インフルエンザのAI診断のnodocaの実力は?
インフルエンザも新型コロナ感染症も増加しています。インフルエンザは新型コロナに比較すると安価で有効な治療薬があるので診断価値は高いものと思われます。
インフルエンザの診断は最近では迅速診断が常識になり、患者さんの方から検査を希望されることもあります。しかし、インフルエンザ流行時の迅速検査の意義については、陽性の場合の診断確定には有用ですが、陰性であった場合、インフルエンザの診断を除外できるわけではないとの限界が指摘されており、また、インフルエンザが地域内で流行している間には、発症48 時間以内の咳や熱といったインフルエンザ様症状がある場合はインフルエンザの可能性が高いとも報告されています。つまりインフルエンザ流行時は検査より診察所見のほうが勝るということです。また、インフルエンザの迅速検査は発症早期で偽陰性になることも知られており、発症12時間未満の感度は38.9 % 、12時間から24時間の間の感度は40.5 % 、24時間から48時間の間の感度は65.2 %、48時間以降の感度は69.6 %と報告されています。迅速診断には一定量のウイルス量が必要で、発症早期の感度が意外に低く、偽陰性になる確率が多いと考えられます。ちなみに特異度は98 % と優れています1)2)3)。
このような中、2022年12月に新しく保険適応になった医療機器nodocaが登場してきました。この特徴はインフルエンザ早期の診断が迅速診断より感度がよく、また、鼻腔擦過の疼痛がないことです4)。
nodoca添付文書より引用
発症12時間未満の感度が迅速診断より優れていることが解ります。しかし、24時間以降になると迅速診断の感度が優れているようです。
nodoca添付文書より引用
nodoca https://nodoca.aillis.jp/nodocaより引用
nodocaは患者さんの咽頭を小型カメラで撮影して、その写真でAI診断するもので数十秒で診断が可能です。
nodoca https://nodoca.aillis.jp/nodocaより引用
AIはインフルエンザ感染に特徴的な咽頭後壁のリンパ濾胞の拡大をもって診断します。発熱などの臨床症状も加味します。口を大きく開けて、後咽頭の写真がはっきり撮れることが診断の条件です。さらに、新型コロナウイルス感染症、アデノウイルス感染症・RSウイルス感染症でも後咽頭リンパ濾胞が認められる可能性は否定できず、本品は現時点でそれらの感染症との鑑別を十分に行える知見を有していない、と添付文章に記載されています。
後咽頭のリンパ濾胞の拡大は‟イクラサイン“と呼ばれており5)6)、宮本氏らが2013年に論文発表5)したものです。この研究した論文では、初診時(受診までの時間の中央値は12時間)の感度98.8%、特異度100%で、陰性尤度比は0.011と素晴らしい結果です。早期にみられる濾胞を「芽」と表現していますが、1mm 程度のサイズで、これが次第に2mm程度の正円形半球状から涙滴型で境界明瞭な、透明感のある淡紅色の濾胞になります。また、時間が経過すると(2-3 日)、次第に濾胞の裾野が広がり、透明感を失い、やや白濁した色調に変化し、隣接する濾胞と融合することもあるようです。偽陽性になる原因として、アデノウイルス、エコーウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス感染などがあるようです。少なくとも濾胞が認められなければインフルエンザの可能性は非常に低くなり、迅速検査をする必要はないと考えて良いのではないかと報告しています。
視診で後咽頭のリンパ濾胞の観察に習熟できるならnodocaより良い感度でインフルエンザの診断が可能かもしれませんが、いずれにしろ言えることは、インフルエンザの診断は迅速診断に頼るのみではなく、丁寧な診察が肝要であるということでしょう。
ちなみにnodocaの保険点数は3050円(初診料などは除く)です。当院ではまだ採用していません。
令和6年1月18日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)伊藤 健太:小児感染症の迅速抗原検査―こんなピットフォールあります. 日本医事新報 2023 ; 5179 ; 18 – 32 .
2)明石 裕作ら:発症から検査までの時間がインフルエンザ迅速抗原検査に与える影響:前向き観察研究 . 感染症誌 2021 ; 95 ; 9 – 16 .
3)コロナ抗原陰性、インフルエンザ抗原陰性
4)濱 武継:コロナ流行後のインフルエンザを含む発熱患者への対応. 日本医事新報 2023 ; 5197 ; 18 – 32 .
5)宮本 昭彦:インフルエンザの咽頭所見 . 日大医誌 2013 ; 72 ; 164 – 166 .
6)インフルエンザの診断―イクラサイン―