男性にもHPVワクチンを

男性にもHPVワクチンを

 厚生労働省がHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン(子宮頸がんワクチン)を男性にも無料接種が可能になるよう検討を進めているようです。現在、HPVワクチンのうち「2価」と「4価」は、小学6年から高校1年の女性は国の助成により無料で接種可能となっています。この2種類のうち「4価」に関しては、男性に対しても中咽頭がん、肛門がんや性感染症の尖圭コンジローマを予防する効果があります。現時点でも男性への接種はできるものの、費用は全額自己負担となっています。一部の自治体では独自に助成制度を設けているところもあるそうです。今後、専門家などの意見を交えて検討を進めるとしています(テレ朝NEWS 2022年8月10日)。世界的には、男性も接種を受ける動きが広がっており、日本でもようやく議論が始まりました。日本でも4価ワクチンの尖圭コンジローマの3年間の予防観察データがあり、ワクチン接種群の発生率0プラセボ群137.3でした1)
 男性もHPVワクチンを接種すべき理由は大きく2つあります。1つは、子宮頸がんがHPVのピンポン感染によって広がっていくためです。もう1つは、中咽頭がんや肛門がん、さらには直腸がん、陰茎がん、性感染症である尖圭(せんけい)コンジローマも、ほとんどがHPVによることがわかってきたからです。

癌情報センターより転載

 
 米国では、年間総発症数で、中咽頭がんが子宮頸がんをすでに上回っています。HPVワクチン接種により子宮頸がんは年々減少しているのに対し、中咽頭がんは急激に増えていて、その差は今後も開いて行と予測されています。米国のデータによると中咽頭がんのうち、HPV関連の中咽頭がんの比率は、 1984~1989年では16.3%だったものが、2000~2004年には72.7%にまで増加しました。その後も増え続けています2)。2011~2014年の全米18~69歳の男性11.5%(1100万人相当)、女性3.2%(320万人相当)に、HPVの口腔感染が見られており、HPVの口腔感染率は、ワクチン接種によって確実に減少させられ、中咽頭がんを減らせるものと思われます。わが国でも2014年に報告された多施設共同による前向き試験の結果では、HPV関連の中咽頭がんが50.3%にのぼることがわかっています。そして今後さらに増加することが予想されています。

がんサポートhttps://gansupport.jp/article/treatment/examination/17798.htmlより転載

 こういう事態を受けてアメリカは2009年に男性へのHPVワクチンの接種が認可され2011年からは、女子と同じ11~12歳男子に対し、米疾病管理予防センター(CDC)による定期接種の積極的勧奨が行われています。英国も2019年9月から、女子同様に11~12歳男子を定期接種の対象としました(25歳まで無償接種が可能)。先進各国は続々と、男子へのHPVワクチン接種を開始しており、このままでは近い将来、HPV関連がんは先進国で唯一、日本特有の病気になるかもしれません3)
 男性がHPVワクチンを打つ必要があるのはピンポン感染を根絶する理由もあります。オーストラリアでは、2007年に12~13歳女子のHPVワクチン接種を定期接種化し、2013年からは男子にも拡大しました。その結果、子宮頸がん原因の75%を占める型のHPV感染が、77%減少しました。同国ビクトリア州では、18歳未満の女子の前がん病変(子宮頸部高度異形成)が、ほぼ半減したそうです。 日本で承認されているHPVワクチンは2価、4価、9価の3種があります。2価ワクチンは子宮頸がんのおもな原因となるHPV16型と18型のふたつに対するワクチン。4価は16型18型と、良性の尖圭コンジローマの原因6型、11型の4つに対するワクチンです。9価はさらに5種類の型を加えたワクチンです。外国のデータではより多くの血清型をカバーしているためにHPV未感染の未感染の女性に接種した場合、感染予防効果は100%と報告されています。そのため先進国では9価ワクチンが主流になっています4)

 日本でも今年中に9価ワクチンが定期接種に使用される見込みですが、現在はまだ自費で接種するしかなく、3回接種で約10万円近い負担となります。しかし子宮頸がんの約70%は16と18型によるもので、この2つの型のウイルスは癌の進行が早く20代に限ると90%がこの2つの型が原因とされており現行の4価ワクチンでも十分に期待できるものです。
 HPVワクチンは接種年齢が最も重要で、接種年齢が15歳以下では効果100%でしたが、19歳以上の接種では効果は未接種と同様な結果になるというデータもあります(2価ワクチンでの検討)。この検討での初交年齢中央値は16歳でした4)。どのワクチンを接種するかよりもいかに早く接種するかが大切です。

第53回予防接種基本方針部会
HPVワクチンについて https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001069519.pdfより転載
 さて日本ではHPVワクチンは3回接種ですが、WHOは2回接種を推奨しています5)。2回接種の有効性は多数のデータがあり、さらに1回でも有効であるというデータもあり、日本でも2回接種に変更される予定です。また過去に2価や4価を接種した人も9価を2回目以降に接種できることになりそうです。
 日本のHPVワクチンはしばらく接種勧奨の停止により欧米に比較して立ち遅れていますが、男性への接種勧奨、9価ワクチンの導入、2回接種への変更など後れをとりもどす施策が検討されているようです。

令和5年3月24日
菊池中央病院  中川 義久

参考文献
1).高橋 聡:HPVワクチンの男性への接種 . 日本医師会雑誌 2023 ; 151 ; 2104 .
2).松浦  一登ら:中咽頭癌治療の現状とこれから . 口咽科 2017 ; 30 ; 159 – 164 .
3).宮城 悦子ら:HPV関連がんの現状と未来 . 日本医師会雑誌 2023 ; 151 ; 2049 – 2060 .
4).松本 光司:9価HPVワクチンは本当に期待できるか. 日本医師会雑誌 2023 ; 151 ; 2198 .
5).藤井 多久麿:HPVワクチンに関する解説 . 日本医師会雑誌 2023 ; 151 ; 2089 – 2092 .