国産のダニ媒介脳炎ワクチンが発売されています

国産のダニ媒介脳炎ワクチンが発売されています

 ダニ媒介脳炎は、日本脳炎と同じフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスのダニ媒介脳炎ウイルスによってひきおこされる感染症です。ダニ媒介脳炎ウイルスは主に極東亜型、シベリア亜型、ヨーロッパ亜型に分類されます。ヨーロッパ亜型のウイルスは以前から中央ヨーロッパダニ媒介脳炎ウイルスとして知られ、中欧を中心にヨーロッパ諸国に分布しています。シベリア亜型のウイルスはシベリア、バルト三国、フィンランド等に分布しています。極東亜型のウイルスは古くからロシア春夏脳炎としてその流行が認識され、その流行域は日本、中国、モンゴル、極東ロシアおよびシベリアです。マダニは自然界の主な病原巣動物であるげっ歯類や燕雀類等のトリを吸血することによりウイルスを獲得します。ウイルスは経齢間伝達と経卵伝達によりマダニの間で維持されています。ダニ媒介脳炎ウイルスの感染環においては流行地域ごとに媒介マダニと病原巣動物の種類は異なっています。ヨーロッパ亜型ではリシヌスマダニ、シベリア亜型および極東亜型ではシュルツェマダニです。日本ではヤマトマダニです1)

ファイザーホームページ https://www.pfizerpro.jp/medicine/ticovac/disease/tbe-epidemiology より転載
 近年、ダニ媒介脳炎の患者数はヨーロッパおよびアジアのいずれの流行地域においても増加傾向です。わが国においては1993年に初めて北海道渡島地方でダニ媒介脳炎の患者が発生しました。さらに2007年4月〜2024年8月までに道南から道北にかけて7例 (うち死亡が2例)の患者が報告されました。ダニ媒介脳炎ウイルスはダニによる刺咬の他にヤギ乳の喫飲により経口感染することが知られており、ヤギの生乳の喫飲は避けることが重要です。ヤギ乳から経口感染した場合、潜伏期間は比較的短く3日から4日です。
 ダニ媒介脳炎ウイルスに感染した場合2/3は無症状です。発症する場合の潜伏期間は2日から28日であり、その多くは7日から14日です。症状は各ウイルスにより若干の差異がありますが、2相性の経過を示します。第一期は、インフルエンザ様の発熱・頭痛・筋肉痛が1 週間程続き、一旦解熱し2 〜3 日間は症状が消え、その後第二期には、痙攣・眩暈・知覚異常などの中枢神経系症状を呈します。致死率は1~2%、回復しても神経学的後遺症が10~20%に残ります。シベリア亜型致死率は6~8%です。極東亜型のウイルスに感染した場合、極期には精神錯乱・昏睡・痙攣および麻痺 などの脳炎症状が出現し、致死率は20%以上に上り、生残者の30~40%に神経学的後遺症がみられます。 いままで輸入ワクチンしかなくて接種する人はほとんどいませんでしたが、2024年9月「タイコバック®水性懸濁筋注0.5mL」、「タイコバック®小児用水性懸濁筋注0.25mL」がファイザー社より本邦でも発売されました。

ファイザーホームページ https://www.pmda.go.jp/RMP/www/672212/6105f1f7-7bdb-4667-97b7-4338ac1beeac/672212_631341QG1026_20_002RMPm.pdf より転載

 タイコバック初回免疫の場合、1回0.5mLを3回、筋肉内に接種します。2回目接種は、1回目接種の1〜3ヵ月後、3回目接種は、2回目接種の5〜12ヵ月後に接種します。急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことも出来ます。有効性はオーストリアのワクチン接種促進運動により、本ワクチンが流行して以降の25年間でダニ媒介性脳炎の発生率は劇的な減少をみせており、その予防効果も98%前後あるとされています。2回目の接種から2週間ほどで有効な抗体価が検出されます2)
 副作用は注射部位の発赤疼痛が45%以下、38度を超える発熱が5~6%以下が主な副反応として確認されています。5063人の接種で重篤な副反応は認められませんでした。重度の卵アレルギーのものは接種禁忌です。重度でない場合は医師と相談し接種の有用性が高い場合は慎重投与可能です。また黄熱ウイルス、デングウイルスⅠ型の抗体保有者は本ワクチン接種に際して交差反応抗体により抗体産生が低下する可能性があり問診で確認する必要があります2)

 と記載されています2)
 北海道で散発的にダニ媒介性脳炎が発生していますが、本邦に居住している人はワクチンを接種する必要はないと思われます。しかし当然ながら野外活動ではダニに刺されない努力が必要です。平野らは北海道以外でも西日本などでも広範に野生動物がダニ媒介脳炎の抗体を保有していることや原因不明の脳炎患者の脳からダニ媒介脳炎ウイルスの一種が検出されており西日本にも広く分布していることを報告しています。ダニ媒介脳炎は本邦ではまだあまり関心を集めていませんが今後の動向が注目される感染症です。(ダニ媒介性脳炎とダニ媒介脳炎は同義語です)

令和7年3月24日 
菊池中央病院 中川 義久


参考文献
1)中山 久仁子:ダニ媒介性脳炎ワクチン . プライマリケア 2024 ; 9 ; 28 – 31 .
2)海外渡航者のためのワクチンガイドライン2019 . 日本渡航医学会作成 . 135 – 138
3)平野 港ら:ダニ媒介性脳炎ウイルスによる神経病態の発症機序 . ファルマシア 2024 ; 60 ; 16 – 20 .