デング熱に対する注意喚起

デング熱に対する注意喚起

 2023年8月23日に厚労省から検疫所に対して、デング熱に関する注意喚起の事務連絡が出ています(https://www.forth.go.jp/news/000071231.pdf)。
 2023年年7月は日本でも15例のデング熱の報告がされています。
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/dengue/PDF/dengue_imported202308.pdf
 東南アジアでデング熱が流行し、台湾でも8月になって感染者が急増し、8日から14日の間に、新たに469人の感染報告がされました。内訳は、台南市が390人、雲林県が40人、高雄市が19人など。今年に入ってからの累計感染者は1579人で、うち台南市が1310人と最多となったそうです8月16日共同通信社)。
 外国旅行者のデング熱持ち込みが危惧されているのです。

文献1)より転載

 デング熱は蚊が媒介するデングウイルスによる急性発熱疾患で、熱帯地域で広く流行しています。図 に示すように、アジア、アフリカ、中南米、カリブ海や南太平洋の島嶼国などほぼ全ての熱帯地域で患者が発生しています。直近の推計では世界で毎年3億9,000万人が感染し、うち9,600万人が発症するとされ、蚊媒介性ウイルス感染症の中では飛び抜けて患者数が多いとされています1)。さらに、最も重要な媒介蚊であるネッタイシマカは都市環境に適応して生息していることからアジアや中南米諸国で進展する都市化、人口増加と相まって患者数はさらに増加の一途をたどっています。加えて、地球温暖化により、媒介蚊のネッタイシマカやヒトスジシマカの生息地域が拡大していることから、流行地域も広がっています1)。日本における媒介蚊はヒトスジシマカで、本州から四国、九州、沖縄、小笠原諸島まで広く分布しています。
 デングウイルスには血清型の異なる4つの型(1・2・3・4型)が存在します。罹患したウイルス型に対しては終生免疫が獲得されますが、他の血清型に対する交叉防御免疫は数カ月で消失し、他の型には感染します。不顕性感染も多いとされますが、発症する場合は、蚊に刺されてから3~7日の潜伏期間の後、急性の熱性疾患であるデング熱を発症し、ほとんどの症例では1週間ほどで回復します。稀に、発熱が終わり平熱に戻りかけたときに、突然血漿漏出と出血傾向を発症し、しばしばショック症状となるデング出血熱を発症することがあります。デング出血熱発症の一因として、2度目の別の型への感染時に重症化することが示唆されています。ヒトからヒトへの感染はありません2)
 診断は発熱に加えて、以下のような症状がある場合にデング熱を強く疑います3)


発熱 かつ
・ 以下の所見の2つ以上を認める場合
1. 発疹
2. 悪心・嘔吐
3. 頭痛・関節痛・筋肉痛
4. 血小板減少
5. 白血球減少
6. ターニケットテスト陽性※
7. 重症化サイン
※ ターニケット(駆血帯)テスト:上腕に駆血帯を巻き、収縮期血圧と拡張期血圧の中間の圧で 5 分間圧迫を続け、圧迫終了後に 2.5cm x 2.5cm あたり 10 以上の点状出血が見られた場合に陽性と判定する


解熱時期に見られた点状出血   文献3)より転載

解熱時期に見られた白い島状に抜ける紅斑   文献3)より転載

デング熱患者で以下の症状や検査所見を1つでも認めた場合は、重症化のサイン有りと診断します。


1.腹痛・腹部圧痛
2. 持続的な嘔吐
3. 腹水・胸水
4. 粘膜出血
5. 無気力・不穏
6. 肝腫大(2 cm 以上)
7. ヘマトクリット値の増加(20%以上, 同時に急速な血小板減少を伴う)


 確定診断は保健所に検体を依頼し、以下の項目が陽性になれば確定です。


ウイルス分離 <全血・血清・血しょう・尿>
RT-PCR 法によるウイルス遺伝子の検出 <全血・血清・血しょう・尿>
ウイルス非構造タンパク(NS1)抗原の検出 <血清>
特異的 IgM 抗体の検出※ <血清>
中和抗体の検出※※ <血清>


 2014 年 8 月 27 日に、東京都内で感染したと考えられるデング熱患者が確認されました。これをきっかけにして海外渡航歴のないデング熱患者の報告が続き国内で感染したと考えられる患者は 157 名に達しました。日本国内でデングウイルスの媒介蚊となるヒトスジシマカは,通常、5月中旬頃から10 月下旬まで活動するとされており4)、特に暑い今年はまだまだ日本国内流行も可能性があります。
 日本国内での流行が発生した場合や流行地への渡航者には、蚊に刺されないように忌避剤や殺虫剤を使用するよう指導します。また、行政には媒介蚊対策や啓蒙活動が重要です。ワクチンは複数の候補が臨床試験に入っていますがまだ使用できるものはありません。
 渡航後発熱の患者さんの中ではデング熱が一番多く、また、渡航後外来に限らずに、一般発熱外来にデング熱が受診する可能性もあり、一般臨床医もデング熱を知っている必要があります。

令和5年9月7日  菊池中央病院 中川 義久

参考文献
1) 森田 公一:デング熱の現状と動向 . 日内会誌 2016 ; 105 ; 2140 – 2145 .
2) 吉澤定子:デング熱『私の治療』日本医事新報 2023 ; 5167 ; 51
3) 蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5版)2019 年 2 月 7 日第 5 版作成
国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/dengue/Mosquito_Mediated_190207-5.pdf
4) 阪本 直:デング熱の国内発生 . 日内会誌 2014 ; 103 ; 2653 – 2656