淡水魚の生食で顎口虫症―皮下を虫体が移動―
青森県保健衛生課は11月29日、寄生虫の一種・顎口虫(がっこうちゅう)が皮膚に引き起こす「顎口虫症」の可能性のある患者が、県内で相次いで確認されていると報告しました。患者は100人を超えているようです。顎口虫の幼虫は、淡水魚などを宿主に成長します。同課は、9月以降にシラウオなどの淡水魚を生食し、かゆみや痛みを伴うみみず腫れのような症状がある人は、速やかに医療機関を受診するよう求めています(Webb 東奥2022年11月30日)。
顎口虫は、イヌやネコ、ブタやイタチの胃や食道の壁に寄生しています。それらの宿主の便から排泄された卵はケンミジンコなどの第 1 中間宿主に食べられ、次ぎにライギョやドジョウなどの第2中間宿主の魚に食べられることによって魚への寄生が成立します。そして約1月も経つと、長さ 3~4 ㎜の幼虫になり、やがて皮膜に包まれた直径 1 ㎜程度の皮嚢幼虫に成長し、魚の筋肉内に寄生します。ヒトへの寄生はこれらの幼虫が生存している魚の筋肉を食べることによって発生します。魚の種類としては特に、ライギョ、フナの生食が原因の場合が多いようですが、以前には輸入ドジョウの生食による多発例や、ヘビの生食による症例も報告されています。ヒトの体の中に入った幼虫は、胃の壁を食い破って肝臓に達し、その後は体内を自由に動き回ります。そして、身体の表面に近い部位に移動することにより皮膚に顎口虫症特有の移動性限局性腫脹の皮膚病変が出現します。多くの例では痒み程度ですが時に非常な痛みを伴う皮膚爬行症(ひふはこうしょう)という病態が出現します。また、体内を自由に動きまわることから、幼虫の侵入部位によっては重篤な症状になり、目の中に入り込んでしまい失明したり、咽頭浮腫で呼吸困難になったり、脳に入り込み脳障害を来した例なども報告されています。
皮膚爬行症(crreeping eruption )文献2)より転載
日本顎口虫:体長約2ミリメートル程度で肉眼的には見えません。文献2)より転載
1992年~1995年と古い報告ですが青森県東部地域で集められた18種の淡水魚総計44,724尾について日本顎口虫の幼虫寄生を検索した結果では、ドジョウ、ナマズ、ウキゴ リ、ヤマメおよびウグイの5魚種から幼虫計322虫体が検出されています3)。当院の存在する熊本県の菊池川での検討でもカムルチイ、ナマズから幼虫が検出されています4)。おそらく日本中に多く分布しているものと推測されます。
顎口虫の治療は難しく、薬物的治療に確立されたものはなく、治療の基本は診断も含めて虫体を外科的に摘出することが1番の方法とされていますが、なかなか難しいようです。もし虫体が確認出来たら、他の虫体も存在する可能性があるので内服治療も併用します。ベンズイミダゾール系で比較的組織移行性の良いアルベンダゾールを投与します。イベルメクチンもある程度効果があるようです5)。
現在、フナやナマズを生食する人はいないと思いますが、シラウオが淡水魚として認識する人は少なく、奨められたら生食するかもしれません。また、東南アジアではタイの刺身と称して淡水魚の刺身を提供するところもありそうで1)、魚の生食はくれぐれも注意した方が良さそうです。
令和4年 12月13日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)ミャンマーでの刺身喫食で顎口虫症
https://www.nobuokakai.ecnet.jp/nakagawa63.pdf
2)シラウオ生食で寄生虫か 青森で百人超が皮膚病変
https://www.tokyo-np.co.jp/article_photo/list?article_id=216891&pid=838606
3)小山田 隆ら:北日本における人の日本顎口虫感染源としての淡水魚の調査 . 日獣会誌 1996 ; 49 ; 574 – 578 .
4)磯部 親則:菊池川の中流地帯に分布する有棘顎口虫の調査報告 . 医療 1965 ; 19 ; 88 – 90 .
5)丸山 治彦:顎口虫症 . 日本医事新報 2022 ; 5033 ; 40 – 41 .