現代人はほぼ全ての人がビタミンDを摂取すべき

現代人はほぼ全ての人がビタミンDを摂取すべき

 ビタミンDは油に溶けやすい「脂溶性ビタミン」の一つです。化学的には植物性の「ビタミンD2」と動物性の「ビタミンD3」に分けられます。ビタミンDは食品から摂取するほか、身体の中で合成することでも供給されます。動物の皮膚では紫外線を浴びることでビタミンD3が合成されます。そのため日光に当たる機会が少ない人は特に不足しやすい傾向にあるといわれています。
ビタミンDの働きは
骨・カルシウム代謝の正常化
免疫調整作用
がん、感染症、自己免疫疾患などの予防
糖尿病予防
精神疾患:鬱病・社会不安障害予防
脳神経:認知症予防
筋力低下予防
死亡率低下:アンチエイジング
 などが報告されています1)
 ビタミンDが不足すると多彩な健康障害を引き起こす可能性があります。近年、新型コロナウイルス感染症とビタミンDの関連性が多く報告されており、米国の19万人を対象とした研究で、血液中のビタミンD濃度が高いほどPCR陽性率が下がる傾向がみられており、スペインからの報告では新型コロナウイルスの感染で入院した約400名の患者にビタミンDを投与したところ重症化率や死亡率を大きく減らすことができたことが報告されています2)。ビタミンDは免疫を高める効果があることは以前から認められていましたが、新型コロナウイルス感染にも有効のようです。       新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延する環境下で、医療従事者の長期間の屋内生活でのビタミンDへの影響はどれぐらいあるか?という研究結果が報告されました3)

 ビタミン D 欠乏の判定は血清 25(OH)D 濃度測定により判定され、充足レベルは 30 ng/mL 以上、不足レベルは 20 ~ 30 ng/mL、欠乏レベルは 20 ng/mL 未満とされていますが、上のグラフを見ると青い点が男性、赤い点が女性ですが両者ともに大半が20以下の欠乏レベルになっており、30以上の充足レベルの人はほとんどいないことが見て取れます。これはコロナ禍で十分な休養が取れずに日光にあたることができなくなった結果と考えられますが、コロナ禍以前の熊本県玉名市の病院に勤務する 23 ~ 58 歳までの 40 名の検討でも 70%がビタミン D が不足しているという報告もあります4)。さらに高齢者は小食で、しかも寝たきりになると屋外に出ることも少なくなるためより一層ビタミンDが不足しがちで、特に高齢者施設に入所中の人は、98%がビタミン不足だったという報告もあります4)。熊本県の調査では、ビタミン D の不足と手足の日焼け止め使用の間に関連があり、ビタミン D 栄養状態には、皮膚での産生が大きく寄与することが確認されています5)。従来の報告のように、皮膚での紫外線によるビタミン D 産生はビタミン D 必要量に対して80 ~ 90%程度の寄与を示すという報告と一致したものと思われます。ビタミン D を充足するには皮膚への紫外線照射が不可欠と言えます。しかし、最近の美容意識の高まりで、特に女性は紫外線によるシミ・しわを回避したいでしょうし、高齢者は紫外線照射によるビタミン D 産生能も低下しますし、また、最近のコロナ禍で外出自粛を強いられている多くの人たちは日光を浴びるのもままならないでしょう。英国の NHS(National Health Service)では、COVID-19 に関する啓発の中で,外出抑制に伴う皮膚でのビタミン D 合成低下に対する対策として、ビタミン D サプリメントの利用も考慮すべきとしています6)
 ビタミンDの内服薬には活性型と天然型があります。病院で処方される医薬品としてのビタミン D は量が多く、活性型なので医師と相談しながら定期的な採血が必要です。サプリメントとして販売されているのは天然型で、活性型へ転換するのは体内での代謝が必要で、微妙にコントロールされているので過剰症になることはほぼありません。副作用がなく、より自然な形として体内で利用される天然型のサプリメントの服用が優れています。服用のタイミングは1日の中で朝が自然の形に近く推奨されます。また、眠前に服用すると睡眠障害を起こすこともあります2)。サプリメントのビタミンD製剤の原料はほとんどが羊毛から取れるラノリンという脂質です。羊毛は無尽蔵に採取できるため、ラノリンの原価は安価であり、ビタミンDのサプリメントは他のビタミン類のサプリメントと比較して最も安価です。しかし市場価格には幅があり、1か月あたりのコストは、200~4000円と20倍の差があります。価格による製品品質の優劣のデータはありませんが知りたいところです。
 ビタミンDを食品でのみ充足させるのはほぼ不可能で、日光浴をするしか仕方ありません。夏に半袖半ズボンで週3日、15~30分の日光浴をすれば至適濃度が維持されると言われていますが2)、非現実的と思われますので、特別に日光に当たる人以外は現代人すべての人がビタミンDサプリメントを服用すべきと思われます。

令和4年3月25日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献
1)桒原 晶子:脂溶性ビタミンの臨床的意義およびその必要量の検討 . 日本栄養食料学2017 ; 70 ; 257 – 262 .
2)満尾 正:ビタミンDサプリメントを考える . 日本抗加齢医学会雑誌 2021 : 17 : 35 – 40 .
3)船木 貴則ら:COVID-19パンデミック中の医療従事者の深刻なビタミンD欠乏症 http://dx.doi.org/10.1136/bmjnph-2021-000364
4)桒原 晶子:日本人のための「ビタミン D 欠乏チェック質問票」作成のためのパイロット研究 . ビタミン 2018 ; 92 ; 303 – 312 .
5)桒原 晶子:脂溶性ビタミンの臨床的意義およびその必要量の検討 . 日本栄養食料学2017 ; 70 ; 257 – 262 .
6)桒原 晶子:日本人のための「ビタミン D 欠乏チェック質問票」作成のためのパイロッ ト研究 . ビタミン 2018 ; 92 ; 303 – 312
6)サプリメントとしてのビタミン D