沖縄で百日咳が流行しています
沖縄県で百日咳が流行しており注意喚起がされています1)。
文献1)より転載
沖縄県での報告です。2019年に大きな流行がありましたが、2024年も急増し2019年に迫る勢いで増加しています。百日咳はマイコプラズマ同様数年の周期で流行することが知られています。
百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)という細菌の感染です。また、一部はパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)も原因になります。
小児の典型的な経過はワクチン未接種の乳幼児に見られます。
(1)カタル期(1~2週間)
軽い咳から始まり、次第に通常の鎮咳薬では咳が治まらずひどくなります。この時期での
適切な抗菌薬療法ができれば,咳症状の軽減に有用です。
(2)痙咳期(3~6週間)
特徴的な咳が聴かれるようになります。発作性の5~10 回以上途切れなく続く連続的な咳込みで苦しくなり、大きな努力性吸気の際に狭くなった声門を吸気が通過する時に、吸気性笛声(whooping)が聞かれます。一連の咳発作は夜間に強く、咳込みによる嘔吐、チアノーゼ、無呼吸、顔面紅潮、眼瞼浮腫、結膜充血などがみられます。熱はなく咳が激しい割に聴診所見は正常です。
(3)回復期(6週間以後)
特有な咳込みが次第に減少し、通常3~6週間で軽快します2)。
ただ、百日咳の症状や経過は以下のような要因で大きく変化します。1)年齢2)DTPワクチン接種歴 3)使用した抗菌薬の種類と開始時期と期間 4)6カ月未満児は移行抗体を考慮した母親の年齢、DTPワクチン接種の有無、職業 5)感染源との接触の程度など多くの因子の影響で多彩です。潜伏期間は、感染後7~10日が多い(6~20日)です2)。成人では咳がひどくない場合は受診しないことも多く、百日咳とほとんど認識されず、乳幼児への感染源となっています(基本再生産数16~21)。成人におけるその頻度は報告によりばらつきがありますが、持続咳嗽患者での頻度は1~17%という報告もあり稀なものではありません2)。
百日咳の診断は、まず発症後3週間以内であれば抗原検索が考えられます。しかし近年の報告では菌が多い発症14日までが検出限界で、検査感度(LAMP法)が34%であったというデータもあり3)あまり過大の期待はできません。やはり百日咳の診断は難しいのです。
文献4)より転載
3週間を過ぎると、百日咳菌の菌量が低下するために血清診断がされます。従来、百日咳抗体 IgA、IgMを採血で検査していましたが、I近年、I g M抗体は健常な子供でも陽性率が高く、30%が陽性であったという報告もあり、またI g A 抗体は中高年で陽性率が高く、また小児ではIgA抗体が陽性になりにくいとの指摘もあり、この2つの検査法も問題があることが解ってきました。したがってPT-IgGを測定しますが、 単血清で100 倍以上の陽性でない限りペア血清での判定が必要であり実臨床ではあまり使用されていません。またワクチン接種の影響も受けることより注意が必要です3)。
文献4)より転載
百日咳の治療は咳嗽発作、呼吸症状に対しては対症療法となります。病初期であればマクロライドは速やかに感染性を失わせ、除菌に有効ですが、痙咳期以降の病態改善効果は限定的で、成人百日咳への効果は不明です。但し成人百日咳は感染源にはなりうるので、集団感染が疑われる場合マクロライドの予防的投与は行われます5)。近年、海外ではマクロライド耐性百日咳菌が問題となっていますが、日本では今のところ確認されていません。一方、キノロン薬への耐性菌が我が国で初めて報告されました6)。キノロン耐性菌は特定の遺伝子型を示さず,散発的にみられています。やはり百日咳を考えて治療をする場合はマクロライド系抗菌剤を使用すべきでしょう。マクロライド間での差はなく、またST合剤、テトラサイクリン、リファンピシンも有効と考えられます7)。
令和6年12月27日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)百日咳が増加傾向にありますhttps://www.pref.okinawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/032/160/20241213pertussis.pdf2)岡田 賢司:百日咳の臨床―成人と小児― . 日内会誌 2010 ; 99 ; 1064 – 1071 .
3)発熱外来でCOVID-19陰性の人は百日咳が多い?
4)百日咳の検査診断
https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/kikikanri/R1/2-01.pdf
5)菊池 賢:成人百日咳 その診断と治療 . 日内会誌 2012 ; 101 ; 3129 – 3133 .
6)Ohtsuka M, et al : Emergence of quinolone-resistant Bordetella pertussis in Japan. Antimicrob. Agents Chemother 2009 ; 53 ; 3147 – 3149 .
https://journals.asm.org/doi/epub/10.1128/aac.00023-09
7)大塚 正之:2001年 か ら2002年 に分離 されたBordetella pertussisの
薬剤感受性成績 と分子疫学的検討 . 感染症誌 2004 ; 78 : 420 – 427 .