中国でチクングニア熱拡大 WHOが世界的流行を警戒

世界保健機関(WHO)は2025年7月23日、中国南部で蚊が媒介するチクングニア熱の感染が急速に拡大しており、世界の他の地域にも広がる恐れがあると明らかにしました。報道によりますと、広東省仏山市ではこれまでに2,659人の感染を確認、市内の53の病院では計3,600床以上を感染者のために用意しているそうです。患者はいずれも軽症です。WHOは、既に119カ国に拡大、感染者は56億人に達する可能性もあるとしています。インド洋の島国から世界中に広まり、50万人が感染した2004年、05年と同様の現象が今年初めからみられるとして、警戒を呼びかけています(共同通信)。

チクングニア熱はデング熱と同じく、ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症で、デング熱と同じく、通常は非致死性の発疹性熱性疾患です。世界の疾患分布もデング熱と同じで、両者の鑑別は臨床症状だけでは難しく、なかには両者が合併することもあります1)

文献2)より転載

日本国内での感染はまだ報告がありませんが、東南アジアなどからの帰国者の発症が毎年認められています。症状は発熱と関節痛が必発で、発疹は8割ほどに認められます。関節痛は四肢に強く、対称性で、手首>足首>指>膝>肘>肩の順に多く認められ、特に両手首の激しい圧迫痛は診断の際の重要な特徴とされています。感染から2~5日以内に結膜炎と皮疹を生じるのが一般的で、関節痛は数週間から数ヶ月継続することもあるそうです。報告によって頻度や期間に違いがありますが,慢性関節炎を呈した180例のうちの6割は3年後においても症状が認められたという報告もあります。採血上はリンパ球減少、血小板減少、肝酵素の上昇などが認められます。合併症は髄膜脳炎や肝不全が報告されています3)。従来、チクングニア感染症は軽症で済むと言われていましたが、2005~2006年のレウニオン島での爆発的感染拡大では25万人が感染し、そのうち228人が死亡したと報告されています4)

チクングニア熱による発疹。文献4)より転載
チクングニア熱デング熱
潜伏期間3~7日3~7日
発症突然徐々に
発熱期間1~5日2~7日
斑状丘疹しばしばみられるまれ
ショック・大量出血まれみられることがある
関節痛しばしば見られる。一か月以上継続も。手首、手関節に多い。あまり多くない。肩関節や膝関節など。
関節炎しばしばみられるまれ
筋肉痛時々見られるしばしばみられる
白血球減少時にみられるしばしばみられる
血小板減少時にみられるしばしばみられる
 文献5)より作成

鑑別の要点を表にしましたが、実際の鑑別はなかなか難しいようです5)。表をみますと、デング熱に比べてチクングニア熱のほうがショックや出血などになりにくく、重症化しにくい傾向がみてとれます。しかしチクングニアで問題なのは世界各地で大流行をきたしていることです。その原因として、チクングニアウイルスは感染がおこると、人体のなかで爆発的にウイルスが増え、デングウイルスの100倍近くまで増殖し、そのため患者を刺した蚊は2日後には感染性を有してしまいます。また、チクングニアウイルスはここ数年で遺伝子配列が変化し、ネッタイシマカが主な媒介蚊でしたが、ヒトスジシマカにも生息できるようになり、かつ蚊の中腸で多量に移行できるようになったため、世界中のより広い範囲で爆発的流行を起こすようになったといわれています6)

チクングニア熱の診断は血液のPCR法や抗体価測定法により行われますが保健所への連絡が必要です。4類感染症で診断したら全例報告義務があります。

 特別な治療法やワクチンはありません。とにかく蚊に刺されないようにすることが大切です。日本にはネッタイシマカは存在しませんがヒトスジシマカは2015年より大阪府で確認されており、温暖化の将来予測のシナリオの一つであるMIROCやRCPシナリオによる解析では,2100年までに北海道の南部から中央部 にヒトスジシマカが侵入する可能性が示唆されており、デング熱やチクングニア熱のリスク地域が拡大することを意味しており,2014年の東京でのデング熱の流行を考えると,平常時からの媒介蚊対策,特に幼虫防除対策を継続して行うことが重要と考えられます9)。また、先述した如くチクングニア熱はウイルス量が多く、ウイルス保有患者が蚊に刺されることにより爆発的な流行になる可能性があり、1例目を確実に診断する必要があります。

 令和7年8月12日 菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)デング熱とチクングニア熱

https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa76.pdf

2)チクングニア熱(Chikungunya Fever)海外で健康に過ごすためにFORTH

https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/name32.html

3)高崎 智彦:チクングニアウイルス感染症 . 獣医疫学雑誌 2011 : 15 : 114 – 116 .

4)忽那 賢志:蚊媒介感染症による症状とその予防 . フォルマシア2021 ; 57 ; 362 – 365 .

5)チクングニア熱流行か、 ボンティアイミアンチェイで感染疑い相次ぐ

https://poste-kh.com/news/2020-09-09-3975

6)デング熱・チクングニア熱診療ガイドライン

https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20150727deng.pdf

7)森 嘉生ら:トガウイルスのウイルス学. ウイルス 2011 : 61 : 211 – 220 .

8)青山 幾子:大阪府における蚊媒介性ウイルス感染症に対するサーベイランス調査

(2015 年度). 大阪府立公衛研所報 2016 ; 54 ; 1 – 8 .

9)小林 睦生:国境を超える感染症蚊媒介性感染症:デング熱を中心に . Dokkyo Journal of Medical Sciences 2015 ; 42 ; 179 – 185 .