大人もかかるヘルパンギーナ、熊本県で増加中

大人もかかるヘルパンギーナ、熊本県で増加中

 2023年4月10~16日の熊本県感染症情報によると、県内50定点医療機関から報告されたヘルパンギーナの患者報告数は129人で、前週比1・8倍に急増しました。例年6月ごろから増え始め、7~8月にピークを迎えるのですが、県健康危機管理課は、今年は増加期が早まっているとして、注意を呼びかけています。同課によると増加は3週連続。この時期としては過去5年で最も多く、1定点当たりの患者数は2・58人で、保健所別では菊池が12・4人と5週連続で警報レベルにあると報告しています。
 ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性の発疹を特徴とした急性のウイルス性咽頭炎で、乳幼児を中心に夏季に流行します。いわゆる夏かぜの代表的疾患です。その大多数はエンテロウイルス属に属するウイルスに起因し、主にコクサッキーウイルスA群(2,3,4,5,6,8,10)である場合が多く、コクサッキーウイルスB群やエコーウイルスで発症する場合もあります。本症は全世界で認められ、熱帯では通年性にみられ、温帯では夏と秋に流行がみられます。我が国では毎年5月頃より増加し始め、7月頃にかけてピークを形成し、8月頃から減少を始め、9~10月にかけてほとんど見られなくなります。国内での流行は例年西から東へと推移します。患者の年齢は5歳以下が全体の90%以上を占め、1歳代がもっとも多く、ついで2、3、4歳代の順です1)
 臨床症状は2~4 日の潜伏期を経過し、突然の発熱に続いて咽頭痛が出現し、咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内、主として軟口蓋から口蓋弓にかけての部位に直径1~2mm 、場合により大きいものでは5mmほどの紅暈(こううん、皮膚が部分的に充血して赤く見えること)で囲まれた小水疱が出現します。小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴います。発熱については2 ~4 日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失します。発熱時に熱性けいれんを伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈することがありますが、ほとんどは予後良好です2)

エンテロウイルス感染症の概要 https://www.msdmanuals.com/ja-jp より転載

 まれには無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することもありますので注意が必要です。
 診断はウイルス分離やPCR、血清検査がありますが流行状況や特徴的な咽頭所見で臨床診断は容易で、検査を提出することはほとんどありません。感染経路は接触感染と飛沫感染です。そのため子供を看病した大人に感染することがあります。特に妊婦や免疫能の低下した人に感染すると重症化するという報告もあります3)。またヘルパンギーナを起こすウイルスは数種類あり、大人であっても初感染することがあり、その際も症状が強く出ることもあります。
 子供がヘルパンギーナに罹って看病するときは換気や手洗いに気をつける必要があります。また感染後1か月近くウイルスが便中に排泄されるので取り扱いに注意します。
 ヘルパンギーナに治療薬はなくワクチンもありません。登校停止の決まりもありません。
 発熱と咽頭痛というと新型コロナが頭に浮かびますが、咽頭所見でヘルパンギーナは診断可能で、無駄な検査や抗生剤投与を回避することができます。

令和5年4月27日
菊池中央病院  中川 義久

参考文献

1) 堤 裕幸ら:ヘルパンギーナ . 日本医師会雑誌 2014 ; 143 特別号 ; 375 .
2)国立感染症研究所 ヘルパンギーナとは
  https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/515-herpangina.html
3)Corsino CB  et al : Herpangina . Study Guide from StatPearls Publishing, Treasure Island (FL), 26 Jun 2018 . PMID: 29939569ヨーロッパ PMC (europepmc.org)