新型コロナワクチン、正しい筋肉注射を
高齢者への新型コロナワクチンの接種が始まりました。予約が大変そうですが無事に多くの人が接種を終了することが望まれます
さて、近年、内服薬や点滴薬の進歩によりあまり筋肉注射をしなくなりましたので、改めて筋肉注射の手技を学びなおす必要があります。
日本医師会のホームページに推奨される筋肉注射の方法が記載されています1)。
それによると、
●注射部位は三角筋の肩峰より2~3横指下中央の位置です。
●三角筋をつままず、広げて圧迫固定します。皮下組織が手繰られて厚くなりますと針先が三角筋に届かなくなります。
● 注射針を皮膚に対して斜めに刺入している報道が見受けられますが、注射針は必ず直角に刺入してください。
●刺入れの深さは体型により13 ㎜~20 ㎜が目安です。
● シリンジ陰圧確認を行わないことで、筋肉組織損傷による免疫獲得減弱を回避します。
● 神経損傷を避けるため、刺入時に異常の訴えが無いことを確認した後にワクチンを三角筋に注入します。
● 抜針後は軽く圧迫するだけで大丈夫です。揉まないでください。
と記載されています。
一方、肩峰から 4cm までの高さには三角筋下滑液包があり、また腋窩神経等も存在するため、それより下方の腋窩ひだの上縁の高さのほうが望ましいという意見もあります 。奈良県立医大の筋肉注射マニュアルに詳細な絵と注射方法が記載されています2)。
腋窩神経は肩峰より5cm の部位、これが約3横指にあたるらしいですが、腕に巻きつくように走行しており、腋窩神経の損傷で、図に示す部位に感覚障害と、長期にわたる筋萎縮を生じてしまいます。
https://www.konta-chiryouin.com/ekikashinnkei02.html より参照
また、肩峰より平均約4cmまでの⾼さには,三⾓筋下滑液包が三⾓筋の裏に存在し、ワクチンの誤注⼊によるSIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)が海外で多数報告されており、穿刺を避ける必要があります2)。三角筋下滑液包炎をおこすと肩の動きが障害され、強い痛みが生じるとされています。
コミナテイワクチンに含まれる mRNA はおもに筋肉細胞内でタンパク質に翻訳されるため、筋肉内に確実に到達するよう針の長さには注意が必要です。体格によっては筋肉の厚さが薄く、長すぎる針の場合は骨膜損傷や三角筋下滑液包炎を起こすおそれがあります。標準的には 22~25G、長さ 25mm の注射針で、皮膚面に 90 度の角度で注射します。針の長さは、日本人の体格では 16mm でも接種が可能な者も多く、体重 70kg 以上では 32~38mm のものも使用できます。上腕三角筋に接種できない場合(皮膚疾患、筋肉萎縮等で)、下腿の外側広筋(大腿部の外側の筋肉)に注射することが勧められています3)。
文献2)に優れた図が記載されているので一度参照されることを勧めます。
菊池中央病院 中川 義久
令和3年5月17日
参考文献
1)日本医師会新型コロナワクチン速報【第5 号】
2)筋肉注射手技マニュアル
https://www.nmu-resident.jp/info/files/intramuscular17.pdf
3)COVID-19 ワクチンの普及と開発に関する提言 修正第 4 版 2021 年 4 月 23 日
診療ガイドライン検討委員会 COVID-19 expert opinion working group 南学 正臣 (委員長)
https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2021/04/20210426063706.pdf