新しい髄膜炎菌ワクチン メンクアッドフィ
2023年2月10日、4価髄膜炎菌ワクチン(商品名メンクアッドフィ筋注)が発売されています。メンクアッドフィは、既存のメナクトラの後継品として開発された同じ4価髄膜炎菌ワクチン(血清群 A 、C 、Y 、及び W-1 3 5)です。メナクトラはジフテリアトキソイド結合体であるのに対して、メンクアッドフィは破傷風トキソイド結合体であること、さらにメナクトラは抗原として髄膜炎菌血清群がそれぞれ4μgに対してメンクアッドフィはそれぞれ10μg含有している特徴があります。メナクトラ筋注の米国での接種対象年齢が9ヵ月齢以上55歳以下であることから、より広い年齢範囲をカバーする新たな髄膜炎菌ワクチンの開発が進められ登場したのがメンクアッドフィです。メンクアッドフィ筋注は米国においては2歳以上、EUでは12ヵ月齢以上に接種可能なワクチンとして承認されています。メンクアッドフィ®筋注は今日までに世界40以上の国において承認されています1)。
年齢区分 | メナクトラ | メンクアッドフィ | 抗体応答率 | 抗体持続期間 |
2か月-2歳未満 | 非適応 | 適応あり | 95-98% | 2-3年 |
2-10歳 | 適応あり | 適応あり | 97-99% | 3-4年 |
11-55歳 | 適応あり | 適応あり | 98-99% | 4-5年 |
56歳以上 | 要相談 | 適応あり | 92-95% | 3-4年 |
文献2)より参照
2~55歳の健康人を対象とした国内第III相試験において、メナクトラに対する同薬の免疫原性の非劣性および安全性が評価されました。メンクアッドフィの発売とともにメナクトラの製造は中止されました。
グラム陰性の双球菌の髄膜炎菌は、保菌者の呼吸器飛沫や分泌を介してヒトからヒトに感染し、鼻咽頭粘膜に生息します。髄膜炎や敗血症など髄膜炎菌によって引き起こされる侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は、髄膜炎菌が髄液、血液などの無菌部位から検出される感染症で、潜伏期は2~10日(平均4日)であり、突発的に発症します。IMDの敗血症例では、広範囲の臨床徴候を呈し、発熱、悪寒、虚脱などが認められ、重症化すると紫斑の出現、ショックおよび播種性血管内凝固症候群(DIC)またはWaterhouse-Friderichsen症候群に進展することがあります。髄膜炎菌性疾患全体の死亡率は7~19%、さらに髄膜炎菌性菌血症の死亡率は18~53%と報告されています。髄膜炎菌の抗原は莢膜で、莢膜多糖体(PS)の種類によって少なくとも12種類の血清群に分類されており、その中でも血清群A、B、C、WおよびYが主要なIMDの原因とされています。
接種対象者として①アフリカ髄膜炎ベルト地帯(サハラ以南の26カ国)への渡航予定者②医療機関や研究施設での髄膜炎菌曝露リスクのある従事者③補体欠損症や無脾症などの基礎疾患保持者④大学寮や留学などの集団生活予定者などが挙げられています1)。

文献3)より転載

文献3)より転載
副反応として、主なものは注射部位疼痛(36.5%)、筋肉痛(28.2%)、頭痛(23.9%)、倦怠感(10%以上)などで、重大なものはショック、アナフィラキシーの可能性があるので十分注意する必要があります。
薬剤接種において、下記の事項についても留意しなければいけません
メナクトラと同様に、含有する血清群以外(血清群B)に起因する侵襲性髄膜炎菌感染症を予防することはできない事。
既に発症している髄膜炎菌感染症を治療することはできない事。
抗補体(C5)モノクローナル抗体のエクリズマブ(遺伝子組換え)(ソリリス)、ラブリズマブ(遺伝子組換え)(ユルトミリス)、スチムリマブ(遺伝子組換え)(エジャイモ)投与患者にのみ保険給付が限定される事。
医薬品リスク管理計画書(RMP)では、重要な潜在的リスクとして「ショック、アナフィラキシー」「ギラン・バレー症候群(GBS)」「ベル麻痺」「急性散在性脳脊髄炎(ADEM)」「横断性脊髄炎(TM)」「痙攣」が挙げられています。

文献4)より転載
メンクアッドフィは4価ワクチンで髄膜炎菌の90%はカバーカバーしていますが、カバーしていない血清型B群は日本では少ないですが(3%程度)4)、外国ではまだ大きな流行を示しており注意が必要です。ワクチン効果は、接種後2週間で最大となり、その予防効果は血清群によって異なりますが、平均して3〜5年間持続することが大規模臨床試験で実証されています。また、ワクチンの免疫原性は年齢層によって異なり、特に2歳から6歳までの小児では、十分な免疫を獲得するために2回接種が必須となることが、複数の臨床研究で実証されています。それ以外は1回の筋注で終了です。また、補体欠損症の患者は初回2回接種後、3年ごとの追加接種が必要で、HIV感染者は初回2回接種後、5年ごとの追加接種が必要です。
髄膜炎菌ワクチンは任意接種のため自費です。1回あたりの接種費用は医療機関によって多少異なりますが、概ね約1万9,000~2万5,000円程度です。あらかじめ問い合わせをしてください。
近年、難しかったB群に対するワクチンが一部の国で承認され使用されていますが本邦ではまだ使用できません5)。
令和7年5月15日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)メンクアッドフィ:髄膜炎菌(血清型A、C、WおよびY)による侵襲性髄膜炎菌感染症の予防
https://www.e-mr.sanofi.co.jp/products/menquadfi
2)神戸岸田クリニック
https://kobe-kishida-clinic.com/
3)良くわかる髄膜炎菌
https://www.imd-vaccine.jp/risk/world.html
4)国内外における侵襲性髄膜炎菌感染症の疫学
予防接種・ワクチン分科会基本方針部会資料
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000058659.pdf
5)海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス 2019 . 日本渡航医学会Pp 128 – 130 .