帯状疱疹ワクチンは2種類あります
帯状疱疹ワクチンが時々テレビでコマーシャルされています。
帯状疱疹は、過去に水痘(水ぼうそう)に罹患した人が、体内に潜伏する水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再燃によって発症する疾患です。水痘に罹患すると、体内ではVZV 特異的な細胞性免疫が誘導されて一度治癒しますが、VZV は知覚神経節に潜伏します。加齢、疲労、ストレスなどがきっかけとなり細胞性免疫が低下すると、VZV が再活性化し、神経の支配領域に限局して皮疹が出てきます。帯状疱疹は細胞性免疫が低下する、50歳代以上に好発する疾患です。国立感染症研究所のデータによれば、成人の約 9 割が VZV に既感染で、帯状疱疹の発症リスクを抱えているとされています1)。
下記に示すような状態が帯状疱疹のリスクファクターとなります。
帯状疱疹のリスクファクター: VZV感染歴(水痘)、年齢>50歳、免疫抑制状態、免疫抑制剤の使用、HIV/AIDS、骨髄・臓器移植、悪性腫瘍、長期のステロイド使用、精神的ストレス、外傷。 |
帯状疱疹で問題なのは、50 歳以上の患者の約 2 割が悩まされるという帯状疱疹後神経痛(PHN)です。鎮痛薬や抗うつ薬などの薬物療法、神経ブロック療法など行っても難治性で長期間、強い痛みに悩まされるケースもあり、高齢者や帯状疱疹の重症度が高いほど PHNが起こりやすいとされています。
さらに問題なのはPHN以外にも帯状疱疹は多くの合併症を起こし、中枢神経系では脳髄膜炎、脊髄炎、血管系では脳血管障害、末梢神経系では運動神経麻痺。眼科系では眼瞼結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎、網膜炎。耳鼻科系では耳鳴、目眩、顔面神経麻痺などです2)。しかもこれらの合併症は一旦起きてしまうときわめて難治性であるという問題もあります。
これから小児の水痘ワクチン定期接種が続けられていく以上、水痘の発症は激減し、水痘の自然感染を受けている成人はますます VZV に曝露する機会が減少し、その結果、VZV 特異的細胞性免疫が再活性化せず、また、免疫を抑制する薬剤の普及などによって、今後、帯状疱疹を発症する可能性がますます高くなると考えられます。そこでワクチンを接種する必要があります3)。
2020 年 1 月に乾燥組換え帯状疱疹ワクチンであるシングリックスが発売され、従来の生 ワクチンと合わせて2種類のワクチンが使用できるようになりました。両者の違いを表にしました。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では50歳以上の成人を対象とした帯状疱疹の予防にはシングリックスを推奨しています。シングリックスの方が有効であることは間違いありませんが、数倍の値段で、かつ接種部痛がかなりの頻度で起こりますので担当医師とよく相談してどちらを接種するか決めてください。なお当院ではシングリックスは1回22000円×2回、生水痘ワクチンは9405円×1回で行っております。
菊池中央院 中川 義久
令和3年11月19日
参考文献
1 ) 若者に帯状疱疹が急増中―50歳以上はワクチン考慮
https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/554/
2)渡辺 大輔:帯状疱疹ワクチン . ウイルス 22018 ; 68 ; 21 – 30 .
3)松尾 光馬:ヘルペス性疾患に対する診断と治療 . 耳展 2019 ; 62 ; 134 – 143
4)岩月 哲氏:帯状疱疹予防ワクチン. 日本医師会雑誌 2020 ; 149 ; 1226 .