新型コロナウイルス感染症と亜鉛

新型コロナウイルス感染症と亜鉛

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を原因とするCOVID-19が、パンデミック(世界的大流行)となっています。日本ではいわゆる第4波の流行が発生し、4都府県では3回目の緊急事態宣言が発令されています。
COVID-19対策として
① 原因ウイルス(SARS-CoV-2)への接触機会を減らす。
② 私たちの身体の抵抗力を高める。
という2つが大切です。 ①に関しては従来より続けてきた3密対策や、飲食店の自粛などが実践されています。
②に関しては現在急いで接種が急がれているワクチンが有効であることは言うまでもありません。しかし、現在のワクチン接種が、今後も出現するであろうすべての変異ウイルスに有効であるかはまだわかっていませんし、若年者までワクチン接種がいきわたるまでかなりの時間を必要とするであろうし、また、ワクチンを接種しない人も当然でてくるでしょう。
 そこで、ワクチン以外でもヒトの側でのウイルス感染への抵抗性を高める対策も大切でしょう。具体的には、適切な食事・運動・睡眠で、免疫能を整えることです1)
 日本では、COVID-19対策として、医薬品やワクチン製造には取り組んでいますが、栄養食品やサプリメントの有用性に関する研究はあまりなされていません。しかし、諸外国では、機能性食品成分に関する感染防御の検討がなされており、一定の有用性が示されています。特にビタミンや微量元素の感染防御効果が確かめられつつあります2)。現在、最も明らかなエビデンスがあるのはビタミンDです3)。ビタミンDの投与で感染予防効果や重症化抑制効果が認められています。同様に注目されているのが微量元素の亜鉛です4)。亜鉛は必須微量元素のひとつで、感染症領域では免疫関係に大きく関与することが解ってきました。亜鉛が欠乏すると、免疫機能が低下します。そしてその免疫不全の特徴は胸腺の萎縮とそれに伴う細胞性免疫の機能低下です。その他にも樹状細胞の活性低下、その他多くの免疫機能に障害が及んできます。つまり感染症に罹りやすくなります5)。実際、亜鉛欠乏では、風邪の原因ウイルス、単純ヘルペスウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVウイルスなどのさまざまなウイルスの感染リスクが高まることが示されています。 また、亜鉛はコロナウイルスの複製を阻害します4)。コロナウイルスは、RNAウイルスに分類されます。RNAウイルスに対して、亜鉛は、RNAウイルスを複製する酵素であるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を阻害することで、ウイルスの複製を防ぐ働きがあります4)
 また、亜鉛サプリメントによる風邪や肺炎の感染予防や症状改善効果が示されています。
これまでの亜鉛を投与した研究に関する系統的レビュー/メタ解析によると、
  - 成人における風邪の罹病期間が33%短縮、
  - 小児5,193 人では肺炎の罹患率が13%低下、
  - 成人2,216 人での重度の肺炎の死亡率が低下
といった亜鉛の効果が見出されました4)
 さて、肥満や糖尿病、高齢者などは、COVID-19の高リスク群です。これらの人々では、亜鉛が低値であることがわかっています。またこれらの疾患で服用される薬剤で亜鉛が低下することもわかっています。 降圧利尿剤、ACE阻害剤、ARBなどの高血圧治療薬、スタチン剤などです。実際、亜鉛不足はCOVID-19 感染の予後が悪くなること、重症化することなどが報告されています4)
 COVID-19感染に対する亜鉛投与の有効性はどうでしょうか?
 亜鉛の単独投与では細胞内の濃度を上昇させるのが難しく、亜鉛イオノフォアの併用投与が必要ですが、米国では、亜鉛+イオノフォアの投与により、COVID-19患者の院内死亡率が24%低下したという報告もあります4)。ただ、亜鉛の単独投与ではもちろん死亡率改善効果はなく、他の薬剤との併用投与で効果が認められていました。現在、亜鉛単独投与ではなく、ビタミンCやビタミンDとの併用投与によるランダム化比較試験が進行中です。
 亜鉛サプリメントは、適切な摂取量であれば、高い安全性が示されています。免疫能の維持など保健機能のための一般的な亜鉛サプリメントの摂取目安量は、1日あたり10mg~20mg前後です。症状の改善を目的とした場合、予防よりも多い量を数日間、摂取します。例えば、風邪に対する亜鉛の有用性を検証した臨床試験では、亜鉛を1日あたり80mgの用量で、数日間の投与が行われています4)
 本邦でも、亜鉛の摂取不足が示されており、特に、COVID-19の高リスク群である肥満や糖尿病などの生活習慣病有病者で顕著です。さらに、亜鉛の免疫調節作用や抗ウイルス作用は確立しており、積極的に摂取する必要があり、サプリメントの服用も考えるべきです。ただ、亜鉛を摂取しすぎると銅が低下しますので注意する必要があります。

菊池中央病院  中川 義久
令和3年6月21日

参考文献

1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と栄養・睡眠・運動https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/532/

2)東口 髙志ら:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言 . 日本臨床栄養代謝学会 2020 ; 2 ; 84 – 94 .

3)ビタミン D が不⾜すると新型コロナウイルス感染症が重症になる

4)蒲原 聖可:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防および治療に関する亜鉛の臨床エビデンス . 医と食 2021 ; 13 ; 51 – 59 .

5)亜鉛と感染症
https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa146.pdf