フルロナ?フルコビット?コロナウイルスとインフルエンザの同時感染

フルロナ?フルコビット?コロナウイルスとインフルエンザの同時感染

 「フルロナ」あるいは「フルコビット」といった単語をご存じでしょうか?この2つの単語は造語で、コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時感染のことです。「コロナウイルス」と「インフルエンザウイルス」に同時に感染している状態のことを指した造語です。今年の1月ごろに海外で重複感染した報告が出たため話題となりましたが実はもっと前から重複感染を起こしていたことが報告されています。コロナウイルスが最初に発見された中国の武漢で307人のコロナウイルス患者を調査したところ、そのうちの57%もの患者がインフルエンザウイルスに重複感染していたという報告がされています1)。また、イギリスで2020年2月~2021年12月、コロナの患者で他の病気の検査も受けた約7000人を調べたところ、約3%の患者がインフルエンザウイルスに感染していたという報告もあります2)。RSウイルスの重複感染は3%に、アデノウイルスの重複感染は2%に起こっていますので、コロナウイルスとは色々なウイルスが同時感染する可能性があります。さらにコロナウイルスとインフルエンザの同時感染であるフルロナの患者は、コロナだけに感染した患者に比べ、リスクは人工呼吸器の装着が4・14倍、死亡が2・35倍とフルロナは重症化することが報告されました2)
 2019/20シーズンのインフルエンザが小規模流行に終わったことについて、日本のマスコミでは、SARS-CoV-2感染を心配して国民がマスク着用、手洗いに努めたことの影響と報道しましたが、実は日本だけでなく北半球の多くの国でインフルエンザ流行が新型コロナウイルス出現とともに終息しました。そこで世界には、新型コロナウイルスの出現がインフルエンザウイルスに干渉し、流行を止めたのではないかという説も考えられました3)。いままでも秋のRSウイルスの流行が冬になりインフルエンザが出現すると、そのウイルス干渉を受けて終息することはしばしば観察されてきました。
 ウイルス干渉とは、1個の細胞に複数のウイルスが感染したときに一方あるいはその両方の増殖が抑制される現象です4)。干渉の機構として、一方のウイルスが吸着に必要なレセプターを占領あるいは破壊してしまうために他方のウイルスが吸着することができなくなったり、増殖に必要な成分が一方に利用され、他方が利用できなくなったり、一方が他方の増殖を阻害する因子を放出するなどの異種ウイルス間の干渉現象のほか、先に感染したウイルスにより分泌された生体のインターフェロンによる増殖の抑制が考えられています4)
 しかし、2019/20シーズンと比較して今シーズンは状況がやや異なっています。日本でのインフルエンザ流行の指標となる南半球のオーストラリアにおいて、過去2シーズンなかったインフルエンザの流行が今年は見られていることや、渡航制限が解除され、多くの外国人が来日していること、ここ2年間インフルエンザが流行しなかったことで国民の免疫力が低下していること、などからコロナとインフルエンザの同時流行の危険性もありうると思われます。さらに同時感染の可能性も高まっていると思われます。同時感染したときの重症度はどうなるのでしょうか?54研究をメタアナリシスしたものではコロナウイルス感染症患者全体の0.6%にインフルエンザへの感染があったのに対して、重症患者では2.2%にインフルエンザへの感染があったと報告されています。また同時感染者に抗インフルエンザ薬を併用したら患者さんの予後が改善したという結果もあり、新型コロナとインフルエンザ同時感染は重症化する可能性があるかもしれず、どちらか一方の抗原陽性をもって診断を終了するのではなく、同時感染を見逃さないようにすることが肝要です。ハムスターによる動物実験でも、コロナウイルスとインフルエンザの重複感染は単独感染に比べて肺の損傷が大きく重症化し経過も遷延したことが報告されています6)。また両ウイルスは肺の中の違う細胞に感染しておりウイルス干渉は起きていなかったそうです。

 同時流行となった場合の日本感染症学会が推奨する受診形態です。重症化リスクのない人は自分で新型コロナ市販キットを購入して自宅療法するように勧められています。しかし新型コロナとインフルエンザは症状で鑑別することは難しく、またインフルエンザの市販キットは認可されていませんので、これらの人は同時感染を診断することは不可能になります。インフルエンザ感染にはタミフルなどの優れた薬が存在するので同時感染の場合はこれらの投薬を受けた方が良いと思われますので心配な方は病院を受診することもやむを得ないと思われます。もちろん流行状況による検査の事前確率も重要です。
 2019/20シーズンでインフルエンザの報告数がほとんど見られなくなった原因は、現在、ウイルス干渉というよりマスク、手洗い、うがい、消毒、換気などの努力によってインフルエンザが流行しなかったものと考えらえています。インフルエンザの予防は、つまり、今までのコロナ対策を引き続き意識することがインフルエンザの予防につながり、重複感染症の予防となります。また、感染や重症化のリスクを下げることができるワクチン接種は非常に有効となります。副作用が怖くてコロナワクチンを受けたくない方は、インフルエンザワクチンだけでも良いので接種することをおすすめします。

令和4年11月10日
菊池中央病院 中川義久

参考文献
1)The epidemiology and clinical characteristics of co-infection of SARS-CoV-2 and influenza viruses in patients during COVID-19 outbreak. J. Med. Virology. 2020;92:2870–2873. 
2)SARS-CoV-2 co-infection with influenza viruses, respiratory syncytial virus, or adenoviruses. Lancet. 2022;399:1463-1464.
3)新型コロナ(SARS-CoV-2)とインフルエンザ ーウイルス干渉―
4)菅谷憲夫:SARS-CoV-2とインフルエンザ同時流行に備えて .  日本医事新法 2020 ; 5021 ; 36 .
5)Co-infection of SARS-CoV-2 and influenza viruses: a systematic review and meta-analysis. J Clin Virol Plus. 2021; 1: 100036.
6)Coinfection with influenza A virus enhances SARS-CoV-2 infectivity. Cell Res. 2021; 31:

395- 403.