帯状疱疹ワクチンの公費負担が始まりました
帯状疱疹ワクチンの定期接種化(接種補助)が令和7年4月1日に始まりました。ワクチン接種に公的な補助がされるということです。帯状疱疹ワクチンが定期接種の対象となった理由として、65歳以上の5歳刻みの各年齢で、いずれの年代においても生ワクチンまたは不活化ワクチンの少なくとも一方の接種の費用対効果が良好だったことが挙げられます。
定期接種の対象者は
● 65歳の者
● 60歳以上65歳未満の者であって、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有する者として厚生労働省令で定める人
● 65歳を超える方については、高齢者肺炎球菌ワクチンと同様、5年間の経過措置として、5歳年齢ごと(70、75、80、85、90、95、100歳(※))に行われます。
※経過措置を行う場合、100歳以上の者については、定期接種開始初年度に限り全員を対象とします。
対象者には令和4年4月1日付で通知文が発送されます。
ワクチンは不活化ワクチンと生ワクチンがあり、どちらかを選択できます。
支払いは不活化ワクチンが8000円×2回、生ワクチンが3200円です(菊池市の場合です。お住いの地域によって自己負担額が異なるかもしれません)。
令和7年度から令和11年度までの5年間の経過措置です。
帯状疱疹にかかったことのある人も定期接種の対象となります。
過去に既に帯状疱疹ワクチンの接種を受けている方については原則対象外ですが、医師との相談の上接種の必要があると認められた場合は対象となります。
通知文に関する問い合わせは当院の存在する菊池市の場合、合志市役所 健康ほけん課に問い合わせてください。
2種類のワクチンの比較
弱毒化生帯状疱疹ワクチン 乾燥弱毒生水痘ワクチン(ビケン)(生ワクチン) | 乾燥組み換え帯状疱疹ワクチン:シングリックス筋注用(不活化ワクチン) | |
アジュバント | なし | ASO1s |
適用年齢 | 50歳以上 | 50歳以上 |
用法・用量 | 0.5 ml 皮下注 | 0.5 ml 筋肉注射 |
接種回数 | 1回 | 2回(2か月間隔) |
費用(医療機関により異なる) | 4500円程度 | 16500円×2 程度 |
ワクチン効果持続 | 8年間 | 10年間以上(追跡調査実施中) |
有効性 | 60歳以上の検討で、平均3.13年の観察期間で、帯状疱疹発症率は51.3%減少。重症度スコアは61.1%減少。50~59歳の平均1.3年の観察期間で、帯状疱疹発症率69.8%減少。 | 50歳以上で、平均3.2年の観察期間で、帯状疱疹予防効果97.2%。帯状疱疹後神経痛の発症なし。 |
副反応 | 注射部位紅斑44.0%、掻痒感27.4%、腫脹17.0%、疼痛14.7%。 | 注射部位疼痛78.0%、発赤38.1%、腫脹25.9%。全身性副反応64.8%;筋肉痛40.0%、疲労38.9%、頭痛32.6%など |
禁忌 | ・明らかに発熱(37.5℃以上)している人 ・過去にこのワクチンの成分によってアナフィラキシーを起こしたことがある人 ・透析中の人(血液透析・腹膜透析など) ・悪性腫瘍治療中の人(癌や白血病など) ・先天性もしくは後天性の免疫不全の人 ・副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤などの内服や注射を使用中の人 | 明らかに発熱(37.5℃以上)している人 ・重い急性疾患にかかっている人 ・過去にこのワクチンの成分によってアナフィラキシーを起こしたことがある人 ・その他、医師が予防接種を受けることが不適当と判断した人 |
妊婦への接種 | 禁忌 | 禁忌ではないが、接種時期をおくらせるよう勧告 |
水痘予防の適応 | あり | なし |
ブースター目的の再接種 | 制限なし。時間と共に予防効果が減弱するため追加接種が必要(おそらく8~10年後には再接種が必要) | 必要なし(10年以上の効果は証明済)。生水痘ワクチン後のブースター接種はあり |
効果発現機序 | 帯状疱疹ウイルス特異的細胞性免疫と抗体産生機序 | 帯状疱疹ウイルス糖蛋白E特異的CD4+T細胞出現・抗体産生増強 |
被接種者の他者への影響 | 水泡が出来たら注意 | なし |
どちらを接種するかは難しいところですが、生ワクチンは60歳以上の有効性は51%だったものの、高齢になるほど効果が減弱し、80歳代では18%でした。超高齢者での効果には不安があります。一方不活化ワクチンの効果は年齢層別では50歳代、60歳代、70歳以上においてそれぞれ96.6%、97.4%、97.9%と超高齢者にも有効率が高いことが解ります。また不活化ワクチンの方が神経痛や発症の予防効果が高く、効果の持続期間についても生ワクチンが10年後に減弱するのに対し、不活化ワクチンでは維持されやすいことが示されています。なお生ワクチンは、明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者および免疫抑制を来す治療を受けている者は接種できません。副反応は不活化ワクチンが高率です。以上の違いを考慮して患者さん自身で選択することになります。
帯状疱疹で問題なのは、50 歳以上の患者の約 2 割が悩まされるという帯状疱疹後神経痛(PHN)です。鎮痛薬や抗うつ薬などの薬物療法、神経ブロック療法など行っても難治性で長期間、強い痛みに悩まされるケースもあり、高齢者や帯状疱疹の重症度が高いほど PHNが起こりやすいとされています。さらに問題なのはPHN以外にも帯状疱疹は多くの合併症を起こし、中枢神経系では脳髄膜炎、脊髄炎、血管系では脳血管障害、末梢神経系では運動神経麻痺。眼科系では眼瞼結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎、網膜炎。耳鼻科系では耳鳴、目眩、顔面神経麻痺などです3)。しかもこれらの合併症は一旦起きてしまうときわめて難治性であるという問題もあります。
これから小児の水痘ワクチン定期接種が続けられていく以上、水痘の発症は激減し、水痘の自然感染を受けている成人はますます VZV に曝露する機会が減少し、その結果、VZV 特異的細胞性免疫が再活性化せず、また、免疫を抑制する薬剤の普及などによって、今後、帯状疱疹を発症する可能性がますます高くなると考えられます1)。
公費助成のこの機会に是非とも帯状疱疹ワクチンの接種をお勧めします。接種を希望する場合、あらかじめ病院に連絡をしてください。
令和7年4月3日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)帯状疱疹ワクチンは2種類あります
https://nobuokakai.ecnet.jp/info/topic/2113/
2)Oxman NM et al : A vaccine to prevent herpes zoster and postherpetic neuralgia in older adults . N Engl J Med 2005 ; 352 ; 2271 – 2284 .
3)渡辺 大輔:帯状疱疹ワクチン . ウイルス 2018 ; 68 ; 21 – 30 .