繰り返す成人の扁桃炎の手術適応は?

繰り返す成人の扁桃炎の手術適応は?

 成人になってからも扁桃腺炎を繰り返している患者さんがおられます。

のど研究室https://www.ryukakusan.co.jp/nodolabo/disease/jpより引用

 このようななぜ、口蓋扁桃は感染のターゲットになるのでしょうか? 口蓋扁桃は陰窩構造があり、中には細菌塊が認められます。また、前述のように口蓋扁桃の陰窩上皮のバリアは弱く口蓋扁桃への細菌侵入が起こりやすい構造になっています。このように、口蓋扁桃は抗原の取り込みを効率的に行うために、かえって反復感染、易感染性を起こしやすく感染臓器としての特徴をもちあわせています。理論的には、感染臓器としての反復感染には陰窩を含めた扁桃を摘出することが問題解決には有効と考えられます1)。小児科領域では、口蓋扁桃摘出術は小児耳鼻咽喉科の中でもっとも多く行われていた手術です。以前は反復性扁桃炎のため扁桃摘出術を受けることが多かったのですが抗生剤の発達と、免疫学的な機能の重要性が考えられて安易に摘出を行うべきではないという傾向となり手術数は減ってきました2)。近年は口蓋扁桃肥大による睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome : SAS)のためや、IgA 腎症のために手術適応となる症例が多くなってきています。        
 小児における反復性扁桃腺炎の手術適応はアメリカの耳鼻科学会 ( AAO-HNS ) では年に 7 回以上、2 年間に 5回以上、3 年間に 3 回以上ののどの炎症、ただし抗生剤アレルギーや薬剤耐性のある例、周期熱、アフタ様咽頭炎、扁桃周囲膿瘍を伴う扁桃炎は上記以外でも手術の対象とすることを勧めています。この基準はParadise criteria を参考にして作成されています。

 Paradise criteria        

  • 反復性扁桃炎(過去1年間で少なくとも7回の扁桃炎、過去2年間で毎年少なくとも5回の扁桃炎、過去3年間で毎年少なくとも3回の扁桃炎
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 病巣疾患(病巣感染)
  • その他(扁桃周囲膿瘍の既往、抗菌薬のアレルギー症例、扁桃炎症状が重篤で全身症状を来す、PFAPA症候群:周期的な発熱、アフタ性口内炎、咽頭・扁桃炎など)
         Paradise JL,et al. N Engl J Med 1984;310 :674―683.

 日本では新谷らが小児の扁桃摘出術の適応として反復性扁桃炎(1 年間に8回以上、2 年間、年に 4―5 回の扁桃炎の既応例)、SAS、IgA 腎症では手術が勧められる2)と提唱しています。また、より詳細な手術適応は文献1)に多く記載されています。
 しかし、成人の具体的な手術適応の記載はあまりありません。
 片山らの検討3)では、咽頭炎を繰り返している成人への扁桃摘出術により、短期的なGAS (A群レンサ球菌Streptococcus pyogenes(group A streptococcus))咽頭炎の再発抑制、全咽頭炎の発症回数減少、発熱・咽頭痛日数の減少が期待されます。周術期のリスクも高くはなく、GAS による咽頭炎を繰り返す場合に扁桃摘出術を実施することは支持できます(BMJ 2007;334(7600):939.)。また重度の症状を伴う咽頭炎を繰り返している成人への扁桃摘出術は、咽頭炎発症や咽頭痛を自覚する日数を減少させ、病院受診や欠席・欠勤日数を少なくすることが出来ます。手術療法は患者の一部には有益であると考えられますが、周術期のリスクを考慮して検討すべきです(CMAJ 2013;185(8):E331–6.)。などを考慮して、質の高いRCTはこれまで2つに留まり、どちらも長期成績についての報告はありません。年に3-4回発症し、特にGASによる扁桃炎が疑われる成人では、扁桃摘出術を行うことで短期的な扁桃炎発生率の減少が期待できます。しかし長期的な効果については不明です。再発性扁桃炎への手術に関する推奨度は、各ガイドラインでまちまちである。と結論しています。
 成人については一定の見解はなく、上記のParadise criteriaを参考にしながら個人個人で判断していくしかないのでしょう。

菊池中央病院   中川 義久
令和3年12月17日

参考文献

1 ) 氷見 徹夫ら:扁桃・アデノイドの基礎知識と手術治療に関連する問題点 . 日耳鼻 2016 ; 119 ; 701 – 712 .
2)新谷 朋子ら:小児耳鼻咽喉科疾患に対する手術療法の選択 . 咽頭―扁桃摘出術 . 小児耳 2011 ; 32 ; 276 – 281 .
3)片山 順平ら:成人の繰り返す扁桃炎への扁桃摘出術 . J Hospitalist Network. Clinical Question  2016年11月7日