アビガンが有効? -SFTS-

アビガンが有効? -SFTS-

 ウイルスを保有するマダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群」(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome : SFTS)が、熊本県内で急増しています。今年の感染者数は、過去最高だった昨年1年間を8月時点ですでに上回り、死者も出ました。熊本県によると、今年の感染者数は8月1日時点、8人で、過去最高だった昨年の6人を超えています。県南で多く発生しており、増加の原因は解っていません(朝日新聞デジタル2021年8月7日).
 SFTSは日本国内で2013年に患者が初めて確認されて以来、西日本を中心に600例(2020年末時点)近い感染例が報告されています。ダニが媒介する新種のウイルス感染症で、SFTSを発症したペットのネコやイヌからヒトに感染し、死亡例も報告されています。致死率が3割前後と極めて高く、予後不良の疾患で典型的な人獣共通感染症であり、今後も注意が必要な感染症です。
 SFTS ウイルスはブンヤウイルス目フェヌイウイルス科 フレボウイルス属に属しており、マダニの刺咬がヒトや動物への主要な感染経路です。全ての哺乳動物が感染しうると考えられています1)。しかし、SFTS患者の血液や体液に触れた患者の家族、治療に携わった医療従事者への感染例があり、接触感染の可能性はありますが、飛沫感染や空気感染の報告はありません。これらから、HIVや肝炎ウイルスなどのウイルスと同等の感染予防策が必要で、院内感染対策も重要です2)。日本では西日本を中心に発生していますが、国内調査によるとSFTSウイルス保有マダニは国内に広く分布し,全国で感染の可能性があります2)。1年中発生はありますが、マダニの活動が活発になる 4月から10月にかけて患者数が多く、特に 5 月から8 月はリスクが 高い時期です。

 SFTS 患者の症状は、発熱、血小板減少、白血球減少はほぼすべての患者に認めらます。それ以外に、神経症状、全身倦怠感、下痢、リンパ節主張、食欲不振などが多くの患者に認められます。神経症状、出血傾向、紫斑、消化管出血などが認められた場合、死亡するリスクが高くなります。それ以外に,肝酵素,クレアチニンキナーゼなどの上昇も報告されています。骨髄検査では血球貪食症候群を示している頻度が高く、それを反映してLDHの高値やフェリチンの上昇が認められます。しばしばDICを示す血液凝固異常も示します。SFTS患者との接触歴もない健常人にも抗SFTSV抗体が検出されたとの報告があり2)感染しても必ずしも発症せず、一部には不顕性感染となる例があるようです。
 鑑別診断はツツガムシ病や日本紅斑熱などのリケッチア症などが挙がりますが、SFTSでは高度の炎症反応があるにもかかわらずCRPの上昇が認められないことが特徴として挙げられます。
 SFTSを鑑別疾患として想定するには、ダニ咬傷の痕跡や病歴が非常に有用です。しかしながら、ダニ咬傷のあと、いわゆる刺し口が認められない症例が少なくなく、Jaeseungらの報告はマダニ咬傷の痕跡を指摘できたものは 31%、日本国内の報告でも刺し口が確認できた例は半数に満たないことから、SFTSを疑う患者においてマダニ咬傷が認められない場合でも否定することはできません2)

 病歴や症状、一般的な血液検査所見などから診断することは困難で、SFTSの確定診断には患者の血液、尿、髄液などを用いたRT-PCR法による遺伝子検査が有用です。保健所に連絡すると測定することが可能です。
 SFTSの病態はまだ不明な点が多いですが高炎症性サイトカイン血症による多臓器障害がその中心と考えられています。高齢者で重症化しやすく新型コロナウイルス感染症と共通した病態も考えられます3)
 SFTSの治療法は確立されていません。ステロイドやリバビリンのの投与も行われましたが治療効果は得られませんでした。しかし、日本でファビピラビル(アビガン)がSFTSのウイルスの増殖をマウス実験で抑制することが報告されました4)
 アビガンは抗インフルエンザ薬としてわが国で開発された薬剤であり、新型コロナウイルスにも有効性が期待された薬剤です。日本で実施された臨床試験では重症例も含め死亡率を10%台に低下させることが示されました。さらに重篤な副作用は認められませんでした。この結果を受けて企業治験も行われ良好な結果が得られたので現在承認申請に向けた手続きが進行中です3)

 国立国際医療研究センター国際感染症センター国際感染症対策室
(重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き(第 3版)8)より

 さて、アビガンは実際に新型コロナウイルス感染症に有効なのでしょうか?日本呼吸器学会のホームページ5)には2021年6月15日時点では、ファビピラビルのCOVID-19に対する治療効果に関する報告では、藤田医科大学が中心となって実施されたオープンラベル試験、ロシアで行われたランダム化比較試験、中国から報告された抗体カクテル療法治療群とファビピラビル治療群を比較する非ランダム化試験が主なものですが、上記のいずれの試験でもファビピラビル投与によりウイルスの消失を早め、解熱などの症状改善が早まる傾向が示されています。ファビピラビルは1週間以内の投与により効果的であることが示唆されています。今後の臨床試験の結果とその論文化に注目していく必要があると結論しています。

令和3年11月2日
菊池中央病院 中川 義久

参考文献
1)前田 健:重症熱性血小板減少症候群(SFTS). J. Vet. Epidemiol. 2018 ; 22 ; 51 – 52 . 
2)荒木 慧ら:血球貪食症候群を呈し急激な転帰をたどった重症熱性血小板減少症候群の1例 . 日内会誌 2016 ; 105 ; 2230 – 2236 . 
3)安川 正貴:重症血小板減少症候群 . 日内会誌 2021 ; 110 ; 1797 – 1801 . 4)Koichiro Suemori et al : A multicenter non-randomized, uncontrolled single arm trial for evaluation of the efficacy and the safety of the treatment with favipiravir for patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome
severe fever with thrombocytopenia syndrome
https://doi.org/10.1371/journal.pntd.0009103
5)日本呼吸器学会 COVID-19 FAQ 広場
https://jrs.hatenablog.com/entry/2021/06/16/001500