今後、感染症の増加が予想されます
2020年4月に発出されたCOVID-19 緊急事態宣言下で、私たちはコロナ対策として接触感染、飛沫感染をやってきました。当初、空気感染はないと言われていましたが、最近、エアゾル感染の可能性も言われており換気にも注意しております。そのおかげでコロナ以外の感染症が激減していると言われています。
文献1)より転載
コロナ以外の感染症はどれほど減っているのでしょうか?
国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報 (IDWR)のホームページを見ると知ることができます。
文献2)より参照
年間別に折れ線グラフで示してあり、11年分の定点あたりの発生数を示してあり、赤印が本年(2022年)の感染報告ですが、軒並みに減少していることが解ります。
文献2)より転載
定点把握の対象となる5類感染症の2022年5月9日から15日までの間で、当該週で過去5年間の発生頻度の比較を表にしたものです。全ての疾患で減少しているのが解ります。これらの感染症の減少はコロナ対策としての飛沫・接触感染対策がこれらの感染症対策にも有効であったという結果でしょう。しかし、川崎病の発生はCOVID-19緊急事態宣言下でもその発生が減少しなかったことが報告されています。川崎病の原因微生物はまだ正確には解っていませんが、複数の病原体が関与していると推測されています。そしてその微生物は広い範囲で流行し、風によって移動する空気感染であることが推測されています。だから緊急事態宣言下でも減少しなかったものと考えられています3)。新型コロナ感染によって起こる小児の多系統炎症性症候群とは病像が似た部分もありますが、現在川崎病とは別の疾患とされています4)。
さてこのような感染症の減少が本当に良い事でしょうか?
まず、コロナ対策を緩めることでこれらの感染症が急に増加することが予想されます。そろそろ感染性胃腸炎やRSウイルス感染症の増加が報告されています。発熱外来では新型コロナ以外の感染症も正確に診断する必要があります。
また、多くの感染症は免疫がまだ成熟していない幼少児期に感染し、軽症で済んで抵抗力を身に着けていくものですが、成人になって初感染すると重症化することがあります。ワクチンで予防できないヘルペスウイルス感染症、例えばサイトメガロウイルスやEBウイルスなどでは成人になって罹患すると重篤化や1か月以上の長い経過をとることがあります5)。これから成人のこのような非定型的なウイルス感染症が増えてくる可能性があります。
現在、オミクロン株の感染症も減少しつつあり、マスクの着用を緩和したり、旅行を推奨したり、外国人観光客の入国審査緩和、など経済優先のウイズコロナへ政策へと変換されつつありますが、この2年間で激減していたコロナ以外の感染症の激増が予想され、発熱外来は再び難しい対応を迫られるかもしれません。
令和4年6月6日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)コロナ禍で減っている感染症と変わらない感染症 その要因を感染症専門医が考察https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20201025-00204624
2)感染症発生動向調査週報 (IDWR)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html
3)五十嵐 隆ら:川崎病の最新情報 . 日本医師会雑誌 2022 ; 151 ; 185 – 197 .
4)原 寿郎:川崎病の病因・病態解析の現状 . 日本医師会雑誌 2022 ; 151 ; 208 – 212 .
5)子供のうちに罹っておきたいサイトメガロ・ウイルス