重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が人から人へ感染

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が人から人へ感染

 マダニを通じて感染する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が人から人へ感染したケースを国内で初めて確認した、と国立感染症研究所が19日発表しました。発表によると、人から感染したのは20代の男性医師。2023年4月にSFTSと診断された90代男性の診療を担当し、この患者が死亡後にカテーテルを外すなどの処置をした。男性医師は、90代男性と初めて接触してから11日後に38度の発熱や頭痛などの症状が出て、PCR検査でSFTSと確定診断されました。ウイルスの遺伝子を調べたところ、死亡した90代男性と同一と考えられたため、90代男性から男性医師への人・人感染と判断した。男性医師は症状が軽快したという(2024年03月20日(水) 朝日新聞デジタル)
 SFTSは日本国内で2013年に患者が初めて確認されて以来、西日本を中心に600例(2020年末時点)近い感染例が報告されています。ダニが媒介する新種のウイルス感染症で、SFTSを発症したペットのネコやイヌからヒトに感染し、死亡例も報告されています。致死率が3割前後と極めて高く、予後不良の疾患で典型的な人獣共通感染症です。韓国から5人の人から人への感染がすでに報告されています1)。この5人は患者さんの心肺蘇生に関わった27人中の5人で院内感染が起きているのです。また中国からも2)患者の家族と、処置をした医師に人から人への感染が起きた報告があります。SFTSが疑われる症例が入院したら厳重な院内感染対策の検討が必要です。空気感染の可能性はなく、ほとんど接触感染か、飛沫感染が考えられています。
 日本では西日本を中心に発生していますが、国内調査によるとSFTSウイルス保有マダニは国内に広く分布し,全国で感染の可能性があります3)。1年中発生はありますが、マダニの活動が活発になる4月から10月にかけて患者数が多く、特に5 月から8 月はリスクが高い時期です。

文献3)より転載

文献5)より参照

 SFTSの症状は、発熱、倦怠感、嘔吐・下痢などの消化器症状に血小板減少と白血球減少を伴うのが特徴で、筋肉痛や脱力、蛋白尿、血尿、リンパ節腫大(マダニ刺咬のある場合はその所属リンパ節)をみることが多いです。皮疹はあまりみられません。意識障害や神経症状は、日本での調査によれば71%の症例で報告されている頻度の高い症候です5)。刺し口が発見できるのは半分以下と言われています6)。本邦での死亡率は27%とやはり危険な感染症です。

国立国際医療研究センター国際感染症センター国際感染症対策室
(重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き(第 3版)より参照

 SFTSは発症後急激に病状が進行し、1~2週間で予後が決定します。
診断は血液のPCR検査で保健所に依頼します。
 SFTSの治療法は確立されていません。ステロイドやリバビリンの投与も行われましたが治療効果は得られませんでした。しかし、抗インフルエンザ薬のファビピラビルのSFTSウイルスに対する抗ウイルス活性と重症化予防効果は、マウスを用いた感染実験によって確認されており、この知見をもとに、2016年からヒトを対象にした医師主導臨床研究および第3相臨床試験がなされており、治療薬としての開発が進められています8)
 SFTSは不定の症状で、診断の決め手のない発熱性疾患で、急激に悪化し死亡率が3割と重篤なウイルス感染症です。この重篤な感染症が、ダニ咬傷のみならず犬や猫などのペットからも感染し、さらには人から人への感染があることが解り、その深刻さが増しているところです。

令和6年4月2日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献
1)Kim WY et al:Nosocomial transmission of severe fever with thrombocytopenia syndrome in Korea, Clin Infect Dis 2015 ; 60 ; 1681 – 1683 .
2)Gai Z et al:Person-to-person transmission of severe fever with thrombocytopenia syndrome bunyavirus through blood contact, Clin Infect Dis 2012 ; 54 ; 249 – 252 .
3)前田 健:重症熱性血小板減少症候群(SFTS). J. Vet. Epidemiol. 2018 ; 22 ; 51 – 52 .
4)アビガンが有効? -SFTS-
5)高橋 徹:重症熱性血小板減少症候群(SFTS):意識障害も伴う新興ウイルス感染症 . Neuroinfection  2020 ; 25 ; 49 – 54 .
6)山谷 由香里ら:当院で経験した重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の8症例 . 医学検査 2023 ; 72 ; 374 – 381 .
7)Koichiro Suemori et al : A multicenter non-randomized, uncontrolled single arm trial for evaluation of the efficacy and the safety of the treatment with favipiravir for patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome.
https://doi.org/10.1371/journal.pntd.0009103
8)高橋 徹:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)日本でも流行しているウイルス性出血熱 . ファルマシア 2021 ; 5 ; 377 – 381 .