今後、麻疹の増加が危惧されます

今後、麻疹の増加が危惧されます

 関東地域で麻疹が複数名発生していますhttps://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/yobo/kiki/yobo/kansen/idwr/press/documents/masin2.pdf

 同一新幹線内での感染が疑われているようですが、やはりその感染力は非常に強いです。
 日本ではここ数年、麻疹が激減し、この原因としてCOVID-19 に対する感染対策(手洗い、マスク、換気の励行など)によるものと思われます。

感染症発生動向調査(IDWR)より参照
https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/measles/2023pdf/meas23-18.pdf
 今後、COVID-19 が5類感染症に変更になり人の動きが多くなると麻疹が増加することが懸念されます。特に懸念されるのが外国人客の増加と外国旅行後の帰国後発症です。
 2017年の147名の麻疹患者の検討では、137名で麻疹ウイルス遺伝子型が同定されており、日本固有のD5型は検出されていなくて、147名のうち29名が海外渡航歴を有し、その他の大多数は海外渡航歴を有する患者の接触者でした。つまりほとんどすべてが外国由来の麻疹ウイルスでした1)

 国立感染症研究所の2021年度の年齢/年齢群別麻疹抗体保有状況を示します2)。麻疹抗体陽性と判断される1:16以上のPA抗体保有率は, 全体で96.6% でしたが、麻疹あるいは修飾麻疹の発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上の抗体保有率をみると, 全体で88.2% でした。全年齢層で抗体価保有率が低いことが解ります。これらのPA抗体価1:128以下の人たちが麻疹に感染すると修飾麻疹という軽症で診断が非常に難しい麻疹を呈します。
 これまでも麻疹流行が繰り返されてきましたが、麻疹ウイルスの対策が困難であることの一因として、飛沫感染、接触感染以外に、空気感染があるからです。麻疹患者の気道分泌物からエアロゾル化した麻疹ウイルス粒子が排泄されると、2 時間以上感染性を保ちつつ浮遊し、麻疹患者と同じ空間で接触した感受性者は 90%以上が発症するほどその感染力は強力です3)。 例えば、飛行機や空港の待合室での麻疹感染が何度も報告されています。また麻疹の感染性は皮疹出現の約 5 日前から皮疹出現後約 4 日間です。麻疹が診断されるのは通常皮疹出現後ですが、皮疹出現前から感染性を有することもまた麻疹の感染対策を難しくしています。さらに麻疹は罹患中に液性免疫も細胞性免疫も低下することが知られ、それに伴う肺炎や、神経系に親和性があることから脳炎、ADEM、SSPE 等の合併症、さらに、7~9%の症例で中耳炎を伴うほか、下痢などの消化器症状、クループ、急性肝障害、心筋炎などの多彩な症状を呈することが報告されています4)。先進国でも麻疹による死亡は麻疹患者 1,000 例に 1 例程度あるとされています。合併症や死亡例は、5 歳未満の乳幼児と 20 歳を超える成人が危険とされています5)。麻疹に対する特異的な治療法はなく、予防として実施するワクチン接種が最も重要です。麻疹含有ワクチンは、1 回接種で 95%以上、2 回接種で 99%以上の抗体陽転が得られ、非常に有効なワクチンです。しかし、麻疹ウイルスは感染力が強く、わずかな感受性者を見つけて伝播していきます。ワクチンを 1 回接種しても免疫が得られない者(primaryvaccine failure)も約 5%みられるため、麻疹を予防するためには確実な 2 回以上の麻疹含有ワクチンの接種が必要です6)
 ワクチン接種歴が未確認あるいは不十分で、麻疹抗体価陽性が確認できない接触者では、曝露して 72 時間以内であれば緊急の麻疹含有ワクチンの接種が、72 時間以上経過してる場合 6 日以内であれば免疫グロブリン投与がそれぞれ検討されますが、どちらの場合でも確実に予防できる保証がないことには留意する必要があり、また緊急的にはワクチンが入手できないのが現実です。また麻疹含有ワクチンは免疫不全患者や妊婦などワクチン接種不適当者には接種できません7)
 麻疹の検査診断の方法としてはこれまで主に麻疹特異的 IgM 抗体の検出のみによりなされていましたが、しかし,偽陰性,偽陽性があり注意が必要です。麻疹急性期(発疹出現後 3 日以内)における単一血清による IgM 抗体検査は感度が低いことが報告されており、HHV-6 による突発性発疹やパルボウイルス B19 による伝染性紅斑の発症時は 麻疹特異的IgM 抗体が弱陽性に出ることが報告されています8)。そこで、現在は臨床的に疑ったら、血液からの麻疹ウイルスの直接検出(RT-PCR 法)が推奨されています9)。麻疹を疑ったらすぐ保健所に連絡しましょう。
 以上述べたように麻疹は感染力が強力で、発疹がないうちから感染性があり、重篤で多彩な合併症をきたす致死的な感染症であり、治療法がないことよりワクチンで予防する必要があります。特に麻疹患者と接する可能性の高い医療関係者はワクチンを接種すべきであり、PA 法で 1:256 以上の抗体価の存在が必要です6)。なお、ワクチンを 2 回接種していても麻疹に罹患することはあり、2016 年の報告でも麻疹発症者の 15.1%(165 名中 25 名)はワクチン 2 回接種者でした6)。この場合、症状の軽い修飾麻疹となり、具体的には高熱を認めない、発熱期間が短い、カタル症状がない、発疹が軽度、あるいは見られない等、症状から麻疹と診断することは困難です。しかし、修飾麻疹患者の感染性は低いと考えられています6)
 新型コロナ感染症が5類に変更されたことで、今後、さまざまな感染症が増えてくるでしょう。また、急性の発熱患者は他人に感染させうる病気である可能性が高く、発熱外来では慎重な対応が必要です。

菊池中央病院   中川 義久
令和5年5月23日

参考文献:

1)笠原 敬ら:輸入感染症としての成人麻疹対策 . 日内会誌 2018;107 ; 298 – 303 . 
2)麻疹の抗体保有状況―2021年度感染症流行予測調査(暫定結果); 病原微生物検出情報 IASR 2022 ; 43 ; 206 – 207 .
3)岡部 信彦:1. 麻疹ウイルス ―最近の我が国における麻疹の疫学状況,今後の対策―ウイルス 2007 ; 57 ; 171 – 180 .
4)中山 哲夫:3. 麻疹ワクチン . ウイルス 2009 ; 59 ; 257 – 266 .
5)何故、麻疹流行はくりかえされるのか
6)麻疹の感染対策はワクチンのみ
7)奥野 英雄ら:麻疹対策の実際と感染対策の問題点 . 日内会誌 2015 ; 104:782 – 785 .
8)多屋 馨子:2. わが国の麻疹排除計画とその実践~ 2012 年の排除を目指して~ . ウイルス2010 ; 60 ; 59 – 68 .
9)厚生労働省麻疹検査マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/101116_01.pdf