海外渡航感染症に気をつけて

海外渡航感染症に気をつけて

 航空網の発達や経済のグローバル化に伴い、世界的に海外渡航者数が増加し、日本でも観光、ビジネス、その他の目的で、海外に渡航する人が増えています。コロナ禍で一旦減少した海外渡航者は徐々に増加して、2024年の年間の日本人出国者数は延べ1301万人まで増加しています。同様に訪日外国人も増加しています1)

文献1)より転載

 このような状況で、我々医療従事者は、様々な地域に出かける渡航者や帰国者に対し、健康問題や治療についての適切な知識を求められるようになりつつあります。人の移動に伴う健康問題は、自然環境の変化による疾病(時差、高山病、潜水病)、ロングフライト症候群、慢性疾患の悪化、長期滞在者の健康・メンタル問題など多岐にわたりますが中でも頻度が高いのが感染症です。特に発展途上国から帰国した邦人や海外からの渡航者により国内に持ち込まれる感染症は、通常日本には存在しないか、すでに撲滅されて馴染みのなくなった感染で、診断や治療に苦慮することが多いと言われています2)。 
 1980年代にスイス人旅行者を対象にした調査では、途上国に1カ月間滞在した場合、何らかの健康問題のおこる頻度が50~60%もあることが報告されています3)

文献2)より転載

 途上国で罹患する感染症の中にはワクチンで予防できる疾患も多くあります。欧米では海外渡航時に、現地の衛生状態や医療状況の情報を得、トラベルクリニックで必要なワクチン接種をすませてから途上国へ渡航する人が多いのに反して、日本人はワクチンの接種率が著しく少ないことが報告されています2)。それは本邦で渡航者外来をしているクリニックが少ないことも原因の一因と考えられています。

成人の海外渡航者に推奨する予防接種を示す(○:推奨,△:状況により推奨).短期は1カ月未満の滞在

文献4)より転載

 どのワクチンを接種するかは、滞在地域、滞在期間,滞在先でのライフスタイルなどを参考に判断します。もちろん高級ホテルに滞在しホテルの外に出なければワクチンも必要ないでしょう。
 海外で注意しなければならない感染症の表がダウンロードできます 
海外で注意しなければいけない感染症(平成28年4月)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/dl/travel-kansenshou_2016gw_04.pdf )また、渡航先の感染症情報も閲覧できます。

外務省海外安全ホームページhttps://www.anzen.mofa.go.jp/。大変参考になります。
 帰国後に体調を崩すこともあるかもしれません。

文献5)より転載

 帰国後に速やかな受診が必要な場合は、①心血管系疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、自己免疫疾患などの慢性疾患がある場合、②医療関連の免疫抑制状態、あるいはHIV感染症の場合、③重症になり得る感染性疾患に旅行中に曝露した場合、④発展途上国に3カ月以上滞在した場合、⑤帰国後3カ月以内に病気になった場合、特に発熱、遷延する下痢症、吐き気、嘔吐、体重減少、黄疸、尿路障害、皮膚疾患、性器感染症があった場合、などが挙げられています5)

令和7年8月1日 菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)国土交通省
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shutsunyukokushasu.html
2)須﨑 愛渡 :渡航者感染症 . 日大医誌 2017 ; 76 ; 3 – 6 .
3)濱田 篤郎:日本における渡航医学の現状と未来 . 東医大誌 2011 ; 69 ; 312 – 320 .
4)濱田 篤郎:渡航医学と感染症 . 日内会誌 2016 ; 105 ; 1455 – 1462 .
5)高田 清式:帰国後診療に対応可能な医療機関の現状と問題点 . 日内会誌 2016 ; 105 ; 2160 – 2166 .