原因不明の子供の肝炎。アデノウイルス?

原因不明の子供の肝炎。アデノウイルス?

 原因不明の子供の肝炎が欧州で問題となっています。2022年4月23日、世界保健機関(WHO)は、4月上旬以降に169件の症例を確認し、「少なくとも子ども1人の死亡が報告されている」と発表しました。これまでのところ、この肝炎は欧州11カ国とアメリカの2つの州で確認されています。最も多いのがイギリスの114件で、10人の子供が肝臓移植を余儀なくされています。原因究明の結果、アデノウイルスが少なくとも74人の患者から確認され、少なくとも19人は新型コロナウイルスとアデノウイルスの両方に感染していたと、WHOは発表しました。F41と呼ばれるアデノウイルスが原因になっている可能性が高いとみています。この肝炎に感染している子供の大半は5歳以下で、下痢や吐き気といった胃腸炎を起こした後、皮膚と眼球結膜が黄色くなる黄疸が出現するそうです。現在までのところコロナワクチンとの関連性はなさそうです1)
 日本でも厚生労働省が25日に、同様の症例を国内で初めて確認したことを発表しました。
 アデノウイルス(Adenovirus)はエンベロープを持たない直径 70~90nm の 2 本鎖 DNA ウイルスで、A~F の 6 亜属に分類されます。現在確認されている 51 種類の血清型は A~F の亜属の中に分類されており,表 1 にその分類を示します2)

文献2)より転載

アデノウイルスは世界中に分布し、一年を通じて感染する可能性の高いウイルスで、一部のウイルスはある季節に集中する傾向があります。症状は呼吸器系の症状だけでなく、眼症状、消化器症状など多岐に渡り、それぞれ感染するアデノウイルスの型によって症状が異なります。現在、51の血清型が知られています。基本的にはやや重症感のある風邪症状で重症になることはありません3)

文献2)より転載

 アデノウイルスは乳児における急性呼吸器疾患では 5~8% を占めると考えられており、約半数の学童は呼吸器疾患を起こす主要なウイルス血清型(主に 1~7 型)に対する抗体をもち、ほぼすべての成人にはこれらに対する抗体が認められています。つまり普遍的に存在する風邪ウイルスで大半の人が知らないうちに感染しているウイルスと言えます2)。しかし、ごくまれに重症化する子供も存在し、特に7型は他の血清型と異なり乳幼児に重症肺炎を惹起し高率にARDSをきたし、7型肺炎の死亡率は18%とも報告されています4)5)。また3型は最も良く見られる血清型ですがこれによる重症脳炎の報告もあり、この重症化には過剰なサイトカインによる影響が考えられています6)。その他劇症肝炎や心筋炎をおこして重症化した例も報告されています。アデノウイルスの人体への毒性は、ウイルス株の毒性と、個人の免疫状態で左右されるものと思われます。
 アデノウイルスは呼吸器疾患を引き起こすウイルスの中では、数少ない小腸上皮で増殖できるウイルスの一つです。したがって飛沫感染も重要ですが糞便からの多量のウイルス排出に伴う接触感染を感染対策としてはより重視すべきです。特に便には感染後も数か月間、ウイルス排出が続く傾向があります。またアデノウイルスは乾燥に強く、自然乾燥に対しても1週間以上にわたり感染力を保持し続けます。すなわち、体外でも数週間にわたり生存可能なので消毒は速やかに行う必要があります2)。エンベロープを持つ他のウイルスに比べても、アルコールに対する抵抗性は強く70~80% のアルコールであれば、最低限 2 度拭きは必要とされています。しかしアルコール性の消毒剤のウエルパスは30秒で99%のウイルス不活化作用があると記載されており手指の消毒用として有用です5)
 アメリカでは新兵のアデノウイルス感染による急性呼吸器疾患の発生が問題となり、ワクチンの接種が 1971 年から 1999 年まで行われており、90%以上の効果があったのですが製造中止となり、現在はワクチンは存在していません。また有効な抗ウイルス剤も存在しません。感染予防のみが有効な手段です。
 アデノウイルスの感染診断補助として日常的にイムノクロマトグラフィー迅速診断キットが使用されています。10~15 分の短時間で判定可能であり、一般に感度は 60~80% 、特異度は 90% 以上と診断に極めて有用とされています2)。検査成績に影響を与えるのは、検体採取手技で、すべての病型で、両側扁桃と上咽頭を含む咽頭後壁を丁寧に数回拭うことが必要とされています2)。しかし、検査キットは多数発売されていますが検査キット間での感受性の差があり、またアデノウイルスは血清型が多く存在するため検出しにくい血清型があるようです7)
 今回問題になっている子供の原因不明の重症肝炎の原因がアデノウイルスと決定したわけではありませんが、消毒が難しく、また便から長期間排出されるなどの特徴があり知っておかなければならない感染症です。また、他のウイルスが原因であったとしても、新型コロナウイルスのパンデミックによって、幼い子供たちが生活の中で他のウイルス感染症にも罹らなくなっため、ウイルスにさらされる時期が遅くなり、免疫反応が激しくなっている可能性もあります。
 アデノウイルスは早く感染しておいた方が良いのでしょうか?それとも現在は徹底的に消毒すべきなのでしょうか?難しい問題です。やはりアデノウイルスワクチンが接種可能になる方が良いのでしょうか?

令和4年4月28日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)Adenovirus probable cause of mysterious child hepatitis
https://www.bbc.com/news/health-61220518
2)南波 広行 : アデノウイルス感染症 . 耳展 2008 ; 51:6;456 – 461 .
3)アデノウイルス感染症が増えてきました
4)酒井 忠和ら:アデノウイルス肺炎2剖検例 . 日本小児呼吸器疾患学会雑誌 2003 ; 14 ; 11 – 15 .
5)藤本 嗣人:アデノウイルす感染症の診断―免疫クロマトキットを中心にー. Sysmex journal 2007 ; 8 ; 1 – 7 .
6)岡本 健太郎ら:アデノウイルス3型による脳炎・脳症の2例 . 脳と発達2004 : 36; 4487 – 491 .
7)大宮 卓ら:イムノクロマト法を原理とする種々のアデノウイルス迅速抗原検出キットの,ウイルス検出感度の比較 . 医学検査 2015 ; 64 ; 319 – 323 .