発熱外来でCOVID-19陰性の人は百日咳が多い?

発熱外来でCOVID-19陰性の人は百日咳が多い?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、多くの医療機関が発熱外来を開設しました。しかし、発熱外来におけるPCR検査陽性率は5~6%程度といわれています。医者はCOVID-19 陰性と判明した時点でほっとして、その他の発熱の原因究明がおろそかになっている可能性はないでしょうか?
 松田正氏は、発熱外来を受診した患者の精査を徹底。その結果、発熱外来を受診する患者で最も多いのは百日咳で、咳嗽を呈さない百日咳患者も少なくないことを明らかにし、その成果は、2021年5月に開催された第95回日本感染症学会学術講演会/第69回日本化学療法学会総会合同学会で発表されました1)
 松田氏による調査は、2020年4月1日から12月19日までに同氏の診療所の発熱外来を受診した144人を対象に行われました。松田氏は、溶血性レンサ球菌感染症やアデノウイルス感染症、ヘルパンギーナ、手足口病などと診療時間内に確定診断できた症例を除き、COVID-19患者の見逃しを防ぐため、ほぼ全ての発熱外来受診者に血液検査(リンパ球数やフェリチン、Dダイマーなど)を実施し、研究目的で百日咳の抗体検査も一緒に行われました。その結果、COVID-19を強く疑いPCR検査を実施した症例は59人で、うち5人(8.5%)が陽性でした。一方、抗体検査で百日咳と確定した患者は53人と、発熱外来受診者の36.8%を占めていました。ちなみに、百日咳の診断には百日咳抗体IgMと百日咳抗体IgAを用い、発症早期であることから、どちらかが8.5 NTU以上を確定としました。加えて、確定はできないが臨床的に百日咳を強く疑ったのは24人で、それらを併せると全体の53.4%が百日咳(確定+疑い)だったと報告しました。この結果からCOVID-19感染対策が徹底され、多くの感染症が制御できていた時期でも百日咳患者が多く存在することは、その感染力の強さや、百日咳が日常に多く存在する感染症であると考察しています1)
 ここで百日咳の診断について確認してみましょう。

 図に示す如く、百日咳の診断は、まず発症後3週間以内であれば抗原検索が考えられます。培養法か、PCR、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification法:百日咳菌遺伝子の核酸増幅法)法で行いますが、通常はLAMP法で行われます。近年の報告では菌が多い発症 14日までが検出限界で、検査感度が34%であったというデータもあり2)あまり過大の期待をしない方が良いかもしれません。3週間を過ぎると、百日咳菌の菌量が低下するために血清診断がされます。百日咳抗体 IgA、IgMを採血で検査します。IgMは発症後 1 5 日後にピークになりI g Aは2 1日後にピークになるといわれています。どちらか一方のみ測定可能です。しかし、近年、I g M抗体は健常な子供でも陽性率が高く、30%が陽性であったという報告もあり、またI g A 抗体は中高年で陽性率が高く、また小児ではIgA抗体が陽性になりにくいとの指摘もあり、この2つの検査法もいくつかの問題点があることが分かってきました3)。また従来から言われているようにPT-IgG は100 倍以上の陽性でない限りペア血清での判定が必要であり、またワクチン接種の影響も受けることより実際の診療ではほとんど使用されていません3)
 さて、2021年6月16日、百日咳を約15分で診断できる抗原検査キット「リボテスト 百日咳」の販売が開始され、保険収載もされました。これはインフルエンザキットと同様に鼻咽頭拭い液をキット上に滴下して判定する簡便なものです。

今回、登場した抗原検査キットは、PCR法と比較して感度85%以上、特異度95%以上の相関データを示し4)、約15分で結果を得られます。そのため、診察室ですぐに結果が得られるので、今後、広く使用されると考えられます。
 百日ワクチンの効果は流行暴露によるブースター効果がなければ 10年程度と考えられており5)、我が国のワクチンプログラムでは思春期にはもう効果が薄れている可能性があります。日本では、2018 年 1 月より百日咳は感染症法 5 類全数把握疾患となり、全年齢層での患者発生実態が明らかになりつつあります。現在、年間 11,946 例の患者発生報告があり、7 歳がピークで、5–15 歳が 64%を占めましたが、30–50 歳も 16%報告されており、成人の百日咳も決してまれではないことを示しています6)
 発熱外来受診者の半分が百日咳が原因というのはやや多すぎる気もしますが、新型コロナPCRが陰性であった場合に、そこでほっとして普通の風邪と簡単にかたづけずに、慎重に原因検察をする必要はあるでしょう。

令和3年7月30日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)発熱外来の受診患者、最も多いのは百日咳!咳嗽を呈さず感冒症状の百日咳患者もhttps://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t335/202107/571043.html?n_cid=nbpnmo_mled
2)野口博生ら:秋田県農村における小児百日咳の地域的流 . 日農医誌 2 0 1 9 ; 6 8 ; 1 5 5 – 163 .
3)百日咳は新しい検査法でも診断が難しい