マイコプラズマとプロカルシトニン(procalcitonin : PCT)

マイコプラズマとプロカルシトニン(procalcitonin : PCT)

 PCT はアミノ酸 116 個よりなる分子量約 13kDaのペプチドで 、正常ではカルシトニンの前駆体として甲状腺 C 細胞で合成されます。しかし、細菌、寄生虫、真菌による重篤な感染症においては、その菌体や毒素などの作用により、TNF-αなどの炎症性サイトカインが産生され、その刺激を受けて肺・腎臓・肝臓・脂肪細胞・筋肉といった全身の臓器でPCT が産生され、血中に分泌されます。なぜ同じ感染症でも細菌感染では PCT が増加し、ウイルス感染で増加しにくいのかというと、ウイルス感染時に増加するインターフェロンγによって PCTの産生抑制が起こることがその理由の 1 つとして考えられています。血中に分泌された PCT は単球の遊走を惹起し、細菌の貪食能を高めます。また PCT の作用によって T リンパ球が活性化され、生体防御に向けた反応が促進されます。一方、非感染性の疾患、ウイルス感染、および全身症状を伴わない局所細菌感染では、血清 PCT 値が上昇したとしても軽度の範囲に留まります。このような特徴から、血清 PCT 測定は重症細菌感染症の鑑別に有用ではないかと注目を集めるようになりました。

感染からPCT上昇までの過程(文献1)より転載)

 なお細菌感染時の血中 PCT は、上述のごとくその多くが全身の各種臓器に由来していますが、白血球などの血球成分からはほとんど分泌されないことがわかっています。これによりステロイドや抗癌剤など白血球の機能に影響を与えやすい薬剤を使用している状況でも、細菌感染症の場合は血清 PCT 濃度の上昇は妨げられません。

感染発生後の各種炎症パラメーターの推移(文献1)より転載)

 PCT の動態については、炎症性サイトカインのピークには遅れますが、感染症発症後早期(約 3 時間後)より血中濃度が上昇し、CRP よりも早期の時点で立ち上がりが認められます。その後、半減期は約 22時間と長い時間持続します。
 Simonらが行ったメタアナリシス解析の結果によると、感染性および非感染性疾患の鑑別において、PCT は感度・特異度ともに CRP に比較して有意に優れており、PCT 測定によって 92%と高い感度で細菌感染症とウイルス感染症の鑑別が可能であったと報告しています2)
 PCT は患者のおかれた状況によっては、偽陽性、偽陰性の問題が生じます。重症外傷などの高度侵襲時あるいは一部の疾患においては PCT 値が比較的高値になるため、場合によっては偽陽性の可能性もあります。一方、感染の急性期、軽症例や限局性の感染症などでは、PCT 値の上昇を認めないことがあるため、たとえ PCT が低値であったとしても細菌感染を容易に否定することはできません。

文献1)より転載

 PCT は肺炎においてもその臨床的有用性が注目されています。肺炎診療では一般に、重症度判定を行うため pneumonia severity index(PSI)やA-DROPなどの重症度指標が用いられており,治療を進めていくにあたって重要な要素となります。市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)患者では,PSI の重症度が高い患者群で PCT が高値となることが報告されており肺炎診療においても PCT が有用となる可能性が示されています。
 さらに、肺炎の重症度指標は命予後の評価にも有用で PCT 値が PSI および CURB-65 と同程度に患者生命予を予測しうるという研究結果も報告されています。またPCT は抗菌薬治療の奏効を速やかに反映するマーカーでもあり、抗生剤の早期終了などの評価にも有効である事が報告されています。
 軽症の肺炎の場合、PCTは高値になりにくく細菌性かマイコプラズマなどの非細菌性かを診断するのに苦慮することも少なくありません。そこでPCTとCRPと白血球数を比較して診断する報告がなされました4)

文献4)より転載

 市中肺炎患者568例、うちマイコプラズマ肺炎47例(8%)、肺炎球菌152例(27%)、インフルエンザまたはその他ウイルス性肺炎369例(65%)を検討してあります。
 図AでCRPは肺炎球菌性肺炎>マイコプラスマ肺炎>ウイルス性肺炎の順で高値となります。図BでPCTは肺炎球菌性肺炎>ウイルス性肺炎>マイコプラスマ肺炎の順で高値となります。ここでCRP/PCTの比を取ると(図C)、マイコプラスマ肺炎>ウイルス性肺炎>肺炎球菌性肺炎となります。CRP/PCT>400(国内の単位では>40)のときがマイコプラスマ肺炎と診断できるとしています。オッズ比15.04(95%CI 5.23~43.26)で肺炎球菌とマイコプラスマ肺炎を区別でき、またオッズ比 5.55でウイルス感染とマイコプラスマ肺炎を区別できるそうです。ちなみにレジオネラ肺炎のCRP/PCTは肺炎球菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の中間にあり、レジオネラ肺炎の診断にも有用かもしれないと著者らは考察しています4)
 マイコプラズマ感染症の診断は難しい5)とされますがCRP/PCT比は迅速診断として有用な可能性があります。

令和5年4月4日 
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

  1. 新井 隆男ら:プロカルシトニン . モダンメディア 2006 ; 52 ; 384 – 388 .
  2. L. Simon, F. et al : Serum procalcitonin and C-reactive protein levels as markers of bacterial infection : a systematic review and meta-analysis, Clin Infect Dis 2004 ; 39 ; 206 – 217 .
  3. 山本 善裕ら:各種肺炎におけるプロカルシトニン測定の臨床的有用性の評価 . 日呼吸誌 2014 ;  3  ; 50 – 55 .
  4. Neeser OL et al : A high C-reactive protein/procalcitonin ratio predicts Mycoplasma pneumoniae infection . Clin Chem Lab Med 2019 ; 57 ; 1638 – 1646 .
  5. マイコプラズマ感染症の診断は難しい