マダニに刺されたのちに獣肉アレルギーになることがあります
マダニに刺されたのちに獣肉アレルギーになりことがあります。マダニ刺傷時にマダニの唾液が皮膚に注入され、アレルギーが成立し、獣肉と交差反応を起こしてアナフィラキシーを起こすことがあります。原因抗原エピトープは糖鎖galactose-α- 1,3 galactose ( α-gal )です1)。

文献2)より転載
α-galに感作されたヒトがα-galを含む獣肉を摂取すると、3-6時間後にアレルギー症状(アナフィラキシー、血管性浮腫、消化器症状、蕁麻疹など)が誘発され、α-gal症候群と言われています。

文献3)より転載
最初はセツキシマブ(転移性大腸癌や頭頸部の扁平上皮癌に用いる薬剤)の臨床試験に登録された患者が初回投与時にアナフィラキシーや蕁麻疹を起こしたことがきっかけでした。試験全体のアレルギー症状の頻度は3%程度でしたが、試験後半のテネシーとノースカロライナ州の患者では22%が重症のアレルギー反応を起こしました(図A)。地理的な要因が関連していると考えられました。そこでよく調べてみるとロッキー山紅斑熱の好発地域といっちすることが判明し(図B)、同地域では獣肉アレルギーの頻度が高く(図C)、かつAmblyomma americanumというダニの生息地であることが判明しました(図D)。これらの事実からセツキシマブと獣肉アレルギーの原因がα-galであることが推測されました。また患者の分布が同地域でよくみられるロッキー山紅斑熱と分布が似ており、マダニが媒介因子と考えられました3)。同様な事例が日本でも報告されており、島根県でダニの分布と獣肉アレルギーの分布が重なっているという報告もあります。この島根県での検討でマダニ唾液腺中にα-gal糖鎖の存在を証明し、牛肉アレルギー患者の血清中IgEがマダニ唾液腺中α-gal含有タンパク質に結合することが解明されこの疾患概念が確定しました1)。獣肉アレルギーは牛肉アレルギーが最も多いですが、豚肉・羊肉・うさぎ・鹿・カンガルーの肉への反応も報告があります。鶏肉は安全です。カレイの卵にはα-gal糖鎖自体は含まれていませんが、別の糖鎖抗原と交差反応をするらしくアレルギーを生じるとされています。カレイの卵にも注意が必要です。
症状は蕁麻疹70%、消化器症状40%、血管性浮腫、アナフィラキシーなどです。消化器症状や前失神・失神がメインの症状の場合は診断が難しいと思われます。さらに、症状発症の特徴は獣肉接種後3-6時間とやや遅いです。これはα-galが脂質に結合しているためと考えられています。この症状出現の遅さが誤診を助長するかもしれません。この症候群は犬を飼っている人に多く存在し、その理由は、普段野山を散歩しない人でも犬にマダニがついていることがあり、そこから媒介されることがあるのが理由とされています。また、面白いことにこの獣肉アレルギーは血液型がB型・AB型の人には起こりにくく、A型・O型の人がほとんどという特徴があります。これは、B型血液型抗原の構造はα-gal糖鎖を内在しているためα-galには免疫学的に寛容となっているためと考えられています3)。
診断には血中牛肉特異的IgE検査が有用です。α-gal特異的IgE検査のほうが感度が良いですが保険適応ではありません。
診断後の対処法としてはマダニ咬傷回避のみです。絶対マダニに嚙まれないことで数年後には血中牛肉特異的IgE検査が減少~消失し、牛肉も喫食できるようになることが報告されています1)。マダニ対策、今できること、のサイトに詳しく記載されています4)。
診断は難しいですが、マダニ生息地域で犬を飼っているA型・O型の原因不明の蕁麻疹・消化器症状のあるかたはこの疾患も念頭においた方が良いでしょう。
令和7年9月1日 菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)千貫 祐子:牛肉アレルギーと交差反応について. 日本医事新報 2021 ; 5071 ; 44 .
2)Houchens N et al : Hunting for a Diagnosis . The New Eng J Med 2021 ; 384 ; 462 – 467 .
3)Commins S et al : The relevance of tick bites to the production of IgE antibodies to the mammalian oligosaccharide galactose-α-1,3-galactose. J Allergy Clin Immunol 2011 ; 127 ; 1286 – 1293 .
4)マダニ対策、今できること
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000164561.pdf