セレンとCOVID-19

セレンとCOVID-19

 COVID-19のパンデミックに伴い、やはり栄養が大切であると改めて見直されており、研究報告が散見されるようになりました。スペイン風邪が流行したときに栄養不良の方が多く亡くなられたというデータがある反面、COVID-19では肥満、特にサルコペニア肥満の方は予後がよくないというデータは早くから報告されていました。この原因として、エネルギーや三大栄養素だけでなくビタミンや微量元素も大切であるということが認識され報告されつつあります。
 栄養素とは,(1)炭水化物,タンパク質,脂肪などエネルギー源や体構成物の材料となる物質,(2)ビタミン,無機塩類(ミネラル)などで前者にくらべて必要量ははるかに少ないが生命の維持に不可欠な役割をはたす物質に大別され、このうち炭水化物,タンパク質,脂肪はもっとも多量に要求される高分子で,三大栄養素と呼ばれます。栄養素とはその他多く存在し、全部で35種類あり、そのうち20種類が免疫機能に関係してくるといわれています。以下列挙すると、エネルギー、タンパク質、n3系脂肪酸、食物繊維、ビタミンA, B1,B2,B6,B12,C,D,E,葉酸、パントテン酸、ナイアシン、ビオチン、セレン、亜鉛、銅、鉄、乳酸菌です。このなかである栄養素が一つ欠乏すると複雑な免疫機能が障害され、バランスが崩れて免疫能が低下することになってしまいます。それを考えると、いかにバランスの良い食事を摂る必要があるかが認識されます1)
 COVID-19と最も関連がある栄養素としてはビタミンDの論文が多く報告されています2)。次に報告が多いのが亜鉛欠乏です3)。さらに最近注目されているのがセレンです。  セレンは、すべての生物の機能に必要な必須微量元素です。人体に必要なセレンの主な供給源は、植物や動物由来の食事であり、これは土壌中のセレン含有量や土壌中のセレンの作物へのバイオアベイラビリティに大きく依存します。世界的に見て、セレン欠乏症は5億人から 10億人に影響すると考えられており、中国、ニュージーランド、ヨーロッパの一部では欠乏症が蔓延しています4)。セレンは、細胞内の酸化還元バランスの維持に重要な役割を果たしており、その抗酸化作用と抗炎症作用は、免疫において重要な働きをしています。したがって、セレンはウイルス感染症において意義があり、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)をサポートする上で重要な役割を果たすと考えられています4)

文献5)より引用

 図は、中国の論文で、湖北省外の都市におけるセレン蓄積の状態(髪のセレン含有量:横軸)とCOVID-19治癒率(縦軸)が有意に相関していた(R2= 0.72, F test p< 0.0001)事を示しています。セレンが充分に体内にあると死亡率が低かった、というデータです。さらに、HIV、インフルエンザ、エボラ出血熱などの感染性ウイルス疾患は、土壌中のセレンが不足している地域で進化し、蔓延する可能性が高いという報告もあります4)。これは、セレンの欠乏が、ウイルスの変異、複製、およびRNAウイルスのより病原性の高い形態の出現を促進するためと考えられています。
 COVID-19における肺の酸化的損傷の高いリスクは、肺のセレンおよびセレンタンパク質によって部分的に打ち消され、多くの研究者がセレンの補給によってこの疾患の影響を軽減できるかどうかを研究しています。
 セレンの主な摂取源は、ブラジル産のナッツ類、種子類、キノコ類、魚類、セレン酵母、魚介類、牛肉、鶏肉その他多くの食物に存在しています。食事中、セレンの大部分はセレノメチオニン、セレノシステイン、亜セレン酸およびセレン酸の形で存在し、これらはいずれも優れたバイオアベイラビリティを持ち、調節なしでよく吸収されます6)。日本では通常の食事を摂っていれば不足することはないと思われます。アメリカでは35%以上の人がセレンを含むマルチビタミン・ミネラルを取っているそうです。ある研究ではセレンが糖代謝を高めて合併症から体を守るとされているからだそうです。ところが正反対の結果が発表され、なんと、長期間にわたるセレンのサプリメント(1日200マイクログラム)摂取が、2型糖尿病の発症リスクを高めたというのです。糖尿病の予防どころか、むしろ危険なものだったのです7)。微量元素は特に過剰摂取で副作用がでるものが多く、サプリメントの服用には注意が必要です。
 全ての栄養素や微量元素に言えることは、バランスのとれた食事を心がけるということです。

令和3年7月2日
菊池中央病院   中川義久

参考文献
1)児玉 浩子ら:健康の維持・増進に重要な栄養・微量ミネラル.
日本医師会雑誌 2021 ; 150 ; 421 – 430 .
2)ビタミンDが不足すると新型コロナウイルス感染症が重症になる http://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa240.pdf
3)新型コロナウイルス感染症と亜鉛https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/1752/
4)A Mechanistic Link Between Selenium and Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8033553/
5)Zhang J, et al. Association between regional selenium status and reported outcome of COVID-19 cases in China. Am J Clin Nutr 2020; 00: 1-3, May 19, 2020. doi: 10.1093/ajcn/nqaa095/5826147.
6)浅桐 公男:セレン欠乏症の診療指針2018のポイント .
日本医師会雑誌 2021 ; 150 ; 439 – 4443 .
7)セレン(セレニウム)のサプリにご用心!https://allabout.co.jp/gm/gc/300546/