ワクチンは皮下注で良いの?


 インフルエンザワクチンは本邦では皮下注で行っています。しかし米国では筋注で接種されています。インフルエンザワクチンに関して皮下注と筋注とどちらが良いのかを調べてみましたが明らかな比較文献はありませんでした。本邦で筋注をしなくなったのは、以前、大腿四頭筋短縮症という筋注の合併症が社会問題となったためであると思われます。しかし、当時筋注していた抗生剤や鎮痛剤は浸透圧やPHが良くなく、現在の薬剤はそういう問題はありませんので心配はありません。本邦では厚生労働省の指導なので皮下注が厳守です。厚生労働省指定以外の方法で接種して重大な副作用が生じても救済が受けられない可能性があるからです。

 麻疹、風疹、おたふくかぜ、水痘、日本脳炎は日米とも皮下注です。
成人に接種するワクチンのうち厚生労働省の指定で皮下注でも筋注でもどちらでも可能なワクチンが数種類あります。それについて考えてみます。

1、 B型肝炎(HBV)ワクチン
 HBVワクチンは接種方法により抗体産生率が異なることが報告されています。皮内100%、筋肉内96%、皮下63%とかなりの差が認められます1)。皮下注というと本来、真皮に注入すべきなのでしょうが、皮下脂肪織に注入されてしまい、HBVワクチンが脂肪組織に沈着していまい効果が発揮できないと考えられています。また、副作用の点でもアルミニウムアジュバントが使用されているので皮下注では硬結や腫脹が強く出現しやすく、効果、副作用両方の点で皮下注より筋注が勝ると考えられます。筋注の残りを皮下注している病院もあるらしいです。うまい方法ですが、適応外使用です。上腕に接種する場合、皮下注の場所と筋注の場所は異なるので注意が必要です。筋注するときはでん部はさけたほうがよいです
2)
2、 A型肝炎(HAV)ワクチン
 上記のHBVワクチンと同様と考えられます。
3、 肺炎球菌ワクチン
 皮下注、筋注どちらでも可能ですが、海外の文献によると、皮下注・筋注に効果の差はないが、副作用が2.5倍ほど皮下注に多く認められ、筋注が良いと考えられます3)。ただし小児用は別です。皮下注専門のワクチンがあります。
4、 破傷風トキソイド
 皮下注、筋注どちらの記載もあります。両者の差を比較した文献はみつけることができませんでした。ただ、受傷後の接種は効果の早い筋注が良いと思われます。また多くの症例報告でも筋注で施行されていました。

 いろいろ調べてみると抗体産生能(ワクチンの効果)はどうも皮内注>筋肉注>皮下注の順で有効性が異なるようです。しかも、狂犬病ワクチンなどは、皮下注が180日を要するのに、皮内注では28日で終了し、しかも有効率も皮内注が勝るという報告もあります4)
 私たちは厚生労働省の許容する範囲内でよりよいワクチン接種をしたいと思っております。
                      平成22年4月19日

参考文献
1) Intradermal,subcutaneous or intramuscular administration of hepatitis B vaccine : side effect and antibody responnse.
http://www.informaworld.com/smpp/content~content=a789160729~db=all
2) Epidemiologic notes and reports suboptimal response to hepatitis B vaccine given by injection into the buttock.
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/00000492.htm
3) Cook IF:Comparative reactogenecity and immunogenicity of 23 valent pneumococcal vaccine administered by intramuscular or subcutaneous injection in elderly adults   . vaccine . 2007 ; 25 : 4767 ? 4774.
4)塩田星児 他 : 日本製狂犬病ワクチン皮内接種法による暴露前免疫の有効性の検討 . 感染症誌 . 2010 ; 84 ; 9 - 13.