劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)が増えています

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)が増えています

 日本の2024年の劇症型溶血性レンサ球菌感染症の報告数は6月2日時点で1999年に統計を取り始めて以降最多であった2023年の報告数を既に超えており、厚生労働省が注意を呼び掛けています。

厚生労働省ホームページより参照

 溶血性レンサ球菌(溶連菌)には、多くの種類があり、一般的には急性咽頭炎などを引き起こす細菌として知られていますが、まれに引き起こされることがある重篤な病状として、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)が知られています。STSSは、突発的に発症し、敗血症などの重篤な症状を引き起こし急速に多臓器不全が進行することがある重症感染症であり、その死亡率は約30%とされていますが、重症化するメカニズムはまだ解明されていません。STSSの主な症状は最初に腕や足の痛みや腫れ、発熱、血圧の低下などから始まることが多く、その後、組織が壊死したり、呼吸状態の悪化・肝不全・腎不全などの多臓器不全を来たし、場合によっては数時間で、非常に急速に全身状態が悪化します。
 2024年第1~24週(2024年1月1日~6月16日)までに診断され、感染症発生動向調査に届け出されたSTSS症例は1,060例で、1999年に感染症発生動向調査を開始して以降、最も多い届出数です。Lancefieldの血清群の内訳はA群が656例、B群が114例、C群が10例、G群が222例、その他/不明58例で、A群による届出が最も多かったそうです。また、過去6年間における、STSS届出数全体に占めるA群による届出数の割合は約30%から50%程度でしたが、2024年は62%と割合が上昇していました。A群によるSTSSが増加しているのです。

 日本国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)として届出された症例のうち
 A群溶血性レンサ球菌(GAS)による症例数の推移(診断日:2018年1月1日~2024年6月16日、 2024年6月19日時点)
 国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について (2024年6月時点)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/tsls-m/2655-cepr/12718-stss-2024-06.html

より転載

 推定感染経路は、創傷感染288例(44%)、感染経路不明227例(35%)、飛沫感染59例(9%)、接触感染24例(4%)等でした。感染経路不明が多く、対応の難しさが考えられました。
 STSSの増加の理由として以下の機序が考えられます(1)社会環境の変化、(2)宿主側の変化、(3)病原体の変化に大別できます1)。(1)社会の変化としてはコロナ禍で激減していた人々の移動や対面でのコミュニケーションが再び活発化したことの影響です。(2)宿主側の変化として、コロナ対策で人々がマスク着用や手洗いなどの感染対策を励行した結果、他の細菌やウイルスへの曝露機会が減り、それらに対する免疫能が低下している可能性です。(3)の病原体の変化について、溶連菌は様々な病原性因子を有しており、溶血性やIL-8を分解して好中球の遊走を阻止したり、好中球を殺菌したり貪食能を低下させる因子などを有していると報告されています2)。菌の変異で毒性が増した可能性があります。
 溶連菌感染症とそれによるSTSSは2022年から世界中で増加していることが知られています3)。その増加の一因として指摘されているのが変異株であるM1UKの増加です。M1UK系統株は、それ以外のM1型株と比較して発赤毒素の産生量が約9倍多く、伝播性も高いとされています。
 そのM1UK株が本邦でも広く検出されているのが判明しています。

 国立感染症研究所に送付された劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)患者由来の検体から分離された都道府県別のM1UK系統株数(同ホームページより転載)
 M1UK株は全国で検出されており、特に関東地方での検出が多いのが解ります。このM1UK株と患者の重症度との関連はまだ詳しく解析はされていません。
 また近年、欧米ではM1UK株の肺炎が増加しており4)、特にインフルエンザA型に合併して重症化し、若年でも重篤化すると報告されています。
 STSSは先述した如く感染経路不明が35%と多く、感染対策が非常に困難ですが、私たちが出来ることは今まで通り手洗いとマスクの装着を続けることでしょう。また今冬インフルエンザが流行したときに合併する細菌性肺炎にも注意するべきでしょう。

令和6年8月2日 
菊池中央病院 中川 義久

参考文献

1)なぜ劇症型溶血性レンサ球菌感染症が増えているのか
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/202403/583705.html
2)大泉 智哉ら:転帰に差があった家族内発生のStreptococcus pyogenes による壊死性筋膜炎の2症例の検討 . 日集中医誌 2023 ; 30 : 231-234 .
3)Ana Vieira1 et al : Rapid expansion and international spread of M1UK in the post-pandemic UK upsurge of Streptococcus pyogenes . Nature Communications 2024 ; 3916 ; 1 – 11.
4)Peter J.B et al : Increase of Severe Pulmonary Infections in Adults Caused by M1UKStreptococcus pyogenes,  Central Scotland, UK . Emerging Infectious Diseases 2023 ; 29 ; 1368 – 1642 .