SFTSはCRPが上昇しにくい

SFTSはCRPが上昇しにくい

 熊本県は70代の男性がマダニが媒介する感染症『SFTS:重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome』に感染し死亡したと6月6日に発表しました。SFTSに感染し死亡したのは芦北郡に住む74歳の男性です。熊本県によると、男性は全身の倦怠感や脚のもつれなどの症状を訴え、5月23日に、水俣保健所管内の医療機関を受診しましたが、その際、検査では異常がなかったということです。しかし、症状が悪化したため再び同じ医療機関を受診したところ、マダニが媒介する感染症と疑われたため別の医療機関に救急搬送され入院。検査でマダニによる感染症SFTSへの感染が確認され、6月1日に死亡しました。
 SFTSは、2011年に中国で発見されたフェニュイウイルス科バンヤンウイルス属に属する新規に発見されたSFTSウイルスによるマダニ媒介感染症です。国内では2013年に初めての患者が確認され、その後、毎年報告がなされ2019年には100例を超えました。これまでの累計患者数573例のうち死亡75例と致死率は13.1%です(2020年12月30日現在)。 国内の患者発生地は西日本が中心ですが、近年では北陸地方でも認められます。感染地は野生動物が活動する山間部が多いですが、原因ウイルスに対する血清抗体を保有する野生動物は全国的に認められることから、未だ報告のない地域からの患者発生も予測されます。マダニの活動が高まる春~夏及び秋に発生することが多いです1)
 臨床症状はマダニによる刺咬などでウイルスが体内に侵入して5~14日位の潜伏期を経たのちに、発熱、強い倦怠感、嘔吐や下痢などの消化器症状で発症します。筋肉痛や脱力、意識障害を伴うこともあり、重症例では痙れんや昏睡に至る場合もあります。マダニ媒介性リケッチア感染症である日本紅斑熱やツツガムシ病とは対照的に皮疹はほぼみられません。このような特徴的ではない症状でプライマリケアを受診した場合、マダニに刺されたという情報がなければSFTSを疑うのはかなり難しいでしょう。診断がはっきりしない発熱患者にはとりあえず採血をすることが多いでしょう。白血球数、CRP、プロカルシトニン3)などを検査するでしょう。一般的にCRPが高いと細菌感染などの重症感染症を想起し、逆に低いとなんらかのウイルス感染と考え軽症感染症を想起する傾向にあります。SFTSの検査所見は血液検査では白血球減少と血小板減少に加えてAST、LDH、CKの上昇がみられAPTT優位の凝固時間延長やDIC(播種性血管内凝固症候群)といえる凝固異常もしばしば認められます。急性期は白血球減少を示していますが、末梢血をよく検鏡すると形質細胞様の形態をした異型リンパ球が出現していることが多いです。検尿では潜血陽性、便潜血陽性を呈する事が多いです。その中で特徴ともいえるのが、CRPは陰性か軽度高値にとどまると言われています4)。ある研究ではSFTSの95%がCRP陰性で、その41人のSFTSのCRPの平均値は0.16 であったと報告しています。皮疹のない日本紅斑熱とSFTSの鑑別は非常に難しいですが、日本紅斑熱のCRP平均値は14.1 で、CRPの値で鑑別が可能であると報告しています5)。もともとウイルス感染ではCRPが上昇しないことは周知のことですが、SFTSのような重症で組織障害を起こすような重症ウイルス感染では通常、もっと上昇するものだといわれています6)。SFTSでCRPが上昇しないのはIL-10が多く分泌され、それがIL-6の産生を阻害するからだと推測されています。クリミア・コンゴ出血熱も同様な機序でCRPが上昇しにくいといわれています6)
 SFTSの患者さんは初期には不定の症状でプライマリケア医を受診するでしょう。重症度の見極めとしてCRPを採血することもあるかもしれません。その時CRP低値を見て、軽い風邪症状と考え帰宅させるとその後に重篤な病態に進展することがあるので注意が必要です。

令和6年6月20日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)岩崎 博道:我が国におけるダニ媒介感染症の現状と課題 . 日内会誌 2021 ; 110 ; 2270 – 2277 .
2)高橋 徹:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)日本でも流行しているウイルス性出血熱 . ファルマシア 2021 ; 57 ; 377 – 380 .
3)マイコプラズマとプロカルシトニン(procalcitonin : PCT)
4)高橋 徹:重症熱性血小板減少症候群(SFTS):意識障害も伴う新興ウイルス感染症 . Neuroinfection 2020 ; 25 ; 49 – 54 .
5)Impact of C-reactive protein levels on differentiating of severe fever with thrombocytopenia syndrome from Japanese spotted fever
https://academic.oup.com/ofid/article/7/11/ofaa473/5919169?login=false
6)Ferritin and procalcitonin serve as discriminative inflammatory biomarkers and can predict the prognosis of severe fever with thrombocytopenia syndrome in its early stages
https://www.frontiersin.org/journals/microbiology/articles/10.3389/fmicb.2023.1168381/full