感染症との鑑別が困難な石灰沈着性頸長筋腱炎

感染症との鑑別が困難な石灰沈着性頸長筋腱炎

 30 〜 60 歳で生来健康なひとが、突然急激な頸部痛、頸部運動制限、嚥下痛や咽頭痛などが出現したら通常は重症の細菌性上気道感染症(咽後膿瘍など)を想起するでしょう。しかも白血球増多やCRP上昇を伴っていたら緊急入院、咽頭部の穿刺、抗生剤の投与などが行われるでしょう。しかし感染症ではない病気があります。石灰沈着性頸長筋腱炎という病気です。
 石灰沈着性頸長筋腱炎は、1964 年に Hartleyによって報告された疾患で、頸長筋にハイドロキシアパタイトが沈着したことによる二次性炎症性腱炎です。後発年齢は 30 〜 60 歳で性差はなく急激な頸部痛、頸部運動制限、嚥下痛、咽頭痛などを主訴に発症します。報告数は多くはありませんが、診断名が知られていないことと診断基準が明確化していないことより、実際の発症数は報告数より多いことを指摘している論文もあります1)
 頸長筋は椎体の前面に位置し、上斜部、垂直部、下斜部から構成され頸部を前屈や側屈させる役割があります。本疾患は上斜部の停止部位への石灰沈着が原因とされています。石灰沈着の成因は明らかではありませんが、繰り返す運動などにより腱の脆弱な部分に負担が生じ変性をきたし、石灰沈着するものと考えられています。炎症の発症様式は石灰の細粒が破綻とともに周辺組織へ散布され、細粒が吸収される際に生じる炎症が原因と考えられています2)。したがって石灰沈着性筋腱炎は全身の筋腱接合部に発症し、特に肩関節に多く出現します。

日本整形外科学会https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/calcific_tendinitis.html より参照

 石灰沈着性頸長筋腱炎に明確な診断基準は存在しないため、診断に苦慮する症例が多く報告されています。特に咽後膿瘍との鑑別に苦慮した報告が多くなされています。
 発症は突然で、劇的に発症します。頸部痛は前頸部の片側に多く、後屈での疼痛増強が特徴です。血液検査では白血球数増加やCRP陽性などの炎症反応がみられることが多く、診断はレントゲンCTでの環軸椎前面の石灰沈着があげらますが、石灰化像は小さな斑点状のものから高密度で顕著なものまであります。石灰沈着は経過とともに消失するため認めない症例も散見されます。石灰沈着は本疾患診断の必須事項ではなく、明瞭な石灰沈着を画像上確認できないこともあります3)。そのため当初から本疾患を疑いながらも咽後膿瘍との鑑別が出来ずに、咽頭穿刺を施行した報告もあります4)

文献5)より転載

 この両者の鑑別として石灰沈着性頸長腱炎は発症が急激で、咽後膿瘍は、まず上気道炎などの症状が生じたのちに咽頭痛が悪化する点が診断ポイントで、咽後膿瘍の方が重篤です。また、造影CTで咽後膿瘍は周辺の造影効果があるのに比し、石灰沈着性頸長腱炎はないのも鑑別点です5)
 似たような疾患にcrowned dens syndrome  ( CDS )があります。CDSはピロリン酸カルシウムやハイドロキシアパタイドの結晶が関節周囲の組織に沈着して炎症を引き起こす結晶誘発性関節炎の一つであり、環軸椎関節周囲の靭帯に結晶が沈着することで生じます。痛風発作と対比され偽痛風と呼ばれることもありますが、近年は急性CPP結晶性関節炎 ( calcium pyrophophate deposition disease : CPPD ) という名称に統一されつつあります。急性に生じる頸部痛や首や肩のこわばり、発熱を生じ、頸部痛は回旋運動での増悪が特徴です。また発作を繰り返す事もあります。診断は頸部のCTで軸椎歯突起周囲に王冠のようなリング状の石灰化を認めることで確定します6)。この3疾患の鑑別点を表にします。

               石灰沈着性頸長筋腱炎Growned dens syndrome7)        咽後膿瘍8)
発症急激急激上気道炎症状が急速に悪化
好発年齢30~60歳 女性60歳以上 女性主に10歳以下の小児。
成人の免疫不全者は起こしうる。
症状頸部痛(後屈での増悪)、
嚥下痛、咽頭痛など
頸部痛(回旋での増悪)、嚥下痛、咽頭痛など咽頭痛、嚥下痛、開口制限、呼吸困難,嗄声、喘鳴、斜頸、頸部腫脹など重篤感がある
炎症反応亢進亢進亢進
レントゲン
CT所見
咽喉頭から食道上部の後方と頸椎前方の軟部組織の浮腫と微細な石灰化を認 めることが多い。造影CTでは造影効果は認められない。軸椎歯突起周囲に王冠のようなリング状の石灰化を認める。咽喉頭から食道上部の後方と頸椎前方の軟部組織の浮腫と低吸収域の存在。造影で周囲の造影効果あり。

令和6年1月5日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

  1. 土田 知也ら:頸部痛を来す疾患との鑑別が必要となる石灰沈着性頸長筋腱炎 6 例の検討 . 聖マリアンナ医科大学雑誌 2017 ; 45 ; 105 – 111 .
  2. 川原 加苗ら:咽後膿瘍との鑑別が困難であった石灰沈着性頸長筋腱炎の 1例 . 日臨救急医会誌 2019;22:646 – 650 .
  3. 木村 亮平ら:当科で経験した石灰沈着性頸長筋腱炎の 3 症例 . 耳展 63:6;274~279,2020 .
  4. 川原 加苗ら:咽後膿瘍との鑑別が困難であった石灰沈着性頸長筋腱炎の 1例 . 日臨救急医会誌 2019;22:646 – 650 .
  5. 濱口 杉大:咽頭痛と頸椎前面の炎症[もう騙されない!外来に現れるミミック疾患(4)]. 日本医事新報 2022 ; 5122 ; 12 – 13 .
  6. 坂元 士ら:発熱を伴う急性の頸部痛[もう騙されない!外来に現れるミミック疾患(16)]日本医事新報 2023 ; 5174 ; 12 – 13 .
  7. 坂口 拓夢ら:当院で経験したCrowned dens症候群46症例の検討 . 洛和会病院医誌 2016 ; 27 ; 43 – 46 .
  8. 渡辺 哲生ら:咽後膿瘍6症例の検討 . 耳鼻臨床 1999 ; 92 ; 393 – 400 .