世界でのコレラの流行
世界保健機関 (WHO) は、コレラ流行が31カ国で悪化していると警告し、2025年1月から8月中旬まで40万9000件以上の症例と4,738人の死亡が報告されています. この発生は紛争・貧困・気候変動・特に農村地域及び洪水被害の発生率の高い地域で蔓延しています。特に注意すべきは2021年にコレラ患者の発生がなかった13カ国での新たな患者の発生です。この国々の中には3~30年という長期にわたりコレラの発生を報告しておらず、コレラ常在国とみなされていない国も含まれています。現在の状況は、1961年から続くコレラ流行の第7波の再燃を意味しています。

文献1)より転載
2014年までの世界のコレラ発生状況です。コレラは発生してもあまり届けられることがないために詳細は解りませんが中央アフリカや東南アジア(特にインド)で発生がみられています。

文献1)より転載
1989年から2021年までにWHOに報告されたコレラの発生数です。近年アジアで発生が増えているようです。CFRは致死率です。
コレラの重要な感染源は、患者の糞便や吐瀉物に汚染された水や食物です。消化管内に入ったコレラ菌は、胃の中で多くが胃液のため死滅しますが、少数は小腸に到達し、ここで爆発的に増殖してコレラ毒素を産生します。コレラ菌自体は小腸の上皮部分に定着しコレラ毒素を発生し上皮細胞を冒し、その作用で細胞内の水と電解質が大量に流出し、猛烈な下痢と嘔吐を起こします2)。コレラ菌は腸管出血性大腸菌などとは異なり、胃酸に弱く、コレラを発症するためには比較的多めの菌量が必要で、コレラ菌100万個を摂取すると約50%の人がコレラを発症すると言われています。ただしコレラ患者の下痢便1mlには1000万個以上のコレラ菌が存在しているとも言われています。胃酸が少ない胃の摘出後の人は感染しやすいといわれています2)。
潜伏期間は5日以内で通常は2~3日ですが、早ければ数時間のこともあります。症状が非常に軽く、1日数回の下痢が数日で回復することが大半ですが、10%程度の人が水のような下痢が1日20~30回も起こり、「米のとぎ汁」のような白い便を排泄することもあります。腹痛・発熱はなく、むしろ低体温となり、34度台にも下がり急速に脱水症状が進み、血行障害、血圧低下、頻脈、筋肉の痙攣、虚脱を起こし、死亡することもあります。適切な対処を行なえば死亡率は1~2パーセントです2)。診断は迅速診断キット4)がありますが発展途上国で常に準備してあるかどうかは不明です。
コレラの治療は、脱水の補正です。経口補水液を清潔な水に溶かして投与します。重症な場合は点滴も必要になります。抗生剤のニューキノロン系の抗菌薬が第一選択であり、抗菌薬の投与にて排菌期間の短縮化が期待できます3)。近年は、キノロン耐性のコレラ菌も増加しており、CDCはアジスロマイシンやドキシサイクリンを推奨しています2)。
5歳未満の子どもには、亜鉛が重要な補助療法になります。下痢症の期間を短縮し、合併症が生じることを防ぐことができます2)。
コレラの予防は、清潔な水源を確保:し、汚染された水を避けるようにすることです。食品の衛生管理を徹底し、特に汚染された水や食べ物を避けることが必要です。流行地域への渡航時はワクチンが推奨されます4)。
コレラワクチンはすべて経口ワクチンで輸入ワクチンです
Dukoral | Vaxchora | Shancho | |
種類 | 経口不活化ワクチン | 経口生ワクチン | 経口不活化ワクチン |
年齢と接種回数 | 2~6歳は3回、 6歳以上は2回投与 | 2歳から64歳、 1回投与 | 2歳以上2回 |
有効性 | 2回接種後1週間後より有効。 全年齢層で6か月間 約85% 有効期間2年 | 接種10日後で90% 有効期間2年 | 全年齢層で 1年後45%、 2年後76%、 3年後66% 有効期間5年 |
副反応 | 軽微な消化器症状 | 軽微な消化器症状 | 軽微な消化器症状 |
追加接種 | 6歳以上は2年後に 1回接種、 6歳未満は6か月後に1回接種 | データなし | 3~5年後 |
保存 | 2~8○C | ―25~―15○C | 2~8○C |
その他 | 腸管毒素原性大腸菌(ETEC)の下痢にも予防効果あり | 抗菌剤とは1定の間隔を空ける | ETECには無効 |
*いずれも胃酸で失活しないように緩衝液とともに服用します
文献5)より作成

https://www.sverigesradio.se/artikel/4366972 より転載
コレラワクチンは輸入ワクチンなので接種できるクリニックは限られています。インターネットで良く調べて予約して受診することが肝要です。Dukoralが多いようです。値段は1回の接種が約1.2 ~ 1.5万円程度のようです。当院では接種できません。
令和7年9月16日 菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)海外で健康に過ごすために FORTH
https://www.forth.go.jp/topics/20221221_00003.html
2)Cholera CDC
https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/travel-associated-infections-diseases/cholera.html
3)コレラ 日本感染症学会
https://www.kansensho.or.jp/ref/d23.html
4)コレラについて ファクトシート FORTH
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2018/01111338.html
5)海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス 2019 日本渡航医学会作成 協和企画:コレラワクチン 132 – 134 .