セレウス菌食中毒
青森県八戸市保健所は9月23日、同市の駅弁製造会社「吉田屋」の弁当を食べた全国の人に嘔吐や下痢の症状が相次いだのは黄色ブドウ球菌とセレウス菌による食中毒だと断定し、同社を期限は決めない営業禁止処分としました。体調不良者のうち21都県の270人が食中毒だったとして、内訳も公表しました。
セレウス菌は土壌細菌の一種で、土、水中など自然環境中に広く分布しています。食品への汚染の機会が多く、特に穀類、豆類、香辛料などはセレウス菌に汚染されていることが多いと言われています。下の表は調理前の食品からのセレウス菌の検出状況ですが、多くの食品から検出されていることが解ります。
文献1)より転載
本菌は熱に強い殻(芽胞)を作り、この芽胞は100℃、30分加熱しても分解されません。つまり加熱調理後も生残している場合が多いことから、予防対策としては、調理後の食品中での菌増殖を押さえることが第一です。
原因食品別セレウス菌食中毒発生状況(1983 ~1999、文献2)より転載)
食中毒の原因食品としては、穀類と複合調理食品によるものが大部分を占め、具体的には米飯、スパゲティが嘔吐型食中毒の原因食品となっています。
文献3)より転載
本菌による食中毒は飲食店で多く発生していることが解ります。大量の穀類食品を調理し、その後の保存状態が悪かったものと思われます。
文献3)より転載
本菌による食中毒は5月から11月までの期間に発生しています。本菌は食品中で増殖する際に嘔吐毒という毒素を産生し、食品と共に毒素を摂取することで、食中毒が発生します。熱や酸、消化酵素に強いため、体内では分解されません。
食中毒の原因となるのは嘔吐毒と下痢毒の2種類ですが、日本で発生しているセレウス菌の食中毒はほとんどが嘔吐毒によるものです。
文献3)より
・嘔吐型は喫食後0.5時間から5時間(平均2時間から3時間)で吐き気、嘔吐が起こります。まれに、下痢が伴うことがありますが、発熱は起こりません。
・下痢型は喫食後6時間から15時間で、腹痛及び下痢を主症状として発病します。
嘔吐型、下痢型ともに重症化することは稀であり、大半の事例は軽症です。
予防法ですが、セレウス菌食中毒は菌がある程度の数まで増殖しないと発生しません。一般的には107~108 CFU mlの菌量がないと発症しないとされているため、調理後にそこまで菌量を増加させないと食中毒は起こりません。セレウス菌食中毒を予防するには、焼き飯類等の加熱調理食品であっても、芽胞が作られ、滅菌できずに食品中に残存するため、食品中での菌の増殖を抑えることが重要です。
・食材はよく洗浄してから使用する。
・加熱前の下ごしらえ済み食品は長時間の放置を避け、冷蔵(10℃以下)で保管する。
・調理した食品は可能な限りすぐに食べる。などがポイントと思われます。
セレウス菌感染症は,通常であれば胃腸炎症状のみを認めることが多いですが、ごくまれに肺炎、膿胸、骨髄炎、心内膜炎、脳症を合併することもあります。しかし健常人が重症化することは極めて稀で、治療の記載はなく、通常は点滴投与と制吐剤で治療します4)。もし抗生剤の使用を考慮すべき超重症例では、本菌は β ラクタマーゼを産生するため β ラクタム系の抗菌薬に抵抗性であり、キノロン系抗菌薬で治療した報告もあります5)。
令和5年10月5日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)食品安全員会―セレウス菌食中毒
https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/20210330bacillus_cereus.pdf
2)セレウス菌感染症とは 国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/427-cereus-intro.html
3)町田予防研究所-
https://www.mhcl.jp/workslabo/hatena/cereus01
4)上田 成子:Bacillus cereus 食中毒と検査 . The chemical times 2013 ; 228 ; 11 – 18 .
5)吉本 昭ら:持続脳圧センサーにより管理を行ったセレウス菌による脳症の一例 日集中医誌 2011 ; 18 ; 105 – 109 .
6)松田 昌悟ら:Bacillus cereus による敗血症,壊死性筋膜炎をきたした肝硬変症の 1 例 .日消誌 2014;111:2013―2020