男性の性行為感染症−尿道炎−

 性行為後に排尿痛が出現し、性行為感染症が心配になって当科を受診される患者さんがときどき来院されます。女性は婦人科を受診されますので当科を受診するのは男性のみです。従来、専門は泌尿器科で診療してきた疾患です。当院でも隔週の土曜日に泌尿器科の診察があります。しかし、泌尿器科の診察日まで待ってもらうのは手遅れになる可能性が大きく、また、現在、性行為後尿道炎はガイドラインがありますので患者さんの希望があれば当科でも加療しております。
 男性における代表的な性行為感染症である尿道炎の原因微生物はまず淋菌性と非淋菌性に大別され、非淋菌性をクラミジア性と非淋菌性・非クラミジア性に分類します。
 起炎菌として一番頻度が高いのが、クラミジアで男子尿道炎の35〜45%を占め、その次が淋菌性で20〜30%と考えられています。非淋菌性尿道炎の原因微生物を下記に示します。
       
         図. 非淋菌性尿道炎の起炎微生物
       (感染症フォーカス1)より引用)

 初診時、初尿でクラミジアと淋菌の同時検出ができる核酸増幅法(アンプリコアSTD-1)を用いて検査します。従来の検査法に比べて100〜1000倍の検出感度があり、しかも、検尿であるため検査に痛みはありません。
以下、各微生物につき記載します。
淋菌
 淋菌は温度変化に弱く通常の環境では生息できないためヒトからヒトへの感染でのみ増殖していきます。咽頭にも感染し淋菌性咽頭炎や、菌血症をおこす播種性淋菌感染症をおこすこともあります。1回の性行為で30%程度感染するといわれ感染力の強い菌です。潜伏期は2〜7日で男性の場合、感染すると大抵の場合自覚症状(排尿痛、尿道分泌物)がありますが、女性の場合は無自覚の場合があり感染蔓延の一因と考えられます。男性で淋菌性尿道炎を治療せずに放置すると、尿道狭窄を起こしたり、菌が尿道を上行し精巣上体炎を起こすことがあります。この場合、陰嚢腫大、発熱など重篤な状態となります。また、淋菌感染症の20〜30%にクラミジア感染を合併しているといわれ、淋菌とクラミジアは同時に検査することが望まれます。淋菌は薬剤耐性がすすんでおり、現在行える治療はセフトリアキソン(ロセフィン)1g点滴静注、1回のみです。これで100%といえる治療効果があるので必ずしも治療後の除菌判定は不要となっています2)。欧米で行われているアジスロマイシン(ジスロマック)2g単回内服治療は本邦では治験が行われておらず使用できません3)
パートナーの治療も必須です。
クラミジア
 クラミジアのなかのクラミジア トラコマチス(以下クラミジア)は主に泌尿・生殖器に感染しその患者数は世界的にもすべての性感染症のうちで最も多いといわれています。クラミジアは尿道炎、精巣上体炎を起こしますが、前立腺炎への関与は不明です。女性は無症状のことが多く、蔓延の原因と考えられます。しかし、近年、男性でも無症候感染が多いことがわかってきました。20歳代の無症状のひとの4〜5%からクラミジアが検出されたという報告もあります2)。潜伏期は1〜3週間で症状出現が穏やかで、かつ軽症のため感染機会が不明な場合もあります。
 治療はアジスロマイシン(ジスロマック)1g単回内服治療で完治します。
 パートナーの治療も必須です2)
非淋菌性・非クラミジア性
 図に示す如くマイコプラズマやウレアプラズマが原因となります。これらの菌の検出は保険適応がなく、また検尿所見も軽度から正常なので、これらの菌であろうと想定してクラミジアの治療と同じアジスロマイシン(ジスロマック)1g単回内服治療を投与します2)
性器ヘルペス
 初感染と再燃(回帰発症)があります。ヘルペスの問題点は無症状でかつ肉眼的に病変なしのひとでも感染源となることであります。また、コンドームの使用でも100%感染予防ができないという怖さがあります。初感染の場合、2〜10日間の潜伏期ののちに外性器にかゆみや痛みをともなった小水疱が出現します。診断は血清診断は不可能で、病原診断は感度が悪く、肉眼的診断に頼ることが多いようです。治療はバラシクロビル(バルトレックス)500mg、1日2回、5〜10日間の投与ですが、いったんは軽快しても再燃を阻止する薬はなく、のちに再燃する可能性があります。
 再燃の場合も同様の治療をしますがなるべく早期に治療開始したほうがよく、病変が出現する前の局所の違和感、ぴりぴり感のときに内服開始したほうが効果が良いようです2)
1年に6回以上再燃するするひとはバラシクロビル(バルトレックス)500mg、1日1回、長期(1年間)投与法がありますが、3割負担のかたで1ヶ月の薬価が5500円程度もかかりますので主治医とよく相談してください。
尖圭コンジローマ
 ヒト乳頭腫ウイルスによる感染症で、症状出現までに3週〜8ヶ月(平均2.8ヶ月)を要するので感染機会が不明なこともあるようです。外陰部や肛囲などに乳頭状腫瘍が多発します。一般に自覚症状はありませんが、ときに疼痛や掻痒感があります。診断は肉眼的診断です。癌が否定できないときに組織検査をします。
 治療は液体窒素による凍結療法を1〜2週ごとに繰り返すか、イミキモドクリーム(ベルセナクリーム)の外用、局所麻酔下での電気焼却、レーザー蒸散などがありますが、いずれも根治が期待できるものではなく、視診上、完全に治癒しても3ヶ月以内に25%は再発するそうです2)
 淋菌性、クラミジア性、非淋菌性非クラミジア性の尿道炎は患者さんの希望があれば当科でも加療しますが、性器ヘルペス、尖圭コンジローマは長期にわたる治療が必要なので皮膚科(当院では月曜、金曜)、泌尿器科で治療をうけてもらいたいと思います。
 また、これらの性行為感染症はHIV検査を患者さんにすすめる疾患です。
                         平成23年5月2日

参考文献
1)男性―非淋菌性尿道炎・クラミジア性尿道炎・非淋菌性非クラミジア性尿道炎 .
https://med.astellas.jp/jp/provide.aspx?path=/med/jp/infection/front/focus/2009vol16_01.htm
2)守殿貞夫:性感染症 診断・治療 ガイドライン2008. 日本性感染症学会誌. 臨床医薬研究協会 東京.
3)荒川創一ら : 尿路性器感染症ガイドライン. 感染症学雑誌 増刊号 . 2011 : 85 : 106 - 110 .