梅毒治療に伴うJarisch-Herxheimer反応

梅毒治療に伴うJarisch-Herxheimer反応

 梅毒の増加が続いています。

(国立感染症研究所 感染症疫学センター・実地疫学研究センター・細菌第一部)より転載

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/syphilis/2024q2/syphilis2024q2.pdf

 図は2019年第1週から2024年第26週までの梅毒届け出数の推移です。2020年頃より著明な増加を示しています。その原因としてコロナ禍からの解放やSNSなどを介した不特定多数との性行為などが考えられています1)
 ペニシリンに対する耐性は梅毒にはなくペニシリンが第一選択です。梅毒は1回の分裂に要する時間が30~33時間と長く、抗菌薬の殺菌濃度を長くする必要があります。

 ペニシリンは筋注薬(ステルイズ)と経口薬があります。効果は同等と思われます。ただステルイズは特有なNicolau 症候群に注意する必要があります1)。ステルイズを使用する場合は「ステルイズ適正使用ガイドライン」をファイザー製薬のホームページで熟読し動画も参考できるようになっています。後期梅毒(感染から1年以上経過している場合)では1週ごとに計3回筋注します。ペニシリンアレルギーの人はミノサイクリン経口1回 100 mg 1日2回4週間が第2選択です2)。マクロライド系抗菌薬が有効な時期もありましたが、現在は耐性化がすすみ使用されなくなりました2)

(神経梅毒、妊婦、先天性梅毒は各ガイドラインを参照)
 なお 活動性梅毒のパートナーには梅毒抗体検査を行い性であれば治療します。パートナーの抗体検査が陰性でも最終の感染時期から3か月後に陽転していないことを確認するまでは感染が否定できないことを説明しておきます。アモキシシリン水和物で治療して効果不十分と判断される場合は1か月単位での投与期間の延長を検討します3)

文献4)より転載

 治療の効果判定は治療開始後、おおむね 4 週ごとに RPR と梅毒トレポネーマ抗体を同時に測定し、その値を参考にします。RPR法の自動化法で治療前値の半分に低下したら治癒と判断します4)5)。  
 治療開始前に患者さんに必ず説明しておくべき副反応はヤーリッシュ・ヘルクスハイマー(Jarisch-Herxheimer)反応です。同反応はスピロヘータ感染症である梅毒やライム病、レプトスピラ症5)、回帰熱などの感染症に対する治療開始後24時間以内に全身の倦怠感、発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、頻脈、体温の上昇、呼吸切迫、血圧の低下、一時的な病変部の悪化などの症状が出現することです。この原因として病原の細菌が大量に死滅・破壊されて、細菌内部の毒素が血液に混入することが原因と考えられています。その頻度は10~35%と報告されています。女性に多いと言われています。通常は投与後1-4時間前後から始まり、24時間で軽快します。この症状は、薬剤アレルギーや敗血症、薬疹などとの鑑別が問題になります。しかし診断に決め手はなく、投与後1-4時間前後から始まり、24時間で軽快したという事実で診断します。投与後数分以内で上記の症状がでたらアナフィラキシーの可能性があり投与を中止します。投与後数日~数週間には遅発型アレルギーが生じることもありますがこれはT細胞を介したもので同反応とは異なったものです6)。この機序から明らかなように、他の感染症の治療の目的で抗菌薬を投与した時にも起こりうる反応です。例えば、ヘリコバクター・ピロリの除菌を行った場合に偶然梅毒であった場合などです7)
 増え続ける梅毒に対してプライマリケア医もその治療を知っておく必要があります。

令和6年10月2日 
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)梅毒治療に伴うNicolau 症候群―臀部への筋注は注意―
2)高橋 聡:梅毒の診断と治療を知る . 日耳鼻 2024 ; 127 ; 468 .
3)井戸田 一郎:梅毒 . モダンメデイア 2023 ; 69 ; 173 – 181 .
4)梅毒診療ガイド(第2版)
https://jssti.jp/pdf/syphilis-medical_guide_v2.pdf#:~:text=%E6%A2%85%E6%AF%92%E8%A8%BA%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%EF%BC%88%E7%AC%AC2
5)梅毒診療の考え方令和 6 年 3 月
6)小林 俊諒:Jarisch-Herxheimer反応が診断の端緒となったWeil病の1例 . 〔日内会誌 112:1005~1011,2023〕
7)森 博士ら:Jarisch-Herxheimer reaction を認めた妊娠後期梅毒感染の1例 . 日本周産期・新生児胃医学会雑誌 2020 ; 556 ; 512 – 516 .
8)山本 容子ら:当科におけるHelikobacter pyrori 除菌療法における薬疹の検討 . アレルギー2018 ; 67 ; 1020 – 1026 .