新しい性感染症予防 Doxy PEP とは

新しい性感染症予防 Doxy PEP とは

 アメリカではHIV(Human Immunodeficiency Virus/ヒト免疫不全ウイルス)の感染を予防する薬が承認されていて、この薬を使用することでHIVの感染を80〜90%程度と高い確率で予防できます。HIVの感染を予防する治療には大きく分けて2種類あり、HIV感染の恐れがある行為の前に感染を予防する目的で内服する治療(曝露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis)PrEP:プレップと言います)と、HIV感染の恐れがある行為の後に緊急で使用して感染を予防するものがあります(曝露後予防(Post ExposureProphylaxis)PEP:ペップと言います)。海外ではHIVの感染予防に広く普及している治療薬です。HIV予防薬を使用したHIVの感染予防治療は、性行為等によるHIVの感染を予防するだけでなく、医療従事者の針刺し事故等のHIVの感染の恐れがある行為に広く使用されます1)
 このHIV感染予防投薬はHIVの蔓延予防に大きく貢献できるものと期待されていますが、一方、コンドームを使用しない性交が増加することによる細菌性性感染症の予防が米国の課題と考えられ、新しい細菌性性感染症の予防としてDoxy PEPという方法が検討され今回発表されました2)
 DoxyPEP試験は、2020年8月~2022年5月の期間に参加者の登録が行われました。対象は、年齢18歳以上、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に対する曝露前予防(PrEP)を行っている人々、またはHIVに感染している人々(PLWH(People Living With HIV/AIDS)コホート)で、過去1年間にNeisseria gonorreoe(淋菌)、Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマチス)の感染、または梅毒に感染したことのあるMSM(Men who have sex with men)およびトランスジェンダー女性でした。
 被験者は、コンドームを使用しない性交から72時間以内にドキシサイクリン(200mg)の錠剤を内服する群、またはドキシサイクリンを使用しない標準治療を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられました。STI( Sexually Transmitted Infections )検査は年4回(3ヵ月ごと)に行われました。主要エンドポイントは、追跡期間の四半期当たり1件以上のSTI(淋病、クラミジア、梅毒)の発生です。
 その結果、3種の性感染症の発生率は、いずれもドキシサイクリン群が標準治療群に比べて低い結果でした。PrEPコホートにおける相対リスクは、淋病が0.45(95%CI:0.32~0.65)、クラミジアが0.12(0.05~0.25)、梅毒が0.13(0.03~0.59)であり、PLWHコホートでは、それぞれ0.43(0.26~0.71)、0.26(0.120.57)、0.23(0.04~1.29)でした。

文献2)より転載

 ドキシサイクリンに起因するGrade3の有害事象は5件みられましたが(下痢 3件、頭痛/片頭痛 2件)、ドキシサイクリンによる重篤な有害事象はありませんでした。
 Doxy PEPという新しい性病予防の方法は細菌性 STI の予防のために HIV PrEP を服用している、または HIV 感染とともに生きている MSM(男性 およびトランスジェンダーの女性)における Doxy PEPの有効性、安全性を示したものです。しかし、梅毒とクラミジアに対する感染予防は有意差をもって証明されましたが、淋菌の予防効果は有意差がありませんでした。この結果は、もちろんコンドームなしの性行為を推奨するものではありませんし、その後にシスジェンダー(性同一性が一致している人)にはDoxy PEPは効果がなかった3)という報告もあり、臨床応用には慎重な態度が必要でしょう。

令和5年12月19日
菊池中央病院  中川 義久

参考文献

1)畠山 修司:HIV 予防の最前線 . J AIDS Research 2016 ; 18 ; 197 – 207 . 
2)Luetkemeyer AF, et al. N Engl J Med. 2023;388:1296-1306.
3)Doxycycline PEP after sex appears ineffective for cisgender women
https://www.aidsmap.com/news/feb-2023/doxycycline-pep-after-sex-appears-ineffective-cisgender-women