梅毒の増加止まらず!新しい検査法と治療薬
日本における性感染症の発生動向調査によると、梅毒が 2012 年から急増しています。感染症法五類届出によりますと、その増加の程度は,2012 年に比し 2017 年には男性で 5.7 倍、女性で 10.3 倍と激増しています。1970年に 6,138 例を記録して以降 5,400 例を超えた年はなく、1993 年からは 1,000 例未満であったものが、46 年ぶりに 1971 年を上回る 5,819 例という多数の報告となっています。さらに 2018 年の届出数では 7,002例と増え続けています1)。
文献1)より転載
最近の傾向として、①異性間性交渉での感染増加(約4900件:2018年)、②20代女性患者の増加(約1200人:2019年)、③性風俗産業関連の件数増加(4575件:2016年)が報告されています2)。
梅毒は the great imitator(偽装の達人)といわれます。自然に良くなったり、悪化したり、変幻自在な病態をとる本疾患において,典型例はむしろ少なく診断は非常に難しいと言えます。感染症であるため病原体の検出が重要であることは無論ですが、検体採取が難しく、かつ梅毒PCRは保険収載がなく実臨床で使用されることはなく、その診断の拠り所は surrogate marker である血液中の抗体検査に頼るしかありません。
梅毒抗体にはトレポネーマ抗体と、非トレポネーマ脂質抗体があります。
・梅毒トレポネーマ抗体:梅毒特異抗体検査には、TPHA、TPPA、TPLA、TP 抗体、FTA-ABS 等さまざまな手法・呼称があります。梅毒に特異性が高く、これが陽性であるということは梅毒感染の存在~既往を示しています。
・非トレポネーマ脂質抗体:梅毒特異的ではありませんが、梅毒の活動性の指標となる検査と言われてきました。梅毒血清反応検査(STS; Serological test for syphilis)と言えば、通常、本検査を意味します。わが国では事実上、RPR 法のみが利用可能です。
さて、近年、梅毒の検査手技が変化し、その検査結果解釈に変化が生じています。この2つの検査法を組み合わせて梅毒の診断をするのですが、従来の希釈倍率法(用手的検査)から自動化法へ移行している施設が多くあります。自動化法では①TP抗体がより早期に陽性となる、②治療効果判定は「RPR1/4以下」から「RPR半分以下」に変更が必要です。そのため希釈倍率法で「RPR陰性かつTP陽性は梅毒治癒後」と判断していたものを、自動化法では「RPR陰性かつTP陽性は早期梅毒の可能性」と考え、患者の臨床症状を踏まえて治療を検討するようになりました2)。
梅毒診療ガイドラインでも「近年、RPR陰性で梅毒TP抗体のみ陽性の早期梅毒の報告が増えてきた」「梅毒の診断にTP抗体の陽性を重視すべきである」とあります3)。
次に治療効果判定です。治療開始後2〜4週間でRPRを検査し、「自動化法ではおおむね2分の1」「希釈法では4分の1」に低減していれば治療有効と判定し、治療を終了します。その後は3カ月前後の間隔で1~2年程度フォローします。TP抗体のみ陽性の場合は、TPが減少傾向または、治療開始4週間後のRPRが上昇していなければ治療有効と判定し治療を終了します(治療1カ月後のRPRが上昇している例はたまにありますが、再感染が無ければ、その1~2カ月後にはほとんどが良好にRPRが低下します)。
以下にガイドラインの診断の手引きを示します
文献3)より転載
梅毒の治療についてですが、日本以外での標準治療法は、ベンザチンペニシリンG 240万単位1回筋注です。この治療法は、世界的には最も推奨される標準治療法で長い間の臨床的な経験により確立されてきました。しかし、日本国内では、過去にペニシリン・アレルギーによる死亡例が発生したためベンザチンペニシリンGの筋注は使用することができませんでした。そのため、アモキシシリン内服が推奨されています4)。しかし、念願のベンジルペニシリンベンザチン筋肉注射薬(ステルイズ水性懸濁筋注)が2021年7月30日の厚生労働省薬事・食品衛生審議会の部会で承認了承され、今年10月に正式に承認となる見込みです。いままで2~12週の長期のペニシリン内服が必要でしたが、1回の注射で治療終了できることになり、治療が簡便になる予定です2)。しかし、10月15日現在はまだ薬価収載されていません。
令和3年10月15日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)荒川 創一ら:梅毒:その増加の現状と正しい診断・治療について . 日本化学療法学会雑誌 2021 ; 67 ; 466 – 482 .
2)柴田 綾子:シン・梅毒診療〜新しい検査方法と届け出・これからの治療薬〜 . 日本医事新法 2021 ; 5078 ; 67 .
3)荒川 創一ら:梅毒診療ガイド 2018 日本性感染症学会梅毒委員会梅毒診療ガイド作成小委員会
4)髙橋 聡:性感染症―増加する梅毒― . 日内会誌 2018 ; 107 ; 931 – 937 .