5歳からの新型コロナワクチン接種開始

5歳からの新型コロナワクチン接種開始

 新型コロナウイルスワクチンの接種について厚生労働省は5歳から11歳までの子どもも対象に加えることを正式に承認しました。子どもへの接種をめぐっては去年5月に接種の対象が12歳以上になり、11月には5歳から11歳までも対象に加えるようファイザーから承認の申請が行われました。厚生労働省は12022年1月20日夜、専門家でつくる部会で検討した結果、ワクチンの有効性や安全性が確認できたとして21日、申請を正式に承認しました。これまでワクチンの対象年齢は、▽モデルナが12歳以上、▽アストラゼネカが原則40歳以上となっていて、12歳に満たない子どもの接種が承認されたのは初めてです。厚生労働省は5歳から11歳への接種をことし3月以降に開始し、医療機関での個別接種や自治体による集団接種の中で行うことにしています(2022年1月21日 18時33分 共同通信)。
 厚労省によると、10歳代以下の新型コロナの新規感染者数は昨年12月から増加に転じ、1月12〜18日で10歳代の新規感染者は2万6,560人、10歳未満は1万3,050人で、全体の24%を占めるまでになっています。オミクロン株の流行が先行する沖縄県では、1月上旬までの20代を中心とした爆発的な感染拡大は収まりつつありますが、小児や高齢者へ感染拡大し始めています。1月17〜23日には全年齢層のなかで10歳代の感染、10歳未満の感染がそれぞれ約15%を占めています1)。5〜11歳の新型コロナウイルス感染症患者の大多数は軽症です。2020年1月〜2021年2月にコロナ感染により入院した18歳未満の小児患者1,038人を対象にした検討では、無症状の患者は308人(30%)、何らかの症状があった患者は730人(70%)で、症状のあった患者のうち酸素投与を必要としたのは15人(2.1%)、死亡例は0人で、多くは軽症でした。
 呼吸器ウイルスの中にあって,小児に最も大きな健康被害を与えているのはRSウイルスであり、次いでインフルエンザウイルスともいわれています2)。RSウイルスは乳幼児の肺炎の原因の約50%、細気管支炎の原因の50~90%を占め、インフルエンザは重症肺炎を合併する他、急性脳症の原因病原体の第一位です。新型コロナウイルスによる死亡者が世界で最も多く出ている米国においても、年齢階級別にインフルエンザ・肺炎とCOVID-19が生命予後に及ぼす影響を比べてみると、15歳未満では前者が後者を遥かに凌ぐインパクトを持っているといわれています2)。5~11歳の小児にとって新型コロナはさほどの脅威ではなさそうとも言えます。

 文献2)より参照。米国における年齢階級別の相対的死亡リスク比(COVID-19対インフルエンザ・肺炎)COVID-19とインフルエンザ・肺炎による死亡の相対的リスクを各年齢層別に示したグラフ。15歳未満では,インフルエンザ・肺炎のインパクトがCOVID-19を遥かに凌ぐことがわかります2)
 小児が新型コロナウイルスに感染しにくい理由は社会学的な理由と生物学的な理由があるといわれています。社会学的には、全ての年齢層に感受性があるため、社会活動が盛んで行動半径が大きい成人層で感染が拡大し、活動範囲が狭く接触する人数に限りのある小児は感染の機会が少ないと思われます。生物学的には、ウイルス受容体の発現レベルに年齢依存性があり、SARS-CoV-2の受容体として働くangiotensin converting enzyme 2(ACE2) およびACE2と共にウイルスの細胞内侵入に関与するtransmembrane serine protease 2(TMPRSS2)の鼻粘膜や気管支粘膜におけるmRNA発現レベルが、小児では成人と比べて低いため、それが感染しにくさに繋がっている可能性も考えられています2)
 こういう風に考えてみると、社会に感染広げているのは行動範囲の広い成人であり、子供は成人より家庭内感染を受けている状況だと推測されます。かつ、重症化しないのであれば子供への新型コロナワクチンは成人より慎重にならざるをえません。
 効果について考えてみます。5〜11歳用のワクチンはファイザー製で、有効成分量は3分の1で、3週間の間隔を空けて2回接種します。米国の5〜11歳の子どもを対象とした臨床試験では、偽薬を投与した750人のうち16人が発症し、ファイザー製を2回投与された約1,500人のうち発症したのは3人で、発症予防効果は90.7%でした。ただし、臨床試験が実施されたのは主にデルタ株が流行している昨年で、オミクロン株への効果について反映されていません1)。イスラエルの最新の研究では、ワクチンを2回接種した5歳から11歳の子どもたちは、未接種の子どもたちと比べてオミクロン株に感染するリスクが半分になったそうです1)。この数値を有効と考えるかどうかは微妙です。
 副作用はどうでしょうか?成人に比べて注射部位の疼痛はやや多いようですが、それ以外はかなり少なくなっています。重篤な有害事象はみられていません。

文献3)より参照

 しかし、非常にまれに起こる、副反応が疑われている疾患があります。頻度としてはまれですが、mRNAワクチン接種後の副反応が疑われる疾患として心筋炎/心膜炎があり、思春期から若年成人の男性に多いとされます。また、1回目より2回目接種後の1週間以内に起こることが多いとされます。今のところ、心筋炎/心膜炎を発症しやすい体質や要因はよくわかっていません。心筋炎/心膜炎で現れる症状は、胸の痛み、息切れ、動悸(心臓がドキドキする)などです。激しい運動が心筋炎/心膜炎の原因になるわけではありませんが、心筋炎/心膜炎を発症した場合は心臓に負担をかけることはよくないので、接種後1週間程度は自覚症状に気をつけて、はげしい運動は控えて過ごすことも選択肢である旨、関連学会からも見解が示されています4)
 5~11 歳の子どもへの接種は、疾病負担と安全性を比較しながら慎重な検討が必要と考えます。しかしながら、これまで接種の対象ではなかった子どもたちにも接種の機会が与えられることは意義のあることです。重症化リスクの高い慢性疾患児や重症心身障害児をはじめ、接種を希望する子どもたちが安心して接種できる体制が望まれます。
 なお、当院は小児科医が不在のため小児への新型コロナワクチン接種の予定はありません。

令和4年2月5日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)5〜11歳への新型コロナワクチン接種の効果と副反応
https://www.medius.co.jp/asourcenavi/vaccine5-11/

2)綜説〔I〕 小児の新型コロナウイルス感染症 ~特徴と問題点~https://amn.astellas.jp/specialty/infection/the_infection/vol51_no01/th_covid19

3)一般社団法人日本感染症学会
ワクチン委員会・COVID-19 ワクチン・タスクフォース
COVID-19 ワクチンに関する提言(第4版)
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2112_covid-19_4.pdf

4)子どもへの新型コロナワクチン接種の考え方と副反応への対処法
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/column/0008.html