オミクロン株は弱毒ウィルスではありません

オミクロン株は弱毒ウイルスではありません

 厳しい入国制限、マスク着用の義務などを実施した香港、韓国、シンガポール、ニュージーランドなどは、これまで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数と死亡者数が欧米に比べて格段に少ない国とされてきました。しかし、オミクロン株出現後にそれらの国で軒並み大規模な感染拡大が起き、新規患者数で欧米を上回るという予想もしなかった事態となりました。

                        文献1)より転載

 図1 では,人口100万人当たりの1日の新規患者数を香港・韓国・日本と、フランス・米国で比較したものです。2022年3月4日に香港で8800例、3月17日に韓国で7900例の新規患者数となりましたが、これは2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して1日の新規患者数としては世界1・2位の記録です。わが国の総人口、約1億2500万人に換算すると、1日に100万例前後という、非常に多数の患者が発生したことになります1)

         文献1)より転載

 図2は人口100万人当たりの1日に死亡者数を示したものですが、香港と韓国では死亡者数も増加しており、特に香港では驚異的な新規死亡者数を記録しています。人口100万人当たりの1日の死亡者数が、香港では2022年3月15日に38例、韓国では3月27日に7例となっています。香港のこの死亡者数は、2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して世界最高と考えられており、わが国の総人口に換算すると1日に4800例死亡したことになります。これらの結果はもちろんオミクロン株の流行による死亡率です。
 わが国では,“オミクロン株によるCOVID-19の症状は,デルタ株に比べて軽症”という考えが定説となっています。しかし本当にオミクロン株は軽症ですむか、については世界では疑問がもたれています。ワクチン接種率が向上し、加えて自然感染による免疫保持者が増加したため、重症化防止効果が出ているので、患者数増加に比べて重症者数が少なく、軽症化したように見える、という意見もあります。どちらかというと最近では,“オミクロン株は軽症”という説は否定的となっています。その根拠は、香港でオミクロン株が大流行を起こし、ワクチン接種を受けていない高齢者が多数死亡したことにあります。この香港での死亡率は、2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して、欧米諸国のピークをはるかに上回るものでした。結論として、免疫のない状態で感染すれば、オミクロン株でもデルタ株と同様に重い症状を呈すると考えられているのです1)
 確かにウイルスは弱毒化の方向に進む場合もあります。しかし、それは、ワクチンや治療薬、隔離措置など、人為的な介入があったときに限る、と考えられています。つまり、人為的に強毒株が抑え込まれることにより、弱毒株が残り、宿主と共存していくという場合です2)。新型コロナウイルスでは、デルタ株が弱毒化してオミクロン株になったというわけではありません。2回のワクチン接種により、デルタ株がある程度抑制されてきたところに、アフリカ大陸からオミクロン株が出現してきました。2回のワクチン接種ではオミクロン株への有効性が低いので、瞬く間に全世界へ広がっていきました。また,オミクロン株はどちらかというとアルファ株やベータ株に近い変異株で、デルタ株は遠い親戚に当たるそうです。新型コロナウイルスに対するワクチンがなければ,デルタ株の感染は拡大し、オミクロン株が入る余地はなかった可能性がある、ということです。また,デルタ株が弱毒化してオミクロン株になったのではない,ということです。オミクロン株の致死率はデルタ株の半分くらいになっていますが,弱毒化と言えるほど致死率は低くありません2)。それでは弱毒化したと考えられるウイルスはどのように出現してきたのでしょうか?それは選択の結果でしかないそうです。ウイルスゲノムは多様性を示しており、ある確率で変異も起こします。その中で、弱毒化して宿主に適応できた変異株が選択されてくるのです2)
 水谷は2)「弱毒化は短期間に起こらない」と考えています。ウイルスの弱毒化は、おそらく数万年、数百万年単位で起こるのではないかと述べています。しかしこれはワクチンなどの人為的介入がない場合の話で、ワクチン接種や治療薬の投与が進むと選択スピードが上がるので、弱毒化は加速すると水谷は考えています。
 一方,ワクチンがなくても、数百年で弱毒化するウイルスもあるかもしれません。たとえば、現在では一般的な、風邪の原因になるコロナウイルスOC43は、1890年頃に強毒ウイルスとして出現し、数十年かけて弱毒化したという説もあります2)

         文献1)より転載

今までに多くの患者が発生した欧米諸国では、2022年4月1日時点で、人口100万人当たりの累計患者数の全人口における割合は、フランス38%、英国31%、米国24%などと、高率であることが解ります。一方、オミクロン株出現前まで患者数を抑えてきた韓国、香港では、2021年12月時点での累計患者数は人口の0.2~4.8%とかなり低率でしたが、オミクロン株出現後は,感染者の割合は急速に増加し、韓国は27%と米国を追い越し、香港も15%と大幅に増加し、欧米諸国と大差がないほどになりました。
 韓国、香港での、最近のオミクロン株による驚くべき流行拡大は、ウイルスの感染力が強いということがある一方、ワクチンの発病防止効果が低く効果が持続しないことも原因にあると言われています。

図4ファイザー社のワクチン( BNT162b2)2回接種後の発病防止効果と同ワクチン3回目接種後とモデルナ社のワクチン(mRNA-1273)の3回目ワクチン接種後の感染防止効果

文献3)より転載

図4に示すとおり、オミクロン株はデルタ株に比較してワクチンによる発病予防効果が低く、ファイザー社のワクチンの3回目接種をしても10週後には大きく低下することが解ります。菅谷らは不顕性感染も考慮すると、日本ではワクチンによるオミクロン株感染・発病防止効果は、現在ほとんどなく、日本は危険な状況にあると述べています3)
 以上の事実をふまえて考えてみると、日本ではワクチンの効果がかなり低下しているところであり、重症化しやすい人が麻疹なみの感染力をもつオミクロン株に感染すると死亡者が増加する可能性があり、4回目のワクチン接種を急ぐ必要があります。

                      令和4年6月24日
菊池中央病院  中川 義久

参考文献:
1)菅谷 憲夫:]「オミクロン株は軽症」は誤り―“世界の優等生”諸国ではオミクロン株が大流行 . 日本医事新報 2022 ; 5114 ; pp 32 .
2)水谷 哲也:ウイルスは宿主を殺さず弱毒化する」説の根拠は? . 日本医事新報 2022 ; 5114 ; pp 56 .3)菅谷 憲夫:SARS-CoV-2オミクロン株に対するワクチン効果─日本では免疫が消失,ブースター接種により感染爆発を防ぐべき . 日本医事新報 2022 ; 5100 ; pp 28 .