コロナ抗原陰性、インフルエンザ抗原陰性
発熱外来に多くの患者さんが来院されています。
厚生労働省ホームページより
新型コロナウイルス感染症は全数把握ではなくなったため定点医療機関からの集計で7月30日までのデータですが、6月末頃から少しづつ増加しています。8月24日現在、まだピークを越えたような実感はありません
厚生労働省ホームページより
患者の増加とともに入院数も増えてきています。しかし、以前のように呼吸不全をきたして重症になるケースは少なく、高齢者が咽頭痛で摂食不良になり脱水で入院するケースが大半です。
発熱外来では原則として新型コロナ抗原検査(定性)を行い、場合によってはインフルエンザ抗原検査も行います。両者が陰性の発熱患者も多数存在します。例えば、副鼻腔炎、細菌性扁桃炎、伝染性単核球症など多彩な疾患を診断してきました。新型コロナ抗原検査やインフルエンザ抗原検査を迅速抗原検査と呼びますが、これらの検査が陰性であったときにこそ医者の実力が問われるときです。もちろん検査前に入念な診察をして大体の診断をしておくのは当然の事です。
文献1)より参照
この表を見ると解るように、迅速検査の特異度はすぐれていますが、感度はあまり高くないことがわかります。つまり陽性だったら間違いないが、陰性だからと言って否定は出来ないということです。これらの迅速検査が陰性であるということは他の疾患か、もしくは偽陰性であることを鑑別しなければいけません。
そもそもコロナ抗原検査が必要かどうか、というところから考えなくてはいけません。今まではコロナ感染の疑いがあれば必ず検査をしていましたが、5類になった現在、コロナ感染の疑いが濃厚であれば、例えば、家族が数日前に感染した、であれば必ずしも検査をする必要はないと思われます。新型コロナ検査の感度が64.2%であるならば、臨床診断の方の感度が勝る場合もあるのです(特異度は劣りますが)。しかし、①重症化リスクが高い人(高齢、ワクチン未接種、免疫不全)②同居人に高リスクのある人③医療従事者や介護施設職員などは積極的に抗原検査をする必要があります。また、場合によっては抗原陰性でも、抗原定量検査やPCR(感度80 ~ 90 % )3)も行うことも念頭において良いかもしれません3)。また、当初の発表と異なり、新型コロナ感染症もインフルエンザ感染症のように発症直後はウイルス量が少なく(当初、発症時が一番ウイルス量が多いと発表されていました)偽陰性になりやすく、後日に抗原検査を再検査することも考えておく必要があります3)。 発熱患者を診たとき、新型コロナ感染症かどうか慎重に類推し、検査の事前確率を上げておく必要があり、事前確率が高そうだったり、低そうだったらあえて検査をしない選択肢もあります。抗原検査を新型コロナ感染症の除外診断に使用しないことが肝要です。
令和5年8月24日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)伊藤 健太:小児感染症の迅速抗原検査―こんなピットフォールあります. 日本医事新報 2023 ; 5179 ; 18 – 32 .
2)明石 裕作ら:発症から検査までの時間がインフルエンザ迅速抗原検査に与える影響:前向き観察研究 . 感染症誌 2021 ; 95 ; 9 – 16 .
3)買田 航ら:新型コロナウイルス感染症 ( COVID-19 ) の検査 . COVID-19 の検査として何をするか、どう解釈するか . 内科 2023 ; 131 ; 1321 – 1325 .