E型肝炎が増えています
国立感染症研究所からの報告では1)国内のE型肝炎( HEV )の発症は2005~2011年までは年間100例以下の報告でしたが、2015年以降は年間200例を超え、2018年以降は400例を超えるような増加を示しています。2014年1月~2021年9月までにE型肝炎と届出された患者は2,770例でした。

国立感染症研究所より引用 https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2021/12/502tt01.gif
大半がHEV-IgAで検査されていました。HEV-IgAは優れた検査で、E型肝炎患者の初診時血清94検体のうち2検体(2.1%)のみが陰性であったと報告されています2)。

国立感染症研究所より引用 https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2021/12/502tt02.gif
2770名中の2432例が国内で感染したものでした。国外113例の主な推定感染地はアジアで、中国が最も多く(20%)、インド(15%)、台湾(7.1%)、タイ(7.1%)と続いていました。

国立感染症研究所より引用 https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2021/12/502tf02.gif
国内では北海道および関東甲信越地方からの届出が多く、四国地方からの届出は少ないのが解ります。届出された2,770例のうち、推定感染経路の記載があった国内1,035例で、その内訳はブタ(肉やレバーを含む)の喫食が428例(41%)と大部分を占めていました。その他にはイノシシ99例(10%)、シカ88例(9%)などで, 動物種不明の肉(生肉, 焼肉など)あるいはレバーがそれぞれ218例(21%)、79例(8%)でした(重複を含む)。
国外113例中では, 水5例(4%), ブタあるいは動物種不明の肉の喫食が30例(27%)記載されていました。記載された感染経路は推定であり、必ずしも正しい感染源でない可能性もあります。感染源が特定されるケースは少なく、約半数が感染源不明であることが問題です。少なくとも北海道で発生が多い理由は、より多く豚を喫食しているからだと思われます。E型肝炎の発生の多い北海道では不顕性感染者も多く,ALT200 IU/l以上の献血者の 4.6%からHEV RNAが検出されたことが報告されています。
ブタのHEV感染が世界各地で確認されており, 日本国内の調査でも2~3カ月齢のブタの糞便からHEV遺伝子が高率に検出され、また出荷時のブタ(6カ月齢)においては,感染歴を示す抗体保有率が90%以上であると報告されています。一方で, 出荷時のブタの血清や流通している豚レバーからはHEV遺伝子が検出されるものの、その頻度は低いとされています3)。
E型肝炎の報告の増加は感染早期に上昇するIgA(immunoglobulin A)型のHEV抗体が感度・特異度共に優れておりE型急性肝炎の診断法として2011年10月に保険収載された影響が大きいと思われます。

文献3)より転載
しかし2011年以降も増え続けているのは実際に発生が増えているものと思われます。
岡野らは急性肝障害199 例を分析しました。その原因は薬物性肝障害61例、急性A 型肝炎は7例 、急性B型肝炎は33 例、急性C 型肝炎は1 例、急性E 型肝炎は計13 例とE型肝炎はA型肝炎より多い結果でした4)5)。
E型肝炎は、輸血でも感染することが知られていましたが、現在献血や輸血製剤の厳格化でほとんど輸血感染はないと思われます。
かつては,HEV感染は慢性化しないと考えられていましたが、2008年に臓器移植後の慢性化例が報告され、免疫抑制状態ではウイルスが排除されずに慢性肝炎を起こすことが明らかとなりました.慢性化した場合は、軽度の肝障害が持続して肝硬変に至る場合があるため、免疫抑制状態にある患者で原因不明の肝障害が持続する場合は留意する必要があります。慢性化した場合には、リバビリンの投与が有効と報告されていますが現在は保険適用外です6)。
E型肝炎は北海道や関東甲信越で増加していますが、問題は感染源不明が半数程度あることです。経口感染が主であるため豚肉やジビエ料理では確実に加熱することが重要で、95度で10分以上の加熱が推奨されています。途上国では生水、氷、生野菜などから感染する可能性が指摘されています。
E型肝炎は診断したら全例報告義務があります。ワクチンは国内にはありません。
令和7年3月6日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)国立感染症研究所 E型肝炎
https://www.niid.go.jp/niid/ja/hepatitis-e-m/hepatitis-e-iasrtpc/10837-502t.html
2)古山 準一ら:発症時IgA-HEV抗体が陰性であり,再検査により診断し得た急性E型肝炎の1症例 . 肝臓 2023 ; 64 ; 430 – 436 .
3)井上 淳ら:A型,E型肝炎の日本における現況と課題 . 日内会誌 2020 ; 109:1439~1444 .
4)見逃されているE型肝炎
5)岡野 宏ら:薬物性肝障害診断スコアリングにおけるE 型肝炎の診断マーカー追加の必要性についての検討 . 肝臓2014 ; 55 ; 325 – 334 .
6)山内 菜緒ら:急性肝不全に陥ることなく致死的経過を辿った急性E型肝炎の1例 . 肝臓 2021 ; 62 ; 463 – 470 .