医療関係者のためのワクチンガイドライン2020―MMRV

医療関係者のためのワクチンガイドライン2020―MMRV

 日本環境感染学会では、医療機関における院内感染対策の一環として行う医療関係者への予防接種について「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」を発行しており、2020年に第3版を発表しました。
 麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘(MMRV)ワクチンに関しては、1 歳以上で「2 回」の予防接種の記録を勤務・実習前に医療機関に提出することを原則としています。これまで、抗体価の基準を満たすまで接種を受け続けなければならないという間違った解釈が蔓延した抗体価の考え方は、これまで抗体価陰性、抗体価陽性(基準を満たさない)、抗体価陽性(基準を満たす)としていたのを、「あと 2 回の予防接種が必要、あと 1 回の予防接種が必要、今すぐの予防接種は不要」としました。

 要約すると、「2 回」の予防接種の記録があればその後の処置は不要でもちろん採血の必要もありません。予防接種の記録が 「1 回」のみの者は、1 回目の接種から少なくとも 4 週間以上あけて 2 回目の予防接種を受けて終了。
 既罹患で予防接種を受けていない者は、勤務・実習前に抗体陽性の検査結果を提出することが必要になります。その際の判定表が下記です。

 既往歴もワクチン接種歴も不明のものは、少なくとも 4 週間以上あけて「2 回」の予防接種を受け、その記録を提出します。なお医療関係者とは、事務職、医療職、学生を含めて、受診患者と接触する可能性のある常勤、非常勤、派遣、アルバイト、実習生、指導教官、業務として病院に出入りする者等に加えて、救急隊員、処方箋薬局で勤務する者を含むものとすると記載されています。
 その人がこれらの感染症に対して免疫があるというのは、抗体価の有無ではなく、確実にその感染症のワクチンを2回接種したということなのです。現代医学においても病原体に対する免疫応答には不明な点があり、後天的に産生された免疫グロブリン、すなわち抗体は液性免疫の主体ではありますが、免疫システム全体からすれば一部にすぎません。もう一つの免疫の主体である細胞性免疫はその評価をする検査システムが存在しないのです。測定出来ないのです。麻疹などでは抗体価と発症予防の免疫能が相関しないことが証明されています。免疫能としては細胞性免疫の方が重要なのです2)。但し、ワクチンで予防可能な疾患(VPD)のうちB型肝炎は抗体価が感染防御の指標として重要な例外的な感染症です。
 この4つの疾患での感染既往というのはあまり信頼しないというのが基本で、誤診もありうることより抗体価測定が推奨されています。抗体測定はEIA/ELISA IgGを勧めますが、風疹はHI法でも代用できます2)
 ワクチンを2回接種しても感染する可能性がゼロになるわけではありませんが、集団を対象としたルールとしてはその点は考慮しません。また、現在でも抗体測定を要求する看護学校なども散見されますが現在の知見からすると意義は乏しいです。環境感染症学会のガイドラインを参考にしていただきたいです。

令和3年9月8日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)医療関係者のためのワクチンガイドライン 環境感染誌 第35巻 Supplement II 令和 2年7月27日発行第3版 一般社団法人 日本環境感染学会 ワクチン委員会
2)千葉 大:抗体検査 . プライマリ・ケア 2021 ; 6 ; 31 – 35 .