は起こりえるのです9)。 レジオネラ肺炎は早期診断、早期治療を可能にした尿中抗原による診断法の出現により、死亡率が10%未満に低下してきています2)がなお重篤な肺炎であることは変わりありません。 慢性閉塞性肺疾患や免疫不全などの感染危険因子持っている人は自宅の風呂釜の取水口や排水口のヌルヌルは綺麗に掃除する必要があるかもしれませんし、噴水のミストや乾燥したところで風に舞い上がる塵埃を吸入しないように注意しなければなりません。 令和5年3月3日菊池中央病院 中川 義久 参考文献

梅毒治療に伴うNicolau 症候群―臀部への筋注は注意―

梅毒治療に伴うNicolau 症候群―臀部への筋注は注意―  日本中で梅毒が増加しています。梅毒の主な感染経路は性的な接触で、キスや性行為などで感染が広がります。潜伏期間でも感染者の粘膜や傷のある皮膚に直接触れると感染することがあります。感染増加の原因として避妊具を用いない性行為が感染のリスクを高めますが、このコロナ禍のなかでインターネットを通じた不特定の人との性行為の増加も背景にあると考えられています。下のグラフは2013年1週から2022年52週までの梅毒届け出数です(赤線は平均) 文献1)より転載 男性同性間、男性異性間、女性すべてにおいて増加しているのが解ります。以下のグラフは都道府県別届け出数で上位10件を示しています。 文献1)より転載  都会での発生が多いことが解ります。梅毒は the great imitator(偽装の達人)といわれます。自然に良くなったり、悪化したり、変幻自在な病態をとる本疾患において,典型例はむしろ少なく診断は非常に難しいと言えます。感染症であるため病原体の検出が重要であることは無論ですが、検体採取が難しく、かつ梅毒PCRは保険収載がなく実臨床で使用されることはなく、その診断の拠り所は surrogate markerである血液中の抗体検査に頼るしかありません。近年、梅毒の検査手技が変化し、その検査結果解釈に変化が生じています。従来の希釈倍率法(用手的検査)から自動化法へ移行している施設が多くあります。自動化法では①TP抗体がより早期に陽性となる、②治療効果判定は「RPR1/4以下」から「RPR半分以下」に変更が必要です。そのため希釈倍率法で「RPR陰性かつTP陽性は梅毒治癒後」と判断していたものを、自動化法では「RPR陰性かつTP陽性は早期梅毒の可能性」と考え、患者の臨床症状を踏まえて治療を検討するようになりました2)。 ペニシリンに対する耐性は梅毒にはなくペニシリンが第一選択です。梅毒は1回の分裂に要する時間が30~33時間と長く、抗菌薬の殺菌濃度を長くする必要があります。海外における標準治療の持続型の筋注ペニシリン製剤のベンジルペニシリンベンザチン水和物:Benzylpenicillin Benzathine Hydrate:ステルイズ®水性懸濁筋注60万単位シリンジと240万単位シリンジが2022年1月日本でも使用できるようになりました。これまで日本では内服のamoxicillinでのみ治療してきましたがもう一つの選択肢ができました。 文献3)より転載 BPG筋注製剤は<適応症> 梅毒(神経梅毒を除く)用法及び用量       成人及び13歳以上の小児:<早期梅毒>通常、ベンジルペニシリンとして240万単位を単回、筋肉内に注射する。<後期梅毒>通常、ベンジルペニシリンとして1回240万単位を週に1回、計3回、筋肉内に注射する。 本剤は深部筋肉内投与のみに使用し、隣接した部位も含め静脈内(他の静注液内に混注する場合も含む)、動脈内及び神経近傍への投与は行わないこと(これらの部位への投与により永続的な神経障害があらわれるおそれがある。また、静脈内投与による心肺停止及び死亡が報告されている)。 本剤は臀部の上外側四分円(背側臀部)内又は中臀筋部の上部に深部筋肉内投与すること。前外側大腿への本剤の繰り返し投与による大腿四頭筋線維化や大腿四頭筋萎縮が報告されているため前外側大腿への投与は推奨しない。新生児、幼児又は小児への投与は大腿中央の外側面が望ましい。また、繰り返し投与する場合は注射部位を変更すること。 本剤は粘性が高いため、18ゲージの注射針を用い、針が詰まらないよう、ゆっくりと一定速度で注射すること。注射針を刺入したとき、激痛やしびれ等を訴えたり、血液の逆流をみた場合は直ちに針を抜き、部位をかえて注射すること。と添付文書に記載があります。 文献4)より転載  殿部への筋肉内注射では、筋が発達して厚みがあり、神経の損傷、血管への針の刺入を防ぎやすい部位として中殿筋に注射することが推奨されています。 https://tsumugu-shiatsu.com/suprapiriform-and-infrapiriform-foramen/より転載  佐藤らの遺体を用いた検討では中殿筋への筋注を行い、上殿神経への損傷が認められたと報告しています。また、体格や肥満度で中殿筋に至る深さが大きく異なり、浅すぎると皮下注射になる可能性もあったそうです4)。不適切な臀部への注射でおこる合併症はNicolau症候群と呼ばれています。Nicolau症候群は臀部への筋注後に突然、激しい痛みと皮膚反応がおこる病態で、原因はよくわかっていませんが神経損傷や血管内への薬剤注入が考えられています。薬剤としてはNSAIDS(特にdicrofenac)とペニシリンが多く、この両者で約半数を占めます。原因薬剤はその他多数報告されています。ステロイド剤、ビタミン剤、麻酔剤などです。注射時に激しい痛みを生じ、数時間で注射局所の皮膚発赤が出現し、数日後には壊死と潰瘍を生じます。25%の症例では注射部位以外のところ、例えば手指や大腿に潰瘍が出現し、4.5%が死の転帰をとると報告されています。治療は特別なものはなく、デブリードメンや筋膜切除などが行われますが治療期間は数か月に及ぶそうです。予防は適切な部位と深さによる筋肉注射しかないそうです。 近年、臀部への筋肉注射への機会が少なくなり、その手技に習熟した医療従事者は少ないと思われます。梅毒の治療薬であるステルイズを使用する場合、Nicolau 症候群を念頭に置き慎重に投与するべきです。 令和5年2月16日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 1)国立感染症研究所https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/syphilis/2022q4/syphilis2022q4.pdf2)梅毒の増加止まらず!新しい検査法と治療薬3)井戸田 一郎:急増する梅毒に対していま何をすべきか . 梅毒の攻略 . 内科 2022 ; 130 ; 1137 – 1142 .4)佐藤 好恵ら:殿部への筋肉内注射部位の選択方法に関する検討 . 日本看護研究学会雑誌 2005 ; 28 ; 45 – 52 .5)Paria Mojarrad1 et al : Nicolau Syndrome: A Review of Case Studies . Pharmaceutical Sciences, 2022, 28(1), 27-38 doi:10.34172/PS.2021.32https://ps.tbzmed.ac.ir

マイコプラズマ感染症の診断は難しい

マイコプラズマ感染症の診断は難しい  マイコプラズマ(M.pnenmoniae)感染症の診断法には、マイコプラズマの病原体を検出 する方法と血中抗マイコプラズマ抗体測定法があります。マイコプラズマ病原体を検出する方法は培養法、抗原検査法、PCR法などがあります。培養法は手間がかかり、結果の判明まで比較的長期間を要するため実臨床で使用されることはありません。現在使用されているのは迅速抗原検査法、DNAを検出するPCR法やLAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法があります。抗マイコプラズマ抗体測定法には、受身凝集反応(PA(ゼラチン粒子凝集法 Particle agglutination method)法、補体結合反応(CF:Complement fixation test)法、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA:Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)蛍光抗体(IFA:Fluorescent labeled antibody method)法,ウェスタンブロット法などがあります。一般に血清診断としてわが国ではPA法が用いられることが多いです。その理由は主にIgMが測定されるため、感染後1週間程度で上昇し、2~6週間程度でピークに達します。そのため一般には急性期を捉えやすいPA法の方がCF法に比べてよく選択されます。ペア血清で4倍以上の抗体値上昇がみられた場合は確定診断です。一方単一血清による抗体値ではcut off値に関して必ずしも明確な基準が設定されていませんが、小児気道感染の場合は1:80あるいは1:160の抗体値で診断して良いという報告もあります1)。しかし、血清診断は結果が翌日以降になり、また基本はペア血清が必要なことから入院となった重症症例が対象になり、さらに採血が必要であること、感度も90%を超えないことより実臨床ではあまり使用されなくなりました。そこで登場したのがマイコプラズマ特異的IgM抗体を迅速に検出する簡易イムノクロマトグラフ法であるイムノカー ドマイコプラズマ抗体です。これは迅速診断ではありますが病原体を検出するものではなくIgM抗体を検出するものです2)。しかし、マイコプラズマ感染症では1年ぐらいはIgM抗体が上昇したままであることがわかっていましたが、やはりイムノカードでも感染後527日まで陽性であったという報告もあります2)。本法による診断は急性感染だけではなく広い範囲の既感染を含んでいる可能性が判明してあまり使用されなくなりました。やはり感染診断には病原体検出が不可欠と考えられ研究が進められ、気道分泌物を検体とした Real time PCR 法を用いた検査法は培養検査より検出率が高いことが報告されました。しかし臨床検体からの遺伝子抽出操作が煩雑であり、かつ結果が出るまで 6 時間を要するため研究用でしか普及しませんでした。PCRの欠点を改良したLAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法が開発されました。LAMP の測定原理は、マイコプラズマのゲノム内に存在する特異的遺伝子配列を標的としたプライマーを設計し、鎖置換活性を有する DNA 合成酵素との組み合わせにより、従来の Real-time PCR 法よりも迅速に標的遺伝子を一定温度下で増幅し検出する方法です3)。LAMP法は感度・特異度もPCR法と同等の優れた検査法ですが、特別な機械を必要とし、検体採取から結果判定までに数時間程度を要するため、診療所等のプライマリーケア施設においてで広く使われるには至りませんでした。その後に診療所で特別な機器も要さず、15分という短い時間で検査ができるリボソームタンパク L7/L12 抗原を検出する簡便なマイコプラズマ抗原迅速検出試薬(リボテスト)が市販されました。リボソームタンパク L7/L12 は分子量 28kD の二量体タンパクで、1 菌体あたり数千から数万のリボソームが存在し、蛋白翻訳因子と結合しタンパク合成の開始に関与する分子です。したがって採取できる菌量の少ない疾患をはじめ感度が求められる検査への応用が期待されました4)。しかし、抗原検出キットの1つであるリボテストの感度は後藤らの検討5)では22~23%と低く、その他の報告でも感度33.3~74.1%と低いものが相次ぎました。診断感度としては低すぎて診断には総合的な判断が必要と報告しています。その後数社より迅速抗原キットが発売され、現在5種類のキットが使用可能です。おのおの検出する蛋白抗原が異なり、リボテストはリボゾームタンパク(L7/L12)、プロラストは 熱ショックタンパク(DnaK)、クイックチェイサーは公表なし、イムノエースは接着器官構成タンパク(P30)、クイックナビは接着器官構成タンパク(P1 および P30)を検出するキットです。各々の検出限界は1~6×10 6 程度で大きな差はありませんが、検出する抗原が異なるため死菌を多く検出するものがありました。しかし、大きな差はないものと思われます。実臨床の検討で2種類の抗原キットが比較されましたがやはり感度20%前後で低い感度で差はありませんでした7)。また検体採取部位の検討では咽頭後壁の方が口蓋扁桃より検出感度が優れているという報告もあり、検体採取法にも注意が必要です8)。 肺炎マイコプラズマは下気道の線毛上皮細胞で増殖するため、上気道の菌量は下気道の約 1%以下であり7)いずれのキットも咽頭拭い液を検体として測定することから、偽陰性が多くなるのは仕方なく、やはりマイコプラズマの診断は総合的な判断をもとに行われるべきでしょう。 成人肺炎診療ガイドライン9)では以下の基準で非定型肺炎を鑑別し、できるだけ原因微 生物を検索しながらマクロライド抗菌薬を投与するように記載してあります。  6項目中4項目以上合致すれば非定型肺炎、3項目以下の合致なら細菌性肺炎(感度78%、特異度93%)、また1~5の5項目中3項目以上合致すれば非定型肺炎、2項目以下の合致なら細菌性肺炎(感度84%、特異度87%)、 やはり、マイコプラズマの診断は迅速診断キットの結果を参考にしながら総合的に考えていくことが必要と思われます。 令和5年2月2日菊地中央病院中川義久 参考文献

マイコプラズマ感染で意識障害

マイコプラズマ感染で意識障害  2023年1月7日、タイの王室はパッチャラキッティヤパー王女(44歳)がマイコプラズマ感染後の炎症による重度の不整脈のため、2022年12月15日に意識を失って以降、3週間以上にわたって意識が戻らないままであると発表しました(yahooニュース)。 マイコプラズマは、ウイルスなみに小さい微生物です。マイコプラズマは、細菌に見られる細胞壁を持たず、そのため形が整っていません。いろいろな形が見られます。また細菌の細胞壁の合成を邪魔することによって効く種類の抗生物質(たとえば、ペニシリン)は無効です。マイコプラズマは、ウイルスのように他の生物の細胞の力を借りて増殖するのではなく、細菌と同様に自分の力で増殖します。マイコプラズマは、ウイルスと細菌との中間に位置する微生物です。ヒト由来マイコプラズマは現在12種知られていますが明らかな病原性が確認されているのは肺炎マイコプラズマのみです。他には、尿道炎や子宮頚管炎を起こす性感染症の病原体として、Mycoplasma hominisとUreaplasma urealyticumとが知られています1)。 マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)を病原体とする呼吸器感染症です。感染経路は、飛沫感染による経気道感染や、接触感染によって伝播すると言われています。感染には濃厚接触が必要と考えられており、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられますが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはないと言われています。感染しても95%は軽症の上気道炎症状で改善し、3~5%が肺炎へと進展します。市中肺炎のうち成人では30~40%、15~25歳の若年成人では60~70%を占めるとされています2)。5~9歳が感染のピークです。潜伏期間は2~3週間とインフルエンザやRSウイルス感染症等の他の小児を中心に大きく流行する呼吸器疾患と比べて長いのも特徴です。マイコプラズマ肺炎は 38℃前後の発熱と強い乾性咳嗽を特徴とし,肺炎球菌性肺炎のような膿性痰を伴う重症例は少なく、肺炎であっても一般的には軽症から中等症のため,外来受診のみで治癒する場合も多く,“歩く肺炎”とも呼ばれています。本症の特徴的な症状である咳は、初発症状発現後3~5日より始まることが多く、乾性の咳が経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3~4週間)持続します。鼻炎症状は本疾患では典型的ではありませんが、幼児では頻繁にみられます。 さて、マイコプラズマ感染による不整脈とはよくあるものなのでしょうか?一般的に感染症で心筋炎を起こしやすいのはエンテロウイルスなどのウイルス感染で、マイコプラズマ感染に伴う心筋炎は極めて稀であると考えられます。一方、文献的報告では1%~8.5%に合併し、さほどまれではないとするものもあります3)。子供より成人に合併しやすいと記載されています。その機序は自己免疫機序やマイコプラズマの心筋への直接浸潤などが想定されていますが正確には解っていません。ただマイコプラズマの重症度は過剰な免疫応答の結果と考えられており自己免疫機序の関与が濃厚と考えられます。治療はマクロライド抗生剤や免疫グロブリン点滴投与などが行われ、おおむね良好ですが、Ponkaの22例のレビューでは4)1例が死亡しています。ちなみに心筋炎をおこしたマイコプラズマ感染症で肺炎像を呈していたものは47%にすぎなかったそうです4)。 マイコプラズマ感染症はほとんどが軽症の感染症ですがこれまでに20種類に近い合併症が報告されています5)。発疹は約9~30%と報告されており発疹の性状は多様で紅斑様、大丘疹、種々の水庖を有する等など極めて多彩です。胸膜炎の合併も本症には多く10~20%とされています。鼻出血が13.9%、その他中耳炎、川崎病など多くの合併症があります。そのなかでも重篤なものとして脳炎があります。マイコプラズマ感染に伴う中枢神経合併症は入院を要した患者では1~10%に認められるとされています6)。また小児の急性脳炎の原因としてマイコプラズマが5~10%を占めるという報告もあります。脳炎は全年齢に起こりえますが2~17 歳に多いとされています。予後は治療を行っても死亡率9%、神経学的後遺症34%という報告もあり恐ろしい合併症です6)。 マイコプラズマが一般的には軽症感染ですむ理由として,菌体表面に莢膜(肺炎球菌が保持)やMタンパク(溶血性レンサ球菌が保持)といった抗原性の強い産生物を持たないことが考えられています。このためマイコプラズマ感染後に得られる獲得抗体は弱く数年で低下するため、感染が繰り返し起ることに繋がります。かつてマイコプラズマ感染症は 4 年ごとに流行があったというのはそのためです。 文献8)より転載  マイコプラズマ肺炎の2012年から2022年までの発生状況です。2019年までは例年のごとき流行がありましたが、それ以降には極端に減少しています。おそらく新型コロナウイルスの登場にしたがって皆がマスク、換気などの感染対策を行ったことによるマイコプラズマ肺炎の減少と思われます。マイコプラズマの免疫保有期間は短く、今後ウイズコロナ生活とともにマイコプラズマ感染が増えてくる可能性が高く、大半が軽症感染で済むとはいえ、多くの合併症があり早期診断と早期治療が求められます。 令和5年1月20日菊池中央病院 中川 義久 参考文献

新型コロナウイルスは再感染すると重症化する?

新型コロナウイルスは再感染すると重症化する? 新型コロナウイルス感染症は何回も感染することは間違いないようです。外国では初回感染後、わずか数週間、あるいは数カ月後に再感染したことという報告は多くあります。ではどれぐらいの頻度で再感染するのでしょうか?オミクロン株以前のデータでは再感染は極めてまれといわれてきましたが、オミクロン株に置き換わってからは再感染が増えているというデータがあります。南アフリカは人口の半分以上がすでに新型コロナウイルスに感染しており、再感染の研究がやりやすいそうです。それによるとオミクロン株が主流になってから新型コロナウイルスに再感染するリスクは、デルタ株が主流だった期間の約8倍に増えたそうです1)。そして新型コロナウイルスは再感染するのが通常になるものと予想しています。 では初感染後、どれぐらいの期間を経て再感染がおこりうるのでしょうか? 2021年のデータ、これはもちろんオミクロン株以前の研究ですが、遺伝子研究を用いた検討で初感染後3か月以上経過すると再感染が起こりうるこが報告されています2)。これは免疫学的に推定されたもので実際に人でのデータではありませんが実感として3か月以内に再感染することはないように思います。 ところが一方、今年2月にデンマークのグループより発表された未査読の研究データによると、BA.1の再感染が約26日後(中央値)、BA.2の再感染が約36日後(中央値)に認めたとのことです3)。再感染者の多くが若者で、比較的軽症だったそうです。オミクロン株は免疫をすり抜けて伝搬し、免疫を強化しないために従来のデルタ株などよりも間隔をおかずに再感染する可能性があります。 再感染した場合の症状はどうでしょうか? 文献4)より転載  カタールからの報告です。カタールでは、2020年3~6月に新型コロナウイルス感染の第1波があり、その後人口の約40%がSARS-CoV-2の抗体を保持していました。その後、2021年1~5月に、B.1.1.7(アルファ株)およびB.1.351(ベータ株)による2つの連続した波が発生しました。ワクチンの有無、その他データに及ぼす影響のある因子をマッチングさせ、再感染による「重症」(急性期入院につながる)、「重篤」(ICU入院につながる)、「致死的」のリスクを調査し、初感染と比較したものです。初感染から再感染までの期間の中央値は277日(179〜315)でした。再感染時の「重篤」のオッズは、初感染時の0.12倍でした。「重篤」は初感染時では28例、再感染時はゼロで、オッズ比が0.00でした。COVID-19により死亡したのは、初感染時は7例、再感染時はゼロで、オッズ比は0.00でした。再感染時の「重症」「重篤」「致死的」の複合アウトカムのオッズは、初感染時の0.10倍でした。再感染時の入院/死亡リスクは初感染時よりも90%低かったそうです4)。以上の結果より、新型コロナの再感染は初感染に比較して明らかに軽症で済むと結論されており、その後、そのまま信じられてきました。 しかし、COVID-19の感染を繰り返すほど重症化や死亡のリスクが高まり、死亡リスクは2倍以上、入院リスクは3倍以上になるという報告がなされました。これは米国退役軍人省の医療データを用いた解析です。2020年3月1日~2022年4月6日の同省の医療データで、新型コロナウイルス感染陽性の記録のある人は51万9,767人、そのうち90日後に生存していたのは48万9,779人であり、4万947人に再感染の記録がりました。複数回感染した人のうち、3万7,997人(92.8%)は2回、2,572人(6.3%)は3回、378人(0.9%)は4回感染していて、5回以上感染した人はいませんでした。1回目と2回目の感染の間隔は中央値191日(127~330)、2回目と3回目の間隔は同158日(115~228)でした。 文献5)から転載  2022年6月25日まで追跡して解析した結果、SARS-CoV-2感染が1回だった人に比べて2回以上感染した人は、追跡期間中の全死亡リスクは2.17倍高く(ハザード比(HR)2.17〕、入院リスクは3.32倍高いこと〔HR3.32〕が明らかになりました。また、腎疾患はHR3.55、肺疾患はHR3.54、血液凝固異常はHR3.10、心血管疾患はHR3.02であり、そのほかにも糖尿病、消化器疾患、筋骨格系疾患、神経学的疾患、倦怠感、何らかの後遺症およびメンタルヘルスへの有意な影響が認められました。いずれの疾患も1回目より2回目、2回目より3回目の症状が重くなっていました5)。 一般にウイルス感染症は2度目の再感染は初回の感染より症状が軽くて済むのが常識です。それは体内の免疫が構築され素早く病原体に対応するからです。ごくごく例外的にデング熱は抗体依存性免疫増強という機序で再感染の時に重症化することがあります。これはワクチンや過去の感染によって獲得した抗体が再度ウイルスに感染した時、もしくは過去のウイルスに似たようなウイルスに感染したときに、その抗体が生体にとって悪い作用を及ぼし、感染・炎症が重篤化してしまい、重症化をひきおこす現象のことです6)。実際新型コロナウイルス感染症でこのようなことが起きるのか?もしくは度重なる感染で臓器損傷が足し算的に増えてこのような結果になったのかは不明です。 この研究の対象者が退役軍人という特殊な集団であるため、このデータがすべての人にあてはまるのかどうかはともかくとして、やはり新型コロナウイルスは1度感染して軽症ですんだとしても、再感染しないように引き続き感染対策を継続する必要があると感じました。 令和5年1月10日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)Pullam JR et al : Increased risk of SARS-CoV-2 reinfection associated with emergence of Omicron in South Africa . SCIENCE 15 Mar 2022Vol 376, Issue 6593DOI: 10.1126/science.abn4947https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn4947 2)Townsend JP et al : The durability of immunity against reinfection by SARS-CoV-2: a comparative evolutionary studyhttps://www.thelancet.com/journals/lanmic/article/PIIS2666-5247(21)00219-6/fulltext3)Marc Stegger et al : Occurrence and significance of Omicron BA.1 infection followed by2 BA.2 reinfectionhttps://doi.org/10.1101/2022.02.19.22271112 4)Abu-Raddad LJ et al : Severity of SARS-CoV-2 Reinfections as Compared with Primary Infections . The New England journal of medicine. 2021 12 23;385(26);2487-2489. doi:https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc2108120?url_ver=Z39.88- 5)Acute and postacute sequelae associated with SARS-CoV-2 reinfectionhttps://www.nature.com/articles/s41591-022-02051-3 6)抗体依存性免疫増強とは

少しずつ解ってきたオミクロン株の後遺症

少しずつ解ってきたオミクロン株の後遺症  現在大半の人が、オミクロン株がそれまでの新型コロナウイルス株に比べ重症化しにくいと考え、ウイズコロナへと舵を切っています。つまり、コロナへの感染対策は続けながらも経済活動を拡大しようという事です。それに伴ってコロナへの対策もおろそかにになる場合も生じえます。しかし、そこには別の重大な疑問が影を落としています。現在、第8波となっているオミクロン株への感染が「長期コロナ感染症(Long COVID)」につながる可能性はどうなのか、という疑問です。長期コロナ感染症というのは、いわゆる後遺症のことです。何カ月にもわたって続き、日常生活に支障を及ぼすこともある身体的、神経的、認知的な一連の症状を指します。 オミクロン株の後遺症リスクはどうでしょうか?オミクロン株が最初に確認されたのは昨年11月。そのため、症状がどれだけ長引く可能性があるかを見極めるには、まだしばらく後になって解ってくることですが、少しずつデータが出てきています。 2022年6月のイギリスからの報告によるとオミクロン株による後遺症は56,003人中4.5%の確率(2,501人)で後遺症が出現するとされています。(ここでの「後遺症」は「発症してから4週間以上に新たな症状か進行中の症状があるもの」として定義しています)。デルタ株と比較すると、デルタ株のケースでは41,361 人中 4,469 人 (10.8%) が後遺症になるとされていますので、オミクロン株になってからは後遺症になる確率は減少したとはいえるでしょう。また、同研究では、ワクチンのタイミングや年齢でデルタ株と比べて割合が低くなっているかを確認していますが、オミクロン株ではワクチンの接種タイミングやすべての年齢層でデルタ株よりも後遺症発現率が低くなっているので、オミクロン株はウイルスの性質として後遺症が出にくい株になっていると考えてよいでしょう。また英国の国家統計局の報告によると、2回ワクチン接種者におけるデルタ株の後遺症発症率は9.2%、オミクロン株では4.0%であったと報告しています。このオミクロン株感染後の後遺症の確率が4.0%というのは、通常の風邪と比較して軽症感染で済むわりには高い後遺症確率と思われます。 日本でもオミクロン株の後遺症の検討がなされてきています。 令和4年東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より転載3)  後遺症の症状もデルタ株以前とオミクロン株では異なり、オミクロン株では倦怠感、咳が多く、息切れや嗅覚障害、味覚障害が少なくなっているのが解ります。 令和4年東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より転載3)  後遺症の症状は大半が発症1か月以内に出現しており、後遺症が3か月以上継続した人は症状改善がみられない割合が高い傾向にあります。 令和4年東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より転載3)  おのおのの症状からみた改善度は倦怠感や頭痛が改善に乏しく、咳や息切れは改善傾向にあります。 イギリスの51万人を対象としたREACT-2 study では、Long COVID には「倦怠感」群と「呼吸器」群の2種類があることが示され、「呼吸器」群は「倦怠感」群よりも感染初期の症状が重かったことが記載されています4)。オミクロン株が比較的軽症で経過することと後遺症として倦怠感が多いのは関係しているのかもしれません。 オミクロン株が軽症感染症と侮ることで多くの人が感染し、多くの人が後遺症に悩むことになるかもしれません。現在でもコロナ後遺症のはっきりした原因や治療法は明確になっていません4)。私たちは今までどおりの感染対策を講じ、またワクチン接種がコロナ後遺症の発生を低減させるという報告もあり5)、ワクチン接種を続ける必要があります。また後遺症自体にもワクチンは効果があるかもしれないという期待も報告されています5)。 令和4年12月22日菊池中央病院 中川義久 参考文献 1)Risk of long COVID associated with delta versus omicron variants of SARS-CoV-2 The Lancet VOLUME 399, ISSUE 10343, P2263-2264, JUNE 18, 2022)2)Self-reported long COVID after infection with the Omicron variant in the UK: 18 July 2022.3)(第99回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年8月25日)|東京都防災ホームページ (tokyo.lg.jp)4)平畑 光一:Long COVIDの実態と病態解明の進歩. 日内会誌 2022 ; 11 ; 2239 – 2244 .5)1回のワクチン接種でコロナ後遺症29%低減https://medical.jiji.com/news/55336

淡水魚の生食で顎口虫症―皮下を虫体が移動―

淡水魚の生食で顎口虫症―皮下を虫体が移動―  青森県保健衛生課は11月29日、寄生虫の一種・顎口虫(がっこうちゅう)が皮膚に引き起こす「顎口虫症」の可能性のある患者が、県内で相次いで確認されていると報告しました。患者は100人を超えているようです。顎口虫の幼虫は、淡水魚などを宿主に成長します。同課は、9月以降にシラウオなどの淡水魚を生食し、かゆみや痛みを伴うみみず腫れのような症状がある人は、速やかに医療機関を受診するよう求めています(Webb 東奥2022年11月30日)。 顎口虫は、イヌやネコ、ブタやイタチの胃や食道の壁に寄生しています。それらの宿主の便から排泄された卵はケンミジンコなどの第 1 中間宿主に食べられ、次ぎにライギョやドジョウなどの第2中間宿主の魚に食べられることによって魚への寄生が成立します。そして約1月も経つと、長さ 3~4 ㎜の幼虫になり、やがて皮膜に包まれた直径 1 ㎜程度の皮嚢幼虫に成長し、魚の筋肉内に寄生します。ヒトへの寄生はこれらの幼虫が生存している魚の筋肉を食べることによって発生します。魚の種類としては特に、ライギョ、フナの生食が原因の場合が多いようですが、以前には輸入ドジョウの生食による多発例や、ヘビの生食による症例も報告されています。ヒトの体の中に入った幼虫は、胃の壁を食い破って肝臓に達し、その後は体内を自由に動き回ります。そして、身体の表面に近い部位に移動することにより皮膚に顎口虫症特有の移動性限局性腫脹の皮膚病変が出現します。多くの例では痒み程度ですが時に非常な痛みを伴う皮膚爬行症(ひふはこうしょう)という病態が出現します。また、体内を自由に動きまわることから、幼虫の侵入部位によっては重篤な症状になり、目の中に入り込んでしまい失明したり、咽頭浮腫で呼吸困難になったり、脳に入り込み脳障害を来した例なども報告されています。 皮膚爬行症(crreeping eruption )文献2)より転載 日本顎口虫:体長約2ミリメートル程度で肉眼的には見えません。文献2)より転載  1992年~1995年と古い報告ですが青森県東部地域で集められた18種の淡水魚総計44,724尾について日本顎口虫の幼虫寄生を検索した結果では、ドジョウ、ナマズ、ウキゴ リ、ヤマメおよびウグイの5魚種から幼虫計322虫体が検出されています3)。当院の存在する熊本県の菊池川での検討でもカムルチイ、ナマズから幼虫が検出されています4)。おそらく日本中に多く分布しているものと推測されます。 顎口虫の治療は難しく、薬物的治療に確立されたものはなく、治療の基本は診断も含めて虫体を外科的に摘出することが1番の方法とされていますが、なかなか難しいようです。もし虫体が確認出来たら、他の虫体も存在する可能性があるので内服治療も併用します。ベンズイミダゾール系で比較的組織移行性の良いアルベンダゾールを投与します。イベルメクチンもある程度効果があるようです5)。 現在、フナやナマズを生食する人はいないと思いますが、シラウオが淡水魚として認識する人は少なく、奨められたら生食するかもしれません。また、東南アジアではタイの刺身と称して淡水魚の刺身を提供するところもありそうで1)、魚の生食はくれぐれも注意した方が良さそうです。 令和4年 12月13日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)ミャンマーでの刺身喫食で顎口虫症https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa63.pdf2)シラウオ生食で寄生虫か 青森で百人超が皮膚病変https://www.tokyo-np.co.jp/article_photo/list?article_id=216891&pid=8386063)小山田 隆ら:北日本における人の日本顎口虫感染源としての淡水魚の調査 . 日獣会誌 1996 ; 49 ; 574 – 578 . 4)磯部 親則:菊池川の中流地帯に分布する有棘顎口虫の調査報告 . 医療 1965 ; 19 ; 88 – 90 .5)丸山 治彦:顎口虫症 . 日本医事新報 2022 ; 5033 ; 40 – 41 .

ゾコーバ:本邦初のコロナ内服治療薬

ゾコーバ:本邦初のコロナ内服治療薬  厚生労働省は11月22日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬「ゾコーバ錠125mg」(一般名:エンシトレルビルフマル酸)の緊急承認を認め、12月初頭から医療現場で使用できるよう供給を開始するとの見通しを示しました。ゾコーバは国内企業が創製した初の経口薬で、これまで新型コロナの治療薬として承認されたのは飲み薬や点滴など9種類ありましたが、基本的には、糖尿病やさまざまな呼吸器疾患、肥満など重症化リスクのある人に限られていました。ゾコーバの使用対象者はこれまで承認されている経口薬と異なり、重症化リスク因子を有しない患者を含むとされており、対象が広がりました。ゾコーバは、いわばインフルエンザのタミフルのように広く使えるイメージの飲み薬で、12歳以上なら重症化リスクが低い人でも使えるということです。 作用機序は、新型コロナウイルスは感染すると細胞内に侵入し、ウイルスそのもののRNAをコピーして増えていきますが、ゾコーバはコピーの準備段階で働く酵素を機能しなくすることでウイルスの増殖を抑えます。ファイザーが開発した飲み薬パキロビッドパックと同様の作用機序です1)。 また薬の効果については、臨床試験では有効性の主要評価項目は、▽倦怠感または疲労感、▽熱っぽさまたは発熱、▽鼻水または鼻づまり、▽のどの痛み、▽咳――の5症状が快復するまでの時間としました。臨床試験第3相パートの速報結果によると、5症状が快復するまでの時間はプラセボ群で192.2時間(8.00日)であったのに対し、ゾコーバ投与群では167.9時間(6.99日)でした。約24時間病悩期間が短縮していました1)。タミフルの効果と比較すると、プラセボを使った患者は回復するまで73〜106時間かかったのに対して、タミフルを使った患者は54〜86時間で全ての症状が治癒しました。それぞれの中央値は、プラセボの93.3時間に対して、オセルタミビルは70.0時間と報告されています3)。インフルエンザと新型コロナを同じ土俵で比較するのは問題がありますが、ゾコーバにタミフル並みの効果を期待することは出来ないようです。しかし、ウイルス量も減ることは証明されており、重症化を防ぐことも証明はされていませんが期待はできます。重症者リスクが高い人が多い介護施設や病院などで使用すれば、症状の悪化や感染拡大を抑えられ、職場の機能不全も防げるかもしれません。 文献2)より転載 服用方法は上記の如くです。1日1回の服用です。 文献2)より転載 禁忌症例と注意症例は上記の如くです。妊婦の人は禁忌です。 文献2)より転載 問題は併用禁忌薬や併用注意薬が多いことです。 文献2)より転載 副作用は重篤なものはまだ報告されていませんがこれから未知の副作用が出現する可能性はあります。      ゾコーバの投与対象は、データが多いパキロビッドが中等症Ⅱ以上に投与されることより、軽症から中等症Iまでの患者が考えられます。日本感染症学会はガイドライン案で、「一般に、重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善することを念頭に、対症療法で経過を見ることができることから、症状を考慮した上で投与を判断すべき」としました。具体的には、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛等の症状がある者に処方を検討すること、としています。ゾコーバの有効性、併用禁忌薬の多さ、副作用の検討数の少なさ等を考えるとタミフルのように診断後に即投与、という薬剤ではないと思われます。患者さんへのリスク・ベネフィットの説明が大変ではないかと思われます。なお投与は発症から3日以内です。 ゾコーバをめぐっては、専門家会議で2度の審査が行われましたが、いずれも有効性についての判断が見送られ、今回が3度目の審議となりました。治療薬やワクチンなどの使用を認める「薬事承認」の手続きでは、通常、申請から承認までおよそ1年ほどかけて審査が行われ、時間を要することからワクチンの承認が海外より遅れた要因のひとつと指摘されていました。これを受けて感染症の流行時などの「緊急時」で「代わりの手段がないこと」を条件に国内外で開発されたワクチンや治療薬などを迅速に承認するための「緊急承認」の制度が新たに設けられました。ゾコーバも「緊急承認」の枠組みで審査されることとなり、1年間の暫定的な承認で、効果判定を行い、1年後にまた再検討される予定です。 令和4年11月25日菊池中央病院 中川義久 参考文献 1)塩野義のコロナ経口薬「ゾコーバ」緊急承認https://www.m3.com/news/iryoishin/1096480?dcf_doctor=true&portalId=mailmag&mmp=NO221124&mc.l=920809797&eml=cf17aa86db3b89b431caacb71de152cb2)ゾコーバ錠125mg | 製品情報一覧 | 医療関係者向け情報https://www.shionogi.co.jp/med/products/drug_sa/xocova.html3)タミフルの効果「ウイルス量を減らす・感染を予防する」についてhttps://www.nyredcross.org/products/199/38

フルロナ?フルコビット?コロナウイルスとインフルエンザの同時感染

フルロナ?フルコビット?コロナウイルスとインフルエンザの同時感染  「フルロナ」あるいは「フルコビット」といった単語をご存じでしょうか?この2つの単語は造語で、コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時感染のことです。「コロナウイルス」と「インフルエンザウイルス」に同時に感染している状態のことを指した造語です。今年の1月ごろに海外で重複感染した報告が出たため話題となりましたが実はもっと前から重複感染を起こしていたことが報告されています。コロナウイルスが最初に発見された中国の武漢で307人のコロナウイルス患者を調査したところ、そのうちの57%もの患者がインフルエンザウイルスに重複感染していたという報告がされています1)。また、イギリスで2020年2月~2021年12月、コロナの患者で他の病気の検査も受けた約7000人を調べたところ、約3%の患者がインフルエンザウイルスに感染していたという報告もあります2)。RSウイルスの重複感染は3%に、アデノウイルスの重複感染は2%に起こっていますので、コロナウイルスとは色々なウイルスが同時感染する可能性があります。さらにコロナウイルスとインフルエンザの同時感染であるフルロナの患者は、コロナだけに感染した患者に比べ、リスクは人工呼吸器の装着が4・14倍、死亡が2・35倍とフルロナは重症化することが報告されました2)。 2019/20シーズンのインフルエンザが小規模流行に終わったことについて、日本のマスコミでは、SARS-CoV-2感染を心配して国民がマスク着用、手洗いに努めたことの影響と報道しましたが、実は日本だけでなく北半球の多くの国でインフルエンザ流行が新型コロナウイルス出現とともに終息しました。そこで世界には、新型コロナウイルスの出現がインフルエンザウイルスに干渉し、流行を止めたのではないかという説も考えられました3)。いままでも秋のRSウイルスの流行が冬になりインフルエンザが出現すると、そのウイルス干渉を受けて終息することはしばしば観察されてきました。 ウイルス干渉とは、1個の細胞に複数のウイルスが感染したときに一方あるいはその両方の増殖が抑制される現象です4)。干渉の機構として、一方のウイルスが吸着に必要なレセプターを占領あるいは破壊してしまうために他方のウイルスが吸着することができなくなったり、増殖に必要な成分が一方に利用され、他方が利用できなくなったり、一方が他方の増殖を阻害する因子を放出するなどの異種ウイルス間の干渉現象のほか、先に感染したウイルスにより分泌された生体のインターフェロンによる増殖の抑制が考えられています4)。 しかし、2019/20シーズンと比較して今シーズンは状況がやや異なっています。日本でのインフルエンザ流行の指標となる南半球のオーストラリアにおいて、過去2シーズンなかったインフルエンザの流行が今年は見られていることや、渡航制限が解除され、多くの外国人が来日していること、ここ2年間インフルエンザが流行しなかったことで国民の免疫力が低下していること、などからコロナとインフルエンザの同時流行の危険性もありうると思われます。さらに同時感染の可能性も高まっていると思われます。同時感染したときの重症度はどうなるのでしょうか?54研究をメタアナリシスしたものではコロナウイルス感染症患者全体の0.6%にインフルエンザへの感染があったのに対して、重症患者では2.2%にインフルエンザへの感染があったと報告されています。また同時感染者に抗インフルエンザ薬を併用したら患者さんの予後が改善したという結果もあり、新型コロナとインフルエンザ同時感染は重症化する可能性があるかもしれず、どちらか一方の抗原陽性をもって診断を終了するのではなく、同時感染を見逃さないようにすることが肝要です。ハムスターによる動物実験でも、コロナウイルスとインフルエンザの重複感染は単独感染に比べて肺の損傷が大きく重症化し経過も遷延したことが報告されています6)。また両ウイルスは肺の中の違う細胞に感染しておりウイルス干渉は起きていなかったそうです。  同時流行となった場合の日本感染症学会が推奨する受診形態です。重症化リスクのない人は自分で新型コロナ市販キットを購入して自宅療法するように勧められています。しかし新型コロナとインフルエンザは症状で鑑別することは難しく、またインフルエンザの市販キットは認可されていませんので、これらの人は同時感染を診断することは不可能になります。インフルエンザ感染にはタミフルなどの優れた薬が存在するので同時感染の場合はこれらの投薬を受けた方が良いと思われますので心配な方は病院を受診することもやむを得ないと思われます。もちろん流行状況による検査の事前確率も重要です。 2019/20シーズンでインフルエンザの報告数がほとんど見られなくなった原因は、現在、ウイルス干渉というよりマスク、手洗い、うがい、消毒、換気などの努力によってインフルエンザが流行しなかったものと考えらえています。インフルエンザの予防は、つまり、今までのコロナ対策を引き続き意識することがインフルエンザの予防につながり、重複感染症の予防となります。また、感染や重症化のリスクを下げることができるワクチン接種は非常に有効となります。副作用が怖くてコロナワクチンを受けたくない方は、インフルエンザワクチンだけでも良いので接種することをおすすめします。 令和4年11月10日菊池中央病院 中川義久 参考文献1)The epidemiology and clinical characteristics of co-infection of SARS-CoV-2 and influenza viruses in patients during COVID-19 outbreak. J. Med. Virology. 2020;92:2870–2873. 2)SARS-CoV-2 co-infection with influenza viruses, respiratory syncytial virus, or adenoviruses. Lancet. 2022;399:1463-1464.3)新型コロナ(SARS-CoV-2)とインフルエンザ ーウイルス干渉―4)菅谷憲夫:SARS-CoV-2とインフルエンザ同時流行に備えて .  日本医事新法 2020 ; 5021 ; 36 .5)Co-infection of SARS-CoV-2 and influenza viruses: a systematic review and meta-analysis. J Clin Virol Plus. 2021; 1: 100036.6)Coinfection with influenza A virus enhances SARS-CoV-2 infectivity. Cell Res. 2021; 31: 395- 403.

見逃されているHIV感染者

見逃されているHIV感染者  HIV(Human Immunodeficiency Virus)はヒト T 細胞に感染するレトロウイルスであり、細胞性免疫不全が主な病態です。ニューモシスチス肺炎をはじめとした日和見感染症や、ウイルスの直接関与の有無にかかわらず悪性腫瘍を発症することが知られています。世界的には HIV 患者数の増加は頭打ちになっているとされますが、我が国は先進国にありながら依然として新規発症患者の増加が抑制できていない状況にあります。2012 年、我が国でははじめて新規発症患者が 2 万人を超え、我が国において新規に診断された HIV 患者の 1/3 は 23 のエイズ指標疾患罹患を発端とするいわゆる「いきなりエイズ」の状態にあります。また、本邦でのHIV感染者の捕捉率は低く、感染者の20%程度と推測されており、13%という厳しい推測もあります。米国の捕捉率が80%と言われており大きな開きがあります1)。HIV感染症は早期に発見して早期に治療を開始した方が有効性が高く、いったんエイズを発症してしまうと治療薬が進んだ現在においても死亡する可能性があり、また治療がうまくいっても深刻な後遺症が残ることがあります。またエイズになるまでは3~5年は要するので、その間多くの人に感染させてしまう可能性があります。HIV感染症は7~8割が性行為による感染です。しかし男女間、男性同士での感染効率はあまり高いものではなく、コンドーム無しでの性交渉でも1%未満とされています。ただし性器に傷があったりSTD(梅毒やクラミジア感染症など)があると感染効率は跳ね上がり10%になるとされています。医療従事者の針刺しでの感染確率は0.3%。母子感染は30%とされています2)。 HIVに感染すると概ね2~8週間後に約50%の人に急性HIV感染症が起きます。伝染性単核球症に類似した症状を呈することがあります.またウイルス感染症一般にみられる多くの症状が出現します。発熱 96%、リンパ節腫脹 74%、咽頭炎 70%、発疹 70%、筋肉痛・関節痛 54%、頭痛 32%、下痢 32%、嘔気・嘔吐 27%など多彩な症状を呈します3)。成人でこのような症状が出現した場合、一般的にはEB(Epstein-Barr)ウイルスやサイトメガロウイルスの初感染が疑われ、血清学的検査が行われることが多いですがもしこれらのウイルスの関与がなかった場合には、伝染性単核球症が疑われる患者の2%は HIV 感染症であるという報告もありHIV抗原・抗体検査を追加することが重要です。 文献2)より転載  また、HIV抗原・抗体検査は,感染後3週間程度の偽陰性期間(window period)があるため急性HIV感染を疑った症例では2カ月程度経過した段階で、再度、HIV抗原・抗体検査を行うことが望ましいです。一般にその時点で患者は体調が回復していることが多いため、その時期に保健所での匿名・無料検査を受けるよう指導しておくことが最低限必要です4)。 国立感染症研究所https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/400-aids-intro.html より転載  急性HIV感染症を呈さなかった場合や見逃された場合は無症候期に入ります。特別な症状はありませんがウイルスは存在し他人に感染させる可能性があります。この期間は最近短くなり3~5年と言われており、その後にエイズを発症します。しかし、この無症候期にも様々な感染症にり患し医療機関を受診するためその際にもHIV感染を見逃さないようにすることが重要です。HIV 感染症早期発見のポイントとして以下のものがあげられています。 文献5)を参照  このような患者を診療したときはHIV感染症の無症候期を疑い患者にHIV検査を受けるように説得する必要があります6)。HIV 患者はその免疫学的状況にかかわらず 80%前後が耳鼻科領域になんらかの症状を呈すると言われ耳鼻科でのHIV発見例も多く報告されています。HIV 患者が耳鼻科領域に症状を呈する頻度は、口腔カンジダ症(エイズ指標疾患のひとつ)を 30–90%に、頸部リンパ節腫脹は約 70%の患者に認められます。耳鼻科外来での代表的な診療疾患である副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎は耳鼻科を受診した HIV 患者の 70%前後に認められます。若年(18–35 歳)の HIV 患者においては約2 倍前後の罹患率で突発性難聴を認めるとの報告 もあり、耳鼻科外来はHIV 患者と密接なつながりのある診療科といえます7) 抗HIV療法によってHIV感染症の予後は大きく改善し、さらに最近、長時間作用型注射薬が開発されました。患者への負担が少ない1カ月投与間隔または2カ月投与間隔の2剤併用療法で、内服の必要が無くなりました8)。しかし、我が国においては診断の遅れと捕捉率の低さが大きな課題となっており、一般診療のなかでの早期診断が求められています。日常診療において、様々な感染症のなかに隠れている多くのヒントを参考にしながらHIV感染症を疑って検査を行うことが重要です。 ちなみに菊池保健所でも無料のHIV検査が可能です。検査日が決まっていますので必ず電話(0968-25-4138)で確認してください。 令和4年10月25日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 1)山元 泰之:HIV-1感染症と性感染症-健診とセクシュアルヘルス- . 日本総合健診医学会 2011 ; 38 ; 35 – 47 .2)高折 晃史:HIV-1感染症 / エイズ診療の現状と未来 . 天理医学紀要 2012 ; 15 ; 1 – 14 .3)金田 敬子:口腔・咽頭に関連する性感染症 . 日耳鼻 2015 ; 118 ; 841 – 853 . 4)小川 拓:性感染症をHIV感染症の早期診断に結びつけるために . 日内会誌 2018 ; 107 ; 2269 – 2275 .5)松下 修三:人類はエイズを克服できるか?. 日内会誌 2018 ; 107 ; 1640 – 1647 .6)今村 顕史:HIV感染症. 日内会誌 2017 ; 106 ; 2320 – 2325 .7)平井 由児:ウイルスと悪性腫瘍~耳鼻科領域で判明する HIV 感染症 . 耳鼻感染症・エアロゾル2015 ; 3 ; 65 – 69 . 8)HIV感染症の新しい治療法である注射薬について(ボカブリア®) https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/202207/575806.html

HIV検査が減少しています

HIV検査が減少しています  厚生労働省のエイズ動向委員会は2020年の1年間に保健所などで行ったエイズウイルス(HIV)の検査が19年に比べて半減し、6万8998件となったと発表しました。相談も半減し、6万6519件でした。新型コロナウイルスの感染が拡大し、HIVの検査や相談をためらう人が増えたほか、保健所の業務がコロナ対応で逼迫(ひっぱく)し、HIVの検査を取りやめた時期があったことなどが影響したと考えられます(2021/03/17 13:19 読売新聞オンラインより)。コロナ禍がHIV検査を少なくしてしまったのです。  ここに注目すべき論文があります1)。  2015年から2020年までの日本の保健所・市町村によるHIV検査・相談件数、新たに診断されたHIV症例数のグラフです。 (A)エイズ診断を受けていない新規HIV症例数(B)エイズ診断を受けた新規HIV症例数(C)エイズ診断の有無にかかわらず新たに報告されたHIV症例の数(D)保健所または地方自治体が実施したHIV検査の数(E)保健所が受けた相談の数(F)エイズと診断された新規HIV症例の割合  Aのグラフで2020年には新規HIV症例が減少していることが解ります。Bのグラフで新規AIDS診断数が減っていないことが解ります。Cのグラフでは新たにHIV陽性と診断された症例が2018年頃より減少していることが解ります。D、Eのグラフで保健所でのHIV検査やHIVの相談を受けた人が2020年は著明に減少していることが解ります。そしてFのグラフでは新規HIV陽性のうちすでにAIDSとなっていた割合が2020年に著増していることが解ります。いわゆるいきなりエイズが増加しているのです。これは何を示しているかというとCOVID-19パンデミックのせいでHIVの診断遅れが増えてきており、いきなりAIDSが増えているという事です。これらのAIDSの人たちが多くの人にHIVを感染させているかもしれないことです。 HIV感染症の自然経過を示しています。 ①急性感染期 HIVが感染すると、感染後1~2週間の間にウイルスが急速に体内で増殖します。この時期に5割から7割の患者で発熱・発疹・リンパ節腫脹などの急性ウイルス感染症状が出ます(インフルエンザ様症状や無菌性髄膜炎症状など)。その後、ウイルス量は減少して、症状も消失します。4~8週の経過です。つまり3割から5割の感染者は無症状で経過します。②無症候期 急性感染期を過ぎると慢性のウイルス感染状態に移行します。この時期は、あまり臨床症状がみられませんが、体の中では、HIVと免疫機構とが拮抗した戦いを続けています。この状態は7年から12年、平均10年くらい続くとされてきましたが、近年短くなる傾向があるといわれています。3年から5年ぐらいになったともいわれています3)。経過とともにHIV量が増加して、CD4陽性Tリンパ球が減少してきます。③エイズ発症期 CD4陽性Tリンパ球が減少すると免疫力が低下して、日和見感染症や日和見腫瘍を合併しやすくなります(特に、200/mL以下になると合併しやすくなるといわれています)。エイズ指標疾患である日和見感染症や日和見腫瘍を併発した場合にエイズ発症と呼びます。治療が行われない場合、エイズ発症から約2年で死亡するといわれています。 HIVに感染してこのような感染症に罹患したり腫瘍が発生したときにエイズと診断されます。帯状疱疹は含まれていません。 文献2)より転載  CD4陽性細胞数が、HIV-1感染後徐々に下がり、さまざまな病気を起こしていく経過を示したものである。重要な目印になっている疾患はニューモシスチス肺炎です。さらに免疫機能が障害されると、トキソプラズマ脳症、悪性リンパ腫、サイトメガロウイルス感染症などさまざまな疾患を発症します。エイズになる前の段階でHIV感染症を見つけることも重要です。帯状疱疹を2回、3回と繰り返しているというのはかなり特異的な所見であり通常の人の帯状疱疹の再発率は5%ぐらいであるのにHIV-1感染症患者で調べると、20%近くの人が帯状疱疹を2回、3回と繰り返していると言われており、若年層で帯状疱疹の既往が複数回あるならば、HIV検査を進める必要があると言われています4)。 COVID-19 パンデミックの影響で日本ではむしろHIV感染症が増えている可能性があります。それは保健所のひっ迫による検査停止や感染者の検査控えもあるでしょうし、我々医療者も発熱患者を診察するときにCOVID-19 を念頭におきすぎてHIVの初感染を見逃している可能性があります。HIV感染の見逃しは感染蔓延の原因にもなるし、エイズを発症すると治療に難渋することからもHIV感染の診断遅延は避けなければいけません。 令和4年10月11日菊池中央病院 中川 義久 参考文献: 1)Ejima, Keisuke et al ;HIV Testing by Public Health Centers and Municipalities and New HIV Cases During the COVID-19 Pandemic in Japan. Journal of Acquired Immune Deficiency Syndromes: June 1, 2021 – Volume 87 – Issue 2 – p e182-e187. 2)国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/400-aids-intro.html3)高折 晃史:HIV-1感染症 / エイズ診療の現状と未来 . 天理医学紀要 2012 ; 15 ; 1 – 14 .4)山元 泰之:HIV-1感染症と性感染症 . -健診とセクシュアルヘルス- . 総合健診  2011 ; 38 ; 753 – 764 .

抗補体薬と感染症

抗補体薬と感染症  補体は今から120年前に抗体と協働して細菌の溶菌に関与するタンパク質として発見されました。人の血清タンパク質の5%を占めており、30種類余りの血清及び細胞膜タンパク質から形成されております。補体は侵入した微生物等の異物によって活性化され、その排除に働きます。補体には大きく分けて活性化に関与する分子群と過剰な活性化を制御する分子群が存在し、互いに協調して生体防御に働いています。 補体の活性化にはステップ1~3の3段階があります。最初のステップは補体の起動です。古典経路、レクチン経路ならびに第2経路の3つの独立した経路が関与します。古典経路は抗体、レクチン経路はMBL(mannose-binding lectin)等のレクチンで活性化されます。第2経路は抗体等を介さずに直接異物の表面で活性化されます。この3つの経路の活性化は全てステップ2に集約されます。補体C3の活性化とそれに引き続くC5の活性化です。これら活性化はステップ3で3つの効果として帰結します。1つ目は異物のオプソニン化と貪食細胞による貪食、2つ目は白血球の動員とアナフィラトキシン作用、そして、3つ目は膜侵襲複合体(membrane attack complex:MAC)形成による標的の破壊です。オプソニン化と貪食は補体C3活性化が主として関わり、残りの2つは主にC5活性化によります。この3ステップ全てに複数の補体制御因子が働いて過剰な活性化を抑制しています1)。 補体活性化経路(文献1より参照)  日常診療では通常、補体の検査は補体価(CH50)とC3、C4タンパク質濃度を測定します。これらの検査値は低下している場合には診断的な意味があり、増加は炎症による非特異的な補体産生亢進を示しているのみです。 補体は生体防御に必須のシステムの1つであり、それに関わる分子の異常がさまざまな疾患を惹き起こすことは古くから知られてきました。その代表は、補体の活性化に関わる分子の先天的な欠損症です。莢膜を持つ細菌排除に補体が重要な働きをするため、髄膜炎菌や肺炎球菌等の細菌感染症を起こしやすくなります。さらに、近年、補体の不適切な活性化のために起こる疾患がわかってきて、さらにその遺伝子診断が可能になってきました2)。補体関連疾患として下記のものが解ってきました  これらの疾患は補体欠損症を除いて異常な補体の活性化により引き起こされる疾患で、この異常な活性化を抑制する創薬が行われてきました。補体の中のC5は抗補体薬の良い標的となりました。C5が補体活性化の全ての経路に共通の分子であるため、C5を標的にすれば効率良く阻害できるためです。そこで開発されたのがエクリズマブ(ソリリスⓇ)です。本薬は補体C5を標的としたモノクローナル抗体で、大事なポイントは、本薬がC5の上流のC3活性化までのステップは抑制しないことで、補体活性化の結果得られる3つの大きな効果のうち、C3活性化によるオプソニン化、貪食は温存し、C5の活性化で得られる白血球走化作用、アナフィラトキシン作用ならびにMAC形成のみを抑制します。つまりエクリズマブは補体の免疫作用を一部保持しながら補体を阻害することができるのです3)。2週間に1回の点滴静注です。しかし、MAC形成を障害することからC5以降の先天性補体欠損症と同じ状態になり得えます。ということは莢膜を有する細菌に感染しやすくなる可能性があります。一般的に補体カスケードの前半の分子(C1~C4)の欠損症は常染色体劣性の自己免疫疾患を発症し、後半の分子(C5~C9)の欠損ではナイセリア属(淋菌、髄膜炎菌)易感染性が問題になります。ちなみにC2やC3の欠損症では肺炎球菌やインフルエンザ菌に対して易感染性を示すことが知られています。エクリズマブの投与は髄膜炎菌感染症の発生率を1000~2000倍増加させることが知られています4)。実際に本邦でも髄膜炎菌感染症を発症した報告もあるため,関連学会から注意喚起が出されています5)6)。エクリズマブ投与にあたっては、緊急な治療を要する場合を除き、投与開始前少なくとも2週前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が必要です。本邦でもメナクトラが接種可能です。髄膜炎菌ワクチンは渡航ワクチンで使用する場合は1回の筋注で良いのですが、エクリズマブ投与前の接種は、8週間の間隔をあけて2~3回の投与が推奨されており、また、エクリズマブを継続投与する場合は2~3年ごとに追加接種が推奨されます。また、髄膜炎菌ワクチンを接種してもなお髄膜炎菌感染症を完全に予防できないことも記載されています7)。本邦で使用可能なメナクトラはB型の血清型を含んでおらず、海外ではB型のワクチンも併用していますが本邦では、使用できません。しかし本邦ではB型の髄膜炎感染症は稀だとされています。 小児においては肺炎球菌,インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b:Hib)の未接種の場合にはワクチンを接種が必要です。 今後、遺伝子検査の発展とともに補体関連疾患の拡大が予想され、さらに抗補体薬の開発も進んでいます。承認申請中の薬剤には内服薬もあり(アバコバン)、抗補体薬と感染症はプライマリケア医も知っておく必要があります。 令和4年9月28日菊池中央病院 中川 義久 参考文献: 1)堀内 孝彦:内科医が知っておきたい補体関連疾患 . 日内会誌 2020 ; 109 ; 1925 – 1931 .2)堀内 孝彦:よみがえる補体学~補体関連疾患の新展開~臨床リウマチ 2021 ; 33 ; 85 – 91 .3)小林 ひとみら:抗C5抗体療法 . 日大医誌 2017 ; 28 ; 28 – 30 .4)亀井 聡:抗補体薬と感染症 . 神経治療 2020 ; 37 ; s109 .5)谷口 優香ら:エクリズマブ加療中に発症した Neisseria gonorrhoeae による菌血症の 1 症例 . 感染症誌 2021 ; 95 ; 367 – 371 . 6)安田 健一ら:エクリズマブ使用中に生じた播種性淋菌感染症の1例 . 感染症誌 2021 ; 95 ; 348 – 351 .7)Managing the Risk of Meningococcal Disease among Patients Who Receive Complement Inhibitor Therapy . CDC

慢性下痢症―顕微鏡的大腸炎―

慢性下痢症―顕微鏡的大腸炎―  下痢を訴えて外来を受診される方は多く、大半が急性の下痢でその原因は感染症が圧倒的に多く、ウイルス性が大半を占め、時にカンピロバクター腸炎が混じるためカンピロバクター腸炎を見逃さないように診療しています。ウイルス性の感染性下痢では腸内細菌を乱さないように抗生剤を使用せず整腸剤のみを使用します。 ところが慢性下痢になると原因は多彩で難しい診療となります。慢性下痢とは、1日に3回以上、3週間以上、下痢が続く状態を指します。下痢の程度や原因はさまざまです。原因として多いのは、ストレスや生活習慣などによって発症する過敏性腸症候群です。また、そのほかの原因としてはもちろん感染症もありますし、クローン病や潰瘍性大腸炎といった疾患を含む炎症性腸疾患が挙げられます。また、内分泌疾患(甲状腺機能亢進症や糖尿病など)、アレルギー(グルテンやミルクなどに対して)などもあります。その中で近年増加傾向にあるのが顕微鏡的大腸炎です。顕微鏡的大腸炎は大腸の組織標本を顕微鏡で観察して初めて診断される疾患で、膠原線維性大腸炎(collagenous colitis)とリンパ球浸潤大腸(lymphocytic colitis)の2つに分類されます。 文献1)より転載  膠原線維帯の肥厚は通常上行結腸から横行結腸にかけての深部大腸で顕著であり、直腸のみの生検では 11~40% の症例で偽陰性となります。従って,本症の診断においては深部大腸を含めた複数箇所の生検を行うことが推奨されています。この2つの異なった組織型は臨床症状が全く同じで、両者を鑑別する必要はないと考えられています。 顕微鏡的大腸炎(Collagenous colitisや膠原線維性大腸炎ともいわれますが同義語です)は 50歳以降の女性に好発し,男女比は約 1:7です。欧米では慢性下痢の原因疾患として比較的頻度の高い疾患で、地域差があるものの 10万人あたりの年間発症率は 0.8~7.2人と算出されています。スウェーデンや米国の長期間に及ぶ疫学調査では、発症率が経年的に増加しており、有病率は 10万人あたり 10~15.7人程度と推測されています2)。一方,本邦ではまれな疾患とされてきましたが、堀田らは血便を伴わない慢下痢患者82例中15例(18.3%)が顕微鏡的大腸炎であり、欧米(5.0%)より頻度が高いことを報告しています3)。 顕微鏡的大腸炎(以下本症)の病因は不明ですが、家族内発症がみられることから遺伝的要因と環境要因が関与する多因子疾患と考えられています。特に、粘膜内の炎症細胞はリンパ球が主体でステロイド治療が奏効すること、小腸瘻を造設すると改善することなどから,腸管内物質に対する粘膜内の免疫反応が発症に寄与する可能性が推測されています2)。また、クロストリジウムやエルシニア菌との関連を重要視する報告もあり感染症の関与もあるかもしれません。 欧米では本症の患者の 17~71%で非ステロイド性消炎鎮痛薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)の内服歴が確認されており、患者・対照研究においてもNSAIDsと本症の関連が示されています。さらに、NSAIDsのみならず、アスピリン、ランソプラゾールやチクロピジンと本症との関係が示唆されています。なかでも、近年ではランソプラゾールに関連したものが注目されており、本症患者におけるランソプラゾールの内服率は,欧米の報告では8% と少ないのに対し,本邦では53~83% と極めて高いことが解っています。 文献1)より参照  症状は、慢性・持続性の水様下痢が必発し、しばしば血便、腹痛や体重減少を伴います。通常、急性発症を示し、感染性腸炎との鑑別が困難なこともあります。 本症の内視鏡所見の特徴として、正常、あるいは発赤、浮腫、毛細血管の増生、粘膜の顆粒状変化などの軽微な所見にとどまることが知られています。これらはいずれも特異的な所見とはいえず、内視鏡所見のみで本症と診断することは不可能とされています。近年、特徴的な縦走潰瘍を呈した症例の報告が増加しており、検査時の穿孔などの報告もあり、内視鏡検査を行う際は、過度な送気や腸管の過伸展を避けるよう注意する必要があります。 https://www.jiyugaoka-gc.com/medicalinformation/colonoscopy/1883/ より転載  診断は症状より本症を疑い、内視鏡的組織生検で確定診断します。内視鏡所見が軽微~正常であるため過敏性腸症候群と診断されることが多いといわれています。 治療は薬剤性の場合は休薬のみで改善するので、内服歴を詳細に聴取し、薬剤との関連が疑われる場合は被疑薬を中止します。下痢が改善しない場合は,下記の薬剤を試してみることもあります。欧米では最初に陰イオン交換樹脂(コレスチラミンなど)が処方されますが、日本では適応外使用となります。また、次硝酸ビスマス(ビスマス製剤)は長期連用により精神神経系障害や亜硝酸中毒(メトヘモグロビン血症など)をきたすことがあるので慎重に投与すべきです5)。経口ステロイド剤の一つであるブデソニドは腸管などの局所で作用を発揮し、速やかに肝臓で代謝されるため、他の経口ステロイド剤よりも全身性の副作用が少なく、欧米では本症の治療にブデソニドが広く用いられ、臨床試験の報告も多数なされています(本邦では未認可)。しかしながら、ブデソニド短期投与後の再燃率は 61~80% と高値とされており、何らかの維持療法が必要なこともあります。プラセボとの比較試験でブデソニド6mg/日の長期間投与は維持療法としても有効であることが示されています。メサラジンなども検討されていますがまだ明らかな有効性は証明されていません。 本症はいまだ内科医の認知度が低く、見逃されている例が多く存在し、繰り返し受診したり夜間救急外来を受診したりする報告もあり、一般内科医も感染症医もぜひとも知っておくべき疾患です。 令和4年9月6日菊池中央病院  中川 義久 参考文献: 1)王 梓任ら:顕微鏡的大腸炎 . clinical question 2021年3月6日 . J Hospitalist Network .2)梅野 淳嗣ら:Collagenous colitisの診断と治療 . 消化器内視鏡 2020 ; 52 ; 1232 – 1242 .3)堀田 欣一ら:慢性下痢症における M icroscopic Colitisの頻度 . 消化器内視鏡 . 2008;20:1357 – 1361 .4)河村 卓二ら:縦走潰瘍を認めた collagenous colitisの3例 . 消化器内視鏡 2010 ; 52 ; 1261 – 1266 .5)樫田 博史:顕微鏡的大腸炎 . 日本医事新法 2021 ; 5057 ; 38 .6)小林 晃:Collagenous colitisの認知度向上の必要性を痛感した6例 . 日本救急医会誌 2020;23:171 – 174 .

ダニ刺傷にご注意

ダニ刺傷にご注意  人を刺すツメダニ、イエダニ、マダニのうち、イエダニとツメダニは室内で発生するダニで、一方マダニは、野外で発生するダニです。室内にいるイエダニ、ツメダニは体長0.3~1.0mmほどの小さなダニで、刺されると1週間ほどしつこいかゆみが続きますが、特別な感染症を媒介することはあまりありません。それに対してマダニは屋内のダニに比べて10倍ぐらい大きく、体長3~10mmの野外にいる大型のダニで、草むらや樹木などで野生動物を待ち伏せして寄生し人にも取りついて吸血します。日本には山野や畑の周囲、河川敷などを中心に50種類近くのマダニが生息しています。近年、野生動物の生息域拡大などで市内の公園などでも生息していることが確認されています。 文献1)より転載  太ももや陰部、わき腹などに移動し、時間をかけて吸血します。吸血中、マダニは麻酔用物質を含む唾液を注入するため、刺されていてもかゆみを自覚しにくく、刺されていることに気付かないことも多いです。7日間ほど吸血して満腹になると、自然に脱落しますが、その後かゆみ、灼熱感、痛みなどの症状が残ることがあります。吸血を介して日本紅斑熱、ライム病、ダニ媒介性脳炎、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などの感染症を媒介することがあります1)。 文献2)より転載  表に示す如く、多くの感染症がダニ刺傷で起こることがわかります2)。我が国では特につつが虫病と日本紅斑熱が代表的で両者は感染症法に基づく全数届出の四類感染症として、報告数で常に上位を占めています。また、いずれも診断、治療の遅れなどで重症化や死に至る可能性があり、注意すべき疾患です。 文献2)より転載  1952年から2,012年までのつつがむし病と日本紅斑熱の報告数の推移です2)。日本紅斑熱の患者発生は関東以西の比較的温暖な太平洋側と一部日本海側に集中していますが、症例数が近年急増し、その原因は不明ですが千葉以西の太平洋岸を中心に報告が増加しています2)。日本紅斑熱とつつがむし病は高熱(38~40度)や倦怠感、頭痛、悪寒を伴い、米粒大から小豆大の赤い発しんが現れますが、かゆみや痛みを感じないのが特徴、と臨床症状が似ていますが、日本紅斑熱は、マダニ類に刺された後、2~8日位、つつが虫病は、ツツガムシに刺された後、10~14日位で発症し、日本紅斑熱の方が潜伏期が短く、さし口が小さく見つけにくい、発疹が体幹より四肢に多い傾向があるなどの特徴があります。また、つつがむし病より重症化しやすく、当初よりテトラサイクリン系抗菌薬とニューキノロン系抗菌薬の併用が奨められています3)。 さて、吸血中のマダニを発見した場合はどうしたら良いのでしょうか?すぐ自分で抜去したくなりますが、吸血のため皮膚に刺入する口下片は鋸歯状の構造をしていること、またマダニから分泌される唾液腺物質によって周囲が徐々に固められるため、刺されて3日以上経過するとマダニは抜けにくくなります1)。マダニが何らかの病原体を保有していた場合、唾液腺物質を注入する際に感染症を媒介することがありますが、その発症確率は極めて低いため、発熱がなく、全身状態に問題がなければ、緊急性はなく、夜間救急を受診することは避けてもらいたいところです1)。しかし、自分で吸着したマダニの腹部を指や棘抜きなどで不用意につまむと、体液成分が皮膚内に逆流することになり、マダニの感染病原体を注入することになります。最も確実な方法は、皮膚科を受診して、局所麻酔で皮膚ごと切除することです1)。麻酔を使わない手軽な方法としては、先端の尖ったピンセットで、マダニの顎体基部をはさんで、ゆっくり引き抜く方法があります1)。ペット用として販売されているティック・ツイスターなどマダニ除去用の器具を使う方法もあり、慣れると比較的簡単に除去可能です。  1000円以下でした。うまく抜去できたらダニの口下片を確認する必要があります 文献1)より転載  抜去したダニの口下片がなかったら皮膚内に残存している可能性があります。そのまま放置すると肉芽腫が形成され大きく切除しないといけない場合があるので注意が必要です4)。 ダニ刺傷の問題として感染症や抜去後の肉芽腫のみではありません。近年、マダニ刺傷が原因と考えられる牛肉や豚肉などの獣肉による遅発型の蕁麻疹やアナフィラキシーが報告されています。この原因はマダニ刺傷後にマダニの唾液の糖鎖galactose-α-1.3-galactoseに対するIgE抗体が上昇し、それに伴い牛肉アレルギーが誘発されると報告されています。フタトゲチマダニが媒介する日本紅斑熱の多発地域と獣肉アレルギー患者の居住地が一致していることも報告されています5)。このアレルギーの興味深い点は症状発現が牛肉摂取後3時間以上と長い時間が経過してから出現することと、血液型のAとO型の人にのみ発現することです。この獣肉アレルギーはダニに刺されないように努力することで軽快していくようです6)。 夏休みになって山に入って虫取りをしたり、キャンプをしたりすると多くなるのがダニ刺傷です。ダニに刺されないようにする方法は、生い茂った場所に座らない、つま先の閉じた靴を履く、長袖、長ズボンの服を着る、草の生い茂った道は避ける、着用した衣服は、数日後にお湯で洗濯する、DEETを含む忌避剤を適切に使用する、などです。 なお、本邦ではダニに刺されたというだけで感染症予防に抗生剤(ミノサイクリンなど)を服用することは推奨されていません。 https://mainichi.jp/premier/health/articles/20190516/med/00m/100/001000c より転載 外国にはダニ刺傷注意!という看板があるそうです。 令和4年8月19日 菊池中央病院 中川 義久 参考文献: 1)気付かぬうちに吸着し、吸血して視認可能な大きさに . 時流 . マダニ刺傷https://www.m3.com/clinical/news/1067481?portalId=mailmag&mmp=WE220810&mc.l=886490171&eml=cf17aa86db3b89b431caacb71de152cb 2)岸本 寿男ら:我が国におけるダニ媒介性感染症の多様性 . 日本内科学会雑誌 2015 ; 104 ; 2011 – 2019 .3)小川 基彦:つつがむし病と日本紅斑熱 . 感染症 Today ラジオ日経 2017年9月27日http://medical.radionikkei.jp/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-170927.pdf4)廣谷 太一ら:マダニ刺咬症による異物肉芽腫の幼児例 . 日小外会誌 2018 ; 54 ; 1369 – 1373 . 5)矢上 晶子:成人の診療の最新の進歩(OAS・FDEIA・その他) . アレルギー 2019 ; 68 ; 1174 – 1179 .6)千貫 祐子:経皮感作から始まる成人食物アレルギーの予後 . アレルギー 2019 ; 68 ; 24 – 28 .

淡水で経皮感染するレプトスピラ症

淡水で経皮感染するレプトスピラ症  新型コロナのオミクロン株の感染蔓延のなかでも行動制限のないこの夏はみなさんどう過ごされるでしょうか?休暇中や休暇後に体調が悪化したらまず新型コロナ感染を疑うのは当然のことでしょう。ただ、新型コロナウイルスPCRが陰性である時にただの風邪と診断して良いのでしょうか?もっとも、新型コロナウイルスPCRの感度が70 ~ 90 % と言われているので1回の検査で新型コロナウイルス感染を否定することはできません。夏の休暇で通常の生活と異なる旅行やレジャーは、通常罹らない感染症に罹患する危険が高くなります。夏になると増加する感染症の一つがレプトスピラ症です。 レプトスピラ症は従来、秋に田んぼに入って感染する秋病み病として知られていましたが、衛生環境が改善し、農業の機械化、作業者の長靴、手袋着用など、経皮感染の機会が減少したことでその発生は減少しました。しかし、近年、河川でのレジャーによる発生が増えています。2000 年、ボルネオ島で開催された冒険レースでは、レプトスピラの集団感染が起こり、日本からの参加者からも多くの発症者が出ました。それに加えて、近年、都市部での感染が増加してきており、これは,都心に生息するネズミがレプトスピラを保有しておりネズミの尿などで汚染された水などを介して感染する機会が増えたためと考えられています1)。 国立感染症研究所から引用https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/531-leptospirosis.html  レプトスピラ菌は、微好気もしくは好気的な環境で生育するスピロヘータで、中性あるいは弱アルカリ性の淡水中、湿った土壌中で長期間生存することができます。本菌は血清型で分類され、ヒトや動物に病気を起こす病原性レプトスピラ(Leptospira interrogans など 9 種)、環境中にのみ生息する非病原性レプトスピラ(L. biflexa など 7 種)、そしてその中間型(5 種)の 3 群に分けられています。病原性レプトスピラは人獣共通感染症で、ヒト以外に 120 種以上の動物(哺乳類,爬虫類,両生類など)から分離されています。動物のレプトスピラ症の症状はその種により異なり、例えば牛では発熱や乳質低下、流産などがあり、馬では眼炎、羊では急性腎炎など多様です。犬、猫にも感染し、ペットから人への感染も起こりえます2)。本感染症はさかむけなどのわずかな創から経皮感染し、また経口感染もします。したがって洪水で山の獣が排出したレプトスピラ菌が従来存在しなかった都会に流出して、一見、きれいな水に見えても体を洗ったり、手洗いが不十分だと本菌に感染する可能性があります。また、巻き上がった塵埃の経口感染もありえます。 http://www.alohaainaecotours.com/wordpress/?cat=12&paged=39  ハワイのある島では蛇退治のため飼育したマングースが増殖し、そのマングースが多くレプトスピラを保菌し、自然界が広く病原性レプトスピラに汚染され、水遊びをしないように各所に看板がたててあるようです。グアム島での発症例も報告されており。2000 年に行われたアスレチックイベント(ジャングルを舞台に水泳、マウンテンバイキング、ジャングルトレッキングを行う)で参加者 105 名のうち 3 名がレプトスピラ症を発症した報告もあります3)。 本感染症は症状が非特異的で、感染したきっかけも自覚しにくく、本感染症はその重大さや緊急性が正当に認識されておらず、専門家のあいだでは「neglected disease」とよばれています1)。レプトスピラ感染症の症状は重症から軽症までさまざまですが、2~16 日(通常は5~ 10 日)の潜伏期ののち、悪寒戦慄を伴う突然の高熱、全身倦怠感、筋痛(腓腹筋圧痛が特徴的)、消化器症状(食欲不振,嘔吐,下痢,腹痛)、眼球結膜充血、頭痛(眼周囲痛を伴う)、関節痛など多彩な症状を呈して発症します(第1 期)。この病期には血液からレプトスピラが分離されます。続く第2 期には黄疸が出現します。血液生化学検査上は、直接ビリルビン優位のビリルビン高値を認めますが、肝逸脱酵素(ALT, AST など)の上昇は軽度です。腎障害を伴うと、タンパク尿、潜血尿が出現します。腎不全まで進行した場合には乏尿もしくは無尿となり、無治療のままでは死に至ります。また、肺出血(喀血,呼吸不全)、消化管出血(吐血)などの出血傾向も認めます。ただし、多くの場合、高度血小板減少、凝固異常、播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴わないことが多いとされています。髄膜炎を伴う場合には、激しい頭痛、不穏、せん妄、項部硬直などを認めます。髄液からはレプトスピラが分離されます。心筋炎が起こると不整脈を認めます。このように多彩な症状を呈し、当初からレプトスピラ感染症を疑うことは困難と考えられます。 本感染症の迅速診断としてのELISA 法は現時点では確立されたものではなく、確定診断に用いられる MAT (Microscopic agglutination Test ) 法や PCR法も限られた施設でしか実施できませんが、保健所に連絡すると測定できる場合があります。診断特性は血清 MAT 法が感度 49.8%,特異度 98.8%、血清PCR 法が感度52.7%、特異度 97.2%と報告されており4)、さらに血清 PCR法においては 6 日以内が感度 86%,7 日以降が感度34%と急性期の方が感度が高いといわれています4)。 治療薬はドキシサイクリン以外に、ペニシリン系、セフトリアキソンなどの第三世代セファロスポリン系といった臨床的に使用頻度が高い抗菌薬が有効とされています4)。本感染症で有効な抗菌薬が開始されたのちにヤーリッシュヘルクスハイマー反応という事がおこることがあります。本反応は、梅毒やレプトスピラ症に対して抗菌薬投与開始後 6 時間以内に起こる反応で、突然発症の発熱、悪寒、ふるえ、血圧低下、呼吸状態悪化などの症状を引き起こすもので、典型的には24時間以内に改善します5)。死亡した菌体から遊離された物質への免疫反応と考えられています5)。 欧州では異常な高温が持続し、川で泳ぐ映像などがテレビでみられますが、海水と異なり淡水での遊泳はレプトスピラ感染の危険があるという事に留意すべきです。 令和4年8月10日菊池中央病院 中川 義久 参考文献: 1)夏に増加する軽皮感染症のレプトスピラ 2)齋藤 光正:レプトスピラ感染症~ワイル病病原体発見から百年~ . 日本細菌学雑誌 2014 ; 69 ; 589 – 600 .3)藤田 裕晃:グアムから初めて輸入されたレプトスピラ症の 1 例 . 感染症誌 2017 ; 91 ; 968 – 971 .4)小池 洋平ら:急性期の髄液 PCR が診断に有効であったレプトスピラ症の 1 例 . 感染症誌 2020 ; 94 ; 193 – 197 .5)深野 賢太朗ら:抗菌薬投与後にヤーリッシュヘルクスハイマー反応を来した Weil 病の 1 例 . 日救急医会関東誌 39(3),2018年 351 – 354 .

新型コロナウイルスに関するお知らせ

【新型コロナウイルス陽性者の発生について(最終報)】 7月13日に当院の入院患者様と職員合わせて15名の新型コロナウイルス感染症への感染が確認されたことに関する最終的なお知らせです。8月1日をもって、当該病棟の全ての感染者の療養期間が終了し、新たな感染者の発生も認められておりません。皆様には多大なご心配とご迷惑をお掛けいたしましたが、引き続き管轄の保健所の指導に基づき、職員一同、全力で感染対策に取り組んで参ります。今後ともご理解とご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。 令和4年8月3日医療法人信岡会 菊池中央病院理事長・院長 中川義久

新型コロナ感染症は空気感染

新型コロナ感染症は空気感染  細菌やウイルスなどの病原体が人から人に感染する経路を感染経路と言います。感染経路は大きく、接触感染、飛沫感染、空気感染の3つに分けられます。世界保健機関(WHO)や米国疾病対策センター(USCDC)を初めとする専門機関は、日常生活における新型コロナウイルスの主要な感染経路は当初、飛沫感染と接触感染だと判断し、この感染経路に基づく感染対策が推奨されてきました。日本もそれに倣って厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き」においても「患者の診療ケアにおいては,飛沫予防策と接触予防策を適切に行う必要がある」とだけ述べ,空気感染予防策はエアロゾル発生手技(気管吸引や気管内挿管)に限定しています。 ところが、2020年7月9日に、世界各国の研究者らが連名で新型コロナウイルスが空気感染するとの書簡を専門誌上に発表し、WHOに感染対策を見直すよう求めました。その後、WHOは2021年4月30日に「ウイルスを含むエアロゾルや飛沫を吸い込む、もしくは目、鼻、口に直接入ってきたときに感染は起きます」「ウイルスは人が長時間過ごす、換気の悪い、混雑した室内環境で伝播します。これはエアロゾルが空中を浮遊し、1m以上移動するからです」として、エアロゾルがCOVID-19の伝播経路であることを認めました。そして2021年12月23日のサイトでは、「人は空中を通り過ぎる感染性粒子を、短い距離において吸入するとき、ウイルスに感染します。これはしばしば短距離エアロゾルあるいは短距離空気感染と呼ばれます」「ウイルスはまた換気の悪い混雑した屋内環境(人が長時間滞在する)で拡がります。これはエアロゾルが空中に浮遊し続け、会話の距離を越えて移動するからです。これは長距離エアロゾル、あるいは長距離空気感染と呼ばれる」と2つのタイプの空気感染を記載しました1)。 米国疾病予防管理センター(CDC)はCOVID-19のエアロゾル感染について、次のように述べています。「人は呼気時(静かな呼吸,会話,歌唱,運動,咳嗽,くしゃみ)に様々なサイズの飛沫を形成して、呼吸性分泌物を放出します。これらの飛沫はウイルスを運び、感染を伝播します。最も大きな飛沫は数秒から数分で急速に落下します。最も小さい微細な飛沫と、これらの微細な飛沫が急速に乾燥して形成されたエアロゾル粒子は非常に小さいので、数分から数時間、空中に浮遊し続けます」「換気の不適切な閉鎖空間に排気する感染者(特に運動、大声、歌唱などの活動)が長時間(15分~数時間)存在した場合には2m以上離れた人に感染伝播するのに十分な空間のウイルス濃度を引き起こします。時には感染者が離れた直後にその空間を通り過ぎた人にも伝播を起こします」2)。特別な医療行為をしなくてもエアロゾルは発生し、空気感染を起こすのです。 では接触感染や飛沫感染で感染する確率はどれぐらいなのでしょう? 接触感染の実験データでは、環境表面に多量のウイルスを置いて行っており,そのために数日間という生存期間が報告されていますが、実際の環境表面で検出されるウイルス量ははるかに少なく、生きたウイルスはいないという報告は多くあります3)。既にCDCは「現在の考えは、汚染された表面からの伝播は新たな感染症には寄与していないことを強く示唆します」と記載しています2)。接触感染を否定しているのです。 飛沫感染はどうでしょうか?直ちに地表に落下する性質を持つ飛沫は直径100μm以上で、人に吸入されることはありません。飛沫感染は吸入ではなく、粘膜への付着によって起こるのです3)。どちらかというと接触感染に近いものです。接触感染で多くの人が感染するクラスターの発生は起こらないと思われます。 向野ら3)はLancetに掲載された「SARS-CoV-2の空気感染を支持する10の科学的理由」を紹介しています。1 大量拡散事象がコロナパンデミックの推進力 大量拡散事象がコロナパンデミックの一番の推進力です。合唱、クルーズ船、老人ホーム、矯正施設などについて、人の行動・交流、部屋のサイズ、換気などの因子を詳細に分析した結果、長距離伝播が明らかになり、このパターンは空気感染を意味し、飛沫や接触感染では説明することができない。2 ホテルで隣同士の人が会わないのに感染 検疫のため、ホテルの隣同士の部屋に隔離収容された2組の入居者。部屋のドア口で1人(感染者)にPCR検査が実施され、ドアは閉められたが、そのすぐあとに隣の親子(非感染者)に対し、やはり部屋のドア口でPCR検査が実施された。そのとき換気の悪い廊下に残っていたエアロゾルを吸入して感染したと考えられる。3 無症状者による感染が多い 会話中に数千ものエアロゾル粒子が産生されるが、大飛沫粒子はごくわずかである。咳などのない無症状者による感染が多いということは、飛沫感染ではなく、エアロゾル感染すなわち空気感染が主であることを示唆している。4 屋内の感染が多い SARS-CoV-2の感染は屋外よりも屋内で多い。屋内の換気で感染は大幅に減少する。これは空気感染が主要な感染経路であることを強く支持する所見である。5 院内感染が多いのは空気感染対策がとられていないため 院内感染が医療施設で報告されている。そこでは厳重な接触・飛沫感染対策がとられているが、通常、マスクはエアロゾル用ではなく飛沫用である。6  SARS-CoV-2は空中から検出される 生きたSARS-CoV-2が空中で検出されている。実験では,SARS-CoV-2は空中で3時間、感染性を維持し、半減期は1.1時間である。生きたSARS-CoV-2はエアロゾル発生手技をしていない病室や感染者の車の空気中からも検出された。7 SARS-CoV-2は病院のエアフィルターから検出されている8 動物実験でも空気感染を証明されている9 空気感染説に反論する強力なエビデンスはない10 飛沫・接触感染が主要な感染経路であることを明らかにした論文はない  上記より,COVID-19の主要な伝播経路は接触・飛沫感染ではなく、エアロゾル(空気)感染であることが示唆されました。わが国では、海外の感染経路の認識と大きなギャップがあり、今後は接触・飛沫感染対策以上に、空気感染対策に注力する必要があり、厚労省の「接触感染と飛沫感染が主たる感染経路である」という見解は大きく修正されるべきであると向野らは述べています3)。 令和4年7月25日菊池中央病院 中川義久 参考文献: 1)World Health Organization (WHO), “Coronavirus disease (COVID-19): How is it transmitted?” (2021); who.int/news-room/q-a-detail/coronavirus-disease-covid-19-how-is-it-transmitted.https://www.who.int/news-room/questions-and-answers/item/coronavirus-disease-covid-19-how-is-it-transmitted 2)S. Centers for Disease Control and Prevention (CDC), “Scientific brief: SARS-CoV-2 transmission” (2021);www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html 3)向野 賢治ら:COVID-19は空気感染対策に注力を . 日本医事新報 2022 ; 5125 ; 30 – 40 .

新型コロナウィルスに関するお知らせ

【新型コロナウイルス陽性者の発生について】 謹啓 猛暑の候、皆様におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。平素より当院の運営に関しまして格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 この度、7月13日時点で、入院患者様数7名と当院の病棟職員8名が新型コロナウイルス感染症に感染していることが判明いたしました。管轄の保健所にも相談の上、現在も当該病棟の全ての入院患者様及び職員に検査を実施しておりますので、さらに陽性者数が確認される可能性もあります。つきましては、当面の間、当該病棟への新規の入院患者様の受け入れを停止させていただきます。なお、看護スタッフの人員体制に支障をきたしているため、外来診療につきましては一部制限を行っております。皆様にはご心配とご迷惑をお掛けいたしますが、これからも地域の皆様に安心して当院を受診して頂けますよう、早期収束に向けて職員一丸となり感染拡大防止に取り組んで参りますので、皆様には何卒ご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。                                          謹白 令和4年7月14日         医療法人信岡会 菊池中央病院理事長・院長 中川義久

熊本県内でカンピロバクター腸炎が急増

熊本県内でカンピロバクター腸炎が急増  鶏肉などに含まれる「カンピロバクター」を原因とする食中毒が熊本県内で増えています。昨年は過去10年間で最多の8件。今年も6月末時点で既に5件が発生しており最多ペースで推移しています。市保健所によると件数増の原因は不明と言っていますが、コロナ感染が減少して外食の機会が増えたことも要因の一つでしょう。 2022年7月7日熊本日日新聞より転載  カンピロバクター腸炎は細菌性下痢症では原因として一番多く、症状は他の腸炎より腹痛が強く、下痢の回数も多い傾向があります。カンピロバクターは鶏や牛、豚などの腸管内に生息し、汚染された食肉や臓器、飲料水などを摂取することにより感染します。非常に少ない菌量(100 個)で発症することが特徴です。原因食品としては鶏肉が多く、鶏肉をしっかり加熱することにより感染のリスクを70%減らせることが可能です。特に輸入鶏肉のカンピロバクター汚染率に比べて国産鶏肉の汚染率は高く、80~100%にのぼると報告されています。カンピロバクターは乾燥や大気中の酸素に弱く、通常なら保存中に菌量は少なくなっていくので、一番あぶないのは新鮮な鶏肉です。つまり、国産の新鮮鶏肉のレバーのレア焼きの焼き鳥にはまずカンピロバクターがいると思って間違いありません1)。輸入鶏肉が国産鶏肉より保菌率が低いのは冷凍保存の影響で、冷凍・解凍でカンピロバクターが死滅するからです。しかし鶏肉には同時にサルモネラ菌(47.3%)も存在し、サルモネラ菌は冷凍などの保存に強く、また保存状態がわるいと増殖するために別の注意が必要です1)。またいわゆる地鶏は鶏を放し飼いにすると肉が引き締まるといって珍重されますが、鶏は食糞の習慣があり瞬く間にカンピロバクターが蔓延するそうです2)。現在カンピロバクター食中毒撲滅にむけて努力はされていますが鶏肉を生食するなどはもってのほかで、焼き鳥をよく焼かない限りカンピロバクター腸炎はなくならないと思われます。熊本や鹿児島では鳥刺しやたたきを食する習慣がありますが、これを店が提供することは法律違反ではありません。食品衛生法で牛レバーと豚の肉・レバーを生食用に提供することが禁止されています。それは感染すると死に至ることもある腸管出血性大腸菌やE型肝炎ウイルスに汚染する可能性があるからです。カンピロバクター腸炎に罹っても死に至ることはないのでまだ禁止されていないのでしょう。しかし、カンピロバクターによる年間感染者数を指標として人の健康に及ぼすリスクは、鶏肉を生食する人では、一人当たり年間平均感染回数が 3.42 回年・人、生食しない人では 0.364 回年・人、年間「感染者」の平均値が延べ約 1.5 億人と驚くべき数値が推定されています3)。それほど多くカンピロバクター感染症が蔓延しているのです。この感染症が気づかれにくい原因としてカンピロバクター腸炎は潜伏期間が長い(3~7 日)ため患者さんが原因食品を覚えておらず、医師が原因微生物を類推しにくいという背景があります3)。ちなみに鹿児島県の小売店で販売されていた生食用の鶏肉を検査してみると100 個/50 g以上の数値を示したは61検体中3検体(5%)のみでした。冷凍したりして対策をしたのでしょうが、やはり感染の危険があります4)。 カンピロバクター腸炎の症状は、大川らの報告では、下痢が 93%(128/138)、発熱が62%(86/138)、血便が 23%(32/138)、腹痛が 79%(109/138)、嘔気または嘔吐が 28%(39/138)となっています。その中の40例前後に大腸カメラが施行され、病変は終末回腸に31%(11/35)、回盲弁が 93%(37/40)、盲腸が 73%(29/40)と盲腸付近の病変が多く、肉眼的に潰瘍が0%(0/43)、びらんが 26%(11/43)、粘膜内出血と浮腫が 98%(42/43)が認められたと報告しています。他の検討でも回盲弁の潰瘍~びらんが特徴的(45%~95%)と報告されています。内視鏡的止血術を要した報告もあります6)。 カンピロバクター腸炎はマクロライド系抗生物質で治癒する病気ですが、たまに重篤な合併症が発生します。ギランバレー症候群(GBS )とフィッシャー症候群( FS )です7)。GBS はカンピロバクターに対する抗体が自分の神経まで攻撃してしまう自己免疫疾患で、カンピロバクター腸炎後1000人に 1 人ぐらいの確率で発症するのではないかと推測されています8)。GBS は従来、自然経過で改善する予後の良い病気と考えられていましたが、現在はあらゆる治療を尽くしても一定の確率で後遺症を残すことが解ってきました。最近の報告では GBS 発症後6ヶ月での独歩歩行困難が 18%、発症後1年の独歩歩行困難例が 16%、1年後に完全に筋力が回復するのは 61%、10年後歩行困難例 10%、そして1年以内の死亡 4.4%と報告されている重篤な疾患です。 カンピロバクター腸炎は抗生剤をのめばよくなるという簡単な感染症ではありません。GBSという恐ろしい合併症を考えると絶対におこしてはいけない感染症と考えています。 令和4年7月8日菊池中央病院中川 義久 参考文献:1)新鮮地鶏にご用心2)山本 茂貴ら:Campylobaofer食中毒の制御 . 日本食品微生物学会雑誌 2006 ; 23 ; 107– 108 .3)肉フェスで大勢の食中毒!犯人はやっぱり!4)柿内 梨那ら:鹿児島県内で市販される鳥刺しと加熱用鶏肉のカンピロバクター汚染状況 . 日本食品微生物学会雑誌 2019 ; 36 ; 165 – 168 .5)大川 清孝ら:カンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎の臨床像と内視鏡像の検討 . 日本消化器内視鏡学会雑誌 2018 ; 60 ; 981 – 990 .6)松原 大ら:内視鏡的止血術を要したCampylobacter 腸炎の一例 . Progress of Digestive Endoscopy 2020 ; 96 ; 179 – 180 .7)海田 賢一:Guillain-Barre 症候群の予後因子 . 臨床神経学 2013 ; 53 ; 1315 – 1318 .8)桑原 聡 : 免疫性末梢神経障害の病態と治療 . Guillain – Barre症候群を中心に .日本内科学会誌 . 2010 : 99 : 305 – 309 .

アニサキス急増中

アニサキス急増中  全国各地でアニサキス食中毒が激増しています。ここ数年でその数は一気に増え、5年前からは食中毒の原因のワースト1位にもなっています。厚生労働省の速報によると今年はさらに激増し、すでに124件のアニサキス食中毒が発生しています(2022年6月8日時点)。なぜ近年増加しているのでしょうか? アニサキスは、幼虫(体長2~3センチ)が魚介類の内臓に寄生し、鮮度が落ちると筋肉に移動しやすく人がそれを生で食べると、数時間後から激しい腹痛や嘔吐などの症状が出ます。原因食品はサバが最も多く、サンマやサケ、アジ、イカなどでも起こります。シメサバによる報告も目立つように、酢では予防できません。日本各地で水揚げされたマサバを検索すると 74.3%にアニサキスが寄生しており、平均寄生数はさば 1 匹あたり 22 匹のアニサキスがいたそうです1)。ここ10年ほどの報告急増は、13年から法令改正でアニサキスによる食中毒が届け出対象に明示されたのも一因ですが、背景にあるのが生の魚介類の流通の多様化で、大手の量販店や鮮魚専門店が市場の競りを介さず産地の業者から直接買い付ける「相対取引」などが盛んになり、消費者の口に入るまでの経路が複雑になっているのも1因と考えられています1)。魚の輸送技術の発達も、アニサキス増加の原因と考えられます。魚が死んで古くなってくると、魚身に移動します。-20度で24時間以上冷凍すると死にますが、近年は冷蔵状態で長時間の輸送が可能になったため、幼虫が魚身に移動しやすくなっています。さらに、本年度のアニサキス症発生例の中で目立つのがイワシの刺身が原因となっているものです。アニサキス症の発生の増減には、水揚げ時期や海水温などいろいろな要因があるといわれているのですが、今年はそこに「イワシの豊漁」というファクターが関連しているという説があります2)。またイワシにもアニサキスが寄生することを知らない人が無防備に生食するため多く発症していることも考えられます。  また、鯨の数の増加や、地球温暖化によって鯨や魚の回遊ルートが変わり、水揚げされる魚がアニサキスの卵を含む、鯨のフンを食べる機会が増えたことも関係している可能性も考えられています。面白いことにクロマグロからはアニサキスほとんど検出されませんが、同じサバ科の回遊魚であるカツオにおいてはアニサキスが高率に寄生しており、カツオのたたきの喫食での発症も増加しています。その原因として、カツオが水深200 mくらいまで潜り回遊することが報告され、深海魚に寄生するアニサキスがカツオにも寄生することが明らかとなっています3)。2018年の調査ではカツオ60匹中58匹からアニサキスが検出され、うち35匹に筋肉内に寄生していたそうです3)。           内閣府食品安全委員会 ファクトシート「アニサキス症(概要)」           https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_anisakidae.pdfより転載 アニサキスとは、その終宿主がクジラなどの大型の海洋哺乳類であるため、これらの動物が保護で増加すると、糞中から排泄されるアニサキスの卵が海洋中に増加し、それを食べたオキアミが増加し、世界中でアニサキスが増加することになります。 厚生労働省  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042953.html より転載  アニサキス症は胃アニサキス症と腸アニサキス症があり、感作の有無により緩和型と激症型があります。症状の特徴は、初感染では無症状ですが、再感染で感作されている場合は、6 時間前後で 1 型アレルギー反応に起因する激しい心窩部痛が発生します。多くは胃アニサキス症ですが、虫体が小腸まで到達すると腹痛のみならずイレウスを惹起することがあり、緊急手術をされそこで初めて診断される例も散見されます。この痛みは噛みつかれた痛みではなく、アレルギー反応で胃壁にヒスタミンなどが集まり、それによる痛みとされています。アニサキス症はアナフィラキシーの原因としても重要で、アナフィラキシー全体の23.3%でアニサキスが原因で、高齢者に限ると32.0%と最も多い原因だったという報告もあります5)。アナフィラキシーに続発して心筋梗塞を併発することもあり注意が必要です6)。 治療は基本的には胃アニサキス症では胃カメラで取り除く方法が確実ですが、それが嫌な場合や出来ないときは、抗アレルギー剤(強力ミノファーゲンC:SMNC)40 mL を 1 回静注するとともに プレドニゾロン5 mg / 日を 4 日間経口投与することにより、胃アニサキス症の腹痛が速やかに軽快するという報告もあります7)。また小腸アニサキス症の頻度は低いですが手術も考慮されるほど重篤化することもありますが、高気圧酸素療法やガストログラフィン内服で治療した報告もあります8)。 アニサキスに感染しない工夫は、アニサキスは24時間以上の冷凍(魚の中心温度がマイナス20℃以下)や60℃, 1分間で死滅することから,最も効果的な方法は冷凍処理と加熱調理です。どうしても生食したいときはできるだけ鮮度の良いものを選び、速やかに内臓を取り除く、また内臓を生で食べない、良く噛んでアニサキスも噛み潰す、などが言われています1)。近年、電気エネルギーを用いて3分間で魚肉のアニサキスを殺す方法が研究され実用間近とのことで期待されます。 令和4年7月4日菊池中央病院中川 義久 参考文献:1)アニサキス症が急増しています2)2022年に入りアニサキス中毒事故が増加中 原因はイワシの豊漁? https://tsurinews.jp/207939/3)鈴木 淳:アニサキスによる食中毒とその原因食品 . 日本食品微生物学会雑誌 2020 ; 37 ; 122 – 125 .4)鈴木 淳:わが国におけるアニサキス症の現状と対策 . モダンメディア2020 ; 66 ; 165 – 170 .5)宇野 知輝ら:昭和大学病院における成人アナフィラキシー症例の臨床的特徴のライフステージ別調査 . 日臨救急医会誌 2021 ; 24 ; 761 – 772 .6)野崎(岡田)侑衣ら:ST上昇型心筋梗塞を疑われたアニサキスアレルギーによるKounis症候群の1例 . 日内会 2021 ; 110 ; 802 – 809 .7)山本 馨:アニサキス症のユニークで簡便な治療法 . 日医誌 2012 ; 8 ; 179 – 180 .8)松倉 史朗ら:高気圧酸素療法が奏功した小腸アニサキス症による腸閉塞の1例 . 日本腹部救急医学 . 2017 ; 37 ; 631 – 635 .

オミクロン株は弱毒ウィルスではありません

オミクロン株は弱毒ウイルスではありません  厳しい入国制限、マスク着用の義務などを実施した香港、韓国、シンガポール、ニュージーランドなどは、これまで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数と死亡者数が欧米に比べて格段に少ない国とされてきました。しかし、オミクロン株出現後にそれらの国で軒並み大規模な感染拡大が起き、新規患者数で欧米を上回るという予想もしなかった事態となりました。                         文献1)より転載  図1 では,人口100万人当たりの1日の新規患者数を香港・韓国・日本と、フランス・米国で比較したものです。2022年3月4日に香港で8800例、3月17日に韓国で7900例の新規患者数となりましたが、これは2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して1日の新規患者数としては世界1・2位の記録です。わが国の総人口、約1億2500万人に換算すると、1日に100万例前後という、非常に多数の患者が発生したことになります1)。          文献1)より転載  図2は人口100万人当たりの1日に死亡者数を示したものですが、香港と韓国では死亡者数も増加しており、特に香港では驚異的な新規死亡者数を記録しています。人口100万人当たりの1日の死亡者数が、香港では2022年3月15日に38例、韓国では3月27日に7例となっています。香港のこの死亡者数は、2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して世界最高と考えられており、わが国の総人口に換算すると1日に4800例死亡したことになります。これらの結果はもちろんオミクロン株の流行による死亡率です。 わが国では,“オミクロン株によるCOVID-19の症状は,デルタ株に比べて軽症”という考えが定説となっています。しかし本当にオミクロン株は軽症ですむか、については世界では疑問がもたれています。ワクチン接種率が向上し、加えて自然感染による免疫保持者が増加したため、重症化防止効果が出ているので、患者数増加に比べて重症者数が少なく、軽症化したように見える、という意見もあります。どちらかというと最近では,“オミクロン株は軽症”という説は否定的となっています。その根拠は、香港でオミクロン株が大流行を起こし、ワクチン接種を受けていない高齢者が多数死亡したことにあります。この香港での死亡率は、2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して、欧米諸国のピークをはるかに上回るものでした。結論として、免疫のない状態で感染すれば、オミクロン株でもデルタ株と同様に重い症状を呈すると考えられているのです1)。 確かにウイルスは弱毒化の方向に進む場合もあります。しかし、それは、ワクチンや治療薬、隔離措置など、人為的な介入があったときに限る、と考えられています。つまり、人為的に強毒株が抑え込まれることにより、弱毒株が残り、宿主と共存していくという場合です2)。新型コロナウイルスでは、デルタ株が弱毒化してオミクロン株になったというわけではありません。2回のワクチン接種により、デルタ株がある程度抑制されてきたところに、アフリカ大陸からオミクロン株が出現してきました。2回のワクチン接種ではオミクロン株への有効性が低いので、瞬く間に全世界へ広がっていきました。また,オミクロン株はどちらかというとアルファ株やベータ株に近い変異株で、デルタ株は遠い親戚に当たるそうです。新型コロナウイルスに対するワクチンがなければ,デルタ株の感染は拡大し、オミクロン株が入る余地はなかった可能性がある、ということです。また,デルタ株が弱毒化してオミクロン株になったのではない,ということです。オミクロン株の致死率はデルタ株の半分くらいになっていますが,弱毒化と言えるほど致死率は低くありません2)。それでは弱毒化したと考えられるウイルスはどのように出現してきたのでしょうか?それは選択の結果でしかないそうです。ウイルスゲノムは多様性を示しており、ある確率で変異も起こします。その中で、弱毒化して宿主に適応できた変異株が選択されてくるのです2)。 水谷は2)「弱毒化は短期間に起こらない」と考えています。ウイルスの弱毒化は、おそらく数万年、数百万年単位で起こるのではないかと述べています。しかしこれはワクチンなどの人為的介入がない場合の話で、ワクチン接種や治療薬の投与が進むと選択スピードが上がるので、弱毒化は加速すると水谷は考えています。 一方,ワクチンがなくても、数百年で弱毒化するウイルスもあるかもしれません。たとえば、現在では一般的な、風邪の原因になるコロナウイルスOC43は、1890年頃に強毒ウイルスとして出現し、数十年かけて弱毒化したという説もあります2)。          文献1)より転載 今までに多くの患者が発生した欧米諸国では、2022年4月1日時点で、人口100万人当たりの累計患者数の全人口における割合は、フランス38%、英国31%、米国24%などと、高率であることが解ります。一方、オミクロン株出現前まで患者数を抑えてきた韓国、香港では、2021年12月時点での累計患者数は人口の0.2~4.8%とかなり低率でしたが、オミクロン株出現後は,感染者の割合は急速に増加し、韓国は27%と米国を追い越し、香港も15%と大幅に増加し、欧米諸国と大差がないほどになりました。 韓国、香港での、最近のオミクロン株による驚くべき流行拡大は、ウイルスの感染力が強いということがある一方、ワクチンの発病防止効果が低く効果が持続しないことも原因にあると言われています。 図4ファイザー社のワクチン( BNT162b2)2回接種後の発病防止効果と同ワクチン3回目接種後とモデルナ社のワクチン(mRNA-1273)の3回目ワクチン接種後の感染防止効果 文献3)より転載 図4に示すとおり、オミクロン株はデルタ株に比較してワクチンによる発病予防効果が低く、ファイザー社のワクチンの3回目接種をしても10週後には大きく低下することが解ります。菅谷らは不顕性感染も考慮すると、日本ではワクチンによるオミクロン株感染・発病防止効果は、現在ほとんどなく、日本は危険な状況にあると述べています3)。 以上の事実をふまえて考えてみると、日本ではワクチンの効果がかなり低下しているところであり、重症化しやすい人が麻疹なみの感染力をもつオミクロン株に感染すると死亡者が増加する可能性があり、4回目のワクチン接種を急ぐ必要があります。                       令和4年6月24日菊池中央病院  中川 義久 参考文献:1)菅谷 憲夫:]「オミクロン株は軽症」は誤り―“世界の優等生”諸国ではオミクロン株が大流行 . 日本医事新報 2022 ; 5114 ; pp 32 .2)水谷 哲也:ウイルスは宿主を殺さず弱毒化する」説の根拠は? . 日本医事新報 2022 ; 5114 ; pp 56 .3)菅谷 憲夫:SARS-CoV-2オミクロン株に対するワクチン効果─日本では免疫が消失,ブースター接種により感染爆発を防ぐべき . 日本医事新報 2022 ; 5100 ; pp 28 .

今後、感染症の増加が予想されます

今後、感染症の増加が予想されます  2020年4月に発出されたCOVID-19 緊急事態宣言下で、私たちはコロナ対策として接触感染、飛沫感染をやってきました。当初、空気感染はないと言われていましたが、最近、エアゾル感染の可能性も言われており換気にも注意しております。そのおかげでコロナ以外の感染症が激減していると言われています。 文献1)より転載  コロナ以外の感染症はどれほど減っているのでしょうか?国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報 (IDWR)のホームページを見ると知ることができます。 文献2)より参照  年間別に折れ線グラフで示してあり、11年分の定点あたりの発生数を示してあり、赤印が本年(2022年)の感染報告ですが、軒並みに減少していることが解ります。 文献2)より転載  定点把握の対象となる5類感染症の2022年5月9日から15日までの間で、当該週で過去5年間の発生頻度の比較を表にしたものです。全ての疾患で減少しているのが解ります。これらの感染症の減少はコロナ対策としての飛沫・接触感染対策がこれらの感染症対策にも有効であったという結果でしょう。しかし、川崎病の発生はCOVID-19緊急事態宣言下でもその発生が減少しなかったことが報告されています。川崎病の原因微生物はまだ正確には解っていませんが、複数の病原体が関与していると推測されています。そしてその微生物は広い範囲で流行し、風によって移動する空気感染であることが推測されています。だから緊急事態宣言下でも減少しなかったものと考えられています3)。新型コロナ感染によって起こる小児の多系統炎症性症候群とは病像が似た部分もありますが、現在川崎病とは別の疾患とされています4)。 さてこのような感染症の減少が本当に良い事でしょうか? まず、コロナ対策を緩めることでこれらの感染症が急に増加することが予想されます。そろそろ感染性胃腸炎やRSウイルス感染症の増加が報告されています。発熱外来では新型コロナ以外の感染症も正確に診断する必要があります。 また、多くの感染症は免疫がまだ成熟していない幼少児期に感染し、軽症で済んで抵抗力を身に着けていくものですが、成人になって初感染すると重症化することがあります。ワクチンで予防できないヘルペスウイルス感染症、例えばサイトメガロウイルスやEBウイルスなどでは成人になって罹患すると重篤化や1か月以上の長い経過をとることがあります5)。これから成人のこのような非定型的なウイルス感染症が増えてくる可能性があります。 現在、オミクロン株の感染症も減少しつつあり、マスクの着用を緩和したり、旅行を推奨したり、外国人観光客の入国審査緩和、など経済優先のウイズコロナへ政策へと変換されつつありますが、この2年間で激減していたコロナ以外の感染症の激増が予想され、発熱外来は再び難しい対応を迫られるかもしれません。 令和4年6月6日 菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)コロナ禍で減っている感染症と変わらない感染症 その要因を感染症専門医が考察https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20201025-002046242)感染症発生動向調査週報 (IDWR)https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html3)五十嵐 隆ら:川崎病の最新情報 . 日本医師会雑誌 2022 ; 151 ; 185 – 197 .4)原 寿郎:川崎病の病因・病態解析の現状 . 日本医師会雑誌 2022 ; 151 ; 208 – 212 .5)子供のうちに罹っておきたいサイトメガロ・ウイルス

野良猫対策でトキソプラズマ減少を

野良猫対策でトキソプラズマ減少を はじめにトキソプラズマ症とは、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)と呼ばれる原虫によって引き起こされる感染症の一種です。世界人口の約3人に1人、日本でも約5人に1人が感染しているという広く蔓延している感染症です。トキソプラズマはネコやヒトなど、さまざまな動物に感染性を示すことが知られています。ヒトへの感染は、主として病原体に汚染された生肉や加熱不十分な肉を食べたりすることで成立し、その他、トキソプラズマに汚染された土やネコの糞に触れたりしても成立します。 トキソプラズマのシスト(左側)と急増虫体(右側) トキソプラズマとは トキソプラズマは幅3 µm、長さ5-7 µmの半円〜三日月形をした原虫です。細胞内寄生性であり、環境中で単独では増殖できません。トキソプラズマの生活環は終宿主内での有性生殖と中間宿主内での無性生殖のステージからなります。有性生殖はネコ科動物の腸管上皮内でのみ成立しますが、無性生殖はヒトや家畜など全ての温血動物で可能です。 母子感染の予防と診療に関する研究班http://cmvtoxo.umin.jp/doctor_04.html?msclkid=a703eeebafc211eca8369eより引用 国立感染症研究所https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3009-toxoplasma-intro.html?msclkid=9db6858cafbc11 より参照  図の説明ですが、a)感染はネコ科動物から排出されたオーシストを経口摂取することで生じます。b)オーシストは体内に侵入し、タキゾイトとして活発に増殖します。c)免疫系の活性化に伴い、抵抗性のある組織シストを形成して内部でブラディゾイトに分化します。d)中間宿主を捕食することで、組織シストがネコ科動物に取り込まれると腸管内で有性生殖が起きます。e)組織シストは中間宿主に摂取されると新たな宿主内で再びタキゾイトとなり増殖します。f)妊娠中に初感染すると、経胎盤感染により胎児に先天性トキソプラズマ症を引き起こします。g)伝播は終宿主であるネコ科動物同士でも可能です。トキソプラズマは、ヒトやネコなど恒温動物(体温をほぼ一定に保つ動物)に感染可能ですが、実際に有性生殖ができるかどうかはネコへの感染に関わっています。トキソプラズマに初感染したネコの腸内では、感染成立から約2週間は病原体が有性生殖にて増殖します。腸内で増殖した病原体は糞など排泄物を介して周囲の環境にばらまかれる可能性があります。また、ブタなど家畜類がトキソプラズマに感染していた場合、その肉を加熱不十分な状態で食べるとヒトへの感染が成立することもあります。ほかにも、トキソプラズマに汚染された土壌や水に触れるなどして、口や目などからトキソプラズマを体内に取り込むことで感染が成立することもあります1)。 症状 基本的に、健康な人がトキソプラズマに感染しても大事に至ることは多くはありませんが、免疫が低下している人が感染すると、病気が重篤化することがあります。また、妊婦がトキソプラズマに初めて感染すると、胎児に影響を及ぼしてTORCH症候群(子供に脳性麻痺、髄膜炎、低出生体重、痙攣、網脈絡膜炎、精神・運動機能障害、黄疸・発疹、貧血などを起こす)に進展することがあります。HIVなどのように免疫機能が著しく障害を受けると、体内に潜んでいたトキソプラズマが再活性化して、脳炎や肺炎、脈絡網膜炎などを発症したり、けいれん、意識障害、視力障害、咳などの症状を呈したりするようになります。アメリカでの統計によるとHIV感染患者の18-25%がトキソプラズマ脳炎を発症することが報告されており、本症で死亡するHIV感染者は米国で全患者の10%、欧州では30%に及ぶと報告されています2)。感染した個体はトキソプラズマを排除することができずシストとなり免疫応答が起こりにくい筋肉や中枢神経系に慢性潜伏感染します。通常時は免疫系がシスト抑えていますが、免疫不全状態になると潜伏しているシストが活発化し、重篤なトキソプラズマ脳症を発症します。元来は病原性の弱い病原体が易感染宿主で病気を起こす、典型的な日和見感染症です。 近年、自殺率や統合失調患者の有病率とトキソプラズマ感染との相関関係が複数報告されており、健康な人が感染して身体的には無症状感染と思われても精神的変調をきたす可能性も考えられています。動物実験では脳内に寄生して神経伝達物質やホルモンを制御し終宿主であるネコに辿り着きやすいように行動変化を引き起こすという恐ろしい推論もされています3)。 検査・診断 妊婦の感染を疑う場合、妊婦の抗体検査(IHA法、LA法など)、IgM抗体検査(ELISA法など)やIgGアビディティ(avidity,結合力)検査で、胎児の感染リスクを評価します。免疫不全者の感染を疑った場合は、髄液のPCR法などの直接病原診断が行われます。また、脳炎や脈絡網膜炎などを発症していることもあるため、必要に応じて頭部CT、MRI、眼底検査など実施します。 治療 トキソプラズマ症の治療では、Pyrimethamine+sulfadiazineが標準治療法です。Pyrimethamineを初日は100-200mg投与し、以後50-100mg/日を継続的に少なくとも6週間投与します。Sulfadiazineは1日4-6gを分4で投与します。これらの薬剤による骨髄障害を予防するためにfolinic acid(ロイコボリン)を10mg/日 投与します。 国内では販売されていないのでエイズ 治療薬研究班に連絡し入手する必要があります。Pyrimethamine+clindamycin(CLDM)も標準 治療法です。その他アセチルスピラマイシンなどの治療薬がありますがやはり副作用があり、体内から原虫を完全に駆逐するのは難しいです2)。 予防 治療が難しく、ワクチンもないことより感染を予防することが重要です。トキソプラズマは自然界の恒温動物に広く感染しているため(近年、海洋生物にも感染が拡大しているようです)土壌はトキソプラズマに汚染されていると考えて、土いじりをするときは手袋をするとかきちんと手洗いすることが必要です。また、一番トキソプラズマを排泄する放し飼い猫の対策も必要で、室内猫の抗体保有率が4.8% であるのに対し、放し飼い猫の抗体保有率は8.0 ~ 10%と高く、外猫の行動範囲は半径4km以上に及ぶという報告もあり、広い範囲でトキソプラズマで汚染させている可能性があります。餌付けの禁止や、放し飼いの禁止を徹底するとともに、家畜業のねずみ対策に猫を放し飼いにしていることが多く、家畜のトキソプラズマ感染を助長するので農林水産省はこれらを禁止しています4)。 現在の日本で寄生虫に注意をはらう人は少なく、寄生虫感染は忘れられた存在ですが、トキソプラズマ症はなお重大な感染症であり、精神科領域での問題も浮上し、感染予防に努めなければいけません。 令和4年5月25日菊池中央病院 中川義久 参考文献1)小俣 吉孝:トキソプラズマ症 . Small Animal Clinic 2007 ; 147 ; 10 – 17 .2)味澤 篤:HAART時代の日和見感染症 . トキソプラズマ症 . 日本エイズ学会誌 2004 ; 6 ; 22 – 23 .3)西川 義文:難敵トキソプラズマ症に挑む . 医学会新聞 2022 ; 3462 ; 4 .4)三條場 千寿ら:トキソプラズマ症?身近な人獣共通感染症の伝播サイクルとワンヘルスに基づいた対策の道筋 . Med  Entomol. Zool 2021 ; 72 ; 1 – 8 .

待たれる抗サイトメガロウイルスワクチン

待たれる抗サイトメガロウイルスワクチン  新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)は大半が軽症で自然経過しますが、ごく一部の人が重症化し時には死亡することもある感染症です。そこでこの厄介な感染症の症状の個人差や年齢差について、研究が続けられています。COVID-19では、高齢者が重症化しやすいことから加齢によるリスクファクターがあると考えられています。しかし、その実態は必ずしも十分に理解されていません。一般的にウイルスに対する免疫応答はT細胞が中心的な役割を果たし、ヘルパーT細胞とキラーT細胞が協調して働くことが、新型コロナウイルスの制御と排除に重要であると考えられています。高齢者はキラーT細胞において、ナイーブ型T細胞が若齢者に比べて有意に少なく、増殖能を失い最終分化した細胞や組織傷害をおこす可能性のある老化したT細胞の数が多いことが分かっており、これが高齢の患者で重症化しやすい理由の一つである可能性が考えられています1)。 近年、サイトメガロウイルス(以下CMV)などの潜伏感染ウイルスへの感染が、T細胞の構成を大きく変化させることが知られてきて、またワクチン効果にも影響するという報告があります。CMVは健常な人でも多くの人が感染しているウイルスであり、このウイルスに感染しているか否かが、新型コロナウイルスに対するT細胞の応答性にも影響を及ぼす可能性を考えて研究が行われました2)。  (NP ; naïve phenotype , CM ; central memory , EM ; effector memory , TEMRA ; terminally differentiated effector memory T cells re-expressing CD45RA ) 若齢者と高齢者から採取した血液のなかから、新型コロナウイルスと反応するヘルパーT細胞を選別し、分化段階の異なる4つの種類(NP、CM、EM、TEMRA)、さらに老化したT細胞に分けました。その結果、両者の間に差がありませんでした。反応ヘルパー細胞は若年者も高齢者も同じでした。  ヘルパーT細胞と同様に、新型コロナウイルスと反応するキラーT細胞を比較しました。ナイーブ型(NP)キラーT細胞は高齢者で有意に少なく、最終分化したキラー細胞(TEMRA)や老化したT細胞(CD57発現細胞)の割合は多くなりました。  高齢者ではすべての人で、若齢者ではおよそ半分の人で、CMVに感染していました。そこで、若齢者のうち、CMV非感染者(黄丸)と感染者(緑丸)とで、新型コロナウイルス反応性キラーT細胞の割合を調べた結果、感染者では、より高齢者に近い傾向、すなわち、ナイーブ型(NP)の割合が低下し、最終分化したT細胞(TEMRA)や老化したT細胞(CD57を発現する細胞)の割合が高くなる傾向がみられました2)。 著者らは本研究により、高齢者では新型コロナウイルスに対する免疫応答のうち、ヘルパーT細胞が関与する応答(抗体産生など)と比較して、ウイルス感染細胞を直接殺傷し排除するキラーT細胞の機能低下がより顕著であることが明らかとなりました。高齢の患者で重症化しやすい理由の1つが、反応性キラーT細胞の加齢に伴う変化である可能性と考えました。また、CNVに感染した若齢者の新型コロナウイルス反応性キラーT細胞の表現型は、非感染の若齢者のそれに比べてより高齢者に近かったことから、CMVの感染が、COVID-19の感染を重症化させる可能性があると推論しました2)。 CMVは、ヒトヘルペスウイルス(HHV)の仲間で世界中どこにでも存在する弱毒ウイルスです。HHVは1型から8 型まであります。CMV は、HHVの5型(HHV-5)にあたります。HHV の仲間は、初めての感染を受け症状が消えた後も、長期にわたって体内に潜伏・休眠状態で留まることができるという特徴を持っています。そして、ウイルスによっては病気や薬によって免疫がひどく低下したときにウイルスが潜伏・休眠状態から再び活性化し何らかの症状を現すことがあります。CMV の小児期の感染は無症状か通常の風邪症状で治るので診断されることはなく大半の人が自然に感染し、体内に潜伏させているウイルスで体に害があることはほとんどありません3)。しかし、妊娠中の母親が感染すると、胎児が難聴や脳障害をおこす先天性サイトメガロ・ウイルス感染症がおこり、近年増加傾向にあります。また成人になってCMVに感染すると肝炎を起こしたりして比較的重症化する場合があるので、現在の考え方としては、CMVというほぼ無害なウイルスはできるだけ幼少児期に早く感染しておいたほうが良いという考えが主流でした4)。 今回の研究では若年者がいつCMVに感染していたのか?は記載されていませんが、新型コロナウイルス感染症に関してはCMV感染の既往はマイナス面があるかもしれません。しかし、新型コロナウイルス感染がなお猛威を振るっている現在、私たちが行っている3密対策は幼児のころのCMV感染の機会までを予防することになり、その結果、妊婦が初感染し、先天性サイトメガロ・ウイルス感染症がさらに増加することが予想されます。この事態を想定して現在CMVに対するワクチン研究がすすんでおり、臨床試験も行われ良好な結果が得られています。しかし2009年の報告では5)、まだワクチンの有効性は対象者に比べて約50%程度感染を少なくさせた程度のものでした。しかしその後もワクチン研究は進められ、RNAワクチンを含めて多くのワクチンが臨床研究中です6)。しかしこれらのワクチンはあくまで妊婦さんを対象にしたワクチンであり、生涯のCMV感染症を予防するものではありません。 現状ではやはりCMVは幼児の頃に無症状感染し、生涯仲良く共生するしかないものと思われます。しかし、このように生涯潜伏感染するウイルスが人間にどのような害をもたらすのか?という研究はもっとすすめてもらいたいと思います。 令和5年5月13日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)免疫老化と新型コロナ感染症( COVID-19 )2)Norihide J et al ; Aging and CMV infection affect pre-existing SARS-CoV-2-reactive CD8+ T cells in unexposed individuals . Frontiers in Agingdoi: 10.3389/fragi.2021.719342https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fragi.2021.719342/full3)子供のうちに罹っておきたいサイトメガロ・ウイルス4)妊婦さん、子供の食べ残し食べないで5)Pass MD : Vaccine Prevention of Maternal Cytomegalovirus Infection . March 19, 2009N Engl J Med 2009; 360:1191-1199DOI: 10.1056/NEJMoa08047496)岡田 賢司 :予防/治療ができる小児の難聴とウイルス感染―現状と課題― . 日耳鼻 2020 ; 123 ; 223 – 231 .

原因不明の子供の肝炎。アデノウイルス?

原因不明の子供の肝炎。アデノウイルス?  原因不明の子供の肝炎が欧州で問題となっています。2022年4月23日、世界保健機関(WHO)は、4月上旬以降に169件の症例を確認し、「少なくとも子ども1人の死亡が報告されている」と発表しました。これまでのところ、この肝炎は欧州11カ国とアメリカの2つの州で確認されています。最も多いのがイギリスの114件で、10人の子供が肝臓移植を余儀なくされています。原因究明の結果、アデノウイルスが少なくとも74人の患者から確認され、少なくとも19人は新型コロナウイルスとアデノウイルスの両方に感染していたと、WHOは発表しました。F41と呼ばれるアデノウイルスが原因になっている可能性が高いとみています。この肝炎に感染している子供の大半は5歳以下で、下痢や吐き気といった胃腸炎を起こした後、皮膚と眼球結膜が黄色くなる黄疸が出現するそうです。現在までのところコロナワクチンとの関連性はなさそうです1)。 日本でも厚生労働省が25日に、同様の症例を国内で初めて確認したことを発表しました。 アデノウイルス(Adenovirus)はエンベロープを持たない直径 70~90nm の 2 本鎖 DNA ウイルスで、A~F の 6 亜属に分類されます。現在確認されている 51 種類の血清型は A~F の亜属の中に分類されており,表 1 にその分類を示します2)。 文献2)より転載 アデノウイルスは世界中に分布し、一年を通じて感染する可能性の高いウイルスで、一部のウイルスはある季節に集中する傾向があります。症状は呼吸器系の症状だけでなく、眼症状、消化器症状など多岐に渡り、それぞれ感染するアデノウイルスの型によって症状が異なります。現在、51の血清型が知られています。基本的にはやや重症感のある風邪症状で重症になることはありません3)。 文献2)より転載  アデノウイルスは乳児における急性呼吸器疾患では 5~8% を占めると考えられており、約半数の学童は呼吸器疾患を起こす主要なウイルス血清型(主に 1~7 型)に対する抗体をもち、ほぼすべての成人にはこれらに対する抗体が認められています。つまり普遍的に存在する風邪ウイルスで大半の人が知らないうちに感染しているウイルスと言えます2)。しかし、ごくまれに重症化する子供も存在し、特に7型は他の血清型と異なり乳幼児に重症肺炎を惹起し高率にARDSをきたし、7型肺炎の死亡率は18%とも報告されています4)5)。また3型は最も良く見られる血清型ですがこれによる重症脳炎の報告もあり、この重症化には過剰なサイトカインによる影響が考えられています6)。その他劇症肝炎や心筋炎をおこして重症化した例も報告されています。アデノウイルスの人体への毒性は、ウイルス株の毒性と、個人の免疫状態で左右されるものと思われます。 アデノウイルスは呼吸器疾患を引き起こすウイルスの中では、数少ない小腸上皮で増殖できるウイルスの一つです。したがって飛沫感染も重要ですが糞便からの多量のウイルス排出に伴う接触感染を感染対策としてはより重視すべきです。特に便には感染後も数か月間、ウイルス排出が続く傾向があります。またアデノウイルスは乾燥に強く、自然乾燥に対しても1週間以上にわたり感染力を保持し続けます。すなわち、体外でも数週間にわたり生存可能なので消毒は速やかに行う必要があります2)。エンベロープを持つ他のウイルスに比べても、アルコールに対する抵抗性は強く70~80% のアルコールであれば、最低限 2 度拭きは必要とされています。しかしアルコール性の消毒剤のウエルパスは30秒で99%のウイルス不活化作用があると記載されており手指の消毒用として有用です5)。 アメリカでは新兵のアデノウイルス感染による急性呼吸器疾患の発生が問題となり、ワクチンの接種が 1971 年から 1999 年まで行われており、90%以上の効果があったのですが製造中止となり、現在はワクチンは存在していません。また有効な抗ウイルス剤も存在しません。感染予防のみが有効な手段です。 アデノウイルスの感染診断補助として日常的にイムノクロマトグラフィー迅速診断キットが使用されています。10~15 分の短時間で判定可能であり、一般に感度は 60~80% 、特異度は 90% 以上と診断に極めて有用とされています2)。検査成績に影響を与えるのは、検体採取手技で、すべての病型で、両側扁桃と上咽頭を含む咽頭後壁を丁寧に数回拭うことが必要とされています2)。しかし、検査キットは多数発売されていますが検査キット間での感受性の差があり、またアデノウイルスは血清型が多く存在するため検出しにくい血清型があるようです7)。 今回問題になっている子供の原因不明の重症肝炎の原因がアデノウイルスと決定したわけではありませんが、消毒が難しく、また便から長期間排出されるなどの特徴があり知っておかなければならない感染症です。また、他のウイルスが原因であったとしても、新型コロナウイルスのパンデミックによって、幼い子供たちが生活の中で他のウイルス感染症にも罹らなくなっため、ウイルスにさらされる時期が遅くなり、免疫反応が激しくなっている可能性もあります。 アデノウイルスは早く感染しておいた方が良いのでしょうか?それとも現在は徹底的に消毒すべきなのでしょうか?難しい問題です。やはりアデノウイルスワクチンが接種可能になる方が良いのでしょうか? 令和4年4月28日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)Adenovirus probable cause of mysterious child hepatitishttps://www.bbc.com/news/health-612205182)南波 広行 : アデノウイルス感染症 . 耳展 2008 ; 51:6;456 – 461 .3)アデノウイルス感染症が増えてきました4)酒井 忠和ら:アデノウイルス肺炎2剖検例 . 日本小児呼吸器疾患学会雑誌 2003 ; 14 ; 11 – 15 .5)藤本 嗣人:アデノウイルす感染症の診断―免疫クロマトキットを中心にー. Sysmex journal 2007 ; 8 ; 1 – 7 .6)岡本 健太郎ら:アデノウイルス3型による脳炎・脳症の2例 . 脳と発達2004 : 36; 4487 – 491 .7)大宮 卓ら:イムノクロマト法を原理とする種々のアデノウイルス迅速抗原検出キットの,ウイルス検出感度の比較 . 医学検査 2015 ; 64 ; 319 – 323 . 

誤嚥性肺炎で嫌気性菌は意外と少ない

誤嚥性肺炎で嫌気性菌は意外と少ない  肺炎は社会の高齢化を反映してその死亡者数は徐々に増加し、2011 年に初めて本邦の死亡原因の第 3位となりました。肺炎による死亡者の 95% 以上が 65 歳以上の高齢者で、入院を要する肺炎患者のうち、60 歳代では約 50% が誤嚥性肺炎で、さらに、年代が上昇するごとにその割合は上昇すると報告されています。高齢者肺炎や誤嚥性肺炎の治療は現在でも重要な課題となっております。 誤嚥(Aspiration)とは雑菌を含む唾液などの口腔・咽頭内容物,食物、まれに胃内容物を気道内に吸引することで、結果として生じる肺炎です。誤嚥性肺炎(広義)は,臨床上おおまかにAspiration pneumonia(狭義の誤嚥性肺炎)とAspiration pneumonitis(誤嚥性肺障害:メンデルソン症候群も含む)に分けられますが、両者はオーバーラップする事もあります。 文献1)より転載  高齢者の肺炎の多くはAspiration pneumonia(狭義の誤嚥性肺炎)であり,その危険因子として最も重要なものは脳血管障害などに併発しやすい不顕性誤嚥です。肺炎を繰り返す高齢者の多くは、不顕性誤嚥によって口腔内雑菌を気管や肺に吸引し、肺炎を発症するのではないかと考えられています1)。通常、口腔・咽頭内容物が気道内に侵入すると、健常人では激しい咳によってこれを排除しようとする咳反射が働きますが、肺炎を繰り返す高齢者ではこの咳反射の低下もしばしば認められます。不顕性誤嚥は、脳血管障害の中でも特に日本人に多い大脳基底核病変を有している人に多く認められます。大脳基底核は穿通枝領域にあり,もともと脳梗塞を起こしやすい部位ですが、その障害はこの部位にある黒質線条体から産生されるドーパミンを減少させます。ドーパミン産生の減少は、迷走神経知覚枝から咽頭や喉頭・気管の粘膜に放出されるサブスタンスP(以下SP)の量を減少させます。SPは嚥下反射および咳反射の重要なトリガー(引き金)であるためSPの減少は嚥下反射と咳反射を低下させます。実際に、繰り返し肺炎を起こす高齢者から得られた喀痰中のSPの量は,健常人に比べて減少していることも報告されています1)。特に、嚥下反射は夜間に低下しやすく、高齢者の肺炎の多くは夜間に始まるのではないかと考えられています1)。しかし、誤嚥性肺炎をはっきり診断する基準があるわけではなく概念的診断ともいえます。 誤嚥性肺炎の予防はやはり口腔内ケアが重要と考えられますが、欧米の多くの研究ではなかなか有意差をもってその有効性を証明するものがありませんが、chlorhexidine(ヒビテン)による口腔ケアの5 つの meta-analysis では、口腔ケアは肺炎予防に有用(odds ratio、0.4-0.6)でしたが、ヒビテンの誤嚥には注意するように記載されていました2)。また、8,693 人の meta-analysis で ACE 拮抗剤使用は誤嚥リスクを軽減したとのデータ(Odds ratio 0.6)がありました。ACE 拮抗剤による substance P 上昇によるのではと言われています。なお Cilostazol(プレタール)も脳卒中後の肺炎予防に効果あるかもしれないとのことです。 近年、感染症の原因菌検索においても分子生物学的手法が用いられるようになり、従来の培養法に比べてより高い検出率を示すことが報告されてきました。細菌のみが保有する 16S ribosomalRNA(rRNA)遺伝子を直接解析することで培養に依存せずに原因菌を網羅的に検索することが可能となりました3)。この検査法はまだ一般臨床では使用できませんが、様々な感染症の原因診断の研究に用いられるようになりました。 2000年代の誤嚥性肺炎の起炎微生物の検討では、これは喀痰培養による検討ですが、一位が嫌気性菌で、以下肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌の順でした。そしてこれまで2位以下の起炎菌の順番が多少の入れ替わりはあっても、嫌気性菌が一番重要であることは変わりありませんでした4)。しかし迎らは、誤嚥性肺炎患者の気管支肺胞洗浄液の網羅的細菌叢解析法を用いて原因菌検索を行いました。細菌培養法と違い全例で原因菌が判明しました。それによると一番多かった原因菌は口腔内連鎖球菌で23.2%で、従来から一番多いとされてきた嫌気性菌は10%にとどまり、以下黄色ブドウ球菌7.3% 、緑膿菌9.8% でした。誤嚥性肺炎において、嫌気性菌の関与は従来考えられていたよりも少ない可能性があり、特に,高齢者の呼吸器感染症では嫌気性菌より口腔内連鎖球菌などの口腔内常在菌が重要である可能性があると報告しました3)。この起炎菌の変化は検体の採取法や検出法の変化に伴う結果と考えられますが、実際の起炎菌として嫌気性菌は減少しているとの意見もあります2)。また、肺膿瘍や膿胸、壊死性肺炎などの特殊な肺炎を除いては肺炎の起炎菌として嫌気性菌を考える必要はないのではという意見もあります2)。ちなみにここでいう嫌気性菌とは偏性嫌気性のことを指しており、好気性代謝ができず,酸素に対する耐性は菌種によって様々ですが基本的に酸素が苦手な細菌です。偏性嫌気性菌は,酸素に対する耐性によって以下のように分類されます。絶対(strict):0.5%未満の酸素にしか耐えられない。中等度(moderate):2~8%の酸素に耐えられる。耐気性嫌気性菌(aerotolerant anaerobes):大気中の酸素に一定時間耐えられる。感染症をよく引き起こす偏性嫌気性菌は,大気中の酸素に対して最低でも8 時間,しばしば72時間まで耐えることができるとされています。偏性嫌気性菌とそれらが起こす疾患としてかきのようなものがあります。グラム陰性嫌気性菌とそれらが引き起こす感染症としては,以下のものが挙げられるます:Bacteroides属(最もよくみられる):腹腔内感染症Fusobacterium属:膿瘍,創傷感染症,ならびに肺および頭蓋内感染症Porphyromonas属:誤嚥性肺炎および歯周炎Prevotella属:腹腔内および軟部組織感染症グラム陽性嫌気性菌とそれらが引き起こす感染症としては,以下のものが挙げられます:Actinomyces属:頭部,頸部,腹部,および骨盤内感染症ならびに誤嚥性肺炎(放線菌症)Clostridium属:C. perfringensによる腹腔内感染症(例,クロストリジウム壊死性腸炎),軟部組織感染症,およびガス壊疽、食中毒、ボツリヌス症および乳児ボツリヌス症、破傷風、偽膜性大腸炎。Peptostreptococcus属:口腔,呼吸器,および腹腔内感染症Propionibacterium:属:異物感染症(例,髄液シャント,人工関節,心臓用器具)などです。 肺炎全体から嫌気性菌の関与を見た場合、市中肺炎で15.6%、院内肺炎で9.8%に嫌気性菌が検出されており、市中肺炎の方がより高率に検出されたこと、一方で口腔内レンサ球菌に関しては,市中肺炎で9.4%、院内肺炎で23.2%と高い頻度で検出され、特に75歳以上の高齢者や全身状態が不良な患者において肺炎発症に重要な役割を果たしている可能性が報告されています。誤嚥性肺炎における第一優占菌種(各症例においてもっとも検出割合が高い菌種)としては,口腔レンサ球菌が検出され(誤嚥性肺炎群31.0%,非誤嚥性肺炎群14.7%)、一方,嫌気性菌に関しては、誤嚥性肺炎群6.0%、非誤嚥性肺炎群17.9%であり、誤嚥性肺炎群で嫌気性菌は多くはないと報告されています5)。 結論として、肺炎のなかで嫌気性の関与は従来よりいわれてきたよりはその頻度は少なく、誤嚥性肺炎より非誤嚥性肺炎のほうが頻度が高いものという可能性が考えられてきました。 令和4年4月20日菊池中央病院  中川義久 参考文献:1)大類 孝ら:感染症予防と対策 1.高齢者肺炎・誤嚥性肺炎 . 日内会誌 2010 ; 99 ; 2746 – 2751 . 2)Lionel A. Mandell et al : Aspiration Pneumonia . N Engl J Med 2019; 380:e403)迎 寛:肺炎診療:細菌叢解析でわかった新たな知見~呼吸器感染症における嫌気性菌の役割 . 日本化学療法学会誌  2016 ; 64 ; 647 – 651 .4)河合 伸:誤嚥性肺炎の予防と治療 . 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2008 ; 18 ; 209 – 212 .5)赤田 憲太朗ら:誤嚥性肺炎の病態および原因菌について . 産業医科大学雑誌 2019 ; 41 ; 185 – 192 .

動物の出産に関連して発熱!!―ブルセラ症―

動物の出産に関連して発熱!!―ブルセラ症―    ブルセラ症(Brucellosis)は、ブルセラ属菌(Brucella spp.)により引き起こされる世界的に重要な人獣共通感染症です。食料や社会・経済面で動物への依存が強い国や地域、家畜衛生対策が進んでいない地域で非常に多くの患者・患畜が発生しており、世界中で年間 50 万人を超える家畜ブルセラ菌感染患者が新規に発生しています。本邦では家畜衛生の徹底により1年に数例の報告があるのみです。ブルセラ属菌はグラム陰性、偏性好気性短小桿菌で、芽胞や鞭毛を持たず細胞内寄生性です。 通常、潜伏期は 1 ~ 3 週間ですが、時に数カ月になることもあります。軽症では単に風邪様の症状を示すのみです。総じて、他の熱性疾患と類似していますが、筋肉・骨格系に及ぼす影響が強く、全身的な疼痛、倦怠感を示します。発熱は主に午後から夕方に認められ、時に40℃以上となることもありますが、発汗とともに朝には解熱します。このような発熱パターン(間欠熱)が数週間続いた後、症状の好転が 1 ~ 2 週間認められますが、再び発熱を繰り返す(波状熱)こともあり、非常に再発しやすい感染症として知られています。病気の期間は、数週間から数カ月、年余に及ぶこともあります。臨床症状により、急性型、限局型、慢性型に分けられます。未治療時の致死率は 5%程度とされ、その大半は心内膜炎です。これといった特徴的な症状は見られず、ひどい風邪様で、患者がまれにしか報告されない日本では、症状のみからブルセラ症を疑うことは困難と思われます1)。 ブルセラ属菌は非常に感染しやすく 10 ~ 100 個の菌で感染します。家畜ブルセラ菌感染では、感染動物の加熱(殺菌)不十分な乳・チーズなど乳製品や肉の喫食による経口感染が最も一般的です。また、流産時の汚物への直接接触、汚染エアロゾルの吸入によっても感染します。ヒト-ヒト感染は、授乳や性交などが報告されていますが、まれです。家畜のブルセラ対策が進んだ国では、海外からの帰国者、危険食品の摂食者、および一部のハイリスク集団(酪農家、獣医師、と畜場従業員、実験室感染)に散発的に認められます。本菌は環境・食品中で長期間、生残し、感染源となり、特にナチュラルチーズ中では、数カ月も生残することが知られています。流行地の露店などで売られている手作りナチュラルチーズなどは、加熱処理が不十分なことがあり、感染源となることがあります1)。本邦では家畜のブルセラ症は完全に駆逐されていますが、イヌは数%程度が本菌を保菌しておりイヌ繁殖施設での集団発生などがしばしば報告されています。ときにヒトへの感染例も報告されていますが、イヌブルセラ菌は家畜由来菌よりもヒトへの病原性が低く,発症例も比較的軽症例が多いといわれています。ヒトへの感染例は動物の出産~流産に立ち会った場合が多く、動物の胎盤に多く生息していることが分かっています2)。 ブルセラ症とは?https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/2_imaoka-2.pdfより引用 ブルセラ属菌は細胞内寄生菌であり,抗体は菌の排除にはあまり役に立ちませんが、抗体の存在は菌が存在し抗原刺激を与えている可能性を示唆することから、抗体検査の診断的意義は非常に大きいと考えらえます。そのため、不明熱患者で診断がつかない場合、ブルセラ症の抗体を測定することも検討すべきです。本邦では、抗体検査に試験管内凝集反応を用いる民間の臨床検査機関に保険適用で検査依頼をすることが可能です。一方,血液培養は、急性期のブルセラ症については分離率・特異度とも良好ですが、慢性化した症例では分離率は低く、また、菌の発育に時間がかかることもあり、少なくとも28日間は培養を継続すべきであるとされています。  ブルセラ症の治療法を示しました。1986 年の WHO 専門家委員会では成人に対する推奨療法は DOXY + RFP でしたが、最近の報告 では、RFP は血中からの DOXY のクリアランスを早めることや、脊椎炎などの合併症に対する治療効果から、DOXY + SM を推奨しています。 また、GM の方が SM よりも、治療の中断や変更をもたらすような副作用が少ないともいわれており、 DOXY + GM が第一選択と考えられています。ただ、 実際の治療では、注射(GM/SM)ではなく経口 (RFP)で行える利便性は、無視できない点でもあります。いずれにしても、2 剤もしくは 3 剤(DOXY + GM + RFP)併用が原則で、単剤での治療やその他、治療が不十分な場合には再発のリスクが非常に高くなります。治療は、本菌が細胞内寄生性を持つため、長期間投与が必要です。 近年、原因動物不明のブルセラ症の家族内発症例も報告されており4)、いままで考えらえていた以上に日本中にブルセラ症が蔓延している可能性があり、不明熱と考えられる症例に遭遇した時に念頭におくべき疾患と考えられます。また、Q熱と同様に診断が難しい疾患ですが、動物の出産に立ち会ったというエピソードを聞き出すことが解決の道筋になる場合もあると考えられます。 令和4年4月4日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)今岡 浩一:ブルセラ症の最近の話題 . モダンメディア 2009 ; 55 ; 18 – 26 .2)高橋 洋:コンパニオンアニマルと感染症. 日内会誌 2010 ; 99 ; 2682 – 2688 .3)今岡 浩二:ブルセラ症の現状と対応 . 感染症TODAY ラジオ日経 2019年1月9日 .4)小野寺 翔ら:家族内に複数人感染がみられた新規ブルセラ属菌感染症の1例 . 日内会誌 2020 ; 109 ; 590 – 597 .  

現代人はほぼ全ての人がビタミンDを摂取すべき

現代人はほぼ全ての人がビタミンDを摂取すべき  ビタミンDは油に溶けやすい「脂溶性ビタミン」の一つです。化学的には植物性の「ビタミンD2」と動物性の「ビタミンD3」に分けられます。ビタミンDは食品から摂取するほか、身体の中で合成することでも供給されます。動物の皮膚では紫外線を浴びることでビタミンD3が合成されます。そのため日光に当たる機会が少ない人は特に不足しやすい傾向にあるといわれています。ビタミンDの働きは骨・カルシウム代謝の正常化免疫調整作用がん、感染症、自己免疫疾患などの予防糖尿病予防精神疾患:鬱病・社会不安障害予防脳神経:認知症予防筋力低下予防死亡率低下:アンチエイジング などが報告されています1)。 ビタミンDが不足すると多彩な健康障害を引き起こす可能性があります。近年、新型コロナウイルス感染症とビタミンDの関連性が多く報告されており、米国の19万人を対象とした研究で、血液中のビタミンD濃度が高いほどPCR陽性率が下がる傾向がみられており、スペインからの報告では新型コロナウイルスの感染で入院した約400名の患者にビタミンDを投与したところ重症化率や死亡率を大きく減らすことができたことが報告されています2)。ビタミンDは免疫を高める効果があることは以前から認められていましたが、新型コロナウイルス感染にも有効のようです。       新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延する環境下で、医療従事者の長期間の屋内生活でのビタミンDへの影響はどれぐらいあるか?という研究結果が報告されました3)。  ビタミン D 欠乏の判定は血清 25(OH)D 濃度測定により判定され、充足レベルは 30 ng/mL 以上、不足レベルは 20 ~ 30 ng/mL、欠乏レベルは 20 ng/mL 未満とされていますが、上のグラフを見ると青い点が男性、赤い点が女性ですが両者ともに大半が20以下の欠乏レベルになっており、30以上の充足レベルの人はほとんどいないことが見て取れます。これはコロナ禍で十分な休養が取れずに日光にあたることができなくなった結果と考えられますが、コロナ禍以前の熊本県玉名市の病院に勤務する 23 ~ 58 歳までの 40 名の検討でも 70%がビタミン D が不足しているという報告もあります4)。さらに高齢者は小食で、しかも寝たきりになると屋外に出ることも少なくなるためより一層ビタミンDが不足しがちで、特に高齢者施設に入所中の人は、98%がビタミン不足だったという報告もあります4)。熊本県の調査では、ビタミン D の不足と手足の日焼け止め使用の間に関連があり、ビタミン D 栄養状態には、皮膚での産生が大きく寄与することが確認されています5)。従来の報告のように、皮膚での紫外線によるビタミン D 産生はビタミン D 必要量に対して80 ~ 90%程度の寄与を示すという報告と一致したものと思われます。ビタミン D を充足するには皮膚への紫外線照射が不可欠と言えます。しかし、最近の美容意識の高まりで、特に女性は紫外線によるシミ・しわを回避したいでしょうし、高齢者は紫外線照射によるビタミン D 産生能も低下しますし、また、最近のコロナ禍で外出自粛を強いられている多くの人たちは日光を浴びるのもままならないでしょう。英国の NHS(National Health Service)では、COVID-19 に関する啓発の中で,外出抑制に伴う皮膚でのビタミン D 合成低下に対する対策として、ビタミン D サプリメントの利用も考慮すべきとしています6)。 ビタミンDの内服薬には活性型と天然型があります。病院で処方される医薬品としてのビタミン D は量が多く、活性型なので医師と相談しながら定期的な採血が必要です。サプリメントとして販売されているのは天然型で、活性型へ転換するのは体内での代謝が必要で、微妙にコントロールされているので過剰症になることはほぼありません。副作用がなく、より自然な形として体内で利用される天然型のサプリメントの服用が優れています。服用のタイミングは1日の中で朝が自然の形に近く推奨されます。また、眠前に服用すると睡眠障害を起こすこともあります2)。サプリメントのビタミンD製剤の原料はほとんどが羊毛から取れるラノリンという脂質です。羊毛は無尽蔵に採取できるため、ラノリンの原価は安価であり、ビタミンDのサプリメントは他のビタミン類のサプリメントと比較して最も安価です。しかし市場価格には幅があり、1か月あたりのコストは、200~4000円と20倍の差があります。価格による製品品質の優劣のデータはありませんが知りたいところです。 ビタミンDを食品でのみ充足させるのはほぼ不可能で、日光浴をするしか仕方ありません。夏に半袖半ズボンで週3日、15~30分の日光浴をすれば至適濃度が維持されると言われていますが2)、非現実的と思われますので、特別に日光に当たる人以外は現代人すべての人がビタミンDサプリメントを服用すべきと思われます。 令和4年3月25日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)桒原 晶子:脂溶性ビタミンの臨床的意義およびその必要量の検討 . 日本栄養食料学2017 ; 70 ; 257 – 262 .2)満尾 正:ビタミンDサプリメントを考える . 日本抗加齢医学会雑誌 2021 : 17 : 35 – 40 .3)船木 貴則ら:COVID-19パンデミック中の医療従事者の深刻なビタミンD欠乏症 http://dx.doi.org/10.1136/bmjnph-2021-0003644)桒原 晶子:日本人のための「ビタミン D 欠乏チェック質問票」作成のためのパイロット研究 . ビタミン 2018 ; 92 ; 303 – 312 .5)桒原 晶子:脂溶性ビタミンの臨床的意義およびその必要量の検討 . 日本栄養食料学2017 ; 70 ; 257 – 262 .6)桒原 晶子:日本人のための「ビタミン D 欠乏チェック質問票」作成のためのパイロッ ト研究 . ビタミン 2018 ; 92 ; 303 – 3126)サプリメントとしてのビタミン D

動物の出産に関連して発熱!!―Q熱―

動物の出産に関連して発熱!!―Q熱―  あるキーワードやエピソードで特有な感染症を想起すべきことがあります。それに気づかないと診断に遠回りをすることがあります。 動物の出産~流産に立ち会ったのがきっかけで発熱をした、という患者さんの訴えで思い浮かぶ感染症が二つあります。Q熱(コクシエラ症)とブルセラ症です。今回はQ熱に関して調べてみました。 Q熱は、コクシエラ属の細菌による感染症です。「Q熱」の名称は、オーストラリアの食肉解体処理場の従業員の間で流行した原因不明の熱性疾患が「query=不明」の頭文字をとり”Q fever”として報告されたことに由来します。世界中で発生がみられ、我が国でも患者の報告があります。   原因と感染経路       Q熱https://aichi-vet.or.jp/business-details/zoonosis/coxiellosis.htmlより引用 Q熱病原体は、コクシエラ科コクシエラ属のCoxiella burnetiiです。本菌はリケッチアや クラミジアなどと同様に偏性細胞内寄生性ですが、これらの菌がほぼ単一の宿主に寄生するのとは異なって感染宿主域が極めて広範であると共に、熱や乾燥、消毒剤、紫外線などに対 する抵抗性が強いため、ヒトへの感染力は極めて強いといわれています1)。欧米と同様にわが国でも様々な野生動物、家畜やペット、鳥類におけるコクシエラ抗体陽性率や保菌率が高いものの、感染動物の殆どは無症状であり,しかしながら保菌状態は長く続きます。多くの場合、本菌は寄生動物の妊娠時に胎盤で増殖することが多く、これらの動物の流産の原因となることもあります。流産時や出産時に本菌が周囲に散布され、さらに放置されて乾燥した排泄物や分泌物が崩壊するとエアゾルが生じ、それをヒトが吸入するとQ熱の感染が成立します。エアゾルは風に乗って飛散するため動物との接触がなくとも容易に感染は広まりますが、一方でヒト―ヒト間の感染は極めて稀とされています2)。 急性Q熱は感染菌量の程度によって無症候性の不顕性感染から発症まで様々の病態を示しますが、半数前後は不顕性感染で終わります。発症する例の潜伏期間も 1~3 週間と幅広く、感染の機会を特定できない例が多いとされます。発症例の殆どがインフルエンザ様症状(高熱、倦怠感、筋肉痛、関節痛など)で始まり、上気道炎や気管支炎、肺炎などの病態を呈するものの、多くは一過性の熱性疾患として経過し、予後は良好です。一部の例では潜伏期後期に一過性の菌血症を呈して全身の各臓器に多彩な感染症を発症することがあり、脳炎や髄膜炎、視神経炎、心筋炎、甲状腺炎、不明熱など多彩な病型を呈します。重症化には「肺炎型」「肝炎型」「不明熱型」のパターンがあります。それぞれの症状にQ熱として特徴はありません。肺炎型では低酸素血症を起こすなど比較的症状が重く、肝炎型では肝腫大、脾腫、右上腹部痛などがみられます。不明熱型は発熱以外の症状は比較的軽いとされています。  診断は抗体価測定ですが抗体価上昇には数か月を要することがあり、また保険収載されておらず、PCR検査も研究段階なので現在でも病原体診断は不可能な状態です。しかし、北里大学病院にはQ熱外来があ(https://www.kitasato-u.ac.jp/hokken-hp/visitor/section/soc/qfever/)自費診療で抗体検査とPCR検査が可能です。北里研究所生物製剤研究所では積極的にQ熱の抗体検査やPCR検査を行っており、全国からの検体検査に応じており、約半数が不定愁訴を有する慢性Q熱疑いが背景にある患者検体ですが、983例中、124 例(12.6%)がQ熱陽性で、33 例(3.3%)が確定診断例でした4)。わが国にも広くQ熱が蔓延していることが示唆されています4)。 海外では家畜の出産シーズンに感染が発生することが多く、出産時の動物(愛玩動物も含め)、特に死・流産などをおこした動物の取り扱いには要注意です。流産胎盤などは焼却し、汚染された環境はクレゾール石けん液、5%過酸化水素水で消毒します。また、オーストラリアでは屠畜場の従業員などハイリスク群にはワクチンが使用されています、わが国では使用できません5)。 Q熱コクシエラは偏性細胞内寄生菌なので、ペニシリン系やセフェム系などのβ-ラクタム薬は細胞内移行が不良のため基本的に無効で、第 1 選択薬はテトラサイクリン薬です。同様にマクロライド薬やキノロン薬も有効です。他の非定型肺炎の場合と同様に、いずれの薬剤も 2~3 週間の投与期間を要します。 感染症法では、四類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄の保健所へ届け出ることが義務づけられています。 令和4年3月4日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)渡辺 彰:Q熱 . 日内会誌 2005 ; 94 ; 2313 – 2318 .2)渡辺 彰ら:人獣共通感染症 Q熱 . 日内会誌 2007 ; 96 ; 2406 – 2412 .3)渡辺 彰:Q熱診療の最前線 . 日内会誌 2008 ; 97 ; 423 – 429 .4)小宮 智義:Q熱診断の現状 Recent diagnosis for Q fever 話題の感染症 . モダンメディア 2004 ; 50 ; 127 – 132 5)Q熱とは 国立感染症研究所https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/391-q-intro.html

致死的上気道炎-メトロニダゾールを使用?ー

致死的上気道炎-メトロニダゾールを使用?ー  急性咽頭炎(上気道炎)はその起炎微生物として大半がウイルスおよび、ごく少数が細菌と考えられています。しかし,この 2つの起炎微生物を局所所見のみで的確に鑑別するのは実際には困難で、A 群 β 溶血性連鎖球菌(以下 A 群 β溶連菌)迅速抗原検査または細菌培養検査の結果あるいは血液生化学検査の結果をもとに鑑別するようになります。しかし、日常の診療で急性上気道炎の患者さんにこれらの検査を行うのは非現実的です。  「微生物薬適正使用の手引き」においては表1に示すごときRed flag がなく、A群β溶連菌の迅速抗原検査または細菌培養検査が陰性の場合には抗菌薬治療が不要であり、Red flag が陽性の場合には精査が必要と記載されています1)。しかし、葛原らのPCRを用いた検討では、細菌単独感染は43.8%、混合感染が10%,ウイルス単独感染が8.8%であり、従来考えられているよりはウイルス感染より細菌感染が多いのではないかと報告しています1)。細菌が関与した上気道感染症の原因菌としてはやはり、A群β溶連菌が約15%を占め、その他,C群およびG群β溶連菌が多く、連鎖球菌群が大半を占めると報告されています2)。したがってペニシリンをはじめとしたβラクタム剤の投与が推奨されています2)。しかし、一部にはβラクタム剤の投与にもかかわらず、病状が進行して致死的な上気道炎3)となることがあり、その一つがレミエール症候群(Lemierre 症候群)です。 レミエール症候群は抗菌薬の普及により「forgotten disease」と言われるまで発症率は減少していましたが、耐性菌の増加や咽頭炎に対する抗菌薬の使用率が減少したためか、近年になり報告数は増加傾向です。咽喉頭領域の先行感染(多くはいわゆる上気道炎)の後に内頸静脈の血栓性静脈炎を併発し、そこから菌が血中に侵入し菌血症をおこし肺を初めとした全身の膿瘍形成をきたす重症で致死的な感染症です4)。診断基準は確立されたものはありませんが、Sinave の診断基準では ①先行する嫌気性菌による口腔咽頭部の感染 ② 少なくとも1回の血液培養陽性が認められる敗血症 ③ 内頸静脈の感染性血栓症 ④ 1ヵ所以上の遠隔感染巣,の4項目すべてを満たすものとされています5)。レミニール症候群の原因菌の大半はフソバクテリウム・ネクロホラム(Fusobacterium necrophorum)(以下 F.ネクロホラム)という嫌気性菌です。嫌気性菌であるために培養が難しく、もちろん簡易迅速検査もないため今まで上気道炎の原因として考えられることはありませんでした4)。しかし、2015年以降、上気道炎の原因菌として F.ネクロホラムを重要視する論文が相次いで報告され、近年のPCRを用いた単施設の研究ではF.ネクロホラムは若年の咽頭炎の原因菌としてA群溶連菌と同程度の頻度であったと報告されています6)。F.ネクロホラムはβラクタマーゼを産生するものがあり、βラクタム剤を使用する場合はβラクタマーゼ阻害剤との合剤、もしくはカルバペネム系抗菌薬の使用が考慮されます。しかし、最も有効なのはメトロニダゾールであり、口腔内連鎖球菌もカバーする目的でセフトリアキソンとメトロニダゾールの併用がよく用いられます。クリンダマイシンはin vitroでメトロニダゾールより抗菌活性が劣っていたと報告されています6)。 メトロニダゾールは通常あまり使用する抗菌剤ではありませんが、菌体または原虫内で還元されてニトロソ化合物となります。このニトロソ化合物が、嫌気性菌または原虫に対して強い抗菌活性や抗原虫活性を有します。特に嫌気性菌感染には効果を発揮し、クロストリジウム・ディフィシルによる感染性腸炎や破傷風には第一選択として使用されます7)。メトロニダゾールの経口吸収率はほぼ 100%です。そのため点滴静注用は内服困難な症例に適応は限られるとして良いでしょう。メトロニダゾールは抗結核作用があり、低酸素状況になると通常の抗結核薬やキノロンよりむしろメトロニダゾールのほうが抗結核作用が顕著になるそうです。そのため肺炎の診断でメトロニダゾールを使用した結果、結核の診断が遅れてしまった例も報告されています6)。臨床試験では 36.8%と比較的多い副作用が認められていることに注意すべきです。主な副作用は下痢(23.7%)、悪心(5.3%) などで、重大な副作用は中枢神経障害、末梢神経障害、無菌性髄膜炎、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、急性膵炎、白血球減少、好中球減少が報告されています。このなかでも稀ですが(頻度不明)メトロニダゾール脳症が特徴的で注意すべき副作用です。疑わないと診断が不可能とされています。 咽頭痛は救急外来を受診する理由の中で最も多いものの1つで人口10万人あたり毎日69人が受診しているとされています6)。大半がウイルス性で抗生剤は不要と言われてきましたが、PCRによる最近の検討では想定以上に細菌性が多く、F.ネクロホラムを想定するとペニシリン単独ではなく、βラクタマーゼ阻害剤合剤の方が良いかもしれません。 令和4年2月21日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)宇野 芳史:急性咽頭炎,急性扁桃炎の抗菌薬治療を考える―薬剤耐性(AMR)菌時代の適切な抗菌薬治療― . 日耳鼻感染症エアロゾル会誌 2020 ; 83 ; 184 – 192 .2)山城 清二:成人気道感染症診療の基本的考え方 . 日内会誌 2009 : 98 ; 424 – 428 .3)内藤 亮:Lemierre 症候群の 1 例 . 日呼吸誌 2011 ; 49 ; 449 – 453 .4)致死的上気道炎―レミニール症候群―5)冨岡 亮太ら:当院で経験したレミエール症候群の1例 . 口咽科 2017 ; 30 ; 257 – 260 .6)岡本 耕:レミニール症候群とkiller sore throat . 日内会誌 2021 ; 110 ; 1803 – 1807 .7)メトロニダゾール点滴静注

5歳からの新型コロナワクチン接種開始

5歳からの新型コロナワクチン接種開始  新型コロナウイルスワクチンの接種について厚生労働省は5歳から11歳までの子どもも対象に加えることを正式に承認しました。子どもへの接種をめぐっては去年5月に接種の対象が12歳以上になり、11月には5歳から11歳までも対象に加えるようファイザーから承認の申請が行われました。厚生労働省は12022年1月20日夜、専門家でつくる部会で検討した結果、ワクチンの有効性や安全性が確認できたとして21日、申請を正式に承認しました。これまでワクチンの対象年齢は、▽モデルナが12歳以上、▽アストラゼネカが原則40歳以上となっていて、12歳に満たない子どもの接種が承認されたのは初めてです。厚生労働省は5歳から11歳への接種をことし3月以降に開始し、医療機関での個別接種や自治体による集団接種の中で行うことにしています(2022年1月21日 18時33分 共同通信)。 厚労省によると、10歳代以下の新型コロナの新規感染者数は昨年12月から増加に転じ、1月12〜18日で10歳代の新規感染者は2万6,560人、10歳未満は1万3,050人で、全体の24%を占めるまでになっています。オミクロン株の流行が先行する沖縄県では、1月上旬までの20代を中心とした爆発的な感染拡大は収まりつつありますが、小児や高齢者へ感染拡大し始めています。1月17〜23日には全年齢層のなかで10歳代の感染、10歳未満の感染がそれぞれ約15%を占めています1)。5〜11歳の新型コロナウイルス感染症患者の大多数は軽症です。2020年1月〜2021年2月にコロナ感染により入院した18歳未満の小児患者1,038人を対象にした検討では、無症状の患者は308人(30%)、何らかの症状があった患者は730人(70%)で、症状のあった患者のうち酸素投与を必要としたのは15人(2.1%)、死亡例は0人で、多くは軽症でした。 呼吸器ウイルスの中にあって,小児に最も大きな健康被害を与えているのはRSウイルスであり、次いでインフルエンザウイルスともいわれています2)。RSウイルスは乳幼児の肺炎の原因の約50%、細気管支炎の原因の50~90%を占め、インフルエンザは重症肺炎を合併する他、急性脳症の原因病原体の第一位です。新型コロナウイルスによる死亡者が世界で最も多く出ている米国においても、年齢階級別にインフルエンザ・肺炎とCOVID-19が生命予後に及ぼす影響を比べてみると、15歳未満では前者が後者を遥かに凌ぐインパクトを持っているといわれています2)。5~11歳の小児にとって新型コロナはさほどの脅威ではなさそうとも言えます。  文献2)より参照。米国における年齢階級別の相対的死亡リスク比(COVID-19対インフルエンザ・肺炎)COVID-19とインフルエンザ・肺炎による死亡の相対的リスクを各年齢層別に示したグラフ。15歳未満では,インフルエンザ・肺炎のインパクトがCOVID-19を遥かに凌ぐことがわかります2)。 小児が新型コロナウイルスに感染しにくい理由は社会学的な理由と生物学的な理由があるといわれています。社会学的には、全ての年齢層に感受性があるため、社会活動が盛んで行動半径が大きい成人層で感染が拡大し、活動範囲が狭く接触する人数に限りのある小児は感染の機会が少ないと思われます。生物学的には、ウイルス受容体の発現レベルに年齢依存性があり、SARS-CoV-2の受容体として働くangiotensin converting enzyme 2(ACE2) およびACE2と共にウイルスの細胞内侵入に関与するtransmembrane serine protease 2(TMPRSS2)の鼻粘膜や気管支粘膜におけるmRNA発現レベルが、小児では成人と比べて低いため、それが感染しにくさに繋がっている可能性も考えられています2)。 こういう風に考えてみると、社会に感染広げているのは行動範囲の広い成人であり、子供は成人より家庭内感染を受けている状況だと推測されます。かつ、重症化しないのであれば子供への新型コロナワクチンは成人より慎重にならざるをえません。 効果について考えてみます。5〜11歳用のワクチンはファイザー製で、有効成分量は3分の1で、3週間の間隔を空けて2回接種します。米国の5〜11歳の子どもを対象とした臨床試験では、偽薬を投与した750人のうち16人が発症し、ファイザー製を2回投与された約1,500人のうち発症したのは3人で、発症予防効果は90.7%でした。ただし、臨床試験が実施されたのは主にデルタ株が流行している昨年で、オミクロン株への効果について反映されていません1)。イスラエルの最新の研究では、ワクチンを2回接種した5歳から11歳の子どもたちは、未接種の子どもたちと比べてオミクロン株に感染するリスクが半分になったそうです1)。この数値を有効と考えるかどうかは微妙です。 副作用はどうでしょうか?成人に比べて注射部位の疼痛はやや多いようですが、それ以外はかなり少なくなっています。重篤な有害事象はみられていません。  しかし、非常にまれに起こる、副反応が疑われている疾患があります。頻度としてはまれですが、mRNAワクチン接種後の副反応が疑われる疾患として心筋炎/心膜炎があり、思春期から若年成人の男性に多いとされます。また、1回目より2回目接種後の1週間以内に起こることが多いとされます。今のところ、心筋炎/心膜炎を発症しやすい体質や要因はよくわかっていません。心筋炎/心膜炎で現れる症状は、胸の痛み、息切れ、動悸(心臓がドキドキする)などです。激しい運動が心筋炎/心膜炎の原因になるわけではありませんが、心筋炎/心膜炎を発症した場合は心臓に負担をかけることはよくないので、接種後1週間程度は自覚症状に気をつけて、はげしい運動は控えて過ごすことも選択肢である旨、関連学会からも見解が示されています4)。 5~11 歳の子どもへの接種は、疾病負担と安全性を比較しながら慎重な検討が必要と考えます。しかしながら、これまで接種の対象ではなかった子どもたちにも接種の機会が与えられることは意義のあることです。重症化リスクの高い慢性疾患児や重症心身障害児をはじめ、接種を希望する子どもたちが安心して接種できる体制が望まれます。 なお、当院は小児科医が不在のため小児への新型コロナワクチン接種の予定はありません。 令和4年2月5日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)5〜11歳への新型コロナワクチン接種の効果と副反応https://www.medius.co.jp/asourcenavi/vaccine5-11/ 2)綜説〔I〕 小児の新型コロナウイルス感染症 ~特徴と問題点~https://amn.astellas.jp/specialty/infection/the_infection/vol51_no01/th_covid19 3)一般社団法人日本感染症学会ワクチン委員会・COVID-19 ワクチン・タスクフォースCOVID-19 ワクチンに関する提言(第4版)https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2112_covid-19_4.pdf 4)子どもへの新型コロナワクチン接種の考え方と副反応への対処法https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/column/0008.html

コロナワクチン後に帯状疱疹が増える??

コロナワクチン後に帯状疱疹が増える??  2021年に入ってから、皮膚科では帯状疱疹にかかる人が多くなっているとSNSで言われています。その原因はコロナ発症で体力が落ちることは十分に考えられますし、コロナ禍でストレスが増えた人は多いでしょう。外出制限や在宅勤務で運動量が減れば体も弱り抵抗力が低下する可能性もあります。また、また子供や孫との接触を避けることによって、水痘ウイルスとの接触もなくなりブースター効果がなくなり、それらの結果として、帯状疱疹が増加していても不思議ではありません。ところで、海外からはワクチン接種後に、ほんのわずか帯状疱疹のリスクが上がるという報告があり注目を集めています。スペインでワクチン接種後に皮膚反応を起こした症例の分析結果です。患者数は391人で、使用したワクチンはファイザー製が40.2%、モデルナ製が36.3%、アストラゼネカ製が23.5%でした。そのうち13.8%に水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化や、単純ヘルペスウイルスの再燃が認められたそうです1)。偶然の発症としてはやや頻度が高いようです。van Damらはファイザーワクチン接種後に帯状疱疹を発症した2例を報告しており、その原因としてワクチン接種後に起こる一過性のリンパ球減少であると説明しています2)。新型コロナに感染したのちに70%の人にリンパ球減少が起こることを考えるとワクチン接種後にリンパ球減少が起こる可能性は当然あると述べており、実際そのようなことが確認されたとする報告もあります3)。また、その考察の中で、欧州EudraVigilanceデータベースによると、ファイザー製で4103例(1.3%)、モデルナ製で590例(0.7%)、アストラゼネカ製で2143例(0.6%)、ヤンセン製で 59例(0.3%)にワクチン接種後の帯状疱疹が認められたと引用しています。頻度が低いのは観察期間のせいでしょうか?その一方で、ファイザー製ワクチンの安全性を評価した論文に、COVID-19に罹患した場合とワクチン接種した場合の有害事象を比較検討したデータがあり、実質上はワクチン接種後の有害事象としてリンパ節腫脹、帯状疱疹、虫垂炎、心筋炎などが確認されましたが、心筋炎以外は有意なものではないとの結論に至っています3)。 日本人成人の90%以上は、水痘帯状疱疹ウイルスが体内に潜伏していて、帯状疱疹を発症する可能性があります。50歳代から発症率が高くなり、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれており、今後さらに増加することが確実視されています。コロナワクチンと帯状疱疹の関連性は現在では不明ですが、コロナ禍での生活は帯状疱疹をさらに増加させるに十分な根拠があります。50歳以上の人にとって帯状疱疹ワクチンは強く薦められるワクチンと考えます4)。帯状疱疹ワクチンは2種類あります5)。接種する前によく考えて予約してください 令和4年2月1日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)A. Català,C. Muñoz-Santos et al : Cutaneous reactions after SARS-COV-2 vaccination: A cross-sectional Spanish nationwide study of 405 cases . British medical journal 2022 ; 186 ; 142 – 152.2)van Dam CS, et al : Herpes zoster after COVID vaccination . International Journal of Infectious Diseases 2021 ; 111 ; 169 – 171 .https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S12019712210068103)水野 泰孝:新型コロナワクチンと帯状疱疹 . 日本医事新法 2021 ; 5096 ; 58 .4)若者に帯状疱疹が急増中―50歳以上はワクチン考慮https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/554/5)帯状疱疹ワクチンは2種類ありますhttps://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/2113/

オミクロン株が重症化しにくいのはTMPRSS2の変異か?

オミクロン株が重症化しにくいのはTMPRSS2の変異か?  SARS-CoV2には、主にふたつの異なる細胞侵入経路があります。ひとつはTMPRSS2 (Transmembrane protease, serine 2、II型膜貫通型セリンプロテアーゼ)と呼ばれるたんぱく質分解酵素を介して細胞の表面から侵入する経路。もうひとつは宿主細胞が外部の物質を細胞内に取り込む食作用を介して細胞内小胞(エンドソーム)として内部に侵入する経路です。  文献1)より転載。SARS-CoV2は細胞表面のACE2レセプターにくっつきます。そして生体の細胞表面にあるTMPRSS2を利用して消化~開裂を受け細胞内に侵入していきます。 ウイルスはエンドソーム内にあるカテプシンと呼ばれるたんぱく質分解酵素の働きで細胞内に侵入します。従来株は肺に多く分布するTMPRSS2経由で細胞表面から優先的に侵入していましたが、オミクロン株はTMPRSS2経由を利用できずに、エンドソーム経由で融合する方向に侵入経路がシフトしていると報告されました1)。だからオミクロン株はTMPRSS2が多く発現する肺のなかで感染することは少なく、TMPRSS2があまり発現しない上気道(喉や鼻)でより多く発見されるというものです。たしかに現在の感染者の症状は肺炎の症状である咳や呼吸困難を訴える人が少なく、喉の痛みを訴える人が多いです。 ウイルスは感染する動物の種類、臓器または細胞を選り好みします。この性質はウイルスのトロピズムと呼ばれています。ウイルスのトロピズムを規定している最も分かりやすい例は受容体です。ウイルスは、受容体のある細胞に感染し、受容体の無い細胞には感染できません。ウイルスは受容体にくっついて、生体のもつ蛋白分解酵素でもって分解~開裂され中のRNAやDNAが生体内の細胞内にばらまかれ増殖することができるのです。この蛋白分解酵素のひとつがTMPRSS2です2)。マウスの実験ではTMPRSS2をノックアウトすると従来のコロナ株では明らかに軽症で治癒することが解っており、TMPRSS2はコロナ感染において、生体には不利に働いているようです。自分の蛋白分解酵素でウイルスを分解して感染しやすくしているのです。インフルエンザウイルスもコロナウイルスと同様に感染時にTMPRSS2を利用することが解っており、古くから治療薬の研究がされてきました3)。ちなみに現在までに報告されているTMPRSS2を利用するウイルスは、インフルエンザ、メタニューモ、SARS、ヒトコロナウイルス NL63 です4)。インフルエンザの治療薬として蛋白分解酵素を阻害することでウイルスの侵入を阻害できないか、という発想です。SARS-CoV2が最初に蔓延してきた頃に治療薬として注目された、フサン、フォイパンがそうです。インフルエンザウイルスの動物感染実験ではこれらの薬剤は有効である事が実証されています。しかし、人ではインフルエンザウイルスにはタミフルなどの有効な薬剤があるため有効性は明らかではありませんでした。しかし、タミフルを投与しても重症化した場合などには次の一手として現在使用されています。当初、SARS-CoV2感染症にもフサン、フォイパンは使用されたそうですが明らかな有効性は証明されなかったそうです。 TMPRSS2 はアンドロゲン応答性遺伝子であり,COVID-19 の男性患者における増悪因子の一つと考えられています。TMPRSS2は肺、腎臓、小腸、精巣などの組織で幅広く発現しています5)。実際、デルタ株の感染で死亡した人の臓器では全身の臓器からウイルスが検出されています。特に肺ではTMPRSS2の発現が多く、ウイルス量も多く、重篤な肺炎を起こしていました。そして、オミクロン株が肺まで到達しにくい理由について、肺の多くの細胞に発現しているTMPRSS2の作用が阻害されるような変異が起きているので肺細胞には感染しにくく、結果的に重症化が抑制されるのだと推測されています。動物実験でもオミクロン株のウイルス複製効率は気管支において従来株やデルタ株の約70倍を示した一方で、肺においては従来株の約1/10でした。オミクロン株はTMPRSS2を利用せずに細胞内に侵入できる経路を利用して人に感染しており、その部位は上気道に多く存在するのでしょう。しかし、肺炎を起こしにくい理由はこれで説明できますが、驚くべき感染のしやすさを説明できるものではありませんし、また、今後、TMPRSS2を利用できるようになる可能性もあるかもしれません。 令和4年1月21日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 1)SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第6報)https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10900-sars-cov-2-b-1-1-530.html2)竹田 誠:プロテアーゼ依存性ウイルス病原性発現機構とTMPRSS2 . ウイルス 2019 : 69 ; 61 – 72 . 3)山谷 睦雄ら:気道上皮プロテアーゼによるインフルエンザウイルスの活性化―治療への応用の可能性― . 日呼吸誌 2016 ; 5 ; 172 – 183 .4)松山 州徳:プロテアーゼ依存的なコロナウイルス細胞侵入 . ウイルス 2011 ; 61 ; 109 – 116 .5)中村 史雄ら:特集 COVID-19 SARS-CoV-2 の病態生理 . 東女医大誌 2021 ; 91 ; 11 – 18 .

ウルソがCOVID-19感染に有効?

ウルソがCOVID-19感染に有効?  アジアなどで新型コロナウイルスの死亡率が低い要因に、腸内細菌が関連している可能性があると、名古屋大などのチームが米科学誌に発表しました。計10カ国の健康な人を調べると、アジアや北欧では「コリンセラ(Collinsella)」という種の細菌を多く持つ人の割合が高く、この細菌は、ウイルスと細胞の結合を防ぐ物質を作り、過剰なサイトカインの発生を抑える作用があることがわかりました。名古屋大の平山正昭准教授は「今回は国単位での解析をしたが、今後は患者ごとにコリンセラの有無を調べて重症化の判別ができるようになるかもしれない」と話しました(共同通信 01月07日)。欧米の多くの国と比べ、アジアや北欧では新型コロナの死亡率が低く、何らかの要因(ファクターX)があるのではないかと指摘されていましたが、この腸内細菌であるコリンセラがファクターXの可能性があります。 名古屋大学の門松健治らは、ファクターXの候補として腸内細菌叢に着目しCOVID-19 死亡率と腸内細菌の関連を解析しました。公共データベースから OECD 10 カ国の 953 人の健常者の腸内細菌叢データをダウンロードして解析に用いました。解析の結果、腸内細菌コリンセラ属の比率が低いほど COVID-19 の死亡率が高いことがわかりました。また、クラスター解析を行ったところ 5 つの腸内細菌叢の型(エンテロタイプ)が見つかりました。COVID-19 死亡率はエンテロタイプ 1 から 5 に移行するにしたがって増えました。一方、コリンセラ属はエンテロタイプ1から5に移行するにしたがって減少しました。 コリンセラ属は肝臓で作られて腸内に放出される一次胆汁酸を二次胆汁酸であるウルソデオキシコール酸に変換することが知られています。ウルソデオキシコール酸は SARS-CoV-2 のアンジオテンシン変換酵素 2 (ACE2)への結合を防ぐことが最近報告されています2)。ACE2はSARS-CoV-2 感染時に最初に結合する受容体です。加えて、ウルソデオキシコール酸は炎症誘発性サイトカインの産生を抑制し、抗酸化や抗アポトーシス作用を有し、急性呼吸症窮迫候群 (ARDS)で肺胞液クリアランスを上昇させることが知られています。以上の結果から腸管内のコリンセラ属が産生するウルソデオキシコール酸がSARS-CoV-2感染を防ぎ、またCOVID-19 による肺炎の重症化を予防する可能性が示唆されました1)。 ウルソデオキシコール酸は通常、慢性肝疾患に良く処方される薬で安価で、軟便などの軽い副作用があるのみで処方しやすい薬です。この薬の内服でSARS-CoV-2感染を防ぎ、重症化を抑えることが出来るのでしょうか? 呼吸器疾患に対するウルソデオキシコール酸の有効性は以前にも実証されており、気道リモデリングに伴う病理組織学的変化のすべてにおいて有意な改善が見られています3)。このような効果は、Th-2由来のサイトカインの効率的な調節と気道上皮細胞のアポトーシスの抑制に起因すると考えられています3)。また、最近では、リポ多糖類誘発性肺水腫において、ALX/cAMP/PI3K経路を介して肺胞液クリアランスを促進し、急性呼吸窮迫症候群を改善することが示されており、ウルソデオキシコール酸はこの発表以前にもSARS-CoV-2感染症の治療薬として有望視されていたのでした。 ウルソデオキシコール酸は親水性の胆汁酸です。これは熊の胆汁の治療的に有効な成分であり、3000年以上前から伝統的な漢方薬で使用されてきました。通常、人間の胆汁にも存在しますが、総胆汁酸の3%程度しか存在しません。ウルソデオキシコール酸は近年、細胞保護作用と抗アポトーシス作用があるとの報告に加えて、顕著な抗炎症性と免疫調節作用の報告が相次いでおり、外国では網膜色素変性症、黄斑変性症、ハンチントン病、パーキンソン病、アルツハイマー病など、さまざまなヒトの臨床疾患を対象とした臨床試験が世界中で数多く行われており、また中国ではSARS-CoV-2感染症に対して熊の胆汁が推奨されているそうです。この安価で安全性の高い薬剤がSARS-CoV-2感染症のみならず呼吸器疾患、その他の全身疾患に有効である可能性に注目されているのです。また、腸内のコリンセラ属を増やす方法についての検討は今回調べた限りでは明らかに出来ませんでしたが、おそらく和食の影響が強いものと予想されます。また、コリンセラ属は抗生剤投与で死滅しやすいことは明らかにされていました4)。 令和4年1月17日  菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)腸内細菌 Collinsella 属が COVID-19 の感染・重症化を予防https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/PLOS_ONE_20211124.pdf 2)Subbaya Subramanian et al : Merit of an Ursodeoxycholic Acid Clinical Trial in COVID-19 Patientshttps://www.mdpi.com/2076-393X/8/2/3203)Saleem Abdulrab et al : Ursodeoxycholic acid as a candidate therapeutic to alleviate and/or prevent COVID-19-associated cytokine stormhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7261102/ 4)影山 亜紀子ら:ヒト腸内最優勢菌種であるCollinsella属 とその他関連菌種の薬剤感受性.腸内細菌学雑誌 2001 ; 14 ; 103 – 107 .

初めての経口 COVID-19 抗ウイルス薬―モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)

初めての経口 COVID-19 抗ウイルス薬―モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ) 2021年12月24日に製造販売を特例承認した米・メルク開発の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口薬モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)について、12月27日から本邦でも処方できるようになりました。  かなり大きなカプセルです。1回4カプセル、1日2回、5日間の服用です。 作用機序はRNAポリメラーゼ阻害薬で、感染細胞内に侵入した新型コロナウイルスにおけるRNA依存性 RNAポリメラーゼに作用することにより、ウイルスRNAの配列に変異を導入しウイルスの増殖を阻害する作用です。レムデシビルやアビガンと同様な作用機序です1)。  臨床効果はランダム化プラセボ対照二重盲検試験という最も信頼性の高い方法で行われており、対象は軽度~中等症の入院を必要としないCOVID-19患者で、偽薬(プラセボ)またはモルヌピラビル(おそらく1日2回 5日間)服用したグループを比較しています。       プラセボ モルヌピラビル 29日までの入院または死亡 14.1 % ( 53 / 377 )死亡8人 7.3 % ( 28 / 385 )死亡0人  29日までの入院または死亡に至った被験者の割合が、モルヌピラビル群で7.3%、プラセボ群で14.1%となり、リスク減少率は48%で統計学的に有意な差が認められました。ただし、全ての被験者を対象とした最終解析では、モルヌピラビル群で6.8%(48/709例)、プラセボ群で9.7%(68/699例)となり、リスク減少率は30%に低下しています2)。 またモルヌピラビルは変異株(ガンマ、デルタ、ミュー)に対しても一貫した有効性を示した、とも記載されています。 有害事象の発生率はモルヌピラビル群35% vsプラセボ群40%、薬物関連の有害事象の発生率はモルヌピラビル群12% vsプラセボ群11%、有害事象のために治療中断した患者の割合はモルヌピラビル群1.3% vsプラセボ群3.4%とほとんど副作用は認められていません。懸念材料は構造式が似ているアビガンで催奇形性が確認されていることです2)。 副作用はほとんどありませんが有効性についてはやや懸念材料がありそうです。ちなみに有効性の懸念から韓国やフランスでは使用を承認していないそうです。 モルヌピラビルの用法・用量は、18歳以上のCOVID-19患者に1回800mgを1日2回、5日間投与です。症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータはありません。また、SARS-CoV-2ワクチンの被接種者は臨床試験で除外されたため、ブレイクスルー感染での重症化予防などの有効性を裏付けるデータもありません。 投与対象は18歳以上の患者のうち、日本感染症学会の「COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 11 報」に従い、以下の危険因子を持っている人に投与が検討されます3)。以下に示します。①61歳以上、②活動性のがん(免疫抑制または高い死亡率を伴わないがんは除く)、③慢性腎臓病(CKD)、④慢性閉塞性肺疾患(COPD)、⑤肥満(BMI 30kg/m2以上)、⑥重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患または心筋症)、⑦糖尿病、⑧ダウン症、⑨脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症など)、⑩コントロール不良のHIV感染症およびAIDS、⑪肝硬変などの重度の肝臓疾患、⑫臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後、などが当初発表されました。 しかし、後に英国での PANORAMIC 試験の組み入れ基準における重症化リスク因子、すなわち、慢性腎臓病、慢性肝疾患、慢性神経疾患、慢性精神疾患、ケアホーム居住者、臨床医または看護師が臨床的に脆弱と判断した場合3)、なども含まれるに至っては18歳以上の大半の人が投与対象に含まれることになりました。 妊婦には禁忌、妊娠可能な女性は投与中に服用後4日間の避妊がすすめられています4)5)。 授乳婦に対しては、「治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討すること」となっていますが、臨床試験では授乳を避けることが指示されていました。 SARS-CoV-2陽性例が周囲との接触を極力避けるため、患者が薬局に行かずに自宅や宿泊療養施設に配送できる仕組みが整備されています。つまり、病院や医院で薬局に処方箋をFAXし、薬局は患者さんに服薬指導をしたのちに薬剤を患者さん宅に配送するようになっています。一部の病院や薬局で在庫配置も可能になるそうです。 モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)は重症化リスクをもった18歳以上の新型コロナ感染症の軽症~中等症の発症5日間までの外来治療として期待されるところです。 ただ、今後承認されるであろうファイザー社の内服薬よりやや効果が劣るデータです。   モルヌピラビル(ラゲブリオ) ニルマトレルビル・リトナビル(パクスロビド) 開発 メルク(国内の販売元はMSD) ファイザー 承認 2021年12月24日特例承認 米国では承認日本では未承認 作用機序 RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害 3CLプロテアーゼ阻害 使用時期 発症5日以内 発症5日以内 用法容量 1回4カプセル1日2回5日間 1回3錠1日2回5日間 対象 18歳以上、重症化リスク因子を有する軽症~中等症 12歳以上、40㎏以上、重症化リスク因子を有する軽症~中等症 効果 入院あるいは死亡のリスクをプラセボより30%減少 入院あるいは死亡のリスクをプラセボより89%減少  なお、ラゲブリオは特例承認であるため患者同意書が必要です6)。薬剤費の患者負担はありません。COVID-19 の診断はPCR、抗原定性・定量いずれでも適応されます。令和4年1月4日現在、当院での処方はまだできませんが数日中に処方できるように準備中です。 令和4年1月4日 菊池中央病院 中川義久 参考文献 1)ラゲブリオ(モルヌピラビル)の作用機序・特徴【COVID-19】https://passmed.co.jp/di/archives/169082)厚労省がMerck社のモルヌピラビルを特例承認、初のCOVID-19経口薬https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202112/573334.html?n_cid=nbpnmo_mled3)新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬の医療機関及び薬局への配分についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/000873667.pdf4)コロナ初の経口薬、使用上の注意点・入手法はhttps://medical-tribune.co.jp/news/2021/1227542754/?utm_source=recent&utm_medium=email&utm_campaign=mailmag2112285)ラゲブリオ添付文書https://www.msdconnect.jp/static/mcijapan/images/pi_lagevrio_inf.pdf6)患者同意書https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.msdconnect.jp%2Fstatic%2Fmcijapan%2Fimages%2Fdoui_lagevrio.docx&wdOrigin=BROWSELINK

しばしば体内で再活性化するヒトヘルペス6型( HHV-6 )

しばしば体内で再活性化するヒトヘルペス6型( HHV-6 ) ヒトのヘルペスウイルスは現在までに8 種類が発見されており、いずれのウイルスも初感染時にウイルスが増殖した後に増殖を停止し、ウイルス遺伝子が生涯保持される潜伏感染状態となります。この潜伏感染したウイルスは、何らかのきっかけで再び活動を開始し宿主の体内で増殖します。この現象を再活性化と呼び、ヘルペスウイルスの遺伝子活動によって自律的に行なわれる現象です。潜伏感染状態をとるウイルスは、レトロウイルスやアデノ随伴ウイルスなど、ヘルペスウイルス以外にもありますが、自律的に再活性化を生じるのはヘルペスウイルスのみです。 神経節で潜伏感染を生じるα-ヘルペスウイルス、マクロファージ系細胞で潜伏感染するβ-ヘルペスウイルス、B 細胞で潜伏感染し発癌性を有するγ-ヘルペスウイルスの3 つのグループに大別されます。ヘルペスウイルスは、同じ科に属するとは思えないほど、遺伝子の大きさや構造が多様です。また,潜伏感染・再活性化の機構も、不明な点が多いものの、グループごとに別々の機序を持つことが判っています。遺伝子構造や潜伏感染の機序が異なるにも関わらず、潜伏感染・再活性化という共通点を持つことは、この性質がヘルペスウイルスの生存にとって非常に重要であることを示しています1)。 「疲れるとヘルペスが出る」という事は良く聞かれますが、これは疲労時に単純ヘルペスウイルス 1 型(herpes simplex virus type 1 : HSV-1)の再活性化が生じることを示しています。この現象は一般に、疲労によって免疫力が低下するために、ヘルペスウイルスが再活性化するために生じると説明されてきました。ヘルペスウイルスの再活性化に関しては、免疫抑制状態の患者から再活性化ウイルスが高頻度で検出されることから、「免疫抑制が再活性化を誘導する」という説明がなされてきました。実はこの現象は再活性化したウイルスが免疫抑制状態では増殖し易いために観察されるのであり、ヘルペスウイルスの再活性化はむしろサイトカインの過剰産生によって誘導される傾向があることが解ってきました1)。 さて、ヒトヘルペス6型(HHV-6 )は,β-ヘルペスウイルスに属し、ほとんどの人で1 歳半までに初感染を生じ突発性発疹の原因となります。マクロファージと脳内において潜伏感染を生じ、小児期での再活性化は熱性痙攣の原因となります。実は、HHV-6 には世界中に広く分布し、突発性発疹の原因となるHHV-6 variant B(HHV-6B)と、最初のHHV-6 として分離されましたが、疾患との関わりが未だ確定しておらず、感染者の数もHHV-6B より少数であるHHV-6 variant A がありますが、通常、特に断らない限りHHV-6 はHHV-6B のことを指します2)。 近藤らの研究で、HHV-6は過度の就労で容易に再活性化して唾液中のウイルス量が増加し、休息により速やかにウイルス量が減少することからHHV-6 は現代人が抱える仕事のストレスによる疲労刺激で簡単に再活性化する性質を明らかにしました。HHV-6 の生存の戦略という観点からは、HHV-6 が仕事のストレスが中期的・長期的に続いて疲労している宿主の生存の危険を察知し、再活性化によって増殖し、他の宿主に移ることによって、自身の生存の確率を高くしているのだと推論しました。ヘルペスウイルスが、何らかのストレスによって生存の危機に立たされた宿主から再活性化という形で逃げ出す様は、船が沈む際に危険を察知していち早く逃げ出すネズミの様子を連想させる、と述べています1)。 このようにしばしば体内でHHV-6が増加して問題はないのでしょうか? 骨髄移植患者の70 %においてHHV-6 の再活性化が起こるといわれていますが、特別な症状はないようです。一部の人に、骨髄抑制、移植片対宿主病(graft-versus-host disease: GVHD)、脳炎、胃腸炎などが起こると報告されており、骨髄移植後の重要な病原体の一つとして注意されつつあります。ほかの実質臓器移植後のHHV-6 の再活性化も報告されており、30 %の腎臓移植後患者おいてHHV-6 の再活性化がおこり、その一部が 移植拒絶への関与も疑われています。またHHV-6 は最初AIDS 患者から分離されたウイルスであり、AIDS との関連はこれまで常に注目されてきています。HHV-6 の感染によってHIV のLTR プロモーターが活性化し,HIV 感染増殖が促進すると同時に、HHV-6 の感染によってCD4 分子の転写が促進され、HIV がより感染しやすくなるという報告もあります。その他、AIDS 患者では、HHV-6 感染によって重篤な肺炎、網膜炎、中枢神経系の損傷を引き起こしたケースも報告されています。その他、HHV-6 と口腔癌、慢性疲労症候群、多発性硬化症、薬性過敏症などの疾患との関連性も認識されつつあります。HHV-6の再活性化ですぐ症状が出るわけではありませんが、時々人に悪さをしている感じです2)。 薬剤過敏症症候群(Drug-induced hypersensitivity syndrome: DIHS)はある特定の薬剤を長期間摂取した後に発症する重症薬疹で、その本体は薬剤による免疫抑制から復活する過程の免疫再構築症候群と考えらえています。DIHS の特徴的所見としてHHV-6 がまず再活性化し(82%と言われています)、その後潜伏しているヘルペスウイルスグループのEBV(Epstein Barr virus)や CMV(cytomegalovirus)が次々に再活性化することです。これらのヘルペスウイルス属は同時に検出されるわけではなく、交代しながら順次検出されていきます。まるで各ウイルス群に連絡網があるかの如くです3)4)。 HHV-6の再活性化は直接的な病原性もさることながら、他のヘルペスウイルスグループに影響を与えて間接的に人に影響を与えている可能性もあります。 近年、生まれながらに染色体にHHV-6が組み込まれた (chromosomally integrated HHV-6 : CI-HHV-6)人がいることが報告されました。遺伝的に親から子に受け継がれたものと思われますが、現在までの報告では,約 1 %の健常人において CI-HHV-6 が認められます。これらの人は全有核細胞からHHV-6が検出され、しかもウイルス量が他の人に比べて多いことがわかってきました。さらに通常のHHV-6と同様に特定の条件下で再活性化することも解ってきました。しかし、生まれながらにHHV-6の遺伝子が組み込まれたことでどのような疾患に罹りやすいか?どのような不利益を被るかは現在研究中で不明な点が多いです5)。 全人口の約95%にHHV-6が潜伏感染しているとされています。私たちはHHV-6を再活性化させないように、一生うまく付き合っていかなければなりません。HHV-6は、私たち宿主が危機であると感じると、再活性化して増殖し、他の宿主に乗り換えようとするので、宿主の危機と察知されないようにする。例えば、極度の疲労をさける、余計な薬をのまない、ストレスを溜め込まない、というような努力をしなければいけません。私たちはHHV-6のご機嫌を伺いながら生きていかないといけないのです6)7)。 令和3年12月28日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 近藤 一博:ヘルペスウイルス感染と疲労 . ウイルス 2005 ; 55 ; 9 – 18 . 湯 華民:ヒトヘルペスウイルス 6とヒトヘルペスウイルス 7(HHV-6, HHV-7) . ウイルス 2010 ; 60 ; 221 – 236 .  橋本 公二:薬剤過敏症候群とヒトヘルペス6 . モダンメデイア 2010 ; 56 ; 305 – 310 . 薬剤性過敏症症候群は免疫再構築症候群   森 康子ら:HHV-6 . 日本医師会雑誌 2020 ; 149 ; 1246 . ヒトヘルペス6型―突発性発疹、熱性痙攣、慢性疲労症候群からうつ病まで ニコラス・レガシュ著 二階堂 行彦訳 : 襲いくるウイルスHHV-6 ? 体内に潜む見えない侵入者を追う ? . ニュートンプレス , 東京 , 2000 .

禁煙外来 受付一時中止のお知らせ

禁煙外来 受付一時中止のお知らせ 毎週 月~金 内科にて禁煙外来を行っていましたが、処方薬の入荷が未定のため受付を一時中止いたします。尚、再開する場合はご連絡致します。

繰り返す成人の扁桃炎の手術適応は?

繰り返す成人の扁桃炎の手術適応は?  成人になってからも扁桃腺炎を繰り返している患者さんがおられます。 のど研究室https://www.ryukakusan.co.jp/nodolabo/disease/jpより引用  このようななぜ、口蓋扁桃は感染のターゲットになるのでしょうか? 口蓋扁桃は陰窩構造があり、中には細菌塊が認められます。また、前述のように口蓋扁桃の陰窩上皮のバリアは弱く口蓋扁桃への細菌侵入が起こりやすい構造になっています。このように、口蓋扁桃は抗原の取り込みを効率的に行うために、かえって反復感染、易感染性を起こしやすく感染臓器としての特徴をもちあわせています。理論的には、感染臓器としての反復感染には陰窩を含めた扁桃を摘出することが問題解決には有効と考えられます1)。小児科領域では、口蓋扁桃摘出術は小児耳鼻咽喉科の中でもっとも多く行われていた手術です。以前は反復性扁桃炎のため扁桃摘出術を受けることが多かったのですが抗生剤の発達と、免疫学的な機能の重要性が考えられて安易に摘出を行うべきではないという傾向となり手術数は減ってきました2)。近年は口蓋扁桃肥大による睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome : SAS)のためや、IgA 腎症のために手術適応となる症例が多くなってきています。         小児における反復性扁桃腺炎の手術適応はアメリカの耳鼻科学会 ( AAO-HNS ) では年に 7 回以上、2 年間に 5回以上、3 年間に 3 回以上ののどの炎症、ただし抗生剤アレルギーや薬剤耐性のある例、周期熱、アフタ様咽頭炎、扁桃周囲膿瘍を伴う扁桃炎は上記以外でも手術の対象とすることを勧めています。この基準はParadise criteria を参考にして作成されています。  Paradise criteria         反復性扁桃炎(過去1年間で少なくとも7回の扁桃炎、過去2年間で毎年少なくとも5回の扁桃炎、過去3年間で毎年少なくとも3回の扁桃炎 睡眠時無呼吸症候群 病巣疾患(病巣感染) その他(扁桃周囲膿瘍の既往、抗菌薬のアレルギー症例、扁桃炎症状が重篤で全身症状を来す、PFAPA症候群:周期的な発熱、アフタ性口内炎、咽頭・扁桃炎など)     Paradise JL,et al. N Engl J Med 1984;310 :674―683.  日本では新谷らが小児の扁桃摘出術の適応として反復性扁桃炎(1 年間に8回以上、2 年間、年に 4―5 回の扁桃炎の既応例)、SAS、IgA 腎症では手術が勧められる2)と提唱しています。また、より詳細な手術適応は文献1)に多く記載されています。 しかし、成人の具体的な手術適応の記載はあまりありません。 片山らの検討3)では、咽頭炎を繰り返している成人への扁桃摘出術により、短期的なGAS (A群レンサ球菌Streptococcus pyogenes(group A streptococcus))咽頭炎の再発抑制、全咽頭炎の発症回数減少、発熱・咽頭痛日数の減少が期待されます。周術期のリスクも高くはなく、GAS による咽頭炎を繰り返す場合に扁桃摘出術を実施することは支持できます(BMJ 2007;334(7600):939.)。また重度の症状を伴う咽頭炎を繰り返している成人への扁桃摘出術は、咽頭炎発症や咽頭痛を自覚する日数を減少させ、病院受診や欠席・欠勤日数を少なくすることが出来ます。手術療法は患者の一部には有益であると考えられますが、周術期のリスクを考慮して検討すべきです(CMAJ 2013;185(8):E331–6.)。などを考慮して、質の高いRCTはこれまで2つに留まり、どちらも長期成績についての報告はありません。年に3-4回発症し、特にGASによる扁桃炎が疑われる成人では、扁桃摘出術を行うことで短期的な扁桃炎発生率の減少が期待できます。しかし長期的な効果については不明です。再発性扁桃炎への手術に関する推奨度は、各ガイドラインでまちまちである。と結論しています。 成人については一定の見解はなく、上記のParadise criteriaを参考にしながら個人個人で判断していくしかないのでしょう。 菊池中央病院   中川 義久令和3年12月17日 参考文献 1 ) 氷見 徹夫ら:扁桃・アデノイドの基礎知識と手術治療に関連する問題点 . 日耳鼻 2016 ; 119 ; 701 – 712 .2)新谷 朋子ら:小児耳鼻咽喉科疾患に対する手術療法の選択 . 咽頭―扁桃摘出術 . 小児耳 2011 ; 32 ; 276 – 281 . 3)片山 順平ら:成人の繰り返す扁桃炎への扁桃摘出術 . J Hospitalist Network. Clinical Question  2016年11月7日

見逃してはいけない高齢者の急速進行性HAM

見逃してはいけない高齢者の急速進行性HAM  内科外来では高齢者が多いため、両下肢の筋力低下や感覚異常を訴える患者さんがかなりの確率でおられます。ある研究では内科外来通院中の患者さんの約半数になんらかの腰椎由来の症状があり、その半数以上が腰部脊柱管狭窄症であったという結果が報告されています1)。実際、当院を受診される内科の患者さんは整形外科も一緒に通院されているかたが多くおられます。しかし、なかには感染症に伴う脊髄症状が原因のことがあり、早期の治療で改善することがあります。その病気がHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy / 以下HAM)です。現在、全国で約3,000人が罹患されていると推測されています。HAMが発症する原因は、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)に感染した血液中のTリンパ球が脊髄の中に入り込み、慢性的な炎症を起こすことが原因と考えられています。 HAMの症状としては以下のようなものが主に挙げられます。なんとなく歩きにくい、足がもつれる、走ると転びやすい、両足につっぱり感がある、両足にしびれ感がある、尿意があってもなかなか尿がでない、頻尿になる、便秘になるなどです。これらの症状の進行は個人差がとても大きいという特徴があります。したがって、将来的に病気が進行していくことを出来るだけ防ぐために、疾患活動性や重症度などを調べる検査をして、ひとりひとりの病状に応じた治療を受けることが重要です。 そのためにはHAMを早期に疑い専門の神経内科医に紹介する必要があります。 さて HTLV-1はどういうウイルスでしょう。ヒトT細胞白血病ウイルス1型(Human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)は成人T細胞白血病・リンパ腫( Adult T-cell leukemia:ATL)、HTLV-1関連脊髄症(HAM)およびHTLV-1ぶどう膜炎(HTLV-1 uveitis:HU)などの疾患を引き起こします。同じレトロウイルスのエイズウイルスと近縁のウイルスにですが、HTLV-1とエイズウイルスには大きな違いがあります。エイズウイルスは感染すると爆発的に体内でウイルスが増殖し、そのウイルスそのものが他の人へも感染を拡げていきますが、HTLV-1は細胞内に感染して、他の細胞へは細胞同士の接着を介して感染していきます。したがってフリーの状態で感染するエイズウイルスに比べて感染力は弱いです。また感染した細胞も死滅することなく生き続けますので体内に多くの感染細胞が存在することになります。その感染細胞を免疫細胞が攻撃するためにHTLV-1感染症は腫瘍疾患のみならず慢性炎症性疾患をおこすことが特徴です2)。HTLV-1の主な感染経路は感染細胞が感染する必要があるため、母子感染(垂直感染)、性感染(水平感染)および輸血の3つのみです。献血者の抗体スクリーニングが開始されて以降は、輸血による感染は見られていません。現在では、母子感染、特に母乳を介した感染が主要な感染経路と考えられています。また近年、性行為感染症も注目されています。母乳による感染に対しては、断乳や人工乳による予防が浸淫地域で試みられており、一定の効果を挙げています3)。 HTLV-1関連疾患はHTLV-1感染者(キャリア)から発症しますが、キャリアの大部分は無症状です。HTLV-1キャリアおよび関連疾患は、我が国では九州・沖縄地方を含む南西日本に特に多く見られていましたが、現在では日本中に広く分布しています。日本は先進国の中で唯一HTLV-1の浸淫国です。 HAM は痙性脊髄麻痺を呈する自己免疫性慢性炎症性疾患で、年余にわたる慢性進行性の経過を特徴とする疾患ですが、その悪化速度は個人差が大きく、稀に比較的急速な経過(数か月)で悪化する急速進行性HAM という疾患が存在することが近年報告されるようになりました4)。急速性進行性HAMは特に高齢者に多く、弛緩性対麻痺や腱反射低下を認め、副腎皮質ステロイドホルモン剤に比較的よく反応することも解ってきました5)。  HTLV-1キャリアは母乳感染予防などの努力により日本では減少することが予測されていましたが、最近の献血者の全国調査では、九州や沖縄では減少傾向にあるものの、首都圏や中部地方などの都市部ではむしろキャリア数が増加傾向にあり、全体では約100 万人で1980 年代とほぼ不変であることが報告されています6)。これらのキャリアのうち、母児感染でキャリアとなった場合にATLは年間1000人発症し(生涯発症率5%)、発症年齢の中央値は58 歳です。HAMの場合の発症平均年齢:45.3 歳で、キャリアからの発症確率はATLよりはるかに少ないと考えられています。 現在、HAMの治療は、インターフェロン(interferon、以下 IFN)αやステロイド薬が治療の主流ですが、IFNαの効果は限定的で、主にステロイドの長期内服が行われています。  しかし、近年、90%のATL患者において腫瘍化したT細胞にCCR4(抗CCケモカイン受容体4)の発現が見られることが明らかにされ、それに引き続く一連の研究によって、CCR4を標的とするヒト化モノクローナル抗体医薬品であるモガムリズマブが開発されました。モガリズマブは再発・難治性ATLに対して行われた単剤投与の臨床第II相試験において、奏効率50%、無病生存期間中央値5.2カ月、全生存期間13.7カ月と非常に有望な結果が得られたため、ATL治療薬として2012年に薬事承認を受けました8)。モガムリズマブは ATL の治療薬としてわが国で開発された薬剤ですが、HAM において HTLV-1 感染細胞を劇的に減少させる唯一の薬剤であり、HAM の治療に大きな変革をもたらすと期待され、現在、治験が進行中です。 HAMは早期発見することで患者さんのADLを改善する可能性があるにもかかわらず、一般医師の本疾患に対する認識度は薄く、診断がつくまでに年単位で時間を要する場合があります。その間に症状が進行し、重症化する患者がいまだに見られることが問題視されています。また近年、HTLV-1 に感染している関節リウマチ患者での治療抵抗性や免疫抑制療法における HTLV-1関連疾患の発症リスク等の問題1や HTLV-1 陽性ドナーから陰性レシピエントへの生体腎移植において、移植後にレシピエントの 87.5%が HTLV-1 に新規感染し、40%が HAM を発症することが報告されたことから、関節リウマチ患者の治療や臓器移植医療の現場でも HTLV-1感染に対する指針の策定が求められています9)。 菊池中央病院   中川 義久令和3年12月3日 参考文献1 ) 大島 精司ら:高齢慢性疾患患者における腰部脊柱管狭窄症のスクリーニングと合併率の検討 . 日腰痛会誌 2008 ; 14 ; 80 – 86 .2 ) 義江 修:ケモカイン受容体CCR4 とHTLV-1 感染,ATL 発がん . ウイルス 2008 ; 58 ; 125 – 140 .3 ) 松岡 雅雄:ヒトT細胞白血病ウイルス1 型感染症 . 日内会誌第 2012 ; 101 ; 725 – 729 .4 ) 春木 明代:急速進行性HTLV-1 associated myelopathy 様の症状を呈し,後に成人T 細胞白血病を発症した79 歳女性例 . 日老医誌 2009;46:184 – 187 .5 ) 山野 嘉久:HTLV-1関連脊髄症 . 日内会誌 2021 ; 110 : 1582 – 1587 .6 ) 山野 嘉久:HTLV-1 関連脊髄症(HAM) . ウイルス 2019 ; 69 ; 29 – 36 .7)山野 嘉久:HTLV-1 関連脊髄症(HAM)の患者参加型の研究と創薬 . Neuroinfection 2020 ; 25 ; 87 – 91 .8)福島 伯泰:HTLV-1関連疾患に対する新規治療法の展望 . 日内会誌 2017 ; 106 ; 1417 – 1422 . 9)HTLV-1 関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン 2019,https://www.neurology-jp.org/guidelinem/ham/ham_2019.pdf

帯状疱疹ワクチンは2種類あります

帯状疱疹ワクチンは2種類あります  帯状疱疹ワクチンが時々テレビでコマーシャルされています。 帯状疱疹は、過去に水痘(水ぼうそう)に罹患した人が、体内に潜伏する水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再燃によって発症する疾患です。水痘に罹患すると、体内ではVZV 特異的な細胞性免疫が誘導されて一度治癒しますが、VZV は知覚神経節に潜伏します。加齢、疲労、ストレスなどがきっかけとなり細胞性免疫が低下すると、VZV が再活性化し、神経の支配領域に限局して皮疹が出てきます。帯状疱疹は細胞性免疫が低下する、50歳代以上に好発する疾患です。国立感染症研究所のデータによれば、成人の約 9 割が VZV に既感染で、帯状疱疹の発症リスクを抱えているとされています1)。下記に示すような状態が帯状疱疹のリスクファクターとなります。 帯状疱疹のリスクファクター:VZV感染歴(水痘)、年齢>50歳、免疫抑制状態、免疫抑制剤の使用、HIV/AIDS、骨髄・臓器移植、悪性腫瘍、長期のステロイド使用、精神的ストレス、外傷。  帯状疱疹で問題なのは、50 歳以上の患者の約 2 割が悩まされるという帯状疱疹後神経痛(PHN)です。鎮痛薬や抗うつ薬などの薬物療法、神経ブロック療法など行っても難治性で長期間、強い痛みに悩まされるケースもあり、高齢者や帯状疱疹の重症度が高いほど PHNが起こりやすいとされています。 さらに問題なのはPHN以外にも帯状疱疹は多くの合併症を起こし、中枢神経系では脳髄膜炎、脊髄炎、血管系では脳血管障害、末梢神経系では運動神経麻痺。眼科系では眼瞼結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎、網膜炎。耳鼻科系では耳鳴、目眩、顔面神経麻痺などです2)。しかもこれらの合併症は一旦起きてしまうときわめて難治性であるという問題もあります。 これから小児の水痘ワクチン定期接種が続けられていく以上、水痘の発症は激減し、水痘の自然感染を受けている成人はますます VZV に曝露する機会が減少し、その結果、VZV 特異的細胞性免疫が再活性化せず、また、免疫を抑制する薬剤の普及などによって、今後、帯状疱疹を発症する可能性がますます高くなると考えられます。そこでワクチンを接種する必要があります3)。 2020 年 1 月に乾燥組換え帯状疱疹ワクチンであるシングリックスが発売され、従来の生 ワクチンと合わせて2種類のワクチンが使用できるようになりました。両者の違いを表にしました。  アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では50歳以上の成人を対象とした帯状疱疹の予防にはシングリックスを推奨しています。シングリックスの方が有効であることは間違いありませんが、数倍の値段で、かつ接種部痛がかなりの頻度で起こりますので担当医師とよく相談してどちらを接種するか決めてください。なお当院ではシングリックスは1回22000円×2回、生水痘ワクチンは9405円×1回で行っております。 菊池中央院  中川 義久令和3年11月19日 参考文献 1 ) 若者に帯状疱疹が急増中―50歳以上はワクチン考慮https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/554/2)渡辺 大輔:帯状疱疹ワクチン . ウイルス 22018 ; 68 ; 21 – 30 .3)松尾 光馬:ヘルペス性疾患に対する診断と治療 . 耳展 2019 ; 62 ; 134 – 1434)岩月 哲氏:帯状疱疹予防ワクチン. 日本医師会雑誌 2020 ; 149 ; 1226 .

子宮頸がんワクチン 積極的接種呼びかけの再開めぐる議論開始

子宮頸がんワクチン 積極的接種呼びかけの再開めぐる議論開始  接種の積極的な呼びかけが8年以上中止されている子宮頸がんワクチン(以下HPVワクチン)。厚生労働省の専門家部会が呼びかけを再開するかどうか議論を始めました。子宮頸がんは年間約1万人が罹患し、約2,800人が死亡しており、患者数・死亡者数とも近年漸増傾向にあります。特に、他の年齢層に比較して50歳未満の若い世代での罹患の増加が問題となっています。  子宮頸がんの95%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因です。子宮頸部に感染するHPVの感染経路は、性的接触と考えられます。HPVはごくありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性のうち50%~80%は、HPVに感染していると推計されています。性交渉を経験する年頃になれば、男女を問わず、多くの人々がHPVに感染します。そして、そのうち一部の女性が将来高度前がん病変や子宮頸がんを発症することになります。 この発がん性ウイルスの感染予防目的にHPVワクチンが開発されました。2006年に4価のガーダシル、2価のサーバリックスが海外で発売され、本邦では2010年に承認され任意接種の時期を経て2013年4月から国の予防接種法の改正に伴い、性交を経験する前の、小学6年から高校1年生を対象にHPVワクチンの無料定期接種が開始されました。その前後からワクチン接種をうけた女児が奇異な症状に悩まされている実情が報道されるようになりました。手足の疼痛、震えで歩けなくなったり、不登校になったり、四肢を奇異に動かす姿がテレビで繰り返し報道され複合性局所疼痛症候群( CRPS )という言葉がクローズアップされました。これは自律神経障害を伴う慢性疼痛の1種と理解されています。 2013年6月の時点で全国の医療機関から厚生労働省へ副反応として報告された事例は1196例、このうち重篤と判断されたのは106例でした。この間のワクチン接種回数は865万回であり、副反応の発生率は0.01%と決して高いわけではなかったが、報道の過熱ぶりも加わって、これは社会問題化されました。そこで厚生労働省は研究会を設置し、症例を検討しました。その結果、これは看過できないものとして2013年6月にHPVワクチンの積極的な接種勧奨の差し控えを発表しました。以来、8年以上にわたってこの状態が続いているのです1)。積極的に接種を勧める取り組みはしないが、接種を希望する方は定期接種として接種を受けることが可能な状態です。接種の呼びかけを再開するかどうかは判断せず、定期接種になる前に70%以上あった接種率は1%を下回りました。最近の論文ではこのまま子宮頸がんワクチン接種率低下が続くと1994―2004年生まれの女性のうち約2500人が子宮頸がんになり、そのうち500人が亡くなると予想されています2)。 今回の議論の焦点は、接種後に報告された奇怪な症状と、ワクチン接種との因果関係はどうか?ということです。 2017年11月の厚生労働省副作用検討部会の検討では多様な症状とワクチン接種との関連性は否定されており、また報告された多様な症状を呈する人はワクチンを接種しなくても一定数存在し、12~18歳女子では10万人あたり20.4人存在すると報告しました3)。 WHOの検討ではHPVワクチンは世界130ヵ国以上で接種され、特有な副作用は否定されており、各国で接種プログラムに組み込むように繰り返し提唱しています3)。なお、海外ではすでに9つの型のHPVの感染を予防し、90%以上の子宮頸がんを予防すると推定されている9価HPVワクチンが公費接種されており、日本では2020年7月21日に、厚生労働省より製造販売が承認されました3)。以上のように接種勧奨の中止にいたった多様な副作用は現状では否定されています。ワクチンの副作用とされた多様な症状を訴える患者さんからの髄液検査では中枢神経の自己免疫反応の関与が明らかになっていますが、ワクチンとの関連は証明できておりません4)。 以上のようなこれまでの科学的証明により多種の症状とワクチンの関連性は否定され、ワクチン接種の勧奨は再開されるものと思われます。 しかし、それに反対する人たちがいるのもまた事実です。ワクチン有害説を唱える人たちがいるのです。ワクチン有害説とは,「ワクチン接種はヒトにとって有害である」という基本的な考えのもと、社会および個人に対してワクチン接種の危険性を訴える主張の総称です。アンチワクチンや反ワクチンとも呼ばれ、世界的に運動が展開されています5)。彼らの論点は A: ワクチンを接種するよりも,感染症に自然罹患したほうがよい B: ワクチン接種によって深刻な副反応が引き起こされる(自閉症など) C:ワクチンの効果を実感できない D: 医師や製薬会社の陰謀によって,本来必要のないワクチンを打たされる。です。 しかし、HPVワクチンに関してABC はいずれも数学的確率で証明されたもので、Dに関しては透明性のある議論と科学で立証され、否定できるものです5)。このような非科学的なワクチン有害説は歴史的には150 年前に種痘予防が本格化したころから既に始まっており、このような運動の基本的な動機は「社会に強制されてワクチンを打たされている」という認識に対する拒否感からくるものとされています5)。 ワクチン有害説の人たち以外にもワクチンに反対する人達が存在します。 HPV ワクチン接種後に多くの症状を訴えた人たちはワクチン推進派の人たちから、詐病扱や精神病扱いされてひどく傷つくことになったのです。さらに、予防接種法の改正により、本来受けられるべき補償も受けられずに係争となっているのです6)。 ノーベル経済学賞を受賞した Daniel Kahneman によると、「人々は病気に自然罹患して死ぬよりも、ワクチンの副反応によって死ぬことを恐れる傾向がある」と述べています。HPVワクチンの接種勧奨はおそらく再開されるでしょうが、丁寧な説明と被害者救済が不可欠でしょう。 令和3年11月12日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)木下 朋美:子宮頸がんワクチンの副反応と神経障害. 信州医誌. 2016 ; 64 ; 103 – 111 . 2)笹川 寿之:若年者のHPV感染とワクチン普及の必要性 . 日本感染症学会 東日本学術集会抄録2021 ; pp 74 . 3)尾内 一信:我が国におけるヒトパピローマウイルスワクチンの現状 . ファルマシア 2019 ; 55 ; 1039 – 1043 . 4)高橋 幸利ら:ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)ワクチン接種後にみられる中枢神経系関連症状 . 日本内科学会雑誌 2017 ; 106 ; 1591 – 1597 .5)山本 輝太郎ら:ワクチン有害説を科学的に評価する . フォルマシア 2019 ; 55 ; 1024 – 1028 .6)種田博之:HPV ワクチン接種後の有害事象/健康被害をめぐる係争―スティグマの視点よりー . 関西学院大学 先端社会研究所紀要 2021 ; 18 ; 1 – 16 .

アビガンが有効? -SFTS-

アビガンが有効? -SFTS-  ウイルスを保有するマダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群」(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome : SFTS)が、熊本県内で急増しています。今年の感染者数は、過去最高だった昨年1年間を8月時点ですでに上回り、死者も出ました。熊本県によると、今年の感染者数は8月1日時点、8人で、過去最高だった昨年の6人を超えています。県南で多く発生しており、増加の原因は解っていません(朝日新聞デジタル2021年8月7日). SFTSは日本国内で2013年に患者が初めて確認されて以来、西日本を中心に600例(2020年末時点)近い感染例が報告されています。ダニが媒介する新種のウイルス感染症で、SFTSを発症したペットのネコやイヌからヒトに感染し、死亡例も報告されています。致死率が3割前後と極めて高く、予後不良の疾患で典型的な人獣共通感染症であり、今後も注意が必要な感染症です。 SFTS ウイルスはブンヤウイルス目フェヌイウイルス科 フレボウイルス属に属しており、マダニの刺咬がヒトや動物への主要な感染経路です。全ての哺乳動物が感染しうると考えられています1)。しかし、SFTS患者の血液や体液に触れた患者の家族、治療に携わった医療従事者への感染例があり、接触感染の可能性はありますが、飛沫感染や空気感染の報告はありません。これらから、HIVや肝炎ウイルスなどのウイルスと同等の感染予防策が必要で、院内感染対策も重要です2)。日本では西日本を中心に発生していますが、国内調査によるとSFTSウイルス保有マダニは国内に広く分布し,全国で感染の可能性があります2)。1年中発生はありますが、マダニの活動が活発になる 4月から10月にかけて患者数が多く、特に 5 月から8 月はリスクが 高い時期です。  SFTS 患者の症状は、発熱、血小板減少、白血球減少はほぼすべての患者に認めらます。それ以外に、神経症状、全身倦怠感、下痢、リンパ節主張、食欲不振などが多くの患者に認められます。神経症状、出血傾向、紫斑、消化管出血などが認められた場合、死亡するリスクが高くなります。それ以外に,肝酵素,クレアチニンキナーゼなどの上昇も報告されています。骨髄検査では血球貪食症候群を示している頻度が高く、それを反映してLDHの高値やフェリチンの上昇が認められます。しばしばDICを示す血液凝固異常も示します。SFTS患者との接触歴もない健常人にも抗SFTSV抗体が検出されたとの報告があり2)感染しても必ずしも発症せず、一部には不顕性感染となる例があるようです。 鑑別診断はツツガムシ病や日本紅斑熱などのリケッチア症などが挙がりますが、SFTSでは高度の炎症反応があるにもかかわらずCRPの上昇が認められないことが特徴として挙げられます。 SFTSを鑑別疾患として想定するには、ダニ咬傷の痕跡や病歴が非常に有用です。しかしながら、ダニ咬傷のあと、いわゆる刺し口が認められない症例が少なくなく、Jaeseungらの報告はマダニ咬傷の痕跡を指摘できたものは 31%、日本国内の報告でも刺し口が確認できた例は半数に満たないことから、SFTSを疑う患者においてマダニ咬傷が認められない場合でも否定することはできません2)。  病歴や症状、一般的な血液検査所見などから診断することは困難で、SFTSの確定診断には患者の血液、尿、髄液などを用いたRT-PCR法による遺伝子検査が有用です。保健所に連絡すると測定することが可能です。 SFTSの病態はまだ不明な点が多いですが高炎症性サイトカイン血症による多臓器障害がその中心と考えられています。高齢者で重症化しやすく新型コロナウイルス感染症と共通した病態も考えられます3)。 SFTSの治療法は確立されていません。ステロイドやリバビリンのの投与も行われましたが治療効果は得られませんでした。しかし、日本でファビピラビル(アビガン)がSFTSのウイルスの増殖をマウス実験で抑制することが報告されました4)。 アビガンは抗インフルエンザ薬としてわが国で開発された薬剤であり、新型コロナウイルスにも有効性が期待された薬剤です。日本で実施された臨床試験では重症例も含め死亡率を10%台に低下させることが示されました。さらに重篤な副作用は認められませんでした。この結果を受けて企業治験も行われ良好な結果が得られたので現在承認申請に向けた手続きが進行中です3)。  国立国際医療研究センター国際感染症センター国際感染症対策室(重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き(第 3版)8)より  さて、アビガンは実際に新型コロナウイルス感染症に有効なのでしょうか?日本呼吸器学会のホームページ5)には2021年6月15日時点では、ファビピラビルのCOVID-19に対する治療効果に関する報告では、藤田医科大学が中心となって実施されたオープンラベル試験、ロシアで行われたランダム化比較試験、中国から報告された抗体カクテル療法治療群とファビピラビル治療群を比較する非ランダム化試験が主なものですが、上記のいずれの試験でもファビピラビル投与によりウイルスの消失を早め、解熱などの症状改善が早まる傾向が示されています。ファビピラビルは1週間以内の投与により効果的であることが示唆されています。今後の臨床試験の結果とその論文化に注目していく必要があると結論しています。 令和3年11月2日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)前田 健:重症熱性血小板減少症候群(SFTS). J. Vet. Epidemiol. 2018 ; 22 ; 51 – 52 . 2)荒木 慧ら:血球貪食症候群を呈し急激な転帰をたどった重症熱性血小板減少症候群の1例 . 日内会誌 2016 ; 105 ; 2230 – 2236 . 3)安川 正貴:重症血小板減少症候群 . 日内会誌 2021 ; 110 ; 1797 – 1801 . 4)Koichiro Suemori et al : A multicenter non-randomized, uncontrolled single arm trial for evaluation of the efficacy and the safety of the treatment with favipiravir for patients with severe fever with thrombocytopenia syndromesevere fever with thrombocytopenia syndromehttps://doi.org/10.1371/journal.pntd.00091035)日本呼吸器学会 COVID-19 FAQ 広場https://jrs.hatenablog.com/entry/2021/06/16/001500

梅毒の増加止まらず!新しい検査法と治療薬

梅毒の増加止まらず!新しい検査法と治療薬  日本における性感染症の発生動向調査によると、梅毒が 2012 年から急増しています。感染症法五類届出によりますと、その増加の程度は,2012 年に比し 2017 年には男性で 5.7 倍、女性で 10.3 倍と激増しています。1970年に 6,138 例を記録して以降 5,400 例を超えた年はなく、1993 年からは 1,000 例未満であったものが、46 年ぶりに 1971 年を上回る 5,819 例という多数の報告となっています。さらに 2018 年の届出数では 7,002例と増え続けています1)。 文献1)より転載  最近の傾向として、①異性間性交渉での感染増加(約4900件:2018年)、②20代女性患者の増加(約1200人:2019年)、③性風俗産業関連の件数増加(4575件:2016年)が報告されています2)。 梅毒は the great imitator(偽装の達人)といわれます。自然に良くなったり、悪化したり、変幻自在な病態をとる本疾患において,典型例はむしろ少なく診断は非常に難しいと言えます。感染症であるため病原体の検出が重要であることは無論ですが、検体採取が難しく、かつ梅毒PCRは保険収載がなく実臨床で使用されることはなく、その診断の拠り所は surrogate marker である血液中の抗体検査に頼るしかありません。 梅毒抗体にはトレポネーマ抗体と、非トレポネーマ脂質抗体があります。・梅毒トレポネーマ抗体:梅毒特異抗体検査には、TPHA、TPPA、TPLA、TP 抗体、FTA-ABS 等さまざまな手法・呼称があります。梅毒に特異性が高く、これが陽性であるということは梅毒感染の存在~既往を示しています。・非トレポネーマ脂質抗体:梅毒特異的ではありませんが、梅毒の活動性の指標となる検査と言われてきました。梅毒血清反応検査(STS; Serological test for syphilis)と言えば、通常、本検査を意味します。わが国では事実上、RPR 法のみが利用可能です。 さて、近年、梅毒の検査手技が変化し、その検査結果解釈に変化が生じています。この2つの検査法を組み合わせて梅毒の診断をするのですが、従来の希釈倍率法(用手的検査)から自動化法へ移行している施設が多くあります。自動化法では①TP抗体がより早期に陽性となる、②治療効果判定は「RPR1/4以下」から「RPR半分以下」に変更が必要です。そのため希釈倍率法で「RPR陰性かつTP陽性は梅毒治癒後」と判断していたものを、自動化法では「RPR陰性かつTP陽性は早期梅毒の可能性」と考え、患者の臨床症状を踏まえて治療を検討するようになりました2)。  梅毒診療ガイドラインでも「近年、RPR陰性で梅毒TP抗体のみ陽性の早期梅毒の報告が増えてきた」「梅毒の診断にTP抗体の陽性を重視すべきである」とあります3)。 次に治療効果判定です。治療開始後2〜4週間でRPRを検査し、「自動化法ではおおむね2分の1」「希釈法では4分の1」に低減していれば治療有効と判定し、治療を終了します。その後は3カ月前後の間隔で1~2年程度フォローします。TP抗体のみ陽性の場合は、TPが減少傾向または、治療開始4週間後のRPRが上昇していなければ治療有効と判定し治療を終了します(治療1カ月後のRPRが上昇している例はたまにありますが、再感染が無ければ、その1~2カ月後にはほとんどが良好にRPRが低下します)。 以下にガイドラインの診断の手引きを示します 文献3)より転載  梅毒の治療についてですが、日本以外での標準治療法は、ベンザチンペニシリンG 240万単位1回筋注です。この治療法は、世界的には最も推奨される標準治療法で長い間の臨床的な経験により確立されてきました。しかし、日本国内では、過去にペニシリン・アレルギーによる死亡例が発生したためベンザチンペニシリンGの筋注は使用することができませんでした。そのため、アモキシシリン内服が推奨されています4)。しかし、念願のベンジルペニシリンベンザチン筋肉注射薬(ステルイズ水性懸濁筋注)が2021年7月30日の厚生労働省薬事・食品衛生審議会の部会で承認了承され、今年10月に正式に承認となる見込みです。いままで2~12週の長期のペニシリン内服が必要でしたが、1回の注射で治療終了できることになり、治療が簡便になる予定です2)。しかし、10月15日現在はまだ薬価収載されていません。 令和3年10月15日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)荒川 創一ら:梅毒:その増加の現状と正しい診断・治療について . 日本化学療法学会雑誌 2021 ; 67 ; 466 – 482 .2)柴田 綾子:シン・梅毒診療〜新しい検査方法と届け出・これからの治療薬〜 . 日本医事新法 2021 ; 5078 ; 67 .3)荒川 創一ら:梅毒診療ガイド 2018 日本性感染症学会梅毒委員会梅毒診療ガイド作成小委員会4)髙橋 聡:性感染症―増加する梅毒― . 日内会誌 2018 ; 107 ; 931 – 937 . 

2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方

2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方 日本感染症学会から2021-2022 年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方1)が発表されたのでここで要約します。 幸いなことに、2020-2021 年シーズンは、インフルエンザウイルスの検出報告はほとんどなく 、心配されていたインフルエンザとCOVID-19の同時流行はみられませんでした。これは、COVID-19 対策として普及した手指衛⽣やマスク着用、三密回避、国際的な⼈の移動の制限等の感染対策がインフルエンザの感染予防についても効果的であったと考えられます。またインフルエンザウイルスと SARS-CoV-2 との間にウイルス干渉が起こった可能性もあります。では、2021-2022 年シーズンについてはどうでしょうか。北半球の冬季のインフルエンザ流行の予測をするうえで、南半球の状況は参考になります。オーストラリアからの報告によると、2021 年流行シーズンにおいて、インフルエンザ確定患者数は昨年同様きわめて少数です 。このことより、2021 年冬季は北半球での流行を認めないのではないかとも考えられますが、アジアの亜熱帯地域においては様相が異なります。WHO からの報告によると、インドやバングラデシュでA香港型の流行が認められています。これらの国々では、インフルエンザワクチン接種が普及しておらず、社会全体のインフルエンザに対する免疫が低かったと思われます。ただし小流行を繰り返すことで、これらの地域でウイルスが保存され、今後国境を越えた⼈の移動が再開されれば、世界中へウイルスが拡散される懸念があります。前シーズン、インフルエンザに罹患した⼈は極めて少数であったため、社会全体の集団免疫が形成されていないと考えられます。そのような状況下で、海外からウイルスが持ち込まれれば大きな流行を起こす可能性もあります。以上の点を鑑みて、日本感染症学会では、2021-2022 年シーズンにおいても、インフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨しています。 インフルエンザシーズンの時期と現行の不活化ワクチン効果の減弱を考慮すると、ワクチン接種は理想的には 10 ⽉末までに行うことが推奨されます。しかしながら、現在我が国の多くの医療機関は、COVID-19 の診療とワクチン接種に忙殺されています。米国 CDC は、効率的にワクチンを接種し接種率を高めるために、インフルエンザワクチンと COVID-19 ワクチンの同時接種も可としており、米国では両者の混合ワクチンの開発も始まっています。一方、わが国では、現時点で、COVID-19 ワクチンとその他のワクチンとは、互いに片方のワクチを受けてから 2 週間後に接種することになります。COVID-19 ワクチンをまだ接種していない⼈には、まずそちらを優先せざるを得ないかと思われますが、並行してインフルエンザワクチンの接種もご検討いただきたいと考えます。両方のワクチン接種のためには、医療機関を複数回受診する必要がありますが、その負担のためにワクチン接種頻度が低下するような事態は避けていただきたいと存じます。COVID-19 の影響により、インフルエンザ流行の時期がずれる可能性もありますが、ワクチンが使用可となる時期が到来すれば、速やかに接種を行うことが望ましいです。ワクチンの供給に関して、厚⽣労働省の発表によりますと、2021-2022 年度ワクチンの供給量は、製造効率の高かった昨年度に比すると 2 割程度減少する予定です。ワクチンを効率的に使用するためにも、昨年同様、13 歳以上は原則 1 回接種となります。 当院ではまだCOVID-19のワクチン接種に忙殺されておりインフルエンザワクチン接種は11月1日より開始いたします。 令和3年10月6日菊池中央病院中川 義久 参考文献1)2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=44

医療関係者のためのワクチンガイドライン2020(その2)―B型肝炎ワクチン

医療関係者のためのワクチンガイドライン2020(その2)―B型肝炎ワクチン  本邦での B 型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus;HBV)感染率は約 1% 程度と推定され、感染者はわが国に 150 万人存在していると考えられています。HBV は環境中で 1 週間以上も感染性を持ち、主に血液による感染や、場合によっては粘液にも分泌され、稀ではありますが経皮的にも感染することがあり、医療従事者等が業務中に感染する可能性のある重要な病原体です。成人が感染した場合には、一部で一過性の急性肝炎を発症するものの、大半は自然治癒します。ただし、急性肝炎を発症した者の 1% 弱は劇症肝炎を発症し、最悪の場合死の転帰をとります。しかも、HBV は一旦感染すると生涯体内から駆除されることなく肝臓内に住み着き、免疫が低下した時に再活性化して重篤な状態になったり突然肝臓がんを発症したりするので HBV は生涯感染しないように注意することが肝要です1)。  今回第3版として改訂された医療関係者のためのワクチンガイドライン2020日本環境感染症学会においてB型肝炎ワクチンの接種のスケジュールなどは以前と同じですが、今回、ワクチン接種歴はありますが、抗体が上昇したかどうかが不明の場合の対処法が図になっています。  このような場合、抗体検査を行い10 mIU/mL 未満の低値の場合は 1 回の追加接種を行い、1~2 ヵ月後に抗体価の確認を行います。10 mIU/mL 以上であれば免疫獲得として終了、10 mIU/mL 未満であればあと 2 回のワクチン接種(=初回と併せると 1シリーズ)後に再度抗体価の確認(1~2 ヵ月後)を行うような指針をたてています2)。 またB 型肝炎ワクチンは現在、2 種類の製品が存在します。遺伝子型 A 由来ワクチン(ヘプタバックス-II、MSD 社製)と遺伝子型 C 由来ワクチン(ビームゲン、KM バイオロジクス社製)です。1 回のシリーズで抗体陽性とならなかった場合は、種類の異なるワクチンを接種することも方法の一つであり、ワクチンを皮内接種することにより抗体陽性率が高くなるという報告があり、一部を皮内接種し、残りを筋注で投与するという試みも一部で行われています。1 回のシリーズは基本的に同一製品で行うことが望ましいですが、2 種類の製品では異なる製品を組み合わせて接種した場合の互換性は確認されており、同一製品が入手できない場合は接種スケジュールの途中でワクチンを変更することも可能と記載されています2)。 1 シリーズのワクチン接種で40 歳未満の医療従事者では約92% 、40歳以上では約 84% で基準以上の抗体価を獲得したと報告され、抗体を獲得した場合、顕性の急性 B 型肝炎の発症は起こさないことが報告されており、その効果は30 年以上にわたって持続すると報告されています。経年による抗体価低下にかかわらずこの効果は持続するため、米国や欧州からは追加のワクチン接種は不要であるとの勧告が出されています。このガイドラインでも同様な方針、つまり1回でも抗体価陽性(10 mIU/mL 以上)が確認されれば以降の抗体価測定は不要であることが記載されています。しかし、英国などは経年後のワクチン追加接種を推進しており、日本肝臓学会評議員らは63%が追加接種を必要と考えています3)。それは抗体価10 mIU/mL未満では肝炎は起こさなくてもB型肝炎ウイルスが体内に侵入してくる可能性があり、それを防止するためには10 mIU/mL 以上の抗体価が必要であると考えているからです。感染症専門医と肝臓専門医の見解の相違ともされています3)。 近年、都会で性感染症を原因とした遺伝子型Aが増加しており、これはより慢性化し易いなどの特徴がありますが、遺伝子型Cで作成されたワクチンで完全に予防できるかという問題はいまだ未解決の問題であり、さらに近年ワクチンエスケープ変異が報告されており、この場合、より高い抗体価が感染防御に必要であることが判明しており4)、B型肝炎ワクチン接種後の抗体価の減衰の問題は今後より詳細な検討が必要と思われます。 令和3年10月1日菊池中央病院 中川 義久 参考文献1)B 型肝炎ワクチン 3 回接種後の抗体確認https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa145.pdf2)医療関係者のためのワクチンガイドライン 環境感染誌 第35巻 Supplement II S1-S4 令和 2年7月27日発行第3版 一般社団法人 日本環境感染学会 ワクチン委員会3)田中 靖人ら:日本肝臓学会評議員を対象とした B 型肝炎ワクチンに関するアンケート調査 . 肝臓 2018 ; 59 ; 259 – 263 .4)山田 典栄ら:首都圏における B 型急性肝炎の変遷:―Genotype A の急増から 10 年を経て . 肝臓 2019 ; 60 ; 139 – 146 .

新型コロナウイルス感染症に伴う嗅覚・味覚障害

新型コロナウイルス感染症に伴う嗅覚・味覚障害  新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の代表的な経過として、感染から約5日間(1~14日間)の潜伏期を経て、感冒様症状(発熱、咳、喀痰、咽頭痛、鼻汁等)、倦怠感、嗅覚・味覚異常などが出現し、これらの症状が1週間程度持続するとされます。一部の患者では嘔吐、下痢などの消化器症状を呈することもあれば、無症候のままで推移する感染者もいます。COVID-19の臨床症状の中で、一般的なウイルス感染症と異なり非常に特徴的なものとして、嗅覚障害・味覚障害が挙げられます。 1)嗅覚障害  新型コロナウイルスによる嗅覚障害の原因として(1)嗅覚受容体(嗅神経細胞)へのウイルスの直接侵入による細胞・組織(2)ウイルス感染によって生じた炎症性サイトカインなどによる細胞・組織障害(3)ウイルス感染部位が周囲組織の細胞死を誘導することによる細胞・組織障害(4)ウイルス感染による血管障害を起因とする細胞・組織障害などが考えられます。 さらに障害部位として1 気導性嗅覚障害2 嗅神経性嗅覚障害3 中枢性嗅覚障害が考えられます。  鼻腔呼吸部粘膜では、新型コロナウイルスが結合するACE2の発現が多く、ウイルス増殖の場となっていても不思議ではなく、COVID-19嗅覚障害患者の一部では鼻閉や鼻汁などの鼻症状を伴っていたことや、画像検査で嗅裂部の腫脹を認めたことはウイルスによる気導性嗅覚障害を疑わせます。しかし、鼻症状がないにも関わらず嗅覚障害があることや鼻症状が改善しても嗅覚障害のみ続くこと、嗅覚障害のある患者の鼻腔CTで嗅裂の異常を必ずしも認めないことなどを考慮すると、気導性嗅覚障害はごく一部で、嗅神経性嗅覚障害が主体ではないかと推測されています。嗅神経細胞にはACE2の発現を認めないとの報告もありますが、動物感染実験では嗅神経上皮にウイルス抗原を認め、感染はありうると推定されています。嗅神経性嗅覚障害の機序として,多くの機序が考えられますが、COVID-19嗅覚障害患者の多くは2週間以内に改善することから嗅神経細胞の広範な変性・脱落は考えにくく、むしろ支持細胞やボウマン腺が障害されることにより、におい分子の嗅覚受容体での受容が妨げられ、嗅覚障害が起こると推定されます。新型コロナウイルスは髄液、嗅球や脳組織でも検出されること、嗅覚障害の経過中に異嗅症が生じうることから、中枢性嗅覚障害が生じていてもおかしくはありません。このように、新型コロナウイルス感染による嗅覚障害にはいくつかの機序が推測されるものの不明な点が多く、今後の検討が待たれるところです1)。 新型コロナウイルス感染による嗅覚障害は比較的早期(2週間以内)に改善することが多いですが、一部の患者では嗅覚障害が数か月以上も持続します。ウイルス感染後嗅覚障害に対する治療で効果が期待できるものとして、“嗅覚トレーニング”があります。嗅覚トレーニングは神経性嗅覚障害に対していろいろなにおいを嗅ぎ、においを嗅ぐ機会を増やす(回数,頻度)ことで嗅覚機能の改善を誘導することが期待されています1)。また、亜鉛内服も有効という報告がありますが治験例数は少ないです2)。その他、ビタミン剤や漢方薬をすすめるむきもあります3)。 2)味覚障害味覚障害もさまざまな原因が組み合わさった結果と考えられますが、以下の機序が推定されています。  風味障害 食事の際に、“味”と表現されるものは、純粋な“味覚”ではなく、さまざまな感覚が統合されて得られる感覚ですが、一般的に“食事の味”の異常は“味覚異常”として認識されます。「甘い、塩辛いなどは分かるが、素材の細やかな味、コーヒー、カレー味などの風味が分からない」と訴える場合は、主に嗅覚障害による風味障害ですが、患者さんは「味が分からない」と訴えます。Deems らは、嗅覚低下586人中433人が味覚低下を訴えたが、実際味覚が低下していたのは4%未満であったと報告しています4)。任らの研究でも4)でも感冒後嗅覚味覚異常を訴えた217例中少なくとも77%は嗅覚障害単独と診断されています。嗅覚と味覚は相互に作用し、脳で統合されるため、自覚的な評価として混合しやすく、また検査上でも影響することがあります。  受容器障害 上述のような風味障害の症状が多く聞かれる中、実際「味噌の風味はするが、塩味がまったくしない」など明らかな味覚の症状を訴える人もあります。味覚障害の障害部位は、受容器と考えられており、嗅覚障害と同様に、発症機序として、ACE2 が、口腔内、特に舌背粘膜に多く存在したという報告がみられます。しかし現時点では、いまだ味覚受容器において ACE2 が SARS―CoV―2 と結合することによってどのような変化が末梢受容器におこるかは解明されていません。  唾液変化 唾液腺にも ACE2が発現し、SARS―CoV―2 が侵入する際のターゲットとなります。新型コロナウイルスは唾液腺の中に多く存在し、唾液の構成が変化することによって、味覚異常が起こるという説もあり、味覚異常の一要因として考えられます。   味覚障害も比較的早期に(2週間以内)に改善することが多く、大半は経過観察されますが、亜鉛などを投与されることもあります。また、上咽頭擦過療法が新型コロナ感染症の諸症状に有効である可能性も報告されており今後の検討が待たれます2)6)。 味覚障害も嗅覚障害も大半が比較的早期に改善していきますが、一部の人は後遺症として長期間苦しむことがあります。日本からの報告で、新型コロナから回復した63人に電話インタビューを行ったところ発症から60日経った後にも、嗅覚障害が19.4%、味覚障害が4.8%あり、さらに発症から120日経った後にも嗅覚障害が9.7%、味覚異常が1.7%続いており6)、患者さんの中には味覚・嗅覚障害による食欲低下で栄養障害や精神的な落ち込みのある人もいて、今後医療上の問題となることが予想されます。今後の調査により本邦におけるコロナウイルス味覚・嗅覚障害の実態が明らかになるとともに、新しい治療手段の構築や創薬に向けて情報が蓄積されることが期待されます。 令和3年9月17日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 上羽 瑠美:新型コロナウイルス感染症と嗅覚障害 . 日鼻誌 2021 ; 60 ; 59 – 60 . 平畑 光一:新型コロナ後遺症 . 日本医事新法 2021 ; 5078 ; 18 – 26 . 近藤 健二ら:新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害 . 目耳鼻 2021 ; 124 ; 471 . 任 智美:新型コロナウイルス感染症における味覚異常 . 目耳鼻 2021 ; 124 ; 472 忽那 賢志:新型コロナウイルス感染症の基礎知識 . 総合検診 2021 ; 48 ; 8 – 16 . 田中 亜矢樹:慢性上咽頭炎における帯域制限光内視鏡診断と内視鏡下上咽頭擦過療法 . 口腔咽頭科 2018 ; 31 ; 57 – 67 .

医療関係者のためのワクチンガイドライン2020―MMRV

医療関係者のためのワクチンガイドライン2020―MMRV  日本環境感染学会では、医療機関における院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種について「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」を発行しており、2020年に第3版を発表しました。 麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘(MMRV)ワクチンに関しては、1 歳以上で「2 回」の予防接種の記録を勤務・実習前に医療機関に提出することを原則としています。これまで、抗体価の基準を満たすまで接種を受け続けなければならないという間違った解釈が蔓延した抗体価の考え方は、これまで抗体価陰性、抗体価陽性(基準を満たさない)、抗体価陽性(基準を満たす)としていたのを、「あと 2 回の予防接種が必要、あと 1 回の予防接種が必要、今すぐの予防接種は不要」としました。  要約すると、「2 回」の予防接種の記録があればその後の処置は不要でもちろん採血の必要もありません。予防接種の記録が 「1 回」のみの者は、1 回目の接種から少なくとも 4 週間以上あけて 2 回目の予防接種を受けて終了。 既罹患で予防接種を受けていない者は、勤務・実習前に抗体陽性の検査結果を提出することが必要になります。その際の判定表が下記です。  既往歴もワクチン接種歴も不明のものは、少なくとも 4 週間以上あけて「2 回」の予防接種を受け、その記録を提出します。なお医療関係者とは、事務職、医療職、学生を含めて、受診患者と接触する可能性のある常勤、非常勤、派遣、アルバイト、実習生、指導教官、業務として病院に出入りする者等に加えて、救急隊員、処方箋薬局で勤務する者を含むものとすると記載されています。 その人がこれらの感染症に対して免疫があるというのは、抗体価の有無ではなく、確実にその感染症のワクチンを2回接種したということなのです。現代医学においても病原体に対する免疫応答には不明な点があり、後天的に産生された免疫グロブリン、すなわち抗体は液性免疫の主体ではありますが、免疫システム全体からすれば一部にすぎません。もう一つの免疫の主体である細胞性免疫はその評価をする検査システムが存在しないのです。測定出来ないのです。麻疹などでは抗体価と発症予防の免疫能が相関しないことが証明されています。免疫能としては細胞性免疫の方が重要なのです2)。但し、ワクチンで予防可能な疾患(VPD)のうちB型肝炎は抗体価が感染防御の指標として重要な例外的な感染症です。 この4つの疾患での感染既往というのはあまり信頼しないというのが基本で、誤診もありうることより抗体価測定が推奨されています。抗体測定はEIA/ELISA IgGを勧めますが、風疹はHI法でも代用できます2)。 ワクチンを2回接種しても感染する可能性がゼロになるわけではありませんが、集団を対象としたルールとしてはその点は考慮しません。また、現在でも抗体測定を要求する看護学校なども散見されますが現在の知見からすると意義は乏しいです。環境感染症学会のガイドラインを参考にしていただきたいです。 令和3年9月8日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)医療関係者のためのワクチンガイドライン 環境感染誌 第35巻 Supplement II 令和 2年7月27日発行第3版 一般社団法人 日本環境感染学会 ワクチン委員会2)千葉 大:抗体検査 . プライマリ・ケア 2021 ; 6 ; 31 – 35 .

新型コロナウィルスに職員1名感染

令和3年8月23日(月)新型コロナウィルスに当院職員1名感染  ■ 詳細はこちらをご覧下さい。

高齢者の無菌性髄膜炎は帯状疱疹ウイルス

高齢者の無菌性髄膜炎は帯状疱疹ウイルス  いわゆる無菌性髄膜炎は、発熱、頭痛、嘔吐のいわゆる3主徴をみとめ、髄膜刺激徴候が存在し、髄液検査でリンパ球有意な所見で、髄液から細菌を検出しないことで診断がなされる症候群です。多種多様の起因病原体があり、また、成人の場合は膠原病、悪性疾患などの様々な非感染性疾患でも無菌性髄膜炎を起こすことがあります。一般的な臨床の現場においては、無菌性髄膜炎はウイルス性髄膜炎を念頭において診断されます。 通常、無菌性髄膜炎は小児の疾患で、幼小児に多く、80%は8歳以下と報告されています。最も多い原因はエンテロウイルスで、全体の約70~80%程度を占めています。手足口病の起因病原体の一つであるエンテロウイルス71も髄膜炎を起こしやすいウイルスです1)。 その他のウイルスとして、ムンプスウイルスなどがあります。マイコプラズマも二次性の無菌性髄膜炎の原因の一つとして重要で、真菌性、結核性、など多くの原因があります。しかしウイルス性の髄膜炎が多い中で、唯一治療薬があるヘルペスウイルス属の診断は確実に行う必要があります。 成人のみの検討は極めて少ないですが、竹島らの330例の検討2)では一番多い原因はやはりエンテロウイルス属で、次に単純ヘルペス属、3番目は水痘・帯状疱疹ウイルスでした。しかし高齢者に限ると、高齢者では水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によるものが一番多く、とくに三叉神経帯状疱疹に随伴した髄膜炎は50%と頻度が高く、頭のわれるような痛みを訴えると同時に水疱部に一致した神経痛を伴います3)。さらに、⽪疹がなくてもVZV髄膜炎は除外できず、VZV髄膜炎・脳炎で44%は⽪疹が認められないことも報告されており、また帯状疱疹発症から6ヶ⽉以上経過後にVZV髄膜炎を発症した報告例もあり4)、高齢者の無菌性髄膜炎を診断した場合はまずVZV髄膜炎を疑い、髄液のVZV PCR検査を行うべきで、PCRが陰性であればVZV IgM・IgG 検査を追加すべきです。脳脊髄液中の抗VZV-IgG抗体は93%で陽性となる一方リアルタイムPCR法でのVZV―DNAは30%で陽性と低いです。また、髄液中の抗体産生を反映する抗体価指数((脳脊髄液中ウイルス抗体価/血清ウイルス抗体価)/(脳脊髄液中 /IgG/血清IgG))も有用な所見として知られています。診断に際しては脳髄液中のVZV-DNA及びVZV-IgG双方の測定が勧められますが、スクリーニングという観点では、感度に優れたVZV―IgGの測定がより信頼性が高いと考えられます5)。 樋口らのやや古い報告6)ですが、1)帯状疱疹患者の66%に髄膜炎現象がみられ、このうち、髄膜刺激症状を呈したのは30%にすぎなかった。2)髄膜炎現象を伴う症例の罹患部位は脳神経領域に限らず、約半数か脊髄神経領域であった。3)髄膜炎現象は汎発疹の有無や基礎疾患の合併とは相関しなかった。4)髄膜炎現象をみる症例の髄液所見に関し髄液細胞増多は軽度~中等度であり、外観は水様透明、総蛋白は正常~上昇、Clや糖はほぼ正常で、ウイルス性髄膜炎の所見に一致していた。5)髄液細胞増多の程度と汎発疹や髄膜刺激症状の出現頻度とは必ずしも相関しなかった。6)症例の38%が急性期に髄液細胞増多を示した。症例の80%で、髄液細胞数が1~2病週に最高値を示した。7)髄液中VZV CF抗体は急性期には出現せず、回復期には細胞増多群の63%が有意の上昇を示した。中等度以上の細胞増多群では、その出現頻度は88%と高率であった。8)初回検査時の髄液細胞数は抗ヘルペスウイルス剤投与群では非投与群に比して有意の低値を示していた。という記載があります。帯状疱疹は非常に髄膜炎を併発しやすい可能性があり、またその際に頭痛などの症状がないことがあり、見逃す可能性が高いことが想定されます。帯状疱疹の患者さんには半分以上が髄膜炎を併発しているという意見もあります7)。 しかし、帯状疱疹と診断がついていれば抗ヘルペス剤を投薬してあるので大きな問題はないかもしれません。しかし、VZV髄膜炎・脳炎で44%は⽪疹が認められないことも報告されており、高齢者の無菌性髄膜炎と診断した場合は必ず帯状疱疹ウイルスを念頭に置かなければいけません。また、高齢者は腎機能が悪く、その際にアメナメビルで帯状疱疹を治療されることも多いと思われますが、中枢神経の移行が悪く、髄膜炎・中枢神経血管炎を起こす可能性もあり注意が必要です8)。さらに、帯状疱疹で加療中、意識障害が出現した場合VZV髄膜炎・脳炎の可能性もあり、アシクロビルの副作用と考え安易にアシクロビルを中止しないことも必要です9)。 帯状疱疹の重篤な神経合併症として、VZV血管炎に伴う脳梗塞もあります。正確な頻度は不明ですが、小児においては脳梗塞例の約 1/3 がVZV血管炎が原因と言われ、成人においては、帯状疱疹発症後1年間は脳梗塞のリスクが 30%増すという報告や、三叉神経第1枝領域の帯状疱疹の場合、脳梗塞リスクが 4.5 倍となるという報告もあります。病態としては、三叉神経節から再活性化した VZV が、遠位知覚神経繊維を介して内頚動脈やその分枝に達し血管炎を起こすと推定されています。帯状疱疹は日常よく見られる感染症ですが、中枢神経合併症を考慮しながら治療するべきで、また、ワクチンで帯状疱疹の予防をすべき疾患です。 菊池中央院   中川 義久令和3年8月13日 参考文献1 ) 手足口病が流行していますhttps://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/718/2)竹島 慎一ら:成人無菌性髄膜炎の臨床的検討―流行性と起因ウイルスの検討― . 臨床神経学 2014 ; 54 ; 791 – 797 .3)庄司 紘史:頭痛の診断と治療 5.髄膜炎の頭痛 . 日内会誌 1993 ; 82 ; 66 – 69 4)⽔痘帯状疱疹ウイルス髄膜炎・脳炎http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-tokyoiryo-161103.pdf5)徳島 礼実ら:中枢神経ループスとの鑑別を要した水痘帯状疱疹ウイルス血管症の1例 . 日内会誌 2020 ; 109 ; 603 – 610 .6)樋口 由美子:帯状疱疹にみられる髄膜炎現象に関する研究 . 日本皮膚科学会雑誌 1988 ; 98 ; 71 .7)松尾 光馬:ヘルペス性疾患に対する診断と治療 . 耳展 2019 ; 62 ; 134 – 143 8)谷口 葉子ら:三叉神経領域の帯状疱疹をアメナメビルで治療後に帯状疱疹性髄膜脳炎と脳血管炎を合併した1例 .臨床神経 2021 ; 61 ; 239 – 242 .9)嘉山 邦仁ら:胸神経領域の帯状疱疹に脳髄膜炎を併発した1例. ペインクリニック誌 2013 ; 20 ; 107 – 110 .10)吉川 哲史:水痘帯状疱疹ウイルスによる神経感染症:ワクチンの pros and cons . Neuroinfection 2020 ; 25 ; 39 – 43 .

発熱外来でCOVID-19陰性の人は百日咳が多い?

発熱外来でCOVID-19陰性の人は百日咳が多い?  新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、多くの医療機関が発熱外来を開設しました。しかし、発熱外来におけるPCR検査陽性率は5~6%程度といわれています。医者はCOVID-19 陰性と判明した時点でほっとして、その他の発熱の原因究明がおろそかになっている可能性はないでしょうか? 松田正氏は、発熱外来を受診した患者の精査を徹底。その結果、発熱外来を受診する患者で最も多いのは百日咳で、咳嗽を呈さない百日咳患者も少なくないことを明らかにし、その成果は、2021年5月に開催された第95回日本感染症学会学術講演会/第69回日本化学療法学会総会合同学会で発表されました1)。 松田氏による調査は、2020年4月1日から12月19日までに同氏の診療所の発熱外来を受診した144人を対象に行われました。松田氏は、溶血性レンサ球菌感染症やアデノウイルス感染症、ヘルパンギーナ、手足口病などと診療時間内に確定診断できた症例を除き、COVID-19患者の見逃しを防ぐため、ほぼ全ての発熱外来受診者に血液検査(リンパ球数やフェリチン、Dダイマーなど)を実施し、研究目的で百日咳の抗体検査も一緒に行われました。その結果、COVID-19を強く疑いPCR検査を実施した症例は59人で、うち5人(8.5%)が陽性でした。一方、抗体検査で百日咳と確定した患者は53人と、発熱外来受診者の36.8%を占めていました。ちなみに、百日咳の診断には百日咳抗体IgMと百日咳抗体IgAを用い、発症早期であることから、どちらかが8.5 NTU以上を確定としました。加えて、確定はできないが臨床的に百日咳を強く疑ったのは24人で、それらを併せると全体の53.4%が百日咳(確定+疑い)だったと報告しました。この結果からCOVID-19感染対策が徹底され、多くの感染症が制御できていた時期でも百日咳患者が多く存在することは、その感染力の強さや、百日咳が日常に多く存在する感染症であると考察しています1)。 ここで百日咳の診断について確認してみましょう。  図に示す如く、百日咳の診断は、まず発症後3週間以内であれば抗原検索が考えられます。培養法か、PCR、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification法:百日咳菌遺伝子の核酸増幅法)法で行いますが、通常はLAMP法で行われます。近年の報告では菌が多い発症 14日までが検出限界で、検査感度が34%であったというデータもあり2)あまり過大の期待をしない方が良いかもしれません。3週間を過ぎると、百日咳菌の菌量が低下するために血清診断がされます。百日咳抗体 IgA、IgMを採血で検査します。IgMは発症後 1 5 日後にピークになりI g Aは2 1日後にピークになるといわれています。どちらか一方のみ測定可能です。しかし、近年、I g M抗体は健常な子供でも陽性率が高く、30%が陽性であったという報告もあり、またI g A 抗体は中高年で陽性率が高く、また小児ではIgA抗体が陽性になりにくいとの指摘もあり、この2つの検査法もいくつかの問題点があることが分かってきました3)。また従来から言われているようにPT-IgG は100 倍以上の陽性でない限りペア血清での判定が必要であり、またワクチン接種の影響も受けることより実際の診療ではほとんど使用されていません3) 。 さて、2021年6月16日、百日咳を約15分で診断できる抗原検査キット「リボテスト 百日咳」の販売が開始され、保険収載もされました。これはインフルエンザキットと同様に鼻咽頭拭い液をキット上に滴下して判定する簡便なものです。 今回、登場した抗原検査キットは、PCR法と比較して感度85%以上、特異度95%以上の相関データを示し4)、約15分で結果を得られます。そのため、診察室ですぐに結果が得られるので、今後、広く使用されると考えられます。 百日ワクチンの効果は流行暴露によるブースター効果がなければ 10年程度と考えられており5)、我が国のワクチンプログラムでは思春期にはもう効果が薄れている可能性があります。日本では、2018 年 1 月より百日咳は感染症法 5 類全数把握疾患となり、全年齢層での患者発生実態が明らかになりつつあります。現在、年間 11,946 例の患者発生報告があり、7 歳がピークで、5–15 歳が 64%を占めましたが、30–50 歳も 16%報告されており、成人の百日咳も決してまれではないことを示しています6)。 発熱外来受診者の半分が百日咳が原因というのはやや多すぎる気もしますが、新型コロナPCRが陰性であった場合に、そこでほっとして普通の風邪と簡単にかたづけずに、慎重に原因検察をする必要はあるでしょう。 令和3年7月30日菊池中央病院 中川 義久 参考文献 1)発熱外来の受診患者、最も多いのは百日咳!咳嗽を呈さず感冒症状の百日咳患者もhttps://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t335/202107/571043.html?n_cid=nbpnmo_mled2)野口博生ら:秋田県農村における小児百日咳の地域的流 . 日農医誌 2 0 1 9 ; 6 8 ; 1 5 5 – 163 .3)百日咳は新しい検査法でも診断が難しい

誤嚥性肺炎の原因が舌苔にある

誤嚥性肺炎の原因が舌苔にある  肺炎は社会の高齢化を反映してその死亡者数は徐々に増加し、2011 年に初めて本邦の死亡原因の第 3位となりました。肺炎による死亡者の 95% 以上が 65 歳以上の高齢者で、入院を要する肺炎患者のうち、60 歳代では約 50% が誤嚥性肺炎で、さらに、年代が上昇するごとにその割合は上昇すると報告されています。高齢者肺炎や誤嚥性肺炎の治療は現在でも重要な課題となっております。肺炎の治療の第一歩として、原因菌の把握は抗菌薬の選択の面から重要です。しかし、培養や血清診断、抗原検索といった従来の原因菌検索は必ずしも十分に満足のいくものではありませんでした。2011 年の本邦からの報告では、呼吸器専門医が所属する病院で原因菌が判明したのは 47.2%で、半数以上の症例で原因菌を把握することができませんでした1)。 近年、感染症の原因菌検索においても分子生物学的手法が用いられるようになり、従来の培養法に比べてより高い検出率を示すことが報告されています。特にヒトには存在せず、細菌のみが保有する 16S ribosomalRNA(rRNA)遺伝子が注目されており、これを直接解析することで培養に依存せずに原因菌を検索することが可能となったのです2)。16S rRNAは原核生物(細菌および古細菌)に特有の遺伝子で、塩基配列のデータベースが充実していることや適度な進化速度であるため、塩基配列の変化が少ないことが細菌の菌種同定に好都合で、この方法により検体内に存在する細菌の種類とその割合を把握することが可能となり、この方法を網羅的細菌叢解析法と呼ばれるようになりました。本法の最大の利点は培養に依存しない方法であるため、培養に関連したさまざまな問題が生じないことです。また、結核菌などの特定の病原体を検出するターゲットPCRと比較して、本法では細菌のみが保有する 16S rRNA遺伝子の保存領域(菌種に係らず共通の塩基配列が保存されている領域)にプライマーを設定しているために、網羅的な細菌のDNAの検出が可能となり、そのために特定の菌種を前もって予測する必要性がありません。欠点としては 100 クローン弱の解析のため、1% 未満の少ない割合の細菌の検出は困難です。他に、検査行程に手間や時間(3 日間),費用がかかること、抗菌薬の感受性試験ができないことなどが難点とされています2)。この検査法はまだ一般臨床では使用できませんが、様々な感染症の原因診断の研究に用いられるようになりました。 2000年代の誤嚥性肺炎の起炎微生物の検討では、これは喀痰培養による検討ですが、一位が嫌気性菌で、以下肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌の順でした。そしてこれまで2位以下の起炎菌の順番が多少の入れ替わりはあっても、嫌気性菌が一番重要であることは変わりありませんでした3)。しかし迎らは、誤嚥性肺炎患者の気管支肺胞洗浄液の網羅的細菌叢解析法を用いて原因菌検索を行いました4)。細菌培養法と違い全例で原因菌が判明しました。それによると一番多かった原因菌は口腔内連鎖球菌で23.2%で、従来から一番多いとされてきた嫌気性菌は10%にとどまり、以下黄色ブドウ球菌7.3% 、緑膿菌9.8% でした。誤嚥性肺炎において、嫌気性菌の関与は従来考えられていたよりも少ない可能性があり、特に,高齢者の呼吸器感染症では嫌気性菌より口腔内連鎖球菌などの口腔内常在菌が重要である可能性があると報告しました4)。 誤嚥性肺炎は口腔内の細菌が色々な理由で気管から肺内に流入することで起こるため、口腔内の清浄化が重要で、口腔内を清掃することで誤嚥性肺炎の予防につながることが明らかとなっています5)。 舌苔は舌背の中央から舌根部にかけて堆積する微生物や食物残渣、剥離上皮などからなる膜状の凝集塊であり、年齢やう蝕,歯周疾患の状態に関わらず観察されます。舌苔は細菌の母床であり、舌苔中の細菌が唾液中の大半を占めるとされています5)。また舌苔を除去するとデンタルプラークの形成が抑制されたとの報告もあり、舌苔は口腔内細菌の貯蔵庫的な意味合いもあり、誤嚥性肺炎を考える場合には歯周炎の予防とともに舌苔のコントロールも重要と考えられます。 令和3年7月13日菊池中央病院   中川義久 参考文献1)迎 寛:肺炎診療:細菌叢解析でわかった新たな知見~呼吸器感染症における嫌気性菌の役割 . 日本化学療法学会誌  2016 ; 64 ; 647 – 651 .2)迎 寛:網羅的細菌叢解析法による呼吸器感染症診断 . 日内会誌 2013 ; 102 ; 2875 – 2881 .3)河合 伸:誤嚥性肺炎の予防と治療 . 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2008 ; 18 ; 209 – 212 .4)迎 寛:呼吸器感染症における口腔内レンサ球菌と嫌気性菌の役割 . 日内会誌 2016 ; 105 ; 1796 – 1802 . 5)野口 貴雄ら:一般地域住民における口腔内環境と口腔細菌叢に関する研究 . 弘前医学 2020 ; 71 ; 46 – 54 . 

セレンとCOVID-19

セレンとCOVID-19  COVID-19のパンデミックに伴い、やはり栄養が大切であると改めて見直されており、研究報告が散見されるようになりました。スペイン風邪が流行したときに栄養不良の方が多く亡くなられたというデータがある反面、COVID-19では肥満、特にサルコペニア肥満の方は予後がよくないというデータは早くから報告されていました。この原因として、エネルギーや三大栄養素だけでなくビタミンや微量元素も大切であるということが認識され報告されつつあります。 栄養素とは,(1)炭水化物,タンパク質,脂肪などエネルギー源や体構成物の材料となる物質,(2)ビタミン,無機塩類(ミネラル)などで前者にくらべて必要量ははるかに少ないが生命の維持に不可欠な役割をはたす物質に大別され、このうち炭水化物,タンパク質,脂肪はもっとも多量に要求される高分子で,三大栄養素と呼ばれます。栄養素とはその他多く存在し、全部で35種類あり、そのうち20種類が免疫機能に関係してくるといわれています。以下列挙すると、エネルギー、タンパク質、n3系脂肪酸、食物繊維、ビタミンA, B1,B2,B6,B12,C,D,E,葉酸、パントテン酸、ナイアシン、ビオチン、セレン、亜鉛、銅、鉄、乳酸菌です。このなかである栄養素が一つ欠乏すると複雑な免疫機能が障害され、バランスが崩れて免疫能が低下することになってしまいます。それを考えると、いかにバランスの良い食事を摂る必要があるかが認識されます1)。 COVID-19と最も関連がある栄養素としてはビタミンDの論文が多く報告されています2)。次に報告が多いのが亜鉛欠乏です3)。さらに最近注目されているのがセレンです。  セレンは、すべての生物の機能に必要な必須微量元素です。人体に必要なセレンの主な供給源は、植物や動物由来の食事であり、これは土壌中のセレン含有量や土壌中のセレンの作物へのバイオアベイラビリティに大きく依存します。世界的に見て、セレン欠乏症は5億人から 10億人に影響すると考えられており、中国、ニュージーランド、ヨーロッパの一部では欠乏症が蔓延しています4)。セレンは、細胞内の酸化還元バランスの維持に重要な役割を果たしており、その抗酸化作用と抗炎症作用は、免疫において重要な働きをしています。したがって、セレンはウイルス感染症において意義があり、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)をサポートする上で重要な役割を果たすと考えられています4)。  図は、中国の論文で、湖北省外の都市におけるセレン蓄積の状態(髪のセレン含有量:横軸)とCOVID-19治癒率(縦軸)が有意に相関していた(R2= 0.72, F test p< 0.0001)事を示しています。セレンが充分に体内にあると死亡率が低かった、というデータです。さらに、HIV、インフルエンザ、エボラ出血熱などの感染性ウイルス疾患は、土壌中のセレンが不足している地域で進化し、蔓延する可能性が高いという報告もあります4)。これは、セレンの欠乏が、ウイルスの変異、複製、およびRNAウイルスのより病原性の高い形態の出現を促進するためと考えられています。 COVID-19における肺の酸化的損傷の高いリスクは、肺のセレンおよびセレンタンパク質によって部分的に打ち消され、多くの研究者がセレンの補給によってこの疾患の影響を軽減できるかどうかを研究しています。 セレンの主な摂取源は、ブラジル産のナッツ類、種子類、キノコ類、魚類、セレン酵母、魚介類、牛肉、鶏肉その他多くの食物に存在しています。食事中、セレンの大部分はセレノメチオニン、セレノシステイン、亜セレン酸およびセレン酸の形で存在し、これらはいずれも優れたバイオアベイラビリティを持ち、調節なしでよく吸収されます6)。日本では通常の食事を摂っていれば不足することはないと思われます。アメリカでは35%以上の人がセレンを含むマルチビタミン・ミネラルを取っているそうです。ある研究ではセレンが糖代謝を高めて合併症から体を守るとされているからだそうです。ところが正反対の結果が発表され、なんと、長期間にわたるセレンのサプリメント(1日200マイクログラム)摂取が、2型糖尿病の発症リスクを高めたというのです。糖尿病の予防どころか、むしろ危険なものだったのです7)。微量元素は特に過剰摂取で副作用がでるものが多く、サプリメントの服用には注意が必要です。 全ての栄養素や微量元素に言えることは、バランスのとれた食事を心がけるということです。 令和3年7月2日菊池中央病院   中川義久 参考文献1)児玉 浩子ら:健康の維持・増進に重要な栄養・微量ミネラル. 日本医師会雑誌 2021 ; 150 ; 421 – 430 .2)ビタミンDが不足すると新型コロナウイルス感染症が重症になる http://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa240.pdf3)新型コロナウイルス感染症と亜鉛https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/1752/4)A Mechanistic Link Between Selenium and Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8033553/5)Zhang J, et al. Association between regional selenium status and reported outcome of COVID-19 cases in China. Am J Clin Nutr 2020; 00: 1-3, May 19, 2020. doi: 10.1093/ajcn/nqaa095/5826147.6)浅桐 公男:セレン欠乏症の診療指針2018のポイント . 日本医師会雑誌 2021 ; 150 ; 439 – 4443 .7)セレン(セレニウム)のサプリにご用心!https://allabout.co.jp/gm/gc/300546/

新型コロナウイルス感染症と亜鉛

新型コロナウイルス感染症と亜鉛  新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を原因とするCOVID-19が、パンデミック(世界的大流行)となっています。日本ではいわゆる第4波の流行が発生し、4都府県では3回目の緊急事態宣言が発令されています。COVID-19対策として① 原因ウイルス(SARS-CoV-2)への接触機会を減らす。② 私たちの身体の抵抗力を高める。という2つが大切です。 ①に関しては従来より続けてきた3密対策や、飲食店の自粛などが実践されています。②に関しては現在急いで接種が急がれているワクチンが有効であることは言うまでもありません。しかし、現在のワクチン接種が、今後も出現するであろうすべての変異ウイルスに有効であるかはまだわかっていませんし、若年者までワクチン接種がいきわたるまでかなりの時間を必要とするであろうし、また、ワクチンを接種しない人も当然でてくるでしょう。 そこで、ワクチン以外でもヒトの側でのウイルス感染への抵抗性を高める対策も大切でしょう。具体的には、適切な食事・運動・睡眠で、免疫能を整えることです1)。 日本では、COVID-19対策として、医薬品やワクチン製造には取り組んでいますが、栄養食品やサプリメントの有用性に関する研究はあまりなされていません。しかし、諸外国では、機能性食品成分に関する感染防御の検討がなされており、一定の有用性が示されています。特にビタミンや微量元素の感染防御効果が確かめられつつあります2)。現在、最も明らかなエビデンスがあるのはビタミンDです3)。ビタミンDの投与で感染予防効果や重症化抑制効果が認められています。同様に注目されているのが微量元素の亜鉛です4)。亜鉛は必須微量元素のひとつで、感染症領域では免疫関係に大きく関与することが解ってきました。亜鉛が欠乏すると、免疫機能が低下します。そしてその免疫不全の特徴は胸腺の萎縮とそれに伴う細胞性免疫の機能低下です。その他にも樹状細胞の活性低下、その他多くの免疫機能に障害が及んできます。つまり感染症に罹りやすくなります5)。実際、亜鉛欠乏では、風邪の原因ウイルス、単純ヘルペスウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVウイルスなどのさまざまなウイルスの感染リスクが高まることが示されています。 また、亜鉛はコロナウイルスの複製を阻害します4)。コロナウイルスは、RNAウイルスに分類されます。RNAウイルスに対して、亜鉛は、RNAウイルスを複製する酵素であるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を阻害することで、ウイルスの複製を防ぐ働きがあります4)。 また、亜鉛サプリメントによる風邪や肺炎の感染予防や症状改善効果が示されています。これまでの亜鉛を投与した研究に関する系統的レビュー/メタ解析によると、  - 成人における風邪の罹病期間が33%短縮、  - 小児5,193 人では肺炎の罹患率が13%低下、  - 成人2,216 人での重度の肺炎の死亡率が低下といった亜鉛の効果が見出されました4)。 さて、肥満や糖尿病、高齢者などは、COVID-19の高リスク群です。これらの人々では、亜鉛が低値であることがわかっています。またこれらの疾患で服用される薬剤で亜鉛が低下することもわかっています。 降圧利尿剤、ACE阻害剤、ARBなどの高血圧治療薬、スタチン剤などです。実際、亜鉛不足はCOVID-19 感染の予後が悪くなること、重症化することなどが報告されています4)。 COVID-19感染に対する亜鉛投与の有効性はどうでしょうか? 亜鉛の単独投与では細胞内の濃度を上昇させるのが難しく、亜鉛イオノフォアの併用投与が必要ですが、米国では、亜鉛+イオノフォアの投与により、COVID-19患者の院内死亡率が24%低下したという報告もあります4)。ただ、亜鉛の単独投与ではもちろん死亡率改善効果はなく、他の薬剤との併用投与で効果が認められていました。現在、亜鉛単独投与ではなく、ビタミンCやビタミンDとの併用投与によるランダム化比較試験が進行中です。 亜鉛サプリメントは、適切な摂取量であれば、高い安全性が示されています。免疫能の維持など保健機能のための一般的な亜鉛サプリメントの摂取目安量は、1日あたり10mg~20mg前後です。症状の改善を目的とした場合、予防よりも多い量を数日間、摂取します。例えば、風邪に対する亜鉛の有用性を検証した臨床試験では、亜鉛を1日あたり80mgの用量で、数日間の投与が行われています4)。 本邦でも、亜鉛の摂取不足が示されており、特に、COVID-19の高リスク群である肥満や糖尿病などの生活習慣病有病者で顕著です。さらに、亜鉛の免疫調節作用や抗ウイルス作用は確立しており、積極的に摂取する必要があり、サプリメントの服用も考えるべきです。ただ、亜鉛を摂取しすぎると銅が低下しますので注意する必要があります。 菊池中央病院  中川 義久令和3年6月21日 参考文献 1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と栄養・睡眠・運動https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/532/ 2)東口 髙志ら:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言 . 日本臨床栄養代謝学会 2020 ; 2 ; 84 – 94 . 3)ビタミン D が不⾜すると新型コロナウイルス感染症が重症になる 4)蒲原 聖可:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防および治療に関する亜鉛の臨床エビデンス . 医と食 2021 ; 13 ; 51 – 59 . 5)亜鉛と感染症https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa146.pdf

歯周病がアルツハイマー型認知症の原因になる

歯周病がアルツハイマー型認知症の原因になる  アルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」はアルツハイマー型認知症の症状の進行を抑えることを目的とした薬で、脳にたまった「アミロイドβ」と呼ばれる異常なたんぱく質を取り除き、神経細胞が壊れるのを防ぐとしています。FDAは、6月7日効果が合理的に予測されると評価し治療薬として承認しました。しかし、その薬価の高さなどから一般に使用されるのにはかなり時間がかかることが予想されます。 アルツハイマー型認知症は、すべての認知症のうち、約67%を占める疾患です。多くの場合、物忘れがきっかけで気づかれ、症状としては記憶障害や見当識障害、言語障害、視空間認知障害などがあります。今後世界的に平均寿命が延びるにつれて,アルツハイマー病の罹患者は2050 年までに現在の3 倍に増加すると予想されています。 アルツハイマー型認知症の原因はアミロイドベータ(Aβ)をはじめタウ蛋白などの異常なタンパク質が脳に蓄積してしまうことがアルツハイマー型認知症になってしまう原因です。その結果、神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮することで、認知機能が低下してしまいます。アミロイドベータが脳に蓄積してしまう直接的な原因については長年にわたって不明とされていました。しかし、近年の研究により、アルツハイマー病患者の脳内において、単球や脳マクロファージ細胞であるミクログリアが活性化していることから、アルツハイマー病は慢性の炎症性疾患であることが判明しています。また、アルツハイマー病患者の脳内から歯周病菌であるジンジバリス菌(Pg菌)のリポ多糖(LPS)が検出され、そのLPS によってミクログリアが活性化し、脳炎症を引き起こすことがわかってきました。さらに この活性化されたミクログリアにより Aβ の産生・蓄積および認知機能障害を引き起こすことが報告されてきました。また、健常者と比較して、アルツハイマー病患者では歯周病原細菌に対する抗体価が有意に増加していることが確認され、アルツハイマー病の原因として歯周病菌が大きく注目されてきました1)。 2017年に九州大学と北京理工大学(中国)の研究チームは3週間をかけてマウスの腹部に歯周病菌を投与し、感染させたうえで「正常なマウス」と「歯周病菌を投与したマウス」に分けました。比較すると、歯周病菌に感染したマウスはAβを脳内に運ぶ「受容体」というタンパク質が約2倍に増加し、脳細胞のAβ蓄積量は約10倍になったことが判明しました。また、Aβが蓄積したマウスは認知症を発症したのです。さらに、アルツハイマー病モデルマウスの口腔内に直接 Pg菌を投与し、実験的歯周炎を惹起すると、Pg菌投与群の認知機能が非投与群と比較して著しく低下したことも報告されました。この研究者らは口腔内より腸内に侵入した Pg菌の影響により、腸内から血液を介して脳内に LPS が流入し、アルツハイマー病の病態に影響を与えたと考えました2)。腸内細菌が脳内の炎症やアルツハイマー病に影響を与えているとの報告はこれまでにもいくつかあり、腸内を無菌化すると細菌叢のある群と比較して、脳への Aβ の沈着量が有意に減少したという報告もあり、腸内細菌により生成されたアミロイドは血液脳関門を通過できるといった報告もあります。 歯周病菌と脳へのAβ沈着を促進させる受容体の正体も解ってきました。カテプシンBという酵素で、Pg菌が入ってくると過剰に増えて、脳内の炎症やAβ の沈着量が増加することがわかっています3)。また、カテプシンB欠損マウスでは記憶低下などのアルツハイマーの症状がおきないことも証明されています。カテプシンBを阻害する薬が作れればアルツハイマーの予防の薬となるかもしれません。 現在、脳内の炎症を抑える可能性のある物質がいくつか候補としてあがっています。ミツバチが作るプロポリスや、キノコの1種の冬虫夏草などです3)。しかし、まだ研究中の段階であり、現在は日常的な歯磨きや歯科検診が重要であることは言うまでもありません。 令和3年6月11日菊池中央病院   中川 義久 参考文献 1)石田 直之ら:歯周病はアルツハイマー病を悪化させる . 日歯周誌 2018 ;  60 ; 147 – 152 .2)世界初ヒト歯周病の歯茎で脳内老人斑成分が産生されていることが判明〜歯周病によるアルツハイマー型認知症への関与解明の新展開〜https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/3963)武 洲:歯周病菌による全身炎症で認知症に. 全国保険医新聞 2021 ; 2856 ; 10 .

子供にコロナワクチンは必要か?

子供にコロナワクチンは必要か? 高齢者のコロナワクチン接種が開始され、その予約が大変であることが連日報道されている一方、ファイザーのワクチンの接種の対象年齢について、厚生労働大臣は、早ければ今月末にも12歳以上への引き下げが認められるとの見通しを示しました(5月28日)。ファイザーのワクチンは、接種の対象年齢が、日本では16歳以上となっている一方、アメリカなどでは、12歳以上となっています。ちなみにモデルナとアストラゼネカのワクチンは18歳以上が適応でそれ以下の年齢はデータがなく接種不可の状態です。 しかし、かかっても軽症と言われる子供にワクチンを接種する必要があるのでしょうか?新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は健康な子どもにとって深刻な病気ではなく,多くの場合,無症状か軽症です。また、そもそも子供はかかりにくいことがわかっています。 https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200620-00184081/ より参照 この図は年齢ごとの感受性(感染者との接触による感染確率)の違いを見たものです。年齢が低いほど感受性が低く、年齢が高くなるに従って感染しやすくなります。60歳くらいからはプラトーに達します。  2020年12月20日の時点で国内における10歳未満の感染者数は4000人超、10代で1万人超であり、死亡例の報告はありません。小児における代表的な呼吸器感染症との比較において、5歳未満の小児ではCOVID-19肺炎の推定致命率は0.15~1.35%で、RSウイルス肺炎の0.3~2.1%より低く、インフルエンザ肺炎の0.14~0.45%よりやや高い程度と考えられています1)。 https://www.covid19-yamanaka.com/cont1/main.html より参照 中国でのデータですが、10歳以下の感染者は少なく、死亡者もいません。60歳以上で致死率が急上昇しています。 子供がCOVID-19にかかっても重症化しない理由については諸説が提示されていますが、小児にはウイルスのレセプターであるACE2受容体が気道上皮に少ないということと、子供は免疫応答である自然免疫反応が優れているということ、リンパ球のT細胞が活発に行動していること2)、などがあげられています。したがって、健康な子どもにとって軽症で済むCOVID-19のワクチンのメリットはそれほどありません。 さてCOVID-19のワクチン接種の目的は次の3つにあると思われます。このワクチンの主な目的は、1.自分が感染・発症しないため。2.感染しても軽症で済ませるため。3.まわりの人にうつさないため。 子供の感染はまわりの人にうつすことが多いのでしょうか?これに関しては諸説がありますが、2019年12月1日から2020年5月28日に発表された感染伝播についての14論文を比較した研究(レビュー)によりますと、子どもの感染者の15%から60%が無症状であり、75%から100%が家庭内で家族から感染させられ、学校は主な感染源にはならなかったと分析されています3)。また子どもによる感染伝播に関する33論文を比較したものや学校での感染に関する論文を比較した研究がありますが、どちらも子どもや学生の陽性率が低いと結論しています。つまり、子どもは学校でも感染しないし、感染も広げないようです3)。 COVID-19において学校・学級閉鎖の効果はあまりないことが多く報告されています1)。インフルエンザワクチンとは異なり,子どもたちに広く接種しても,感染拡大防止効果は限定的だと思われます。もちろん,数多くの子どもたちが感染すれば,中には重症化する場合もあるでしょう。子どもへのワクチン接種が社会の中での感染拡大を防止する効果もゼロではありません。しかし,稀な重症化を防ぐためのワクチンが,重大な副作用を稀ならず起こしてしまうのであれば有害なものとみなされます。ワクチンの治験が何万人もの規模で行われても,稀な副作用を検出することは困難です。新しいタイプ(mRNA)のワクチンでもあり,成人で広く接種されて重篤な副作用がきわめて稀であることが確認されるまでは,少なくとも健康な幼少児への接種を急ぐべきではないと森内氏4)は述べています。 令和3年6月1日菊池中央病院  中川 義久 参考文献 1)宮入 烈:小児におけるCOVID-19の臨床像. 日本医師会雑誌 2021 ; 150 ; 236 – 237 .2)免疫老化と新型コロナ感染症( COVID-19 )3)新型コロナ:子どもが「感染させにくい」のは本当か https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20210118-00218157/4)森内 浩幸:子供に新型コロナワクチンは必要か?日本医事新法 2021 ; 5057 ; 50 – 51 .

新型コロナワクチン、正しい筋肉注射を

新型コロナワクチン、正しい筋肉注射を  高齢者への新型コロナワクチンの接種が始まりました。予約が大変そうですが無事に多くの人が接種を終了することが望まれます さて、近年、内服薬や点滴薬の進歩によりあまり筋肉注射をしなくなりましたので、改めて筋肉注射の手技を学びなおす必要があります。 日本医師会のホームページに推奨される筋肉注射の方法が記載されています1)。それによると、●注射部位は三角筋の肩峰より2~3横指下中央の位置です。●三角筋をつままず、広げて圧迫固定します。皮下組織が手繰られて厚くなりますと針先が三角筋に届かなくなります。● 注射針を皮膚に対して斜めに刺入している報道が見受けられますが、注射針は必ず直角に刺入してください。●刺入れの深さは体型により13 ㎜~20 ㎜が目安です。● シリンジ陰圧確認を行わないことで、筋肉組織損傷による免疫獲得減弱を回避します。● 神経損傷を避けるため、刺入時に異常の訴えが無いことを確認した後にワクチンを三角筋に注入します。● 抜針後は軽く圧迫するだけで大丈夫です。揉まないでください。 と記載されています。 一方、肩峰から 4cm までの高さには三角筋下滑液包があり、また腋窩神経等も存在するため、それより下方の腋窩ひだの上縁の高さのほうが望ましいという意見もあります 。奈良県立医大の筋肉注射マニュアルに詳細な絵と注射方法が記載されています2)。腋窩神経は肩峰より5cm の部位、これが約3横指にあたるらしいですが、腕に巻きつくように走行しており、腋窩神経の損傷で、図に示す部位に感覚障害と、長期にわたる筋萎縮を生じてしまいます。 https://www.konta-chiryouin.com/ekikashinnkei02.html  より参照  また、肩峰より平均約4cmまでの⾼さには,三⾓筋下滑液包が三⾓筋の裏に存在し、ワクチンの誤注⼊によるSIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)が海外で多数報告されており、穿刺を避ける必要があります2)。三角筋下滑液包炎をおこすと肩の動きが障害され、強い痛みが生じるとされています。 コミナテイワクチンに含まれる mRNA はおもに筋肉細胞内でタンパク質に翻訳されるため、筋肉内に確実に到達するよう針の長さには注意が必要です。体格によっては筋肉の厚さが薄く、長すぎる針の場合は骨膜損傷や三角筋下滑液包炎を起こすおそれがあります。標準的には 22~25G、長さ 25mm の注射針で、皮膚面に 90 度の角度で注射します。針の長さは、日本人の体格では 16mm でも接種が可能な者も多く、体重 70kg 以上では 32~38mm のものも使用できます。上腕三角筋に接種できない場合(皮膚疾患、筋肉萎縮等で)、下腿の外側広筋(大腿部の外側の筋肉)に注射することが勧められています3)。 文献2)に優れた図が記載されているので一度参照されることを勧めます。 菊池中央病院  中川 義久令和3年5月17日 参考文献 1)日本医師会新型コロナワクチン速報【第5 号】2)筋肉注射手技マニュアルhttps://www.nmu-resident.jp/info/files/intramuscular17.pdf3)COVID-19 ワクチンの普及と開発に関する提言 修正第 4 版 2021 年 4 月 23 日診療ガイドライン検討委員会 COVID-19 expert opinion working group 南学 正臣 (委員長)https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2021/04/20210426063706.pdf

新型コロナの合併症-小児多系統炎症性症候群(MIS-C)-

新型コロナの合併症ー小児多系統炎症性症候群( MIS-C )ー  2020年5月にコロナ感染歴のある子どもに川崎病の症状がみられることが欧米で相次いで報告されました。新型コロナウイルスは血管親和性が強く、全身の微小血栓形成、下肢血栓からの肺塞栓症による急死、心筋梗塞・心筋炎による急変なども相次いで報告されました1)。そののちにこの疾患は、川崎病とはやや病状が異なり、新たな疾患としてMultisystem Inflammatory Syndrome in Children ( MIS-C ; 小児多系統炎症性症候群 )と命名されました2)。川崎病とMIS-Cは、長引く発熱、皮膚の発疹、リンパ節腫脹、下痢、炎症性バイオマーカーの上昇など、いくつかの共通の症状を持っていますが、MIS-Cは10代と発症年齢が高いこと、腹部症状が多いこと、左室収縮機能障害や急性心不全を伴う症例が多いことなどの特徴があります3)。  欧米では少しづつその臨床像が明らかになりつつあります。 2020年3月の米国での186人のMIS-Cの調査では2)、MIS-C が発症する前にCovid-19 の症状を認めていた患者のうち、Covid-19 の症状が発症してからMIS-Cの症状が発症するまでの期間は平均25日間(6-51日)でした。患者の年齢は平均8.3歳(3.3-12.5歳)であり、62%が男性、73%は生来健康でした。好発人種は明らかではありませんでした。MIS-Cの症状は、78%に5日以上の発熱、90%に4日以上の発熱を認めました。71%は少なくとも4つの臓器障害を伴っており、最も障害が認められた臓器系は、消化器系92%、心血管系80%、血液系76%、粘膜・皮膚系74%、そして呼吸器系70%でした。80%はICUで治療を受け、20%は侵襲的人工呼吸管理を受けていました。70%は生存して退院しました。2%が死亡しました(その他はまだ入院中)。死亡した4人の患者は10~16歳で、うち2人は基礎疾患を有しており、3人はECMO管理を受けていました。成人のCovid-19 の患者の合併症は特に呼吸器に多く見られますが、MIS-Cでは特に消化器に多く認められる傾向にありました。  検査所見はほとんどの患者(92%)で炎症を示す4つ以上の臨床検査の異常値を示しました。赤沈亢進またはCRP上昇、リンパ球減少症、好中球増加、フェリチン増加、アルブミン低下、ALT上昇、貧血、血小板減少、およびDダイマー上昇、PT-INR延長、またはフィブリノーゲン上昇などです。心血管病変は一般的で80%に認め、48%が昇圧薬による支持療法を受けていました。大多数の患者ではBNPが上昇しており73%、50%でトロポニンが上昇していました。心臓超音波検査を受けた患者の9%に冠動脈瘤が認められました。  患者の大部分が免疫調節薬による治療を受けており、その中でも最も多いのは免疫グロブリン静脈内投与77%とグルココルチコイドの全身投与49%でした。退院した患者のほとんどは生存していたことより有効であったと考えられています。過剰炎症状態を示唆する臨床および検査所見、SARS-CoV-2感染に関連した発症時期、そして成人Covid-19患者の疾患パターンとの類似性を考慮すると、MIS-CはSARS-CoV-2感染によって引き起こされた免疫介在性傷害の結果であると推測されています。本質的な問題は、なぜこの年齢層でMIS-Cが発症し、他の年齢層では発症しないのかということですが、MIS-C発症の年齢特異的な違いは、SARS-CoV-2感染曝露の感受性の違いやSARS-CoV-2が細胞侵入のために利用する受容体であるACE2の鼻腔内発現の違いで説明できるのではないかと考察しています2)。  本邦ににおいてもMIC-Sと診断された患者が報告されつつあります。成人で肺炎が悪化し重症化することが多いのとは異なり、MIS-Cでは下痢、発熱、発疹などが見られ、心機能が低下することが特徴です。SARS-CoV-2に感染した回復期(2~6週後)に学童期以降の小児にこうした症状が認められる傾向があり、感染当初は軽症ですが、急激に川崎病の主症状(発熱、発疹、眼球結膜充血、口唇口腔所見、四肢末端の腫脹、頸部リンパ節腫脹)が出現したとのことです。  現在、国内で増加している変異型新型コロナウイルスは小児への感染がしやすくなっているとの報告もあり、今後、同様の例が発生することが危惧されています。 菊池中央病院   中川 義久令和3年5月6日 参考文献 1 ) 川崎病と冠動脈瘤と新型コロナ感染症https://nobuokakai.ecnet.jp/info/518/ 2)Feldstein LR, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in U.S. Children and Adolescents. N Engl J Med. June 29, 2020. doi: 10.1056/NEJMoa2021680. 3 ) Multisystem Inflammatory Syndrome in Children (MIS-C)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7293840/3 4 ) コロナ感染で発生、小児多系統炎症性症候群日本川崎病学会が関連学会に通知https://medical-tribune.co.jp/news/2021/0326535828/index.html?_login=1#_login

新型コロナワクチンを接種しました

私も新型コロナワクチン(コミナテイ)の接種を2回終了しました。1回目の接種時は接種当日に軽い頭痛と局所の疼痛があり、翌朝には疼痛のため腕があがらなくなりまたが、2日目にはほぼ痛みも軽快しました。2回目の接種でもやはり局所の疼痛があり、1回目よりやや強く感じましたが鎮痛剤を飲むほどではなく、普通に出勤しました。全身的な副作用はあまり感じませんでした。局所の疼痛も2日後にはかなり改善していました。許容できる程度の副作用と感じました。 厚生労働省の調査では2回目の接種での副作用が強く出ており、主な症状と発症率は以下のとおり(1回目/2回目)と報告されております。 発熱(37.5℃以上):3.3% / 35.6% 発熱(38℃以上):0.9% / 19.1% 接種部位反応:92.9% / 93.0% 発赤:13.9% / 16.0% 疼痛:92.3% / 91.9% 腫脹:12.5% / 16.9% 硬結:10.6% / 9.9% 熱感:12.8% / 16.6% かゆみ:7.9% / 10.4% 倦怠感:23.2% / 67.3% 頭痛:21.2%/ 49.0%              文献1)より また、順天堂大学での検討でも以下のグラフのような結果が出ています これらの副作用は若年層および女性での頻度が高いことが分かってきています。先行接種において、ワクチン接種との因果関係が疑われる副反応疑い報告は3月25日時点で1万9808例中20例。このうち、アナフィラキシーは3例でした。因果関係が疑われる特殊な副反応報告に末梢性顔面神経麻痺が挙がっている点について、欧米では、一定数出ているので関連している可能性はあるかもしれないとしています2)。 問題のアナフィラキシーについて米国や英国で一定程度の報告がありましたが、多く見積もっても6~10万回に1件程度で、ワクチン全般からするとやや高い頻度ですが実臨床で次々に発生するような頻度ではないとされています。 薬剤 アナフィラキシーの頻度:100万接種対 ペニシリン 4590 スルフォンアミド 1510 セファロスポリン 610 マクロライド 380 キノロン 370 NSAIDs 1300 オピオイド 980 ワクチン一般 1.31 コミナテイ 11.1 ~ 17.1 文献3)より転載 本邦ではアナフィラキシーの報告が欧米に比較して非常に多いのではないかという指摘もありますが 、厳密なブライトンの診断に合致しない軽症の気分不良が多く報告されており実際に本邦で多いかどうかはまだ不明です3)。  以上のようにアナフィラキシーの発生頻度もペニシリンなどに比較して許容できる程度の頻度で、また、世界で数千万人以上が接種を受けても現時点で因果関係が示唆される重篤有害事象は報告されておらず、ワクチン特有の局所の疼痛や発熱などの副作用がやや強いように思われますが、その効果を考えると許容範囲と思われます。  コミナテイのワクチン効果は高く、2回の接種7日後に発症予防効果が95.0%、重症化予防効果が88.9%と報告されています4)。さらに、最近の報告では5)、ワクチン効果は最低6か月は持続し、かつ感染力の強い南アフリカ由来の変異ウイルスに対しても有効性が100%でした。新型コロナウイルス自体は2~4週間に1回程度のRNA配列の変異を繰り返しており、RNA配列の変異が蛋白の変異につながり、蛋白変異がヒトへの感染性等の変異につながるには偶然が幾重にも重なる必要がありますが、今後の変異株全てにワクチンが有効であるかどうかは不明です。  またコミナテイーの有効性は症状出現し、新形コロナPCR陽性になる可能性について有効性が示されていますが、無症候性感染については有効性は確認されていません。同時に他者への感染予防効果も明らかではありません。つまり、現時点で明らかなのは、発症予防という接種者本人の利益のみが保証されているのみなので、接種後もマスクや外出自粛などの感染対策は必要ということです。  コミナテイは高齢者は積極的な接種対象者ですが70代以上の人のデータはなく、効果・副作用は不明です。15歳以下の小児も同様です。授乳婦には問題ないとされています。妊婦のデータはありません4)(現在治験が進行中です)。 菊池中央病院   中川 義久令和3年4月12日 参考文献 1 ) ワクチン接種2回目で多い副反応疑い、主な症状と発症時期は?/厚労省https://www.carenet.com/news/general/carenet/51965 2)2回目接種の翌日に頭痛や倦怠感などの副反応が顕著新型コロナワクチン先行接種、若年層と女性に多い副反応、5.5%は勤務不可https://www.m3.com/news/iryoishin/895514 3)新型コロナワクチン接種後の副反応ーアナフィラキシー47件、2回目の倦怠感67%. 日本医事新報  2021 ; 5058 ; 14 – 15 . 4)守屋 章成:新型コロナワクチン今わかっていることまだわからないこと . 日本医事新報 2021 ; 5057 ; 18 – 36 . 5)ファイザー製「半年効果」…ワクチン臨床試験https://www.m3.com/news/general/898288?dcf_doctor=true

ピロリ除菌後胃がんは少なくない

ピロリ除菌後胃がんは少なくない  2013 年2月にヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pyrori 以下ピロリ)感染胃炎が保険診療対象疾患となり、わが国はピロリ感染を発見したら除菌するような状態になりました。本邦でのピロリ 除菌治療件数は年間約150 万件となっており、2013 年以降、わが国の胃がん死亡者数は徐々に減少傾向にあります1)。胃がんが好発する60 歳代以上において、ピロリ感染率は依然として高率で、実臨床での主な除菌対象となっています。わが国で内視鏡診療が普及し、胃がんの形態診断学が確立したころ、胃がん症例のほとんどはピロリ感染例でした。胃がん発生の主因はピロリ感染であることに異論の余地はなく、特に、本邦においてはピロリ未感染胃から胃がんが発生することは極めて稀であるため、ピロリ感染を治療すれば胃がん発生は減少し、胃がん死亡が減少することが容易に想定できます。実際、2014 年のIARC(国際がん研究機関)からの勧告文書ではピロリ除菌により胃がん発症を30~40%減少させることができると記載されています1)。しかし、30~40%というのは胃がんの原因がピロリ菌と言う割には少ない数値です。実際、実臨床ではピロリ除菌後の胃がん発生に無視できないほど遭遇することがわかってきて、ピロリ菌は胃がん発生の必要条件ではありますが十分条件ではないことが疑われてきました。その後の検討で、ピロリ感染後胃炎の自然史において、広汎で回復不可能な萎縮性変化や腸上皮化生が出現すると( point of no return を超えると)ピロリ感染に依存せず胃がんが発生するハイリスク状態が確立するという事実がわかってきました2)。Wong らの最初のランダム化比較試験が興味深い結果を提示しています。本研究はピロリ感染者を除菌群とプラセボ群に無作為に振り分け、胃がん発生を平均7.5年間追跡したものです。結果として、両群間の胃がん発生に有意差は認められず、また、除菌群ではプラセボ群より遅れて胃がんが発生していました。除菌により胃がん発生は予防できずに発生を遅らせた、という結果でした。それまでの報告は5年以内の短い期間のものが多く、それらの結果は除菌が胃がん発生に有効という結果でした。最近の報告をまとめると、成人を対象にしたピロリ除菌による胃がん発生抑制効果が当初喧伝されたほど明確なものでなく、除菌後の胃がん発生が長期間無視できない割合で生じることを示しており、最近の研究では除菌後20年あまりの期間、胃がんが年率0.35%の高率で発生したことが報告されています2)。 ピロリ感染が長期間になって、point of no return を超えた胃を有するものが高頻度である中年以上の者がピロリ菌を除菌したからといっても胃がん発生抑制効果が劇的とは考え難く、胃がん発生高リスク状態にとどまり検診受診の継続が必要で有ることを説明する必要があります2)。 ところで、一般的に胃がん病巣の周囲にはピロリ感染胃炎粘膜があり、胃がん組織との形態学的差異を形成しています。ところが、ピロリ除菌治療後は、胃がん周囲粘膜の炎症を劇的に軽快させるのみならず、胃がん自体の形態にも影響を及ぼすことが明らかとなってきました。詳細は割愛しますが、見逃しの危険が多くなり、腫瘍の範囲診断や生検診断の部位の間違いを起こす頻度が多くなるといった新たな問題が提起されています3)。胃がん死亡は減少傾向にありますが、いまだ本邦においては年間約4.5 万人の胃がん死亡があり、これからの胃がん診療においては、除菌後胃がんを適切に診断、治療することが極めて重要です。 ピロリ菌は逆流性食道炎、種々のアレルギー疾患、自己免疫疾患等においてその発症に抑制的に働くことが報告されており、近年の世界的なこれら疾患の増加の1因としてピロリ感染率の低下が関連している可能性が指摘されています。米国国民健康栄養調査ではピロリ感染は胃がん死亡を増加させるが、脳卒中死亡等を減少させ、結果的にピロリ感染者の総死亡リスクは非感染者と変わらないと報告しています4)。胃がん抑制のためのピロリ除菌によって、全身的な他疾患のリスクを増加させる可能性があり、ピロリ菌陽性の健常者を除菌する際には、その将来的なリスクとベネフィットを考慮し説明する必要があります。 菊池中央院   中川 義久令和3年4月2日 参考文献 1 ) 伊藤 公訓ら:Helicobacter pylori 除菌後の胃がん . 日本消化器内視鏡誌 2018 ; 60 ; 5 – 13 .2)一瀬 雅夫ら:Helicobacter pylori 感染胃炎からの発がんー自然史、発がん機序、除菌による予防を巡っての視点― . 日内会誌 2021 ; 110 ; 29 – 35 .3)村上 和成:ピロリ菌感染と胃がんとの関連 . 日内会誌 2021 ; 110 ; 476 – 480 .4)飯島 克則:Helicobacter pylori 感染症:残された課題.日内会誌 2021 ; 110 ; 7 – 9 .

単純ヘルペス脳炎は早期治療が重要

単純ヘルペス脳炎は早期治療が重要 脳炎・髄膜炎では治療開始の遅れが重度後遺症や致死的転機を招くため神経救急として対応する必要があります。急性脳炎にはウイルス性脳炎やその他の病原体による脳炎、自己免疫性脳炎、膠原病に伴う脳炎・脳症などがありますが、ウイルス性脳炎の割合が高く、中でも単純性ヘルペスウイルス( herpes sinmlex virus : HSV ) が脳炎全体の約 20%、次いで水痘・帯状疱疹ウイルス( varicella-zoster virusu : VZV ) による脳炎が約 5 – 10% を占めるとされています。一方で脳炎全体の 30 -50%は原因が同定できないことも指摘されてきましたが、近年、抗 N-methyl-D-asparate ( NMDA ) 受容体脳炎など自己免疫脳炎がクローズアップされこれらの診断例も増えています1)。 当院でも単純ヘルペス脳炎(Herpes simplex encephalitis;以下 HSE と略)と思われる症例を経験したので今回調べてみました。 HSE は単純ヘルペスウイルス 1 型(herpes simplex virus type 1:HSV-1)あるいは 2型(herpes simplex virus type 2 :HSV-2)の初感染時または再活性化時に発症し、発症年齢(新生児、年長児、成人)によってその病態はかなり異なります。年長児から成人の HSEの ほとんどの症例は HSV-1 によるものであり、新生児の HSE では、HSV-1 が HSV-2 より約 2:1 の比率で多いとされています 。HSV が中枢神経系に移行する経路は、上気道感染から嗅神経を介してのルート、血行性ルート、感染した神経節からのルートの 3 通りが考えられています。以後は成人についてのみ記載します。 発生率は本邦では 3.5 人 / 100 万人 / 年と考えられています。 潜伏期は2~12日(平均6日)で、発熱、頭痛、嘔吐、髄膜刺激症状、意識障害、痙攣、記憶障害、言語障害、人格変化、幻 視、異常行動、不随意運動、片麻痺、失調、脳神経症状など多彩な症状で発症します。発熱を伴う不定の中枢神経症状を認める患者を診た場合には、まず HSE を念頭に置いて、迅速診断・早期治療を心がける必要があります。成人のHSE は HSV-1 の再活性化によるものが多く、HSV‐2 は主に脊髄炎や髄膜炎の形をとることが多いとされています2)。 血液検査では CRP などの炎症所見が軽度上昇するにとどまり、その他の特記すべき所見はありません。血液にはウイルスは検出されません。頭部 CT では特別な所見はありませんが除外診断として推奨されます。MRI は体動やけいれんで施行できないことが多いですが、T1 強調画像にて等~低信号、T2 強調画像と FLAIR で高信号を呈することが多く、病初期での病巣検出には DW1 も有用です。側頭葉と辺縁系が HSE の好発部位であり、病初期では 90%に MRI の異常が検出され、側頭葉、前頭葉(側頭葉内側面、前頭葉眼窩、島回皮質、角回)に病巣を認めることが多いとされています1)。 確定診断は髄液検査でされます。髄液初圧は中等度上昇し、単核球、蛋白の上昇を認めます。髄液 HSV DNA 高感度 PCR は非常に有用で感度 95% 特異度 99% と優れた成績を示しています。しかし、一部の例、特に成人例では 5~10%に偽陰性が認められます。その場合、HSV IgG が提出されることもありますが強く推奨はされていません。初回の髄液PCR が陰性でも疑わしい場合は 24 時間後の再検査が勧められます。髄液検査はもちろんCT か MRI で著明な脳圧亢進がないことを確認してからなされます。 以上のごとく疾患特異的な症状や必ずしも MRI が撮像できないことより、診断は髄液からのウイルス DNA の検出によりなされます。しかし、検査結果を得るまでに一定の時間を要する一方で、発症早期に Aciclovir(以下 ACV)治療されないことが転帰不良因子であることから急性脳炎が示唆される、あるいは病院到着後6時間以内に髄液や画像所見をとれない、患者の状態が時々刻々と悪化している場合には ACV を経静脈的に開始することが重要とされています3)。 ACV は HSV 感染細胞にのみ発現するウイルス性チミジンリン酸化酵素(viralthymidine kinase)を介し HSV の増殖を強く抑制し、ヘルペス脳炎 に対して最も安全かつ有効性の高い薬剤です。尿量減少に伴い腎尿細管 ACV の濃度が溶解度をこえると ACVは結晶化し尿細管を閉塞させ腎後性腎障害をひき起こします。このため、免疫正常成人 HSE例では ACV 10 mg/kg/8 時間を 14〜21 日間投与しますが、腎障害の発症を防ぐためにはACV を緩徐に点滴静注(1回あたり1〜2時間以上かけて)すること、十分な尿量(75 ml/時間以上)を確保することが重要です。 ACV が早期に使用されることによって HSE の予後はかなり改善しましたがそれでも死亡率は 10~15%と高く、高度後遺症などの転機不良例は 27~35%、軽症から中等度の後遺症残存症例は 40~51%で完全回復あるいは後遺症が軽度で社会復帰できる患者は約半数と推定されています。現在でも機能予後を考えると深刻な感染症です2)。 適切な ACV による治療が行われた HSE の経過は通常単相性ですが、脳炎症状がいったん軽快した数週間後に増悪することが 5〜27%みられます。この病態機序として HSV の再活性化と免疫炎症性機序の2つが指摘されています4)。このような再燃例で HSV が検出されることはほとんどなく、高率に脳の自己抗体が検出されることから、炎症で脳組織が血中に流出することによる自己免疫の機序による脳障害が多くを占めると考えられてきました。 その中でも NMDA 受容体脳炎が注目されており、HSE の経過中 30%に NMDA 抗体が検出され、再燃例ではステロイドの投与が推奨されています4)。 菊池中央院 中川 義久令和3年3月19日 参考文献 1 ) 中嶋 秀人:急性脳炎診療の進め方とポイント. 神経 2020 ; 37 ; 265 – 267 .2)単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン 2017 . 日本神経感染症学会、日本神経学会、日本神経治療学会 監修3)森田 昭彦:単純ヘルペス脳炎の診断と治療 . Neuroinfection 2020 ; 25 ; 35 – 38 .4)⽯川 晴美:単純ヘルペス脳炎における抗 NMDA 受容体抗体の検出 . 神経治療 2019 ;36 ; 265 – 267 . ダウンロード 単純ヘルペス脳炎は早期治療が重要[PDF:182KB]

究極の善玉腸内細菌―アッカーマンシア菌

善玉腸内細菌―アッカーマンシア菌 近年の DNA 解析の発展と腸内細菌学の確立によって,腸内環境の変化が宿主の生体恒常性維持と密接に関与することが科学的根拠に基づいて明らかにされ始めています。私たちの消化管内には重さにして 1.5 kg、数にして 1014 個以上もの腸内細菌が棲息し、一つのコミュニティーを形成しており、エネルギー代謝異常疾患、免疫疾患や神経系疾患など腸管関連疾患から末梢組織における疾患まで、ある種の腸内細菌が様々な病態と密接に関与することが示唆されています 1)。また、このような腸内細菌と宿主を結びづける実質的な分子実体として、腸内細菌由来代謝物が注目され始め、生体恒常性維持に重要な役割を果たしていることが示唆されてきました。 アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は、2004 年に発見された、ヒトの腸内に存在するムチン分解菌であり、肥満、糖尿病、炎症との関連について近年、広範な研究がされるようになってきました。 アッカーマンシア・ムシニフィラは、特に、肥満及び 2 型糖尿病に有効である可能性が注目されています。この細菌は通常はヒトの消化管に 3-5%存在しますが、肥満している場合にはこの比率が低下していることが判明しました。また、同菌を肥満マウスに注入したところ、体脂肪量を半減できることが解りました。 消化管は粘膜がむぎだしになっているわけではなく、ムチンという粘液に覆われており、そのムチンのゲル層は、胃では厚く全面を覆っていますが、小腸では薄く断続的となり、大腸では再び厚く全面を覆るようになります.ヒトの場合、ゲル層の厚さは、胃と大腸では数百 µm から 1 mm 近くになるとされています。アッカーマンシア菌はムチン分解菌ですが、ムチンを産生させる役目もあり、腸内で繁殖すると、腸の壁の厚さが増し、ムチンが増え、糖類が身体に吸収されることが妨げられることにより糖の吸収が悪くなり、痩せる作用があると考えられています2)。また、同時に厚くなったムチンが腸内で発生した炎症物質の腸内侵入や細菌やエンドトキシンの腸管内粘膜への侵入を防ぐために、同菌の増加は、全身の抗炎症作用があると考えられています。このムチンの存在は食物繊維が不可欠で、欧米の食生活は食物繊維が少なく、食物繊維飢餓という非常事態に際して、さまざまな腸内細菌が、自らの生存のために、生体防御として非常に重要な粘液層を消化しながら粘液層を破壊してしまいます。食物繊維の少ない欧米型の食事はこのような機序で消化管内ムチンを減少させ、アッカーマンシア菌を減少させてしまうのです3)。また、食物の脂肪の種類が、消化器官の他の細菌と比較してアッカーマンシア菌の成長に影響を及ぼすことが解ってきました。マウスで、ラードを摂取群と魚油摂取群を比較してみました。11 週間後、魚油食を摂取した群はアッカーマンシア群及びラクトバシラス属の細菌が増加しましたが、ラード食を与えた群は両者の菌が減少していました。また、このアッカーマンシア菌群が減少したマウスでは炎症反応が亢進していました4)。アッカーマンシア菌が減少する他の物質として抗生剤の投与が知られており、家畜に抗生物質を投与すると家畜が肥満する現象に関連しているのかもしれません5)。また、非吸収性の人工甘味料もアッカーマンシア菌を減少させ、これは長期間の人工甘味量の飲用で肥満が生じることと関連しているのかもしれません。 薬剤でアッカーマンシア菌を増加させるのがメトホルミンで、メトホルミンは血中から便中にぶどう糖を出す作用があり、このぶどう糖を餌にアッカーマンシア菌が増殖し、同薬の血糖降下作用の一部になっていると考えられています6)。アッカーマンシア菌は抗炎症作用や、抗肥満、血糖降下作用のみならず、近年、抗悪性腫瘍剤の PD-1 阻害剤の作用を増強させる作用も指摘されており7)、優れた腸管内の善玉菌であることがわかってきました。 菊池中央院 中川 義久令和3年3月8日 参考文献 1 ) 向山 弘美:宿主エネルギー代謝制御における腸内細菌と遊離脂肪酸の役割 . オレオサイエンス 2019 ; 19 ; 139 – 144 .2)芦田 久:消化管ムチンを介した微生物と宿主の相互作用 . 化学と生物 2016 ; 54 ; 901– 906 .3)金井 隆典:腸内細菌と消化器疾患. 日内会誌 2019 ; 108 ; 1939 – 1945 .4)内藤 裕二:腸内微生物叢・代謝物ビッグデータをどのように食・食品機能性研究に応用するか?Functional Food Research 2019 ; 15:4 – 10 .5)伊藤 裕:腸内細菌と肥満 . 日本内科学会雑誌 2016 ; 105 ; 172 – 176 .6)内藤 裕二:腸内細菌叢と環境要因. 日本医師会雑誌 2020 ; 149 ; 1537 – 1541 .7)大坂 利文:抗生物質による腸内細菌叢の変化と生体影響. 腸内細菌学雑誌 2018 ; 32 ;125 – 136 . ダウンロード 究極の善玉腸内細菌―アッカーマンシア菌[PDF:119KB]

PEG アナフィラキシーとは?

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新型コロナ感染症のPCR再陽性例は感染蔓延の危険はないのか?

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サプリメントとしてのビタミンD

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ビタミンDが不足すると新型コロナウイルス感染症が重症になる

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いよいよ日本でも新型コロナワクチン接種が始まります

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若者に帯状疱疹が急増中

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虫垂炎、憩室炎と誤診される腹膜垂炎

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比較的徐脈をきたす感染症

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新型コロナの抗原定性検査の実力は

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OPATとは

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欧米で話題のライム病とは

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10月1日からワクチンの接種間隔が変更になります

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新型コロナ(SARS-CoV-2)では集団免疫はできない?

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新型コロナ(SARS-CoV-2)とインフルエンザ -ウイルス干渉-

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新型コロナの許容リスク

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免疫老化と新型コロナ感染症( COVID-19 )

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と栄養・睡眠・運動

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新型コロナウイルス感染症後の全身の後遺症

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洪水後に増加する経皮感染のレプトスピラ

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新型コロナの抗原検査

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新型コロナの抗体検査

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抗体依存性免疫増強とは

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新型コロナウイルスワクチンの開発

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川崎病と冠動脈瘤と新型コロナ感染症

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新型コロナウイルス(COVID-19)感染症 の治療

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症 の治療

新型 コロナウィルスに 関するお 知らせ

新型 コロナウィルスに 関するお 知らせ 【外来受診について】 新型コロナウィルス感染を疑われる患者さん は、病院を受診される前にまず、お住まいの保健所に開設されています「帰国者・ 接触者相談センター」に電話にてご相談下さい。・菊池保健 所:0968-25-4138・山鹿保健 所:0968-44-4121 【面会について】 病棟への出入りは全面禁止しています。

MERSはまだ終息していない

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空気感染と飛沫感染

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新型コロナウイルスー感染症学会からの提言

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好中球細胞外トラップ(NETS)

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肺MAC症は予防が大切

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過敏性腸症候群と低FODMAP食

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抗インフル薬は何を使う?

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百日咳は新しい検査法でも診断が難しい

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抜歯時の抗生剤投与

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不明熱の中の感染症

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Eagle効果とは?

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ピロリ感染診断には血清抗体を用いない

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2回ワクチン打っていれば抗体測定不要

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IgG抗体アビディティー検査とは

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手足口病が流行しています

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成人Still病は薬剤アレルギーに注意

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風疹の第五期定期接種

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ダイエットで人気のカルニチン、抗生剤で低下する?

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疥癬とイベルメクチン

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妊婦さん、子供の食べ残し食べないで

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2つの帯状疱疹ワクチン

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もうひとつのピロリ菌、ハイルマニイ菌

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単純ヘルペスの1日治療

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溶連菌感染症が増えています

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ムンプスワクチンの必要性

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扁桃炎ーEBウイルス感染を否定できるかー

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麻疹の感染対策はワクチンのみ

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新しいレジオネラ感染の診断キット

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リンゴ病が流行の兆し

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インフルエンザの診断―イクラサイン―

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市中に広がるClostrioides difficile

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高齢のHIV陽性者・AIDSの増加

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レジオネラ肺炎は見逃されやすい

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感染症の出席停止期間

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風疹の流行が続いています

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インフルエンザワクチンは午前中の接種が有効?

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クラミジア(クラミドフィラ)肺炎は少ない

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A、B、C型肝炎より多いE型肝炎、一部慢性化 も

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タミフル10歳代も可、異常行動は脳梁膨大部脳 炎

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性行為感染症で増加しているA型肝炎

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夏に増加する軽皮感染症のレプトスピラ

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平成30年7月豪雨・洪水における感染予防

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尿道炎もマイコプラズマが関与

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ロシアにも狂犬病はあります

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百日咳の新しい検査法

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病院実習を始める看護学生へのウイルス抗体価測 定の項目(再掲)

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子宮頸がんワクチンの副作用ー自己免疫性脳炎―

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何故、麻疹流行はくりかえされるのか

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オーストラリアのメロンがリステリアに汚染?

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薬剤性過敏症症候群は一種の免疫再構築症候群

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見逃されている乳児ボツリヌス症

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アメーバ赤痢の国内感染が増えています

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まるでノロウイルスの培養室―平昌オリンピック

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マイコプラズマ肺炎―LDHがステロイド投与の 目安―

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成人の流行性筋痛症―パレコウイルス感染症―

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インフルエンザ迅速検査をしないこともあります

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インフルエンザ新情報

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日本全国に存在する?ダニ媒介性脳炎

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風邪症候群から伝染性単核球症を見つける

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インフルエンザワクチンをうつべきか?

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クロストリジウム毒素抗体療法

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メトロニダゾール点滴静注

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ビタミンDと感染症

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秋~冬に流行する猫ひっかき病

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プロトンポンプ阻害剤と感染症

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ピロリ菌の尿中抗体

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猫咬傷で重症熱性血小板減少症候群(SFTS) を発症

猫咬傷で重症熱性血小板減少症候群(SFTS) を発症

ニューキノロン系薬の警告強化

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熊本県内で梅毒患者が急増 昨年の2倍超

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腸管出血性大腸菌、気温上昇で流行の兆し

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DAAによるHBVの再活性化

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アニサキス症が急増しています

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亜鉛と感染症

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B型肝炎ワクチン3回接種後の抗体確認

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温泉利用の男性、レジオネラ症で死亡

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研修医が修麻疹飾を発症

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「一晩寝かせたカレー」食中毒ご注意

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クリプトコッカスが前立腺に潜んでいる

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ピロリ除菌、ペニシリンアレルギー大丈夫?

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妊婦さんはトキソプラズマに注意

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インフルエンザワクチンはA香港型には無効?

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百日咳の新しい診断法

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梅毒の治療にペニシリンとプロベネシッド

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感染症の後遺症、ギランバレー症候群

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発熱と発疹、HIV感染症もあります。第4世代 検査法で

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麻疹の鑑別・薬剤過敏症症候群

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卵アレルギーとインフルエンザワクチン

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マイコプラズマ肺炎が増えています。その診断に ついて。

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肉フェスで大勢の食中毒!犯人はやっぱり!

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麻疹が流行しています。index case を診断できるか

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結核のハイリスクグループ

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ジビエ(野生鳥獣の肉)料理の危険

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帯状疱疹患者さんは隔離すべきか –

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経皮感染するレプトスピラ – 水遊びに注意 –

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激減した腸炎ビブリオ食中毒

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夏に増加するサルモネラ食中毒

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熊本地震と洪水、懸念される破傷風

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日本紅斑熱の増加が懸念

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ウイルス性顔面神経麻痺

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ブドウ球菌による食中毒

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2週間以上続く咳は?

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マクロライドの乱用を避けなければ

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生物の持つ天然毒の中で最強のパリトキシン

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百日咳は血清診断すべきか?

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見逃されている反応性関節炎

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中南米で流行しているジカ熱

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歯性感染症、大腸炎から大腸癌までおこすフソバ クテリウム

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日本では冬に流行するインフルエンザが熱帯地域 では雨季に流行する

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化血研問題でワクチンが不足する

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青魚アレルギーではなくアニサキスアレルギー

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市中に拡がる耐性黄色ブドウ球菌

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口唇ヘルペスに生涯罹らないことは可能でしょう か

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新型ノロウイルスが今冬流行するかもしれません

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インフルエンザワクチンが4価になりました

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不思議な真菌、ニューモシスチス

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ビブリオ・バルニフィカスに良く似たエロモナス 感染症

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帯状疱疹の予防に水痘ワクチン

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1日1錠、12週間服用でほぼ100%有効なC 型肝炎治療薬

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タケキャブを用いたピロリ除菌

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夏に増加するビブリオ・バルニフィカス感染症

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今夏、デング熱は流行する?

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リステリア菌も冷蔵庫内で増殖します

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韓国でのMERS感染症 -スーパースプレッダーの存在-

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エルシニア菌は冷蔵庫内でも増殖します

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ピロリ菌除菌後も定期的胃カメラが必要です

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B型肝炎ワクチンの0歳児への定期接種

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保育園での疥癬の集団発生

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マイコプラズマ迅速診断キットを導入しました

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致死的上気道炎ーレミニール症候群ー

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不登校や仮病の原因がQ熱

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新鮮地鶏にご用心

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腸内細菌の変化で痩せられる

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人食いバクテリアが増加している?

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インフルエンザの登校停止期間

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見逃されているE型肝炎

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日本ではレジオネラ症は少ないのか

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増加している輸入真菌症ーコクシジオイデス症ー

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どのような嘔吐下痢症に抗生剤を投与するか?

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エボラ出血熱の救世主?アビガン錠とは?

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インフルエンザの合併症

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プレセプシン全血で測定できる敗血症診断マー カー

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関節リウマチの主な原因はタバコと歯周病

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デング熱とチクングニア熱

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デング熱の国内感染例が増加しています

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髄膜炎菌ワクチン「メナクトラ」の製造・販売が 承認されました

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西アフリカでエボラ出血熱が流行しています

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超高感度HBs抗原が測定できるようになりまし た

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成人の肺炎球菌ワクチンが2 種類になりました

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ステロイドホルモンによる糞線虫の再活性化

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ブラジルから帰国した旅行者における感染症

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プロトンポンプ阻害剤が低用量アスピリン服用者 の小腸粘膜傷害の危険因子

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NHCAP(医療・介護関連肺炎)の予後は抗生 剤では左右されない

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急性扁桃炎―急性HIV感染症は鑑別できる?-

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病院実習を始める看護学生へのウイルス抗体価測 定の項目

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ミャンマーでの刺身喫食で顎口虫症

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日本人も肺炎クラミジア感染で冠動脈疾患リスク が上がる?

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麻疹の海外感染に注意

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40歳未満の帯状疱疹は脳卒中の危険因子

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貝毒は加熱しても発症します

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ノロウイルス感染が流行する原因

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ブラジル渡航に必要なワクチンは?

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ブラジルW杯 現地で応援するなら

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HIVの曝露後感染予防

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腸内細菌とアンチエイジング(その2)

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腸内細菌とアンチエイジング(その1)

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菊池病は何らかのウイルス感染症

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潜在性結核感染症(Latent Tuberculosis Infection : LTBI)とは

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JCウイルスの再活性化による脳炎

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真菌性副鼻腔炎が増えています

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発疹のない帯状疱疹とそれによる運動神経麻痺

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腸内細菌で分解された漢方による特発性腸間膜静 脈硬化症

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ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌判定法と実施時 期

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ウェルシュ菌とその食中毒

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自然によくなったり悪くなったりする梅毒の症状

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抗生剤による光線過敏症に注意

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子宮頸がんワクチンの副作用-本当に必要なワク チン?-

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風疹抗体測定はHIA法で行っています

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HBs抗原陰性、HBs抗体陰性でHBc抗体の み陽性

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鉄過剰と感染症

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アデノウイルス感染症が増えてきました

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中国の鳥インフルエンザの死亡者の臨床像

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抗生剤の副作用で胆石!!

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ヘリコバクターシネジー感染症

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水道水からのジアルジア検出

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風疹が流行しています

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かぜ症候群と抗生剤

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国内で初めて診断された重症熱性血小板減少症候 群

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イナビルと二峰性発熱

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肺MAC症の新しい血清診断

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大腸憩室炎が増加しています。

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新しい結核診断検査

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EBウイルスによる伝染性単核球症が増加してい ます

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気道感染症診断法の進歩

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RSウイルス感染症が増加しています

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狂犬病「顧みられない病気」と懸念WHO

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渡航医学会研修会にいってきました

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結核の血清診断をWHOが中止勧告

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洪水後のレプトスピラに注意

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手足口病と髄膜炎

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子供のうちに罹っておきたいサイトメガロ・ウイ ルス

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難病の犯人はニキビ菌

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エイズ検査が無料、匿名で受けられます

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ピロリ除菌のその後

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感染症学会の記帳報告

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急性虫垂炎は手術?抗生剤治療?

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米国で感染性胃腸炎による死亡が急増!その原因 はC. difficile

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歯周病の治療でNASHが治る?

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インフルエンザ迅速検査-陰性的中率が低下-

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不明熱の鑑別診断-自己炎症症候群-

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全国で水痘が流行しています。あなたは大丈夫?

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小腸潰瘍の原因は小腸細菌叢

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