結節性紅斑の原因は感染症が多い
結節性紅斑は、皮膚の下に圧痛を伴う赤色または紫色の膨らみ(結節)が生じる脂肪織炎(皮下脂肪組織の炎症)の一種で、最もよくみられる部位はすねの皮膚ですが、腕など他の部位に生じることもあります。
プライマリケアの現場では皮疹を主訴に受診される人も多く、ある程度の鑑別診断が必要です。皮疹には原発疹と続発疹があります。診断は,原発疹に基づいて行います。続発疹は原発疹の後に生じた変化で診断の根拠にはなりません。まず、皮疹は赤いか赤くないかを判断します。つまり紅斑性か否かです。そして次に水疱があるか否かに分けることができます。その中で、最も頻度が高いのは紅色の皮疹です。
紅斑の診かた(文献1)より転載)
多少隆起しているものも丘疹ではなくて紅斑と呼びます。紅斑の代表的な疾患は多型紅斑と結節性紅斑ですが、ザラザラした紅斑は、表皮に変化があることを示しており、多型紅斑と診断されます。一方で,結節性紅斑は表面に変化はなく、真皮から皮下脂肪の変化なので,ツルツル紅斑になります。
MSDマニュアル家庭版より引用
結節性紅斑は両側下腿に好発し、表面が紅潮した皮下硬結を特徴とする炎症性病変です。特定の皮膚疾患というよりも、複数の多様な病因に反応して生じる臨床症候群です。サルコイドーシスが有名ですが、他に感染症、炎症性腸疾患、Behçet病、悪性腫瘍、スルホンアミド・ペニシリン・経口避妊薬などの薬物が主な病因として報告されています。しかし、詳細な検索にもかかわらず、病因となる基礎疾患が明らかでない症例もあります。基礎疾患には地域的差があり、例えば,サルコイドーシスは欧州では最も一般的な関連疾患の1つですが、アジア諸国では非常に稀です。病理組織学的には、炎症細胞の浸潤を伴う隔壁脂肪織炎で、通常血管炎は伴ないません。組織で結節内にびまん性に細胞が分布する小葉脂肪織炎はまた別の疾患とされています2)。
発症機序はいまだ完全には解明されていませんが、基礎疾患や薬物などの様々な抗原刺激に対するⅢ型あるいはⅣ型過敏反応が病因として推察されています。
発生頻度は大学病院皮膚科受診例のうちの0.5 % ~ 0.2 %程度と報告されています。性別では、男性よりも女性に3~6倍の頻度で好発すると報告されています。
岡本ら3)は、10年間で診断した133例の結節性紅斑の原因疾患を検討し報告いたしました。
文献3)より転載
その原因としては溶連菌感染症を含む感染症が一番多く、その次がべーチエット病でした。良く知られているサルコイドーシス3例のみでした。欧米の報告では感染症の割合は少なく、サルコイドーシスが多く報告されていますが、各疾患の罹患率の差によるものと思われます。
結節性紅斑の治療としては安静、立位や歩行の回避、下肢の高挙を行い、関節痛にはNSAIDsやヨードカリ有効例もあります。コルヒチンや稀にステロイド薬全身投与を行います。通常1~3週間で消退します4)。
結節性紅斑は下腿に急性に生じる有痛性のしこりを伴う紅斑で、臨床的に特徴的ですが、類似する症状を示す疾患も存在するため、確定診断には病理組織学的検査が必要です。また,発症に関与する基礎疾患も多様で、近年、COVID-19 感染後や5)、コロナワクチン後6)、などの報告もあるため、丁寧な問診と全身検索による原因診断が重要です。
令和7年1月17日
菊池中央病院 中川 義久
参考文献
1)古川 福実:日常診療でよく遭遇する皮膚疾患 . 日本内科学会雑誌2021 ; 110 ; 593 – 597 .
2)Pérez‑Garza MD et al : Erythema Nodosum: A Practical Approach and Diagnostic Algorithm . American Journal of Clinical Dermatology 2021 ; 22 ; 367 -378 .
3)岡本 祐之ら:結節性紅斑とサルコイドーシス . 日サ会誌 2021 ; 41 : 9 – 18 .
4)手嶋 花梨ら:結節性紅斑を併発した肉芽腫性乳腺炎の2例 . 日臨外会誌 2023 ; 84 ; 851 – 854 .
5)Erythema nodosum-like rash in a COVID-19 patient: A case report
https://doi.org/10.1016/j.ajem.2020.07.063
6)Erythema nodosum, after Medigen vaccination against COVID-19?
https://doi.org/10.1016/j.jfma.2021.10.002