ウルソがCOVID-19感染に有効?

ウルソがCOVID-19感染に有効?

 アジアなどで新型コロナウイルスの死亡率が低い要因に、腸内細菌が関連している可能性があると、名古屋大などのチームが米科学誌に発表しました。計10カ国の健康な人を調べると、アジアや北欧では「コリンセラ(Collinsella)」という種の細菌を多く持つ人の割合が高く、この細菌は、ウイルスと細胞の結合を防ぐ物質を作り、過剰なサイトカインの発生を抑える作用があることがわかりました。名古屋大の平山正昭准教授は「今回は国単位での解析をしたが、今後は患者ごとにコリンセラの有無を調べて重症化の判別ができるようになるかもしれない」と話しました(共同通信 01月07日)。欧米の多くの国と比べ、アジアや北欧では新型コロナの死亡率が低く、何らかの要因(ファクターX)があるのではないかと指摘されていましたが、この腸内細菌であるコリンセラがファクターXの可能性があります。
 名古屋大学の門松健治らは、ファクターXの候補として腸内細菌叢に着目しCOVID-19 死亡率と腸内細菌の関連を解析しました。公共データベースから OECD 10 カ国の 953 人の健常者の腸内細菌叢データをダウンロードして解析に用いました。解析の結果、腸内細菌コリンセラ属の比率が低いほど COVID-19 の死亡率が高いことがわかりました。また、クラスター解析を行ったところ 5 つの腸内細菌叢の型(エンテロタイプ)が見つかりました。COVID-19 死亡率はエンテロタイプ 1 から 5 に移行するにしたがって増えました。一方、コリンセラ属はエンテロタイプ1から5に移行するにしたがって減少しました。
 コリンセラ属は肝臓で作られて腸内に放出される一次胆汁酸を二次胆汁酸であるウルソデオキシコール酸に変換することが知られています。ウルソデオキシコール酸は SARS-CoV-2 のアンジオテンシン変換酵素 2 (ACE2)への結合を防ぐことが最近報告されています2)。ACE2はSARS-CoV-2 感染時に最初に結合する受容体です。加えて、ウルソデオキシコール酸は炎症誘発性サイトカインの産生を抑制し、抗酸化や抗アポトーシス作用を有し、急性呼吸症窮迫候群 (ARDS)で肺胞液クリアランスを上昇させることが知られています。以上の結果から腸管内のコリンセラ属が産生するウルソデオキシコール酸がSARS-CoV-2感染を防ぎ、またCOVID-19 による肺炎の重症化を予防する可能性が示唆されました1)
 ウルソデオキシコール酸は通常、慢性肝疾患に良く処方される薬で安価で、軟便などの軽い副作用があるのみで処方しやすい薬です。この薬の内服でSARS-CoV-2感染を防ぎ、重症化を抑えることが出来るのでしょうか?
 呼吸器疾患に対するウルソデオキシコール酸の有効性は以前にも実証されており、気道リモデリングに伴う病理組織学的変化のすべてにおいて有意な改善が見られています3)。このような効果は、Th-2由来のサイトカインの効率的な調節と気道上皮細胞のアポトーシスの抑制に起因すると考えられています3)。また、最近では、リポ多糖類誘発性肺水腫において、ALX/cAMP/PI3K経路を介して肺胞液クリアランスを促進し、急性呼吸窮迫症候群を改善することが示されており、ウルソデオキシコール酸はこの発表以前にもSARS-CoV-2感染症の治療薬として有望視されていたのでした。
 ウルソデオキシコール酸は親水性の胆汁酸です。これは熊の胆汁の治療的に有効な成分であり、3000年以上前から伝統的な漢方薬で使用されてきました。通常、人間の胆汁にも存在しますが、総胆汁酸の3%程度しか存在しません。ウルソデオキシコール酸は近年、細胞保護作用と抗アポトーシス作用があるとの報告に加えて、顕著な抗炎症性と免疫調節作用の報告が相次いでおり、外国では網膜色素変性症、黄斑変性症、ハンチントン病、パーキンソン病、アルツハイマー病など、さまざまなヒトの臨床疾患を対象とした臨床試験が世界中で数多く行われており、また中国ではSARS-CoV-2感染症に対して熊の胆汁が推奨されているそうです。この安価で安全性の高い薬剤がSARS-CoV-2感染症のみならず呼吸器疾患、その他の全身疾患に有効である可能性に注目されているのです。また、腸内のコリンセラ属を増やす方法についての検討は今回調べた限りでは明らかに出来ませんでしたが、おそらく和食の影響が強いものと予想されます。また、コリンセラ属は抗生剤投与で死滅しやすいことは明らかにされていました4)

令和4年1月17日  
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)腸内細菌 Collinsella 属が COVID-19 の感染・重症化を予防
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/PLOS_ONE_20211124.pdf

2)Subbaya Subramanian et al : Merit of an Ursodeoxycholic Acid Clinical Trial in COVID-19 Patients
https://www.mdpi.com/2076-393X/8/2/320
3)Saleem Abdulrab et al : Ursodeoxycholic acid as a candidate therapeutic to alleviate and/or prevent COVID-19-associated cytokine storm
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7261102/

4)影山 亜紀子ら:ヒト腸内最優勢菌種であるCollinsella属 とその他関連菌種の薬剤感受性.腸内細菌学雑誌 2001 ; 14 ; 103 – 107 .