そのアナフィラキシーアニサキスが原因では?

国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2025/1/539tf01.gif
国立感染症のホームページをみると2007年に比べて2023年は食中毒報告件数自体は増えていないのにアニサキス食中毒が増えているのが解ります。

国立感染症研究 https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2025/1/539tf02.gif
実際、食中毒のなかでアニサキス症の占める割合が増えていることが解ります。
ここ10年ほどの報告急増は、13年から法令改正でアニサキスによる食中毒が届け出対象に明示されたのも一因ですが、背景にあるのが生の魚介類の流通の多様化で、大手の量販店や鮮魚専門店が市場の競りを介さず産地の業者から直接買い付ける「相対取引」などが盛んになり、消費者の口に入るまでの経路が複雑になっているのも1因と考えられています1)。アニサキス症は胃アニサキス症と腸アニサキス症があり、感作の有無により緩和型と激症型があります。症状の特徴は、初感染では無症状ですが、再感染で感作されている場合は、約6 時間前後で 1 型アレルギー反応に起因する激しい心窩部痛が発生します。多くは胃アニサキス症であることが知られています。これはこれで大変患者さんは苦しい思いをするのですがより問題なのはアニサキスがアナフィラキシーの重要な原因生物で、かつそれが多く見逃されている点です。
成人アナフィラキシーの原因物質は地域ごとに差はありますが、薬剤性、アニサキス、小麦、甲殻類、刺虫症、花粉・食物アレルギーが上位になります。能條らの報告2)では、アニサキス(23.3%)、小麦(11.8%)、薬剤(10.1%)、甲殻類(9.7%)、フルーツ(5.7%)でありアニサキスが最も多いと報告しています。アニサキスアレルギーの多くはアニサキス噛症により発症することが多く、鮮魚の摂食からアナフィラキシーの発症時間までタイムラグがあり、能條らの報告では平均4.5時間、最長10時間でした。今までアニサキス噛症は胃が大部分と考えられてきましたが、最近のイタリアからの39例の検討では消化管アニサキス症の咬傷部位は小腸が42.5% 、胃が43.8 %、食道1.4%、消化管外12.3% と胃と小腸は同程度に咬傷されていました3)。したがってアニサキスアレルギーの診断には小腸への噛症を考慮して発症前72時間の鮮魚の喫食歴の聴取を推奨する文献もあります2)。スペインにおける成人のアナフィラキシーの調査で、後にアニサキスアナフィラキシーと診断された症例の18.3%では、患者自身が同病態を疑った症例は皆無であり、救急診療医が同病態と診断した割合も3.3%と低いことが示されています4)。相当数のアニサキスアナフィラキシーが見逃されていると思われます。
診断の難しさはアニサキスIgEが陽性だからアニサキスアレルギーとは言えないことです。なんらかの食物アレルギーがある人の約30%はアニサキスIgE陽性で、これはダニアレルギーなどの交差反応による上昇と考えられています5)。

文献6)より転載
アニサキスIgEは、アニサキス虫体全体(体・体液など全てをひっくるめて)に対する抗体を調べています。 アニサキスには「コンポーネント」と呼ばれる、特徴の異なるタンパク質があり、そのどれに反応しているかによって、症状やその出方が変わってくると言われています。

文献6)より転載
コンポーネントは14種類あると言われており、すべてのコンポーネントを測定することは出来ません。
アニサキスアレルギーはアニサキス噛症によるアナフィラキシーと、噛症を伴わない死んだアニサキス成分で起きる狭義のアニサキスアナフィラキシーがあり、その理解が難しくなっています。アニサキスアナフィラキシーの患者さんの90%が加熱魚類を摂取可能で、残る10%が過熱してもアナフィラキシーを起こします。狭義のアニサキスアレルギーの熱に耐性のあるコンポーネントにアレルギーのある人がこの10%にあたるものと思われます。アニサキス噛症によるアナフィラキシーを鑑別するには初診時と1~3か月後のアニサキスIgE を測定し、初診時より有意にその値が低下していることが診断の一助になります2)。
自分はアニサキスアレルギーかもしれないと思った人はアニサキスアレルギー協会のホームページをお勧めします5)。詳細に解りやすく説明してあります。
令和7年2月20日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)アニサキス症が急増しています
2)能條 眞ら:病歴とIgE検査から突き止めることができたアニサキスアレルギー . 日本医事新報 2025 ; 5254 ; 14 – 15 .
3)Guardone L et al :Human anisakiasis in Italy: a retrospective epidemiological study over two decades . Parasite. 2018 ; 30 ; 2 5: 41.
4)アニサキスによる健康被害のひとつ: アニサキスアレルギーについて . IASR 2025 ; 46 ; 4 – 6 .
5)アニサキスアレルギー協会
https://anisakis-allergy.or.jp/
6)「第2回 アニサキスアレルギーサミット」まとめ
https://anisakis-allergy.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/07/Anisakis_allergy_summit2.pdf