新型コロナの合併症-小児多系統炎症性症候群(MIS-C)-

新型コロナの合併症ー小児多系統炎症性症候群( MIS-C )ー

 2020年5月にコロナ感染歴のある子どもに川崎病の症状がみられることが欧米で相次いで報告されました。新型コロナウイルスは血管親和性が強く、全身の微小血栓形成、下肢血栓からの肺塞栓症による急死、心筋梗塞・心筋炎による急変なども相次いで報告されました1)。そののちにこの疾患は、川崎病とはやや病状が異なり、新たな疾患としてMultisystem Inflammatory Syndrome in Children ( MIS-C ; 小児多系統炎症性症候群 )と命名されました2)。川崎病とMIS-Cは、長引く発熱、皮膚の発疹、リンパ節腫脹、下痢、炎症性バイオマーカーの上昇など、いくつかの共通の症状を持っていますが、MIS-Cは10代と発症年齢が高いこと、腹部症状が多いこと、左室収縮機能障害や急性心不全を伴う症例が多いことなどの特徴があります3)

 欧米では少しづつその臨床像が明らかになりつつあります。
 2020年3月の米国での186人のMIS-Cの調査では2)、MIS-C が発症する前にCovid-19 の症状を認めていた患者のうち、Covid-19 の症状が発症してからMIS-Cの症状が発症するまでの期間は平均25日間(6-51日)でした。患者の年齢は平均8.3歳(3.3-12.5歳)であり、62%が男性、73%は生来健康でした。好発人種は明らかではありませんでした。MIS-Cの症状は、78%に5日以上の発熱、90%に4日以上の発熱を認めました。71%は少なくとも4つの臓器障害を伴っており、最も障害が認められた臓器系は、消化器系92%、心血管系80%、血液系76%、粘膜・皮膚系74%、そして呼吸器系70%でした。80%はICUで治療を受け、20%は侵襲的人工呼吸管理を受けていました。70%は生存して退院しました。2%が死亡しました(その他はまだ入院中)。死亡した4人の患者は10~16歳で、うち2人は基礎疾患を有しており、3人はECMO管理を受けていました。成人のCovid-19 の患者の合併症は特に呼吸器に多く見られますが、MIS-Cでは特に消化器に多く認められる傾向にありました。

 検査所見はほとんどの患者(92%)で炎症を示す4つ以上の臨床検査の異常値を示しました。赤沈亢進またはCRP上昇、リンパ球減少症、好中球増加、フェリチン増加、アルブミン低下、ALT上昇、貧血、血小板減少、およびDダイマー上昇、PT-INR延長、またはフィブリノーゲン上昇などです。心血管病変は一般的で80%に認め、48%が昇圧薬による支持療法を受けていました。大多数の患者ではBNPが上昇しており73%、50%でトロポニンが上昇していました。心臓超音波検査を受けた患者の9%に冠動脈瘤が認められました。

 患者の大部分が免疫調節薬による治療を受けており、その中でも最も多いのは免疫グロブリン静脈内投与77%とグルココルチコイドの全身投与49%でした。退院した患者のほとんどは生存していたことより有効であったと考えられています。過剰炎症状態を示唆する臨床および検査所見、SARS-CoV-2感染に関連した発症時期、そして成人Covid-19患者の疾患パターンとの類似性を考慮すると、MIS-CはSARS-CoV-2感染によって引き起こされた免疫介在性傷害の結果であると推測されています。本質的な問題は、なぜこの年齢層でMIS-Cが発症し、他の年齢層では発症しないのかということですが、MIS-C発症の年齢特異的な違いは、SARS-CoV-2感染曝露の感受性の違いやSARS-CoV-2が細胞侵入のために利用する受容体であるACE2の鼻腔内発現の違いで説明できるのではないかと考察しています2)

 本邦ににおいてもMIC-Sと診断された患者が報告されつつあります。成人で肺炎が悪化し重症化することが多いのとは異なり、MIS-Cでは下痢、発熱、発疹などが見られ、心機能が低下することが特徴です。SARS-CoV-2に感染した回復期(2~6週後)に学童期以降の小児にこうした症状が認められる傾向があり、感染当初は軽症ですが、急激に川崎病の主症状(発熱、発疹、眼球結膜充血、口唇口腔所見、四肢末端の腫脹、頸部リンパ節腫脹)が出現したとのことです。

 現在、国内で増加している変異型新型コロナウイルスは小児への感染がしやすくなっているとの報告もあり、今後、同様の例が発生することが危惧されています。

菊池中央病院   中川 義久
令和3年5月6日

参考文献

1 ) 川崎病と冠動脈瘤と新型コロナ感染症
https://nobuokakai.ecnet.jp/info/518/

2)Feldstein LR, et al. Multisystem Inflammatory Syndrome in U.S. Children and Adolescents. N Engl J Med. June 29, 2020. doi: 10.1056/NEJMoa2021680.

3 ) Multisystem Inflammatory Syndrome in Children (MIS-C)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7293840/3

4 ) コロナ感染で発生、小児多系統炎症性症候群
日本川崎病学会が関連学会に通知
https://medical-tribune.co.jp/news/2021/0326535828/index.html?_login=1#_login